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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅲ』むらさきゆきや

「……と、と、友達に……なって……ください」

むらさきゆきや 『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅲ』。

『千年戦争アイギス』のノベライズもついに三作目に入りました。

実はこの『白の帝国編』以外にも本来の主人公である王子を主人公として書かれた『月下の花嫁』というシリーズも全7巻で刊行されていたりするのですが、そっちはとりあえず放置しています。

 

アイギスといえばやっぱり『白の帝国』ですよ。

 

……なんてユーザーは僕以外にも少なくないとは思うんです。

ちなみに前巻・前々巻の記事はこちらとなっています↓↓↓

 

 

起承転結の転

前四作中の三作目、となれば当然ながら、起承転結でいうと転という位置づけとなります。

そのせいか本作の冒頭は、レオラという初登場のキャラクターから始まります。

研究所へ訪れ、対デーモン用のフォルテ・プロジェクトの実験体を見学するレオラ。

ところが試し斬り用にと用意していたデーモンが、意図せず暴走。

実験体六号は呆気なく粉々にされ、あわや大事故かと思いきや、実験体九号が難なく処理してしまいます。

舌を巻くレオラでしたが、実験体九号には大きな欠陥がある失敗作だと告げられます。

その欠陥とは、感情が欠落しているというもの。

しかしレオラは、引き取りを申し出ます。策士である彼女には、ある考えが浮かんでいたのです。

 

……というのが冒頭の滑り出しなんですが、ここまででおぉっとなりますよね。

皇帝もそれまで出てきたレギュラーメンバーも差し置いて、突然のレオラ初登場。

謎の実験体。

転にふさわしい始まりじゃないですか。

 

さらにこれだけにはとどまらず、本作は前二作とは大きく雰囲気が変わっていきます。

 

封印剣士フォルテと神樹使いソラーレ

もうおわかりかとは思いますが、実験体9号こと封印剣士フォルテこそ、本作 『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅲ』のシリアルナンバーによって提供されるキャラクターとなっています。

 

↓↓↓こちらがゲーム画面上の画像

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なかなか強そうですが頭のリボンが女の子らしく可愛くもあり……ですがちょっと無表情なようにも見えませんか?

 

このフォルテ、一作目のシャルム、二作目のハルカと異なり、「感情が欠落している」という物語の主人公としては非常に扱いにくい性質をしているのです。

 

「えっと、あなたの、お名前は?」

「……フォルテは、今はフォルテと名乗るらしい。軽装歩兵ということになっている」

 

という感じの性格で、簡単に言うと新世紀エヴァンゲリオン綾波レイをオマージュしたような機械的キャラクター。

これまでの例であれば白の皇帝が相手役となって新キャラクターの能力や人間性を紐解いていく流れなのですが、今回は一風変わってフォルテの相手役となるのは神樹使いソラーレという少女。

彼女はまだまだ兵士としては実力も教養も足りないのですが、先日の戦いで大きな損害を被ったことから、補充要因として第十三軍に合流します。

基本的にはソラーレの視点で白の帝国軍の様子やフォルテの人間性の変化、魔神との戦いなどを描いていくというのが本作の大雑把な流れ

なのでこれまでの皇帝中心であった物語とは大きく雰囲気を変えた作品となっています。

 

王子軍登場

ソラーレとフォルテの物語と併行する形で、本作では『千年戦争アイギス』の本来の主人公たる王子たちがついに登場します。

魔神たちの次の襲撃は山側の町、海側の町いずれかになると予想を踏んだ白の帝国では、対策案が講じられます。

本来であれば戦力を二分してそれぞれの警護の当たるのですが、強大な力を持つ魔神相手に戦力を割るのは得策ではない。

その結果として、敵対関係にある隣国の王子に救援を求める事を決断するのです。

応じてもらえれば幸運だし、もし拒否されれば王子を批判して英雄王の威光を削ぐ。

魔神との戦いにより王子軍が消耗すれば、それもまた白の帝国の利となる。

様々な打算を抱きながら、レオラの妹であり、従来の軍師であるレオナは王子の国へと出向き交渉してみますが……王子たちはあっさりと要請を受け入れてしまいました。しかも王子自ら、主力を率いて出陣するというのです。

