集められた断章が示唆するものは、不幸ながらも彩りに満ちた人生。望むと望まざるとにかかわらず、主人公に押し上げられた男の物語。その劇に芳光はいまや背を向けることしかできない。
さて、連日の更新になります。
今回ご紹介するのは『追想五断章』。みんな大好き米澤穂信作品です。
米澤穂信は『インシテミル』でミステリ熱を再発させられ、『小市民シリーズ』で小山内さんに萌え……とすっかりハメられているのですが、当ブログには『リカーシブル』と『クドリャフカの順番』しか取り上げていなかったんですね。
中でも『リカーシブル』はかなり必読の作品でしたのでまだの方にはオススメです。
ラノベテイストあふれる『小市民シリーズ』や『古典部シリーズ』に比べ、本書は『ボトルネック』や『リカーシブル』に近いテイストの作品。
となると、賛否が分かれそうで気になりますね。
リドル・ストーリーを巡る物語
大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光が主人公。
客として訪れた北里可南子からの依頼を受け、彼女の父・北里参吾が書いたという5つのリドルストーリーを探す物語です。
ちなみにリドルストーリーとは何か、wikipediaによると、
リドル・ストーリー (riddle story) とは、物語の形式の1つ。物語中に示された謎に明確な答えを与えないまま終了することを主題としたストーリーである。
という事です。
米澤ファンからすると、すぐさま『〇〇〇〇〇〇』が思い浮かびますよね。
あれは後味も悪く、賛否両論巻き起こる問題作でした。
この五つの物語、それぞれ外国を舞台に男と妻、娘の少女が出てくる幻想的な話であり、いずれも男であったり、もしくは家族が罪に問われたり、命を追われるものであったりします。
北里参吾はその五つの物語を書いたはずなのですが、いずれも行方知らずとなっていました。その内の一編が、たまたま芳光の居候する古書店に持ち込まれたと知り、可南子がやってきたという次第です。
可南子の手元には原本はなく、リドル・ストーリーそれぞれの結末だけが残されています。
リドル・ストーリーを見つけ出し、それに呼応する結末を当てはめるという繰り返しで、本作は進んで行きます。
ただひたすらにパズル
結論から言うと、「ただひたすらにパズルに徹した良く出来た推理小説」という感想です。
リドル・ストーリーと、別に用意された結末という時点でなんとなく仕掛けが見えてきてしまったりするんですけどね。
終わってみれば「よくできたパズルだったなぁ」と。
逆に言うと、読み物としてはちょっとというか、かなり薄味です。
だって別に有名でもない一般人が思い付きで書いた五つの小編を追うだけの話ですからね。
次々と人が死んだり、ライバルと作品を奪い合うというわけでもありません。
北里参吾の過去の知人や友人関係を探りながら、淡々と5つのリドル・ストーリーの行方を追うというだけです。
主人公の芳光にしても、父親に先立たれ経済的に困窮し、大学を休学せざるを得なくなったという事情はあるのですが、どうしてこんな探偵紛いの事に手を貸さなければならないのか動機も薄い。一応は金のため、という事になるのですが、そんな暇があるならアルバイトを頑張れ、と言いたくなります。
また、同じアルバイトの笙子の存在も疑問。彼女もリドル・ストーリー探しに協力を申し出るのですが、そこにはなんの必然性も見られません。そもそも彼女という登場人物すら必要だったのか疑わしいほど。『リカーシブル』で登場人物を絞り込んで物語を作り上げていった事を考えると、ちょっと不思議なぐらい不必要な存在でした。
そんなわけで本作は淡々と進められる私立探偵ごっこを、読者側も淡々と読み続けるという味気ない読書体験になってしまいました。
いつもに比べるとかなり短めですが、ミステリの場合あんまり書くとネタバレにもなってしまうし、こんなところでしょうか。
つまらなくもなく、面白くもなく。米澤作品の中では至って凡作というべき作品でした。