「あの星の裏側でおれの名前を呼んでみてよ。どこに居たって見つけてあげる」
さて、再びライト文芸へと戻り沖田円『春となりを待つきみへ』を読みました。
ここ最近当ブログで取り上げる事の多いスターツ出版文庫の作品。
つい先日『一瞬の永遠を、きみと』の記事を書いたばかりですので、記憶に新しい方も少なくないとは思うのですが。
ちなみに上記作品は「これがライト文芸ってやつ」と絶賛に近い内容となっています。
ご興味のある方はぜひご一読を。
個人的に沖田円という作家はスターツ出版文庫を代表する作家のひとりと思っていますのでね。
二冊目となる本作も、感想を書いていきましょう。
失くした双子の弟・春霞と突然現れた謎の男・冬眞
どこか世の中に絶望した感のある主人公・瑚春は、冬眞と名乗る男に突然呼び止められます。
冬眞は「俺を連れて行って」と言い、迷惑がる瑚春につきまといます。
仕舞いには瑚春の部屋までやってくる始末。
そうしてあれよあれよという間に、いつの間にか二人は一緒に住む事になります。
……
……
……
ちょっと何言ってるかよくわからないですよね←
読んでもらえばわかるんですが、実際こんなお話になんです。
割愛はしていますが、基本的にありのままの話です。
よく大人の恋愛小説にありがちな、意気投合してワンナイトラブのつもりで一夜を共にしたら、そのまま一緒に住むようになった……とかいう話でもありません。
「帰れ」「そんな事言うなよ」的な軽い押し合いを繰り返した後、料理が苦手な瑚春のために冬眞がインスタントラーメンを作ってあげただけです。
結果、「ちょっと大きな捨て猫を拾っただけ」というノリで、二人は一緒に住む事になります。
なので本書については、もう最初のこの強引な展開を許容できるか否か、で全ての評価が決まります。
お、面白れーじゃん、と思えればそのままサクサク読み進めるべきです。
ありえねーよ、という方は回れ右して忘れるべきです。そういう人が読むべき本ではありません。
思い返してみれば、上に挙げた『一瞬の永遠を、きみと』もそれまで面識のない高校生同士が突然自転車に乗って海を目指す事になるという、かなり強引な話でしたし。
沖田円という作家は、もしかしたらそんな強引な展開を得意とする作家なのかもしれません。
短編で十分
以降の物語がどう展開するかというと、あらすじを読んだ時になんとなく想像できるそのままの内容です。
336ページというライトノベルにしては長めの作品ですが、様々な日常的エピソードを通して瑚春と冬眞の心が繋がっていき、やがて瑚春に何があったのか、冬眞は何者なのかという謎の答えが提示される。
……これは 『一瞬の永遠を、きみと』にも共通するのですが、本作は基本的にベタです。
ベタ&ベタ&ベタ。
定番&お決まり&テンプレート。
それ以上でも以下でもありません。
なので謎の答えとは書きましたが、基本的に読者の多くは読み始めてすぐに「きっとこういうオチじゃないの?」と予想できてしまう事でしょう。そしてその通りの結末が見られる。
まさに水戸黄門や暴れん坊将軍を彷彿とさせるテンプレート型のライト文芸。
ただそれだけに……さすがに本作に関しては、ちょっと膨らませすぎじゃないかな、と思ってしまいました。
だってもう答え見えてんだもん。
どうせこうでしょ、ってわかっちゃうんだもん。
水戸黄門はせいぜい一時間ドラマだから良いのであって、劇場版水戸黄門とか流石に飽きちゃいますよね。八兵衛のくだり何回やんのよ。弥七も佐助ももう十分でしょ。わかったからさっさと助さん格さん、懲らしめてやりなさい。早く印籠だしてははぁってやってよ、とまぁそんな気分。
本作の内容的にはアンソロジーの短編集や、WEB小説の短編もので十分なものです。
それをとにかく膨らませに膨らませた。
沖田円の書く文章や雰囲気が好き、という人には嬉しいかもしれませんが、そうではない人には食傷気味になる事間違いなしです。
まぁでも、それもこれもWEB小説からの書籍化作品の多いスターツ出版文庫のレーベルカラーというやつなんですかね。
もうちょっとひっくり返すような作品があっても良いんじゃないかと思ったりもするんですが、だったら他のレーベル作品を読めと言われてしまいそうですね。
色々と悩ましい面もあるものです。
では、今回はここまで。