王子たちのモットーは「困っている人を助けたい」という善意のみが100パーセント。その純粋さに、レオナたちは魅了されずにはいられません。

王子の下で戦う戦士たちの心酔ぶりや実力も確かなもの。

本作の半分はソラーレとフォルテの物語ですが、あとの半分は上記のような、白の帝国との駆け引きを通して王子たちの性質や実力を浮かび上がらせていきます。

 

魔神との戦いへ

そして物語は魔神との戦いへ突入。

多数の死傷者を出し、歴戦の勇者たちが奮戦する中を、未熟なソラーレも懸命に駆けずり回ります。

ついに、彼女も凶悪なアークデーモンと対峙し、手足を切断するという重傷を負ってしまいます。

しかしそれにより遂にフォルテは覚醒。

フォルテが真の力を発揮するために足りなかったのは、この人のために死のうと思えるような存在――つまり愛だったのです。

ソラーレと日々を過ごす中で、ソラーレこそがフォルテにとっての大切な存在となったのでした。

 

未熟なソラーレを軍に引き入れたのは、それを見越したレオラの策略だったのです。

そうと気づいてショックを受けるソラーレでしたが、レオラたちの手により記憶を消されてしまいます。

 

総力を上げて魔神ダンタリオンに立ち向かった結果、あと一歩というところで首だけになったダンタリオンを取り逃がしてしまいますが、魔神たちの襲来を撃退する事に成功した白の帝国軍は、ダンタリオンを追って魔界への侵攻を計画。

ソラーレの病室へとやってきたフォルテは、彼女が記憶を失っている事に気づきます。そして――という物悲しい場面で二人の物語はおしまい。

 

ひたむきで純朴なソラーレの愛らしさや、無垢なフォルテの想いの切なさに胸を打たれてしまいます。

……っていうか、こんな作品だったっけ? と唖然としてしまう程のシリアスな展開に思いがけず涙を誘われてしまいます。

 

女神ケラノウス登場

そして本作最後では白の皇帝の妹リィーリにも魔の手が。

彼女が暮らす隠家に、何者かの指示を受けた山賊たちが襲撃してくるのです。

イザベルに代わりリィーリに仕えていた天馬騎士クラーラは山賊に立ち向かい、瀕死の重傷を負ってしまいます。

それを見たリィーリの隠された力が覚醒。

建物もろとも、山賊たちを木っ端みじんに吹き飛ばしてしまいます。

 

そこへやってきたのが女神ケラノウス。

ケラノウスはゲーム上でもラスボス的な立ち位置のキャラクター。人間達の破滅を願う悪の女神です。

彼女は魔神に覚醒したリィーリを魔界へと連れ去ろうと打診します。

リィーリはクラーラを蘇らせる事を条件に、ケラノウスに従う事に。

そうしてリィーリは、ケラノウスとともに魔界へと旅立ってしまいました。

 

魔界へ乗り込み、魔神ダンタリオンとの最後の決戦へ臨もうとする白の帝国軍。

人知れず魔界へと連れ去られたリィーリ。

そして王子軍はどこまで彼らと行動を共にするのか。

 

四作目の最終巻へ向けて、盛り上がってきたところで本書は終了。to be continued……

 

盛り上がってまいりました

最初に起承転結の転、とは言いましたが、一気に盛り上がった感があります。

だいぶシリアスに次ぐシリアスですし、フォルテとソラーレの関係に至っては若干の百合要素はあったとしてもラノベらしからぬ切ない展開です。

巻を追うごとにエロは激減しますし、魔神との戦いが佳境に入ってきた事で女性キャラクター達も皇帝とのイチャイチャに興じている場合ではなくなってきたようです。

一巻こそ「エロゲのノベライズ」的なノリで始まりましたが、段々と骨太のライトノベルへと変貌を遂げています。

 

驚くべきはむらさきゆきやという作家さんの技量ですね。

ユーザーをうならせるようなゲームと小説とのリンクについてはちょくちょく触れて来ましたが、小説を読む事でゲームの世界観にもより広がりが感じられるようになるのはさすがです。

