ずば抜けて美しいということは、権力を持つということだった。彼女が自分で何もしなくとも、さまざまなモノが彼女の周りに集まってくるのだ。
2017年(平成29年)、『蜜蜂と遠雷』で、第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞を受賞した恩田陸の処女作『六番目の小夜子』です。
尚、同作品の直木賞と本屋大賞のダブル受賞および同作家2度目の本屋大賞受賞は、史上初だったそうです。
サヨコの言い伝え
3年に1度、「サヨコ」に選ばれた者は、自分の教室に赤い花を活け、誰にも気づかれぬように準備し、学園祭で芝居をするという決まりです。「サヨコ」が誰なのか、他の人に見つかってはいけません。
全てを人知れず終えた時、「サヨコ」は次の3年後の「サヨコ」へと引き継がれていくのです。
あらすじ
主人公である潮田玲は、サヨコに選ばれた幼馴染の関根秋に頼み、人知れずサヨコをやらせてもらうことになった。ところが、始業式の日に「津村沙世子」という女子生徒が転入してくる。
選ばれたサヨコと転入してきた沙世子。
二人のサヨコの登場に混乱するクラスメート達。
果たして沙世子の正体は?
サヨコ伝説の行く末は?
……といった感じです。
感想
正直なところ、ほとんど印象に残っていません。
本書は類似書として挙げられる事の多い綾辻行人の『Another』の後に手に取った事もあり、設定の荒さや粗の方が目に付いてしまって、どうにも楽しめないのでした。
これが処女作である事を考えれば、仕方の無いことかもしれませんが……
それにしても竜巻とか野犬とか、説明がつかない点が多過ぎます。
沙世子は超能力者?
読み終わった後でも不可解な点が多数残ります。
綾辻行人『Another』に与えた影響
本書『六番目の小夜子』によく似た作品として『Another』が挙げられます。
『六番目の小夜子』では3年に一人しか選ばれないはずのサヨコの他に、転入生としてもう一人のサヨコが現れてしまう。
『Another』ではその年度以前の現象による犠牲者がランダムに1人蘇り、クラスの一員として紛れ込む為、対処法として「死者」らしき人間を“いないもの”として扱うという処置が行われる。だがそこに、転入生がやって来てしまう。
非常に良く似た設定です。
ただし、一定のルールに基づいた“伝説”や“呪い”があるにも関わらず、ルールに反するイレギュラーな自体に翻弄されるという構造自体は今までにも多数あった形式だと思いますので、それこそ手塚治の『どろろ』と大塚英志の『魍魎戦記MADARA』ぐらいの類似といえるのかもしれません。
どちらかというと漫画に実写映画化にと絶大なヒット作となってしまった『Anther』に似た作品として、『六番目の小夜子』が挙げられるケースが多いようにも感じられます。
しかし、実際には逆です。
『Another』の作者である綾辻行人本人も、
『六番目の小夜子』を意識した
と明言しています。そもそも『六番目の小夜子』の解説を書いたのは綾辻行人ですしね。知らないで書いたという事はありえないんです。
ある意味では『Another』は『六番目の小夜子』オマージュと言えるかもしれません。
個人的には『十角館の殺人』以来綾辻フリークなので、思い入れ的にも完成度的にも圧倒的に『Another』の方が勝っていると言いたいですけどね。
後出しじゃんけんみたいなものだから当然といえば当然かもしれませんけど。
美崎鳴もかわいいし。
そんなわけで個人的には物足りなさも残った作品ですが、『Another』好きな方は読んでみて損はありません。また、直木賞と本屋大賞のダブル受賞恩田陸の処女作としても、これから再び注目を集めそうな予感もあります。
また、恩田陸といえば『夜のピクニック』が小説・映画ともに良かったですよ。
吉川英治文学新人賞、本屋大賞を受賞した作品で、高校生活の最後に80kmを歩く「歩行祭」というイベントを舞台にしたお話です。恩田陸の特徴である登場人物の心理描写が非常に良く出た作品だと思いますので、こちらもごらんになって下さい。