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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『死国』坂東眞砂子

 土佐は鬼の住む国、死者の住む国である。このような呼び方が残っているのは、かつて人が死後においても、魂と心に分かれずに何らかの形で、この世に存在していた証拠ではないだろうか。死者も生者も同じように、この世に存在していた時があったのではないだろうか。もしそうなら、その地こそ、死霊の住む島、死国――そう、この四国であったはずだと、私は思うのである。

 今回ご紹介するのは坂東眞砂子死国』。

 当ブログには珍しくホラー小説です。

 本作は1999年に映画化もされているのでご存じの方も多いかもしれませんね。角川レーベルのホラー小説の中では、十指に入る人気タイトルかもしれません。

 読むにあたってWikipediaを見て初めて知りましたが、1996年に『山妣』で116回直木賞を受賞された坂東眞砂子さんもすでに他界されていたのですね。ご冥福をお祈りします。

 

同窓会モノ

 本書を端的に言い表せば「四国≒死国」という事になるのでしょうが、それはあくまで設定的なお話。

 物語の中心が何かというと、実のところ同窓会モノです。

 

 主人公の比奈子が久々に故郷の矢狗村(高知県)に帰って来たところから物語は始まり、次々と小学校以来の同級生たちに再会します。

 その昔みんなのアイドルだった女の子や、その子の事を誰よりも好きだった男の子やらが、それぞれ結婚していたり、スーパーで働いていたりといった状況が描かれます。三十歳を過ぎ、彼らはおじさん化・おばさん化が進んでいます。東京でイラストレーターをし、若々しさを維持している比奈子とは雲泥の差ですね。

 一方で残った彼らは、質素ながらも平穏で幸せに暮らしているようにも見えます。浮気性で結婚の意欲もない男との同棲生活に愛想を尽かし、不動産の整理を理由に矢狗村に帰ってきた比奈子との対比が控えめに描かれて行きます。

 比奈子は昔好きだった文也と同級会で再会したのをきっかけに交流を深める事になり、その頃から誰かに見られているような視線を感じるようになります。

 

 比奈子は幼馴染みの莎代里が16の若さでこの世を去った事を知るのですが、莎代里は代々死者の霊と交流する口寄せの家柄でした。莎代里の母は四国八十八箇所を逆回りする逆打ちを熱心に続け、莎代里を蘇らせようとします。

 ちょうど比奈子が帰ってきた頃、逆打ちは終わりを遂げます。

 蘇ってきた莎代里の目的は、死ぬ前までずっと好きだった文也を自分のものにする事。

 

 

スケールが大きいような、小さいような

 死国の設定自体は非常にスケールが大きいです。

 逆打ちを行うと蘇るのは一人ではなく、黄泉の国の結界が破られ、四国はたちまち死者の楽園となってしまうというのです。そうならないために、修験者たちは四国八十八箇所めぐりを続けているという話。

 ただ、蘇ってきたラスボスともいうべき莎代里のターゲットが、生きていた頃に好きだった男の子という時点で、トーンダウンは否めませんよねぇ。

 しかも文也はすでに三十を過ぎ、一度の離婚を経験しています。莎代里が十六歳で亡くなっているとして、倍近い年齢の男性に恋心を維持できますかねぇ? 現実には、好きだった相手でいつの間にか三十過ぎていると知った段階で卒倒しそうなものですが。

 ホラーというよりは全判的に「口寄せ」や「逆打ち」といった怪奇的な風習を扱っていて、イメージするようなホラー要素というのもあまりありません。まぁ相手は莎代里だけですし。他の女と仲良くしようとする文也に、あの世から恨みがましい視線を送る莎代里というのが度々登場するといった程度です。なのであまり怖いなぁ、という感じはありません。

 

 終盤に入ると、ディレクターに「巻け」とカンペでも出されたかのように慌ただしく物語が動きます。文也は誰かに操られているかのように(←乗り移られるとか、どうしてそうなったという理由もなく)突然車でどこかに出掛けようとします。たまたま道で出くわした比奈子がほぼ無理やり助手席に乗り込み、ドライブがスタートといった急展開。

 文也はなぜか山中目指して車を走らせ、途中一旦は我に返ったものの、崖崩れにより道路は寸断。二人は都合よく近場にあった温泉に宿を求め、都合よく一部屋しか空いていないという理由で相部屋に泊る事となり、めでたく結ばれます。事後、台風による謎の突風により窓が割れ、深夜に叩き起こされた従業員はたまたま空いていた離れの別室に二人を移動させます。

 

 ……一部屋しか空いてなかったんちゃうんかいっ!

