「人格としての『わたし』を失って……、【身体】としての『わたし』を失って……、【身体】としての『わたし』を失って……ずっとこんな状態が進めば……誰もわたしをわたしと気づいてくれなくなって……わたしじしにもわからなくなって……そんな……そんな風にして、わたしはこの世から消えてしまうじゃないかなっ」
さて、三作続けてのライトノベルです。
今回読んだのは『ココロコネクト ヒトランダム』。
こちらも前二作に続き、漫画化・アニメ化と大ヒットを記録した作品です。
くどいようですが僕はあまりラノベ界隈には詳しくなく……本作もまた、予備知識ゼロでの読書となりました。
5人の男女が次々と人格転移
男女の中身が入れ代わるというと古くは大林宣彦監督の『転校生』、最近では新海誠監督の『君の名は。』が有名ですね。というよりもこの二作は入れ代わりもののバイブルと言っても過言ではないと思います。
本作もまた、そんな入れ替わり……いわゆる人格転移ギミックを取り入れた作品です。
物珍しい点が、文化研究部に所属する五人がアトランダムに入れ替わってしまうという点。
男女も関係なく、ある日突然、それぞれがシャッフルされてしまうのです。
この時点で面白そうですよね。
とはいえ問題は人格転移ギミックを使い、どのような物語なのかという点。
複数人の人格転移というと西澤保彦『人格転移の殺人』が真っ先に思い浮かびますが、あちらは入れ代わり×殺人事件という非常に興味深い作品でした。
同様に『転校生』や『君の名は。』においても入れ代わりを一つのギミックとして取り入れつつも、その複雑怪奇な事件を通して思春期男女の恋愛模様であったり、地方と都市に居住する少年少女のコンプレックスや願望といったテーマを描いてきました。
果たして、本作『ココロコネクト ヒトランダム』が描く物語とは……?
それぞれが抱くコンプレックス
軽くネタバレになってしまいますが、人格転移は彼らがお互いをより深く知るきっかけになってしまいます。
男が女に入れ替わっておっぱいを揉みしだく……もちろんそんなありふれたシーンも存在しますが、もっと心情的な部分……例えば入れ替わった瞬間、相手がつい今の今まで泣いていた事に気づいたりする、といった出来事が重なっていきます。
本来であれば人知れず泣いていたはずなのに、他人に知られてしまった。また、知ってしまったという気まずさは説明するまでもないでしょう。
そこへきて本作の主人公は「自己犠牲野郎」というなかなか困った性質の持ち主。
自分を傷つけてでも、誰かを助けたいと強く思い、行動してしまう人間なのです。
泣いていたと知ってしまったからには放ってはおけない。
悩みがあると知れば相談に乗りたがる。
そんなお節介さん。
文化研究部に所属する五人のうち三人は女の子なのですが、主人公のお節介は三人それぞれに向けられます。
彼女達はそれぞれにコンプレックスや悩みを抱えており、主人公は解消しようと彼女達に向き合います。
勘の鋭い方であれば察しがつくと思うのですが、思春期の男女で、自分の為に必死に尽くしてくれる異性がいれば惹かれてしまうのは自然な流れ。
しかも「俺に任せろ!」「俺がなんとかしてやる!」「俺だけは裏切らない!」的に寄り添われたらどうでしょう? ついついキュンとしてしまいませんか。
これを明確に「好き」という感情があるわけでもなく、複数の相手に対して同時多発的にやってしまうのですから主人公は天性の女たらしに違いありません。
そんなわけで女の子達はコロコロとあっという間に主人公に恋するようになってしまいます。
残る一人の男は、三人のうちの一人の女の子に好意があり、しかも常日頃から言動に表してたりするのですが。そんな牽制行為なんて誰も気にも留めやしません。少なくとも一巻を読む限りは完全な当て馬、引き立て役です。
読んでいくうちにだんだんと僕もわかってきました。
つまるところがこれがラノベ界で言うところのハーレムものって事なのでしょう。
思春期の繊細な心持ちを楽しんで
上記のハーレム云々はさておき、本作の人気の理由はそれぞれが抱えるコンプレックスや悩みがリアリティーをもって迎え入れられている、という点にあるようです。
実を言うとここへ来て急に読み始めたライトノベルたちは、どれも「泣けるラノベ」で検索したら候補に挙がってきた作品だったりします。
『俺ガイル』しかり『さくら荘』しかり『ココロコネクト』しかり、どれも泣けるラノベとして評価する人の少なくない作品のようです。
僕個人がどう感じたかは別として、本書も読む人によっては心に突き刺さる部分があるようです。
主人公のお節介な部分も、読む人によっては憧れるべき正義感の塊とも思えるのでしょう。
さらに……本書につい特筆すべき点として構成の妙が挙げられます。
ハーレムもの、なんて書きましたがそれだけには収まらない展開がしっかり用意されています。
三人の女の子とイチャコラした挙句、その内の一人を選んでおしまい的なラブコメだったら本当にがっかりしてしまいますもんね。
なんだかんだ思う所があったとしても、クライマックスには思わず手に汗握り、ページをめくる手が止まらないような興奮に襲われる事は間違いなしです。
この辺りの盛り上がりについては『俺ガイル』や『さくら荘』よりも断トツで本作が良かったです。
やっぱりこういうこのまま終わるのかと思いきやラスト付近で一発食らわしてくれる作品というのは胸に響くものがありますね。
思わず唸ってしまいました。