ちょい役の名前だけ登場するようなキャラクターも多いですが、活き活きと活躍する場面も多いのでほとんど使用したことのないようなキャラにも愛着が持てますし。

特にソラーレなんて原作ゲーム上のレアリティを考えれば破格とも言える主人公扱いですからね。アイギスは鉄・銅・銀・金・青・白銀・黒という順番にレアリティが上がっていくのですが、ソラーレのレアリティは銀。ガチャから出る一番下のレアリティ。

平たく言うとハズレ。ほとんどのユーザーが実戦投入する事のないユニットと言えるでしょう。

 

にも関わらず、本書を読めばフォルテと一緒に使ってあげたい気持ちになるのは間違いありません。

どちらも白銀や黒の今日ユニットと比べると戦力としてはかなり劣るので、高難易度では足手まといにしかならないかもしれませんが。

 

それでも仲良く戦わせてあげたいですよね。

 

ただし……。

 

絶版です

本書 『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅲ』はシリーズ四作の中でも唯一絶版となっています。

アマゾンどころかKADOKAWAの公式でも品切れ。

それもこれも、付録である封印剣士フォルテを目当てとしたゲームユーザーによるものでしょう。

 

作者であるむらさきゆきや氏が「魔神15でも使えるキャラに」と要望したのを受け、フォルテには「出撃メンバーにいるだけで妖怪、デーモンのHPを5%、防御力を10%減少させる」という非常に優秀なアビリティが搭載されているのです。

「出撃メンバーにいるだけで」というのがミソで、こういった付録ユニットというのはガチャ産ユニットに比べると大きく性能で見劣りし、高難易度のクエストでは使い物にならないというのが正直なところです。

しかしながらフォルテの場合には出撃メンバーとして編成に入れておくだけで、敵のHPや防御を大きく減少させてくれるわけですから非常に優秀。

小説読めば、彼女に対する愛着も出るでしょうしね。

実際、なかなか可愛らしいキャラクターですし。

 

なので三巻だけが妙に売れてしまったのか、もう手に入らないのです。

僕も仕方なく古本で購入して読んだ次第です。

残念だなぁ。

 

 

時々Amazonなどで入荷する事もあるようなので、万が一見つけた際には迷わず購入するしかないですね。

 

 

 
 
 
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『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅱ』むらさきゆきや

予測ではありますが……と前置きし、バルツァーが重い声で言う。

「魔神降臨」

俺は思わず玉座から立ち上がっていた。

さて、前回に引き続き、むらさきゆきや『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅱ』のご紹介です。

前回は『白の帝国編』一作目とあってそもそもの「白の帝国はなんぞや?」「白の皇帝とは誰ぞ?」的な言わば基本情報が多かったのですが、二作目となる本作からは一気に物語が加速していく感があります。

 

というのも冒頭の通り、「魔神」という最大の敵が登場してくるからです。

 

 

魔神とは?

この「魔神」、ゲームである『千年戦争アイギス』の中においても高難易度クエストとして実装されているコンテンツとなります。

さまざまな特徴や能力を持った非常に強敵である魔神のマップが1から16までの難易度で用意され、レベル16になるとガチャ限定の強キャラクターを揃えて育成して並べて、それでも編成や戦略を駆使しなければなかなかクリアできないというエンドコンテンツ。

 

僕はまだまだビギナーなのでせいぜいレベル10ぐらいまでクリアできればいいかなー、という状況だったりします。

 

つまるところがゲーム内においても最強の敵キャラとして君臨するのが魔神達なのです。

その魔神が白の帝国に襲い掛かる……これは既存プレイヤーであれば興奮を隠せない展開なのではないでしょうか。 

 

 

脳筋帝国部隊

魔神への備えとして、白の皇帝は討伐部隊の編制を指示します。

ところがここで問題となるのが、

 

「ふむ……悪くないが、魔法が足りない」

 

という点。

 

これ、意外と原作ゲームプレイ者にとってはツボなんですよね

 

『千年戦争アイギス』の攻撃や防御には「物理」と「魔法」の二種類があるのですが、実際に白の帝国に属するキャラクター達は極端に物理に偏っているんです。なので物理に強い耐性を持つ悪魔系の敵とはあまり相性がよろしくない。

 

