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『伝えることから始めよう』高田明

 

「伝える」と「伝わる」は違うんです。お客さまに、伝わるべきことがしっかり伝わっていなければ、お客さまの心は動かないと思います。


高田明――名前を聞いただけでピンと来る方は少ないと思います。
ですが「ジャパネットタカタの高田社長」と言えばおわかりいただけるでしょう。

2016年以来は番組MCの座からも退き露出は減っていますが、日本中に知らない人はいないというぐらい、依然として高い知名度を誇っています。

本書『伝えることから始めよう』はそんな高田社長が書いた本、ある意味自叙伝のような一冊となっています。


生い立ちとジャパネットの軌跡

長崎で家業であった写真館を手伝うところから始まります。

観光客向けに撮影した写真を売る仕事です。

団体客に帯同し撮った写真を翌朝の朝食会場に並べて即売する。

そんなところにジャパネットたかたであり、高田社長の話術の原点があります。

店で客を待つのではなく、当時は使い捨てカメラが世に出たばかりという時代背景もあり、自ら建設現場を回って撮影済みのフィルムを集配して回る。そこからフィルムやカメラを買ってもらえるという攻めの姿勢が始まります。

売り上げは伸び、二店舗目三店舗目と順調に店を増やしていく中で出会ったのがラジオショッピング。

ラジオCMを流していたのが縁で番組に出演することになる。

長崎ローカルだけでの放送だったものが西日本の他県にまで広がり、一気に会社は急成長します。

機を逃すことなくタイムリーに放送をお届けする為に、ハウスエージェンシーを設立。

そして遂にテレビショッピングに挑戦します。

急成長のイメージが強いジャパネットたかたですが、実家の写真館に戻ったのが1974年。

テレビショッピングが始まったのが1994年。

なんとここまで足掛け20年もの歳月がかかっているんですね。

我々の想像以上に地道に、コツコツと努力を重ねた結果、成長を続けてきたのです。

2001年には佐世保に自前のスタジオまで建設し、現在のスタイルとなる生放送での番組提供へとつながります。

本書の前半およそ半分は、こうしたジャパネットたかたの軌跡について書かれたものです。


スキルとパッション、そしてミッション

本題となる高田社長の「伝える」という事です。

氏はスキルパッション、そしてミッションが重要である、と言います。

何よりも重要なのはパッション。伝えたいと思う熱い思い。

例えば、お店には店員さんがいますよね。やる気が感じられない人が立っていることもあるでしょ。店員が無愛想だったら売れるわけがないですよ。お客さんが来たら一生懸命に商品を説明する。笑顔で接客するからお客さんは買ってくださる。それと同じです。テレビショッピングでも、視聴者は情熱を持った人が語っているかどうかを見ていると思います。演技でいくら取り繕っても、その人が本当に伝えたい情熱を持っているかどうかは見えてしまうんです。

確かに、高田社長の情熱に溢れるトークは誰しも耳に覚えのあるところです。

そしてミッション。

ミッションとは「何のために伝えるか」ということ。

私は自分が売った商品は必ず、お客さまに感動していただいたり、お客さまの生活を楽しくしたり、便利にしたり、豊かにしたり、ときには人生を変えてしまったりすることもあると信じています。反対に言えば、お客さまに喜んでいただけると確信の持てる商品しか販売してこなかったと断言できます。そういう商品だけを一生懸命に探して選んできました。そして、伝える前に「なぜ、何のために」売りたいのか、「なぜ、何のために」伝えたいのか、ということを徹底的に考えてきました。

だからジャパネットたかたでは機能や性能にはほとんど触れない。

「皆さん、42インチの大画面テレビがリビングに来たら、格好いいでしょう。お宅のリビングが一気に生まれ変わりますよ。素敵なリビングになるんです。それだけではないですよ。大きなテレビがあったら、自分の部屋にこもってゲームをしていたこどもたちがリビングに出てきて、大迫力のサッカーを観たりするようになりますよ。家族のコミュニケーションが変わるんです!」

