卒業って何? NEXT YOUをやめるってこと?
僕の中では鉄板の朝井リョウです。
……とか言いつつ、よくよく調べてみたらブログにはまだ一記事も書いた事がないと気づいて驚き。
ブログを書き始める前だったり、中断していた最中だったりで、まだ書いてなかったのね。
なので証明はできませんが、僕的には朝井リョウが大好きですし、彼の作品は間違いのない鉄板として信じ込んでいるところがあります。
第148回直木賞を受賞した『何者』は言わずもがな、デビュー作となった『桐島、部活やめるってよ』も良かったですし、個人的には短編集の『もういちど生まれる』も好きです。前段が長く苦しい『チア男子!』も時間が空いてみるともう一度読んでみたくなる魅力があります。
そんな朝井リョウの中では比較的新しい本作『武道館』です。
朝井リョウが描くアイドルグループ
朝井リョウという作者は主題をとことん取材する印象があります。
特に前述の『チア男子!』はその表れと言えるでしょう。
そんな彼だからこそ、アイドルグループを描くにあたっては緻密な取材や情報収集を欠かさなかったに違いない、と思います。
本作で登場するのは六人組アイドルグループNEXT YOU。
冒頭からセンターの杏佳が卒業を告げるところから始まります。
悲しみに沈む暇もなく、残された五人はNEXT YOUとしての活動を継続。
オリコンにランクインしたり、ドラマやバラエティーなどの番組に出演したりと活動を広げる一方、成長期に入り太り気味な真由に対し「超絶劣化」と揶揄したり、インタビュー映像の中に移りこんだPCのブックマークバーに違法動画サイトが見つかって炎上したりと、一喜一憂を繰り返すような日々を過ごします。
また、恋愛スクープによる丸刈り謝罪会見や握手会でのアイドル襲撃事件など、実際にあった出来事がちょくちょく登場するのも見逃せないところです。
読むに連れて、いつしかNEXT YOUのいちファンになったような気持ちで五人を見守ってしまいます。
相変わらずの特徴的な比喩
朝井リョウと言えば独特の比喩表現が特徴的です。
早く大勢の人の前で歌いたい、という気持ちが、ストローから息を吹き込まれた牛乳みたいにぽこぽこと音を立ててふくらんでいく。
電源を入れると、寝起きの悪い子どものごとく、もぞもぞとパソコンが立ち上がる。
僕はいつもこういった独特の表現を探して読んでしまいます。
また、
煽り耐性、スルースキル、それらの言葉は自分たちが小さなころにはこの世になかったのに、本当についさっき生まれたような新しい言葉なのに、その習性をあらかじめ持ち合わせていることを当然のように求められる。
こんな日常の中で感じながらも言葉には言い表すことのできない感情をいとも簡単に文章に表現してしまうのも朝井リョウの特徴と言えるでしょう。
その際たるものが『何者』だったと思うのですが、片鱗は本作でも垣間見られます。
作者の誤算……?
物語はそう大きな事件や謎もないものの、展開が上手でサクサク読み進められてしまいます。
普通に面白い小説です。
流石に朝井リョウ、鉄板です。
ただ、残念ながら個人的には読後感は微妙だったんですよね。
やっぱり読んでいるうちに、彼女たちに感情移入してしまうわけです。
特に主役である愛子には頑張って欲しいし、いずれ碧を押しのけてセンターに立って欲しいなんて思ってしまいます。
ところが、起承転結で言う“転”の部分ではちょっと衝撃的な出来事が起きてしまい……まぁ確かに、アイドルを描いた小説である以上避けては通れない部分ではありますが。
でもやっぱり、胸に針が刺さったような気持ちで本を閉じる結果になってしまいました。
救いがないわけじゃないんですけどね。
やっぱり最高のアイドルになって欲しいと願ってしまうわけです。
この辺りの読者の感情移入は作者の誤算といったところでしょうか?
ドラマ化されました
本作『武道館』はBSフジとフジテレビそれぞれでドラマ化されたようです。
現在もホームページが残っていますので、興味があればこちらもどうぞ。