……なーんていう誰しもが抱いていたプレイ上のもやもやを小説の設定に落とし込むって、驚くのを通り越して感嘆させられてしまうのです。

 

そこで皇帝たちは優秀な人材を探すために士官学校へ出向くわけですが、そこで重装砲兵エルミラからなされる説明がこれまたよく出来ていて、

 

「魔法の研究もしているのか」

「はい。でも魔法の場合、血の滲むような研鑽を積んで、やっと”才能がない”と判明することも珍しくないのです。あれは努力よりも素質です。血筋と天賦の才です」

「なるほど」

「白の帝国は安定的な兵士の育成のため、鉄砲を中心に教えています。訓練すればだれでも使えるようになりますから」

 

……もう完璧です。これ以上ないぐらいの満点回答。

 

「帝国ってなんでこんなに魔法キャラ少ないんだよっ!」という常日頃から不満を抱くユーザーも納得の説明です。とっても合理的。

 

ゲーム未プレイの人にとってはピンと来ないかもしれませんが、こういうゲーム上の設定やプレイ上の疑問などを小説で回収してくれるのって、ユーザーにとっては本当に嬉しい事だと思います。

 

そうして皇帝たちは士官学校内を散策して歩くのですが、そこで出会うのが一人の訓練士ハルカなのです。

 

 

帝国風霊使い

ハルカは「私に関わった人は、みんな大怪我してしまうんです」という変わった女の子。

しかし経緯を聞いた皇帝は、ハルカに秘められた能力を察知します。

そして実際に事件が起きた時と同じように、ハルカの身に危険が迫るような状況に追い詰めてみると……彼女の頭上に風霊が現れたのでした。

風霊は離れた距離からでも相手を傷つける強力な魔力を宿した精霊です。

自らの身を傷つけながらもハルカの能力を目覚めさせた皇帝たちは、いよいよ現れた魔神達との戦いに入ります。

 

……とまぁ、前回の記事を読んだ方ならばおわかりでしょうが、本作のシリアルコードによって入手できるキャラクターこそ、この『帝国風霊使いハルカ』なのです。

前作では『炎の竜皇女シャルム』がヒロイン役として活躍したのと同様、本書は白の皇帝とともにハルカを中心に物語が展開していきます。

その代わりに、本作以降は極端にシャルムの出番が減っていて、前作でシャルムファンになった読者からは不評を買うという側面もあるようですが。

 

なお、余談ですがゲーム中においてハルカはエレメンタラーという精霊トークンを配置できるキャラクターで、『千年戦争アイギス』の中ではエレメンタラーという職種自体が壊れとして認識されています。

他の職種・キャラクターに比べて段違いに優れた性能を持っている、という意味ですね。

 

その最上位クラスである光霊使いルフレに至っては十指に入るぶっ壊れキャラ。たった一人で高難易度クエストを攻略できてしまったりと、とんでもない性能を誇っています。基本的に精霊使い・エレメンタラーにハズレ無しというのがゲームユーザーの共通認識。

なので付録キャラクターの中でも『帝国風霊使いハルカ』はおススメに挙がるケースも少なくないようですね。

 

皇帝と魔神ダンタリオン、妹リィーリとの因縁

本作では謎の妹リィーリの出生に隠された謎や、魔神との因縁が明らかになります。

一たび魔神が降臨すれば滅亡は免れないと言われる恐ろしい存在ですが、白の皇帝は過去に一度、魔神と戦った経験があるのです。

その相手というのが魔神ダンタリオン

ダンタリオンは白の皇帝の父親を殺し、さらに母親を強姦して妊娠させました。

その結果、生まれてきたのが妹リィーリ。

リィーリは白の皇帝との父親違いの妹であり、その父親こそが魔神ダンタリオンだったのです。

 

魔界とつながる空の光へと向かう白の帝国の飛空艇に、悪魔たちが襲い掛かります。

果たしてそれを率いるのは因縁の相手である魔神ダンタリオンでした。

まだ風霊を上手く操る事のできないハルカは仲間たちが傷つく様を目の当たりにし、覚醒。

風霊により強力なデーモンたちを倒したかに思いましたが……ダンタリオンには及びません。

魔神とは想像を遥かに超える恐ろしい敵でした。

しかし女神アダマスの神器を手にした白の皇帝は、目の前のダンタリオンが偽物である事を見破り、見事討ち果たします。

 

