「肉体を伴わない恋愛なんて、花火の上がらない夏祭りみたいだ!」
……上記はあとがきからの引用。
だいぶ突き抜けた表現ですね←
気づいてみたらまた村山由佳です。
ここ最近は大塚英志か村山由佳かみたいな感じでかなり偏ってんなぁと自分でも思います。
今回は『アダルト・エデュケーション』。
『ダブル・ファンタジー』で官能小説家として新たな境地を切り開いてから『遥かなる水の音』を挟んでの二作目。
こちらも『ダブル・ファンタジー』で見せたような雰囲気をもつ、「自らの性や性愛に罪悪感を抱く12人の不埒でセクシャルな物語」となっています。
「今」の村山由佳を象徴する12作の短編集
12話とも、全話主人公は女性です。
そして性をテーマにした内容です。
「セックスレス」「同性愛」「性癖」「略奪愛」だったりとバリエーション豊かで、かなりタブーに踏み込んだ感があります。特殊だけど、実は世の中に溢れた背徳的な性の世界。
『ダブル・ファンタジー』は上下2巻、計六人の男性とのやりとりがあり全体的にドロドロとした印象がありましたが、本作は短編という事でテーマが絞られ、よりスマートに“性”を描き出している感があります。
短編だけにあらすじ=全容になりかねませんので細かくは紹介しません。
『天使の卵』のシリーズや『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズで村山由佳の純愛路線に慣れ親しんだ方が、変わったと言われる村山由佳の「今」を知るにはちょうど良い本だと思います。
いきなり『ダブル・ファンタジー』はけっこうびっくりしますからね。
個人的にイチオシの『言葉はいらない』
最近の村山由佳は好きじゃない。
そもそも読んだことがない。
そんな方にとにかく読んでもらいたいのが収録作『言葉はいらない』。
これ、本当に僕はびっくりしました。
衝撃で言えば中学生の頃に『十角館の殺人』と『迷路館の殺人』で度肝を抜かれて依頼です。
中田永一(乙一)の『百瀬、こっちを向いて』も彷彿とさせます。
村山由佳はこういう作品が絶対書かないという思い込みがありましたので、完全に裏をかかれた形です。
僕的には村山由佳が官能小説家として開眼した事よりも、この『言葉はいらない』を書いた事の方が驚きです。
立ち読みでもなんでもいいから是非読んでみて欲しいと思います。
何度でも言います。
『言葉はいらない』です。
今まで見た事のない村山由佳の一面が見られます。
表現の引用
個人的に村山由佳ですごいなぁと思うのは、独特の表現にあります。
自然と現れた文章なのか、それとも悩みに悩み抜いてひねり出した一文なのかわかりませんが、本書の中から個人的に気に入ったところを抜粋します。
平等ていうのは〈結果の平等〉やなくて、あくまでも〈機会の平等〉いうこと
そう、たとえば背骨の下のほうに、確信のような直感のようなものが埋まっていた気はする。私たちの関係は、軀をつなげることで始まったり深まったりはしない。むしろそこで何かが決定的に壊れてしまうような気がして、怖くてたまらなかった。
男と女は違うじゃん。さっきも言ったけど、男は種をまくのが本能だもん。
隠し事の一つや二つなくてどうすんの。人間、正しいことばかりで生きていけるわけじゃないんだよ。いけないことをして、相手に罪悪感を持ってるくらいのほうが、謙虚にするぶん案外うまくいくものだと思うけど」
恋愛にまつわるあれこれを小説に書いているというだけで、その道のエキスパートのように扱われてしまうことがよくある。
とても困る。もし私が恋愛というものをよくわかっていて、好きになった相手と上手に関係を築くことができる人間なら、何も今さら恋愛など書いていない。
いかがでしょう?
ちょっとでも気になるようであれば、ぜひ読んでみて下さい。
くどいようですけど『言葉はいらない』だけでも。ぜひ。
また、下記にこれまで書いた村山由佳関連のブログリンクも載せておきますので、ついでにご覧になっていただけると幸いです。