生活がどんなふうに変わるか、お客さまにとってどんなよいことがあるのかを熱心に説明する。

これこそが高田社長のパッションとミッションに裏打ちされた、スキルであると言えます。

また、皆さんが気になっているこんな点についても述べられています。

声が裏返っているでしょ。うるさいって言われることもあるんですよ。取材を受ければ「どうしてあんな声になるんですか」と訊かれ続けてきました。

答えは簡単です。

伝えたい想いが強いときには、人は声が高くなるものなのではないでしょうか。

声が裏返る程のハイテンションは、パッションの表われなんですね。

信じていただけないかもしれませんけど、普段の私は声は低いですし大きくもありません。テンションも高くないですよ。初めてお会いする方には、「いつもと違いますね」って驚かれたりします。私は答えるんですよ。「あのテンションでずっと生活していたら、私はこの齢まで生きていません」って。

確かに普段からあの調子だったら周囲は大変ですね。

以前僕もNHKの未来塾という番組に出演した高田社長をたまたま観る機会がありました。

www.nhk.or.jp

非常に落ち着いた静かな語り口で、ジャパネットたかたのイメージが強い人にとっては逆に怖さを感じてしまうぐらいでした。


高田社長のこれから

最後の章では、顧客流出情報流出事件や東日本大震災といった事件にも負けずに戦ってきた今のジャパネットたかたが語られています。

売上も利益も落ちる中、敢えて攻めに転じた東京オフィスの開設。背水の陣と原点回帰による業績の回復。

高田社長の経営の中には、我々の常識外の部分も散見されます。

その代表的な一つが、「目標を持たない経営」

ジャパネットたかたの経営を振り返ってみると、「長期的なビジョンを持たない積み上げ経営」だったと思います。「長期計画のない経営」「目標を持たない経営」というテーマで講演したこともあります。計画性はほとんどなかったんです。

じゃあ、どうやって会社を動かしてきたのか。

目標を示さなければ船員は戸惑ってしまい、船は動かない。

実はこの部分が僕にとって、本書を手に取ったきっかけでした。

当時勤めていた会社がM&Aで譲渡されてしまい、経営が別会社の手に渡ってしまったのです。その新会社の経営手法こそが「目標を持たない経営」。

ジャパネットたかたを意識したわけではなかったと思うのですが、環境の変化に戸惑う中で同じような経営手法を打ち出す高田社長の考えを知りたかったのでした。

さて、その答えとは。

とにかく「今」です。今できることに最善を尽くす。そこから、次のステップが見えてくる。最善を尽くす中で次のステップが見えてきたら、スモールステップで次に進む。その繰り返しで成長を続けてきました。目標と呼べるようなものがあったとしたら、それは、とにかく昨日よりも今日、今日よりも明日、今年よりも来年と売上げを伸ばし、成長していくという強い想いでした。

目標を掲げること自体は悪いとは思いませんが、実力とかけ離れた目標を立ててしまうとよいことはありません。プレッシャーになるだけですよ。目標や数字ばかり気を取られ、身の丈に合わないことをしようとしたり、事業のミッションを忘れてしまいます。それでは、事業をやること自体の意味を失ってしまうと思うんです。 

ジャパネットたかたは、創業以来、先にお話しした一度の例外を除き、基本的に数値目標を設定したことがありません。来年の目標は常に「前年を下回らない」ことだけでした。

とにかく「今」を精一杯頑張る事

……正直、よくある話ですね。

残念ながら、取り立ててヒントとなるようなものではありませんでした。

でも個人的な意見を述べると、基本的にこのような経営は強いリーダーシップがあってこその手法だと思います。

または、社長直下の経営陣から末端に至るまで、よっぽど強い結束と意思疎通の仕組みが出来上がっているか。

上に書いた通り、目標が示されない中では船は動きません。どこへ向かっていいかわからない為、身動きが取れなくなってしまうんです。ですので、都度船長なりが「今はこうすべき」と舵をとる必要に迫られます。