一旦は魔物たちを撃退する白の帝国の一団でしたが、空にはまだ魔界へと通じる光の空いた穴が空いたままです。

苦しい戦いでしたが、まだ序盤にしか過ぎないと思い知らされたところで次巻への持越しとなります。

 

前作からの変化

先の記事にも書いた通り、『白の帝国編』の一作目はハーレム、エロ要素満載で、いかにも「エロゲをノベライズしました」といった雰囲気だったんですが、二作目に入り大きく作風が転換したように感じられます。

 

魔神ダンタリオンという本来の敵が見えてきた事で物語に芯が生まれましたし、皇帝やリィーリの過去の繋がりも非常によく考え込まれたものです。

 

エロも若干はありますが、一作目に比べると大きく減ったように感じられます。

やたらと出てくる人物が総じて「皇帝大好き」なハーレム状態も控え目に。

その代わり、周囲のキャラクター同士の繋がりや絆についての描写が増え、一気に人間味が出てきました。

 

いや本当に、ゲームのノベライズとしては文句なしのクオリティなのではないでしょうか。

普通にこの先のダンタリオンとの戦いや妹リィーリの行く末なども気になるところです。

最終巻となる四作目にはリィーリ本人が仲間になるシリアルコード付ですし、ちゃっちゃと読み進めてみるしかないですね。

 

マニアック過ぎる記事ですが、もうしばしお付き合いを。

 

 

 
 
 
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『千年戦争アイギス 白の帝国編』むらさきゆきや

 「我は、幸福だ」

 

 今回もライトノベルです。

 しかも今回からはDMMから提供されているブラウザ・アプリ用タワーディフェンスゲーム『千年戦争アイギス』のノベライズ版。

 非常に読む人が限られそうな記事になりそうですが、読書ブログって一発のバズりよりも細く長くアクセスが積み上っていくロングテールの方が独自性があって面白いのかなぁと思いますので、とりあえず書く事にします。

 

 そのための前提条件として、まずは『千年戦争アイギス』のご紹介。

 


 上記が大元のゲームでして、押し寄せる敵に対し様々な能力を持ったユニットを配置し、撃退するというタワーディフェンス型のゲームとなっています。

 以前書いた『御城プロジェクト:Re』とよく似た……というか、運営元も同じDMMから提供される姉妹のようなゲームです。

 

 

 ただし、アイギスの歴史は『城プロ』に比べるとさらに古く、つい先日七周年イベントが開催されるという長寿ゲームとなっています。

 ブラウザゲームで七年って、かなり長い方ですよね。

 さらに『城プロ』とは違う点がもう一つ。

 『千年戦争アイギス』に関してはR18版が存在するアダルトゲームだったりもします。

 好感度を上げると女の子とイヤらしい事ができたりするんですね。

 もちろんDMMのアプリ版やブラウザ版に限っての話であり、applegoogleといったスマホ版に関してはエロはなしなんですけど。

 

 この点が『千年戦争アイギス』の良い点でもあり、悪い点でもあります。

 国産タワーディフェンスゲームの代名詞と呼べる存在でありながら、エロゲーとして忌避されてしまう悲しみ。

 意外と面白いゲームなんだけどなぁ。

 ちなみに僕もプレイはもっぱらスマホ版ばかり。

 なのでエロシーンは全てカット。その分キャラのエピソードが掘り下げられていたりして、エロ抜きの方が世界観がわかりやすかったりしますし。

 

 話を小説の方に戻すと、『白の帝国』というのは、実はゲームの主人公とはライバルにあたる立場だったりします。主人公は「亡国の王子」「英雄王の子孫」と呼ばれる人物であり、そこに集まる仲間たちなんですが、白の帝国は基本的には敵国。当初は互いに争う間柄でした。

 ゲーム上ではやがて悪魔や天使といった共通の敵を倒すための共闘関係に入り、帝国のキャラクターも仲間として入手できたり、帝国キャラクターのみでのパーティを編成したりする事もできたりします。

 むしろ「帝国編成」「帝国縛り」と呼ばれる言葉が出る程、ユーザーの中では人気を集める集団なのです。

 

 そんな『白の帝国』のボスである白の皇帝を主人公として描かれたのが、本作『千年戦争アイギス 白の帝国編』シリーズなのです。

 

 

白の皇帝のバックストーリー

 物語はとある滅びた国の天馬騎士団団長イザベルから始まります。

 危機に陥ったところ、白い鎧の一団をそれを指揮する大剣の騎士に救われ、帝国へと誘われる。

 彼らこそが『白の帝国』の一団であり、騎士こそが白の皇帝です。

 

 現在の皇帝は第十三代目。

 国是として”力こそ全て”をかかげる『白の帝国』の帝位は、強い者に受け継がれます。

 皇帝も元々はただの流浪の傭兵でしたが、前皇帝に拾われ、戦いの中で頭角を現していきました。

そんなある日、前皇帝は事もあろうか配下であるゾーグの謀叛により暗殺されてしまい ます。

 ゾーグは自ら皇帝を名乗り、一時は周囲もそれを認めるようにも見えましたが、現在の『白の皇帝』がゾーグを討った事により、なし崩し的に『白の皇帝』は皇帝の座へと着いてしまいました。

 

 ……こういうゲームにはなかった話が語られるあたり、ファンとしてはなかなか楽しいです。

 

 イザベルは『白の帝国』に合流し、皇帝から一人の女性のお側役を命じられる事に。

 彼女は皇帝の妹リィーリ。

皇帝とは父親違いの兄妹であり、周囲にもひた隠しにする存在なのです。

 

リィーリをイザベルに任せ、白の皇帝は領内の村を襲うという古代炎竜の征伐へと旅立ちます。

そこへ現れたのが、竜とは思えない可愛らしい少女シャルムでした。

 

炎の竜皇シャルム

「ふっふっふっ……我こそは古代炎竜のシャルム! おそれおおくも、この空と大地の支配者であるぞ!」

 つっよいんだぞう! とシャルムと名乗った女の子が薄い胸を張った。

 俺は肩をすくめる。

  ……とまぁこういう感じで、どう見たってそんな風には見えない女の子が古代炎竜とかいう強大な生き物で、尊大ぶる割に子どもっぽい愛らしさが隠せないというラノベらしいキャラクター造形だったりします。

 襲ってきた赤竜を一太刀で仕留めた皇帝の実力を称賛し、返す言葉で

「あたし、決めた! あんたを旦那にするね!」

 と言い出すというまさにラノベ展開(

 

 このシャルムが一応、本書におけるヒロイン役という事になるのでしょう。

 というのも本書にはゲームで使えるシリアルナンバーというものが付録でついておりまして、それにより手に入るキャラクターというのがこのシャルムなのです。

 小説版でたっぷりシャルムのキャラクターとお話を楽しんだ後は、実際のゲームでもシャルムを使えるよ、という趣向。

 そんなわけで本書では皇帝とシャルムを軸に話が展開していきます。

 

 

異世界ハーレム

 ところが実は、白の皇帝に言い寄る女性はシャルムだけではありません。

 冒頭に登場したイザベルは皇帝の一挙手一投足に過剰に反応してドキドキしまくり、軍師であるレオナも皇帝への恋慕を隠せません。天真爛漫に皇帝にじゃれ付くシャルムの行動に、周囲の女性陣の方がやきもきしたりします。

 これぞラノベ用語でいうハーレムもの、という展開ですね。

 

 一方で皇帝はというと、それぞれの気持ちを知ってか知らずか、あまり興味を示そうとはしません。

 

 その他、女性同士ではありますがちょっとした微エロシーンもあったり。

 この『白の帝国編』、全四巻と続くのですがこの最初の一巻だけやたらとハーレム・エロ展開が強いんですよね。

 

 ラノベだから、なのか元がR18要素もあるゲームだから、なのか知りませんが、二巻・三巻と続くに連れて少しずつそういった要素が減っていくのは、やはりちょっとやり過ぎ観があったのかもしれません。

 

