誰かの顔色を窺って、ご機嫌をとって、連絡を欠かさず、話を合わせて、それでようやく繋ぎとめられる友情など、そんなものは友情じゃない。
渡航『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』を読みました。
通称俺ガイル。
改めて本作がどんな作品かなんて書く必要もないぐらい、アニメに漫画にゲームにと大ヒットとなった作品。
むしろ今当ブログを読んで下さっているかたの方が僕なんかよりもよっぽど詳しいかもしれません。
逆に言うと、僕は全く知らないのです。
原作どころか上に書いたような派生作品にすら触れた経験もありません。
予備知識全くのゼロ。
昨今のラノベ界代表作と言われる『俺ガイル』とはどのようなものかと興味本位で読んでみた次第です。
学園ラブコメ
ぼっちを貫く高校生・八幡が平塚先生のお節介で、学校一の美少女で変わり者の雪乃が所属する奉仕部へと入部させられます。
奉仕部とは簡単に言うとお悩み相談所のようなもの。
様々な悩みを雪乃とともに八幡が解決に乗り出す……というのが主なストーリー。
一人目は八幡を同じクラスの由比ヶ浜。彼女は苦手な料理を克服したいとやってきます。
二人目は同じく八幡の同級生である材木屋。ラノベ作家を目指す彼は、自分の作品を読んで感想が欲しいと行って来ます。
三人目はかわいい男の子戸塚。テニスが上手くなりたいとやってきます。
物語の大筋としては連作短編的な構成とし、それぞれの悩みを解決すべく活動しながら、八幡や雪乃自身が抱えるコンプレックスをも暴き出し、成長していく青春ラブコメものと言えるでしょう。
昔中二病・高二秒を発症していた大人になった少年たちへ
さて、ここからは個人的に見た本作の人気の理由ですが……正直、物語としては上記の通り非常にベタな内容です。似たような話は枚挙に暇がないぐらいありふれているかもしれません。
本作が他の作品と大きく違う点を挙げるとすれば、まず一つ目として主人公八幡の性格が挙げられるでしょう。
中二病というネットスラングを自覚し、自分は“元”中二病であると言い切る様はまさに中二病の権化と言えます。平塚教師はそんな彼を高二病だと揶揄します。
「高二病は高二病だ。高校生にありがちな思想形態だな。捻くれてることがかっこいいと思っていたり、売れている作家やマンガ家を『売れる前の作品のほうが好き』とか言い出す。みんながありがたがるものを馬鹿にし、マイナーなものを褒め称える。そのうえ、同類のオタクをバカにする。変に悟った雰囲気を出しながら捻くれた論理を持ち出す。一言で言って嫌な奴だ」
この台詞に、本作の全てが詰まっていると言えるのではないでしょうか?
主人公・八幡のキャラクターは今現に中二病を発症中だったり、その昔高二病を発症していた大人たちの心をわしづかみにしたのでしょう。
アニメっぽいとも思える八幡に読者は自己投影し、そんな彼がこじらせた正義や正論を歯に衣着せぬ物言いで振りかざし、周囲を圧倒していく様子にカタルシスを感じるのかもしれません。
もう一つ付け加えるとすれば、ラノベにしては非常に文章能力が高いです。
おちゃらけた言い回しやパロディーネタにばかり目が行ってしまいますが、文章一つ一つはとても簡素ながら、しっかりと言葉や構成が練り込まれた上質なものとなっています。
この点、昨今の投稿サイトに見られる似非ライトノベルとは比べ物になりませんね。
よくライトノベルは「台詞だらけで本の下半分が空白」なんて揶揄されたりしますが、本作に関して言えば決して文字密度は小さくありません。それでもサクサクと読めてしまうのはやはり作者の上手さと言えます。
元々文章能力の高い人がこういった砕けたライトノベルを手掛けるからこそ、人気を集めるような作品に仕上がるのでしょう。
なかなか目から鱗な作品でした。