前年比だけで経営を続けるのも危険です。

自動的に前年数値=予算になってしまいますから。

予算は外的要因も鑑みた上で組み上げますが、基本的には前年数値を上回る形で組まれる事がほとんどでしょう。

背伸びするわけではありませんが、去年より高い山に登る心づもりで翌年にあたる訳です。

ところがどうでしょう。少なくとも去年と同じ山に登れれば良い、という考え方だとしたら。

きっとほとんどの人間は同じ山に登った事で安心し、満足してしまう事でしょう。

また、「予算は外的要因も鑑みた上」という点も重要です。

前年数値だけを見ていると、事業を取り巻く外的要因を度外視して前年数値に拘る人間も出てきます。

結果的には前年の数値こそが高田社長のおっしゃる「実力とかけ離れた目標」と同じ事になる恐れがあるのです。

前年比のみ、という考え方は個人的には非常に危険に思います。

もちろんジャパネットたかたはその中で成長を続けてきたのですから一概に断じることはできませんが、現在は息子さんに経営権を譲られたジャパネットたかたが、どのように変容していくのか気になるところです。


Jリーグへの参戦 J1昇格の奇跡

本書以後の話ですが、高田社長はジャパネットたかた退任後、2017年に長崎のクラブ「V・ファーレン長崎」の社長に就任しています。

www.nikkei.com

元々ジャパネットはスポンサーとして同チームを応援していたのですが、2016年の2部リーグ(J2)で15位と成績が落ち込み、経営危機が叫ばれた同チームをジャパネット傘下に収め、債権に乗り出しました。

そしてなんと、2017年にはリーグ2位までV字回復を遂げた上、自力でのJ1昇格まで決めてしまったのです。

diamond.jp

生まれ変わったチームはファンやサポーターの復活にも繋がり、チームとしても経営としても大きな盛り上がりを見せているようです。

www.nishinippon.co.jp

 


ジャパネットたかたに関するおすすめの本

一冊、ぜひご紹介したい本があります。

linus.hatenablog.jp

人気ブロガーちきりんさんの本ですが、この中でちきりんさんは持ち前の鋭い観察眼でジャパネットたかたは何を売っているのか?」という文章を載せています。


ここでちょっと考えてみてください。彼らが売っている「価値」とは、何なのでしょう?
それは本当に「家電」なのでしょうか?

ジャパネットたかたが売っているのは「孫のアドバイスという価値」だと思っています。実際の孫は、祖父母の買い物に、毎回つきあってくれたりはしません。自分たちの生活やニーズも、そこまで把握してくれていません。でも、「孫のように、全幅の信頼を寄せられる売り手」を求めている消費者は、たくさんいるのです。

面白いですね。

祖父母が孫と一緒に家電量販店を訪れているイメージだというのです。

タブレットが欲しいという祖父母に孫は大きさや重さを見ながら、二人にどんなタブレットが良いかと問いかけます。

両者の間には、値段に関する会話もありません。なぜなら孫は、祖父母が自分にくれるお小遣いの額や、日々の生活ぶりから判断し、彼らの懐具合をよく理解しているからです。

孫は、祖父母がエクセルやワードを使わないことも知っているし、祖母は庭の花を熱心に育てているので、写真をとって保存できたら喜ぶだろうとも想像しています。

つまり孫は、祖父母のニーズを最初から理解しており、店頭では、残されたいくつかの項目について確認しただけです。

そして何より重要なことは、祖父母には孫に対する全幅の信頼があるということです。細かいことはわからないし、店頭には、孫が勧める商品より1万円以上安い商品もある。それでも孫が「これがいいよ」という商品が、自分たちに一番よいはずだ、と彼らは無条件に信じます。

引用抜粋してみると、なるほど、と思いませんか?

ジャパネットたかたは「孫のアドバイスという価値」を売っているのです。

『マーケット感覚を身につけよう』では上記を一例に、現在の世の中では「選んでもらうという価値」が生まれていると言います。

「本」よりも「本を選ぶセンス」だったり。

非常に興味深い内容ですので、読んでみて下さいね。


■『マーケット感覚を身に着けよう』ちきりん

 

https://www.instagram.com/p/BVCkFubDB8Y/

#伝えることから始めよう #高田明 読了言わずと知れた #ジャパネットたかた の創業者長期目標を持たない経営という点に惹かれて購入したものの、内容はほぼ高田氏の自叙伝と言っていいもの。当初期待した内容とは違ったものの、前身となる株式会社たかたを設立したのが37歳。ラジオショッピングを始めたのは40過ぎ、お馴染みのテレビショッピングに至っては45歳でのスタートだったという。なかなか勇気を与えてくれるエピソードでした。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