意外とまともなストーリー

 ここまで書いたところだと「ゲームを元にしたしょうもないノベライズ」感が否めないと思うのですが、意外にもストーリー自体はなかなかにまともだったりします。

 本書の最大の敵である古代炎竜はシャルムの父親なのですが、シャルムの父と母の出会いや出生の秘密、後に起こった悲劇などなど、小説としてはしっかり読み応えのある内容に仕上がっています。

 娘でありながら、シャルムが皇帝に父親を討つよう求める理由などは、なかなか考えられていると言えるのではないでしょうか。

 また、白の帝国内の文官と武官のぎくしゃくした間柄など、組織的ないざこざも上手く描かれています。どうも一枚岩ではないな、内部からいつ造反者が生まれてもおかしくはないな、という緊張感が物語に厚みを持たせてくれます。

 

 エロやハーレムなど読んでいて鼻白む部分も少なくないのですが、意外や意外、全体としては本当によくまとまっている印象です。むしろよくこれらの要素を一つにまとめあげたな、と感嘆してしまいます。お陰で最後まで楽しく読んでしまいました。

 

 もちろん普段から文学や歴史小説のような硬めの作品を読んでいる方にはオススメしませんけどね。ゲームのファンの方が世界観を楽しむために手にしたり、シリアルコードのキャラクター目当てに購入する分には十分すぎる仕上がりなのではないでしょうか?

 正直ゲームのノベライズってちょっと残念な作品が多いですからね。

 その昔読んだ『小説ドラゴンクエスト』は未だに胸に残るバイブルだったりしますけど。

 

 本作もあと三作、続きます。

 『千年戦争アイギス』ファンの方は、もう少しだけお付き合いください。

 

 

 
 
 
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『ミミズクと夜の王』紅玉いづき

「あたしを食べてよ。夜の、王様……」

紅玉いづきミミズクと夜の王』を読みました。

第13回電撃小説大賞受賞作。

またまたライトノベルですが、こちらは泣けるラノベとして必ず名前の挙がる異色作となっています。

2007年初版という事で、異世界転生でもなく、チート能力もなく、ラブコメやTS、エロ、百合、悪役令嬢といった昨今のラノベで定番と呼ばれるような要素は全くありません。

ミミズクという主人公の少女の他は、夜の王ことフクロウ、王国レッドアークの国王と王子、彼らに仕える聖騎士アン・デュークといった比較的少ない登場人物に限られ、ド派手な魔法やスキルが飛び交う戦闘シーンもありません。

いわば古き良き王道のハイファンタジーが楽しめる作品です。

 

悲惨な過去を持つ少女ミミズク

ミミズクの額には数字の焼き印が刻印され、両手両足は枷と鎖が繋がれています。

自分は人間ではないと言い切るミミズクは奴隷として村で酷い扱いを受けてきました。

村で争いが起こったのをきっかけに、ミミズクは村を脱出。たまたまたどり着いた森で、夜の王に向かい「あたしを食べて」と願うのです。

 

しかし、夜の王はミミズクを食べようとはしません。

 

ある日、夜の王が描く絵を見たミミズクは感動し、夜の王のために煉獄の花を採りに出かけます。煉獄の花の根は赤の色料となるのですが、魔物にとっては有害な花粉を出すため、魔物には近づくことができないのです。

ミミズクは無事煉獄の花を手に入れ、夜の王に喜んで貰う事に成功するのですが、その道中、人間の狩人に目撃されてしまいます。

夜の森に小さな女の子がいると耳にした聖騎士アン・デュークは、彼女の救出へと乗り出します。

 

 

夜の王はアン・デュークによって捕えられ、城で監禁。

救い出されたミミズクもまた、アン・デューク夫妻の下で養女のような素敵な生活を送るようになります。

夜の森の危機を察知した夜の王により、ミミズクは全ての記憶を消されてしまったのでした。

 

 

良く出来た童話または幻想小説

ざっと前半部を紹介しましたが、ここからまだまだ後半へと続きます。

基本的に淡泊な物語なのであらすじを書いてしまうとほぼネタバレになってしまいますので深くは掘り下げませんが、国王が身体の不自由な王子を想う気持ち、アン・デューク夫妻が不憫なミミズクを想う気持ち、ミミズクが夜の想