 

 濡れ場書きたかっただけじゃないの? という無粋な突っ込みを入れたくなってしまいますね。

 

 そうして迎えた翌朝、宿を出た二人は村へ帰るために来た道とは逆方向へ車を走らせます。奇しくもそこは四国の中心という石鎚山。「せっかくだから登ろうか」なんて軽いノリで二人は石鎚山に登り始めます。

 リュックも登山靴もなしの強行登山です。

 

 

 

 一応「初心者にもおすすめの山」らしいですが、流石に普段着でもイケるとか言いませんね。比奈子の普段の服装の描写を鑑みても、二人が登っていく様子はかなり奇異だったと思うのですが。

 つまるところ文也は莎代里に操られる形で山頂を目指してしまったわけです。実体を失った莎代里は、文也に乗り移る事で霊峰である石鎚山の山頂にたどり着き、逆打ちを成就させる事ができたのです。

 水が湧き、暗雲が立ち込める中、文也は比奈子を置き去りにして帰って行きます。帰ろうとする比奈子には、階段が壊れ、鎖も切れという無常な仕打ち。

 なんとか山を下りた比奈子はたまたま居合わせた矢狗村の男性の車に乗って、村へと帰りつきます。そうして文也を追って死の谷へと入っていきます。

 

ご都合主義にも程がある

 もうわかりますよね?

 終盤はとにかくご都合主義の雨あられ、ご都合主義のバーゲンセールで物事が進み、とにかく辟易です。

 物語そのものも舞台設定として四国や八十八箇所めぐりを使用していますが、内容的には「死んだ同級生が昔好きだった男の子を死してなお想い続ける女の子の霊の話」であり、それ以上でも以下でもありません。

 『死国』というタイトルや舞台装置に比べて、物語そのものは非常に陳腐という印象です。

 そこに不必要な性描写を加えたりするから、余計に陳腐化してしまいます。

 セックス=自分のモノにする事、というロジックがもう残念ですね。登場人物たちがティーンエイジャーであればまた違うのでしょうが、三十過ぎたいい大人たちにそういう言動が目につくのが甚だ残念です。

 脇役である同級生たちの浮気エピソードなども、なんのために存在していたかわかりませんし。

 主役二人をはじめ、登場人物全員が小・中学校から三十過ぎるまでの十年以上の期間をすっぽりどこかに置いてきたような不思議な感覚です。ずっと小・中学校の頃に好きだったとか今でも好きだとかやっている。ちょっと理解できない感覚です。

 高いネームバリューのお陰で、期待値が上がっていたせいもあってか、とにかく最初から最後まで残念な作品でした。読書に対するモチベーションが上がっている今でなければ、最後まで読み通せなかったかもしれません。

 

ホラーブーム全盛期

 本書を語る上で忘れてはいけないのは、映画化された1999年当時は、角川のホラーブーム全盛期だったという事。

 角川ホラーの代表作ともいえる『パラサイト・イヴ』が1997年、『リング』が1998年ですから、本作が映画化されたのもホラー人気にあやかったものと言えるかもしれません。

 角川としては放つべき第三、第四の矢を手あたり次第にあたっていた状況なのでしょう。

 『パラサイト・イヴ』は大人気のゲームシリーズとなり、『リング』は映画も原作も次々と続編が生み出されました。角川ホラー文庫の黒い背表紙が書店の棚を占める割合もどんどん広がりました。

 結果どうなったかは……現在の和製ホラーが置かれた状況を見れば一目瞭然でしょう。

 未だに幽霊といえば、長い黒髪で顔を覆った貞子モデルが使われ続けていますしね。

 小説界隈においても、ホラーとは名ばかりの、幽霊や妖怪を題材としたライトノベルで溢れているようです。

 いつか『リング』並みに背筋が凍るような作品にまた巡り合いたいものですが、一体いつになることやら。

 

 

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#死国 #坂東眞砂子 読了四国=死国、というタイトル落ちな感じです。八十八箇所巡りや口寄せといった舞台装置は立派ですが、物語的には「昔好きだった男の子を死してなお思い続ける女の子の霊」の話。同級生同士でW不倫したり、なんとなく不気味なだけのお婆さんがちょくちょく出て来たりと不必要なエピソードも多い上、視点もコロコロ変わって落ち着きがありません。終盤は突然巻きが入り、ご都合主義のバーゲンセール。偶然が重なり過ぎてそっちの方が不気味。ストーリーを成立させるためだけの使い捨てキャラも多し。もう良いところを見つけるのが難しい。本書が映画化されたのはパラサイトイヴやリングの直後ですから、角川もホラーブームのあてこもうと必死だったんですね。ネームバリューの割に残念な作品としては十指に入り仕上がりかもしれません。※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。..#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい