『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅱ』むらさきゆきや
予測ではありますが……と前置きし、バルツァーが重い声で言う。
「魔神降臨」
俺は思わず玉座から立ち上がっていた。
さて、前回に引き続き、むらさきゆきや『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅱ』のご紹介です。
前回は『白の帝国編』一作目とあってそもそもの「白の帝国はなんぞや?」「白の皇帝とは誰ぞ?」的な言わば基本情報が多かったのですが、二作目となる本作からは一気に物語が加速していく感があります。
というのも冒頭の通り、「魔神」という最大の敵が登場してくるからです。
魔神とは?
この「魔神」、ゲームである『千年戦争アイギス』の中においても高難易度クエストとして実装されているコンテンツとなります。
さまざまな特徴や能力を持った非常に強敵である魔神のマップが1から16までの難易度で用意され、レベル16になるとガチャ限定の強キャラクターを揃えて育成して並べて、それでも編成や戦略を駆使しなければなかなかクリアできないというエンドコンテンツ。
僕はまだまだビギナーなのでせいぜいレベル10ぐらいまでクリアできればいいかなー、という状況だったりします。
つまるところがゲーム内においても最強の敵キャラとして君臨するのが魔神達なのです。
その魔神が白の帝国に襲い掛かる……これは既存プレイヤーであれば興奮を隠せない展開なのではないでしょうか。
脳筋帝国部隊
魔神への備えとして、白の皇帝は討伐部隊の編制を指示します。
ところがここで問題となるのが、
「ふむ……悪くないが、魔法が足りない」
という点。
これ、意外と原作ゲームプレイ者にとってはツボなんですよね
『千年戦争アイギス』の攻撃や防御には「物理」と「魔法」の二種類があるのですが、実際に白の帝国に属するキャラクター達は極端に物理に偏っているんです。なので物理に強い耐性を持つ悪魔系の敵とはあまり相性がよろしくない。
……なーんていう誰しもが抱いていたプレイ上のもやもやを小説の設定に落とし込むって、驚くのを通り越して感嘆させられてしまうのです。
そこで皇帝たちは優秀な人材を探すために士官学校へ出向くわけですが、そこで重装砲兵エルミラからなされる説明がこれまたよく出来ていて、
「魔法の研究もしているのか」
「はい。でも魔法の場合、血の滲むような研鑽を積んで、やっと”才能がない”と判明することも珍しくないのです。あれは努力よりも素質です。血筋と天賦の才です」
「なるほど」
「白の帝国は安定的な兵士の育成のため、鉄砲を中心に教えています。訓練すればだれでも使えるようになりますから」
……もう完璧です。これ以上ないぐらいの満点回答。
「帝国ってなんでこんなに魔法キャラ少ないんだよっ!」という常日頃から不満を抱くユーザーも納得の説明です。とっても合理的。
ゲーム未プレイの人にとってはピンと来ないかもしれませんが、こういうゲーム上の設定やプレイ上の疑問などを小説で回収してくれるのって、ユーザーにとっては本当に嬉しい事だと思います。
そうして皇帝たちは士官学校内を散策して歩くのですが、そこで出会うのが一人の訓練士ハルカなのです。
帝国風霊使い
ハルカは「私に関わった人は、みんな大怪我してしまうんです」という変わった女の子。
しかし経緯を聞いた皇帝は、ハルカに秘められた能力を察知します。
そして実際に事件が起きた時と同じように、ハルカの身に危険が迫るような状況に追い詰めてみると……彼女の頭上に風霊が現れたのでした。
風霊は離れた距離からでも相手を傷つける強力な魔力を宿した精霊です。
自らの身を傷つけながらもハルカの能力を目覚めさせた皇帝たちは、いよいよ現れた魔神達との戦いに入ります。
……とまぁ、前回の記事を読んだ方ならばおわかりでしょうが、本作のシリアルコードによって入手できるキャラクターこそ、この『帝国風霊使いハルカ』なのです。
前作では『炎の竜皇女シャルム』がヒロイン役として活躍したのと同様、本書は白の皇帝とともにハルカを中心に物語が展開していきます。
その代わりに、本作以降は極端にシャルムの出番が減っていて、前作でシャルムファンになった読者からは不評を買うという側面もあるようですが。
なお、余談ですがゲーム中においてハルカはエレメンタラーという精霊トークンを配置できるキャラクターで、『千年戦争アイギス』の中ではエレメンタラーという職種自体が壊れとして認識されています。
他の職種・キャラクターに比べて段違いに優れた性能を持っている、という意味ですね。
その最上位クラスである光霊使いルフレに至っては十指に入るぶっ壊れキャラ。たった一人で高難易度クエストを攻略できてしまったりと、とんでもない性能を誇っています。基本的に精霊使い・エレメンタラーにハズレ無しというのがゲームユーザーの共通認識。
なので付録キャラクターの中でも『帝国風霊使いハルカ』はおススメに挙がるケースも少なくないようですね。
皇帝と魔神ダンタリオン、妹リィーリとの因縁
本作では謎の妹リィーリの出生に隠された謎や、魔神との因縁が明らかになります。
一たび魔神が降臨すれば滅亡は免れないと言われる恐ろしい存在ですが、白の皇帝は過去に一度、魔神と戦った経験があるのです。
その相手というのが魔神ダンタリオン。
ダンタリオンは白の皇帝の父親を殺し、さらに母親を強姦して妊娠させました。
その結果、生まれてきたのが妹リィーリ。
リィーリは白の皇帝との父親違いの妹であり、その父親こそが魔神ダンタリオンだったのです。
魔界とつながる空の光へと向かう白の帝国の飛空艇に、悪魔たちが襲い掛かります。
果たしてそれを率いるのは因縁の相手である魔神ダンタリオンでした。
まだ風霊を上手く操る事のできないハルカは仲間たちが傷つく様を目の当たりにし、覚醒。
風霊により強力なデーモンたちを倒したかに思いましたが……ダンタリオンには及びません。
魔神とは想像を遥かに超える恐ろしい敵でした。
しかし女神アダマスの神器を手にした白の皇帝は、目の前のダンタリオンが偽物である事を見破り、見事討ち果たします。
一旦は魔物たちを撃退する白の帝国の一団でしたが、空にはまだ魔界へと通じる光の空いた穴が空いたままです。
苦しい戦いでしたが、まだ序盤にしか過ぎないと思い知らされたところで次巻への持越しとなります。
前作からの変化
先の記事にも書いた通り、『白の帝国編』の一作目はハーレム、エロ要素満載で、いかにも「エロゲをノベライズしました」といった雰囲気だったんですが、二作目に入り大きく作風が転換したように感じられます。
魔神ダンタリオンという本来の敵が見えてきた事で物語に芯が生まれましたし、皇帝やリィーリの過去の繋がりも非常によく考え込まれたものです。
エロも若干はありますが、一作目に比べると大きく減ったように感じられます。
やたらと出てくる人物が総じて「皇帝大好き」なハーレム状態も控え目に。
その代わり、周囲のキャラクター同士の繋がりや絆についての描写が増え、一気に人間味が出てきました。
いや本当に、ゲームのノベライズとしては文句なしのクオリティなのではないでしょうか。
普通にこの先のダンタリオンとの戦いや妹リィーリの行く末なども気になるところです。
最終巻となる四作目にはリィーリ本人が仲間になるシリアルコード付ですし、ちゃっちゃと読み進めてみるしかないですね。
マニアック過ぎる記事ですが、もうしばしお付き合いを。