あたしは知ってる。ずっとこういう日々が続けばいいって願ってしまった時点で、続かないってわかってること。わかってるんだ、あたしも寺田も。言わなきゃいけないことがあること。
朝井リョウ『少女は卒業しない』を読みました。
ご存知の通りこのところ短編集ばかり選んで読んでいるのですが、真っ先に候補に挙がったのが本書でした。
朝井リョウは第148回直木賞を受賞した『何者』以来大好きで、当ブログの中でも取り上げる事の少なくない作家です。
これまで読んできたのはよりによって長編ばかりでしたが、朝井リョウの手掛ける短編がどんなものになるのか。読む前から期待が膨らまざるを得ません。
卒業式。取り壊される高校。
本書は7人の少女達それぞれの視点から描かれた短編集となっていますが、共通しているのは同じ高校の最後の卒業式であり、別の高校との合併を控えたその校舎は、翌日には取り壊されてしまうという点。
卒業式の同じ日、同じ時間を過ごす7人の物語なのです。
『エンドロールが始まる』
図書室の先生に特別な想いを寄せる作田さんこと私。先生に会いたい一心で図書室に通い、本の借り続けた私にとって最後の本の返却日が、目の前に迫る。
『屋上は青』
卒業式を迎える孝子の下に、尚輝が会いにやってくる。ダンサーを目指し、芸能事務所にも所属する彼は、高校三年を迎える前に学校を辞めてしまった。とうに立ち入り禁止となった東棟の屋上に忍び込み、尚樹は孝子のためだけにダンスを披露する。
『在校生代表』
生徒会の書記を務める亜弓は、在校生代表として送辞を読み上げる。しかしそれはありきたりな送辞ではなく、自身が生徒会に入ろうと思った経緯や、その後の日々、そして一人の先輩への想いを伝える手紙だった。
『寺田の足はキャベツ』
女子の後藤と男子の寺田。それぞれバスケ部に所属していたみんなから公認のカップルだったが、浪人して地元の大学を目指す寺田を残し、東京の大学に進学する後藤にはずっと言い出せない想いがあった。
『四拍子をもう一度』
卒業式後、取り壊しとなる校舎で行われる最後の卒業ライブ。軽音楽部の元部長杏子は、控室で困惑していた。間もなくステージを控えたビジュアル系バンド【ヘブンズドア】の衣装やメイク道具が消えてなくなってしまったのだ。
『ふたりの背景』
カナダからの帰国子女高原あすかは、高校一年生の時に転入してきてからもうまくクラスに馴染めずにいた。そんな彼女が唯一心を開いていたのは、美術部の正道くんと彼がいるH組――しかしそれは、知的障害の子たちのクラスだった。
『夜明けの中心』
東棟の幽霊に会いに、深夜の東棟に忍び込むまなみ。そこには香川がいた。香川はまなみの恋人だった駿の友人であり、同じ剣道部のライバルだった男だった。
それぞれが微かに重なり合う連作(?)短編
同じ学校、同じ時間を舞台としているだけあって、それぞれの話にはそれぞれの登場人物の話題が出てきたりします。
生徒会長の田所君の名前は、特にちょくちょく登場するようです。
ただし、決して物語そのものがリンクしているわけではありません。
朝井リョウの処女作『桐島、部活やめるってよ』において、話題の中心である桐島君は一度として姿を現さず、あくまで各登場人物の口から彼の名や人柄が語られるという斬新な描かれ方をしましたが、それを彷彿とさせるものがあります。
『在校生代表』の後、『寺田の足はキャベツ』が始まってすぐ亜弓の読んだ破天荒な送辞が早速話題になっていたりすると、思わずクスリとしていまいます。
ただまぁ、率直に言ってしまえはそれがどうした、というところでしかなく。
全体的にどこか既視感のある物語が多く、さらにパンチにも欠けるという微妙な作品が多かったです。
『寺田の足はキャベツ』における高校生カップルの瑞々しいやり取りこそ流石だなと唸らされましたが、逆に言うと読み終えた後に印象として残っているのはそのぐらい。『屋上は青』はダンスそのものよりも「学校辞めたけどダンサーとして成功しつつある幼馴染みスゲー」な典型的ヤンキーアゲなストーリーに辟易ですし、『在校生代表』はラノベとしてもちょっと非現実的過ぎ。『四拍子』は目茶苦茶過ぎてノリが痛く感じ、読むのがただただ苦痛でした。
『ふたりの背景』は悪くないテーマではあるものの、帰国子女の変わり者と知的障がい者という関係性がちょっと素直に受け入れがたく、『夜明けの中心』も決して悪くはないのですが、やっぱり既視感に既視感を重ねたようなチープさが残念だったり。
総合的に見て、どうも朝井リョウらしからぬラノベっぽさが妙に色濃い作品集だったように思います。短編という文字数が限られていた事も関係しているのか、いつもであれば見られるようなキラリと光る文章も非常に少なかったという印象。
個人的に、朝井リョウ作品の中ではワーストかな。
基本的にこつこつこつこつ伏線を重ねて行って、終盤で爆発させるタイプの作品を書く作風なだけに、短編作品は向いていないのかもしれませんね。もちろん、この一冊でそう断じるつもりはありませんが。
期待が大きかっただけに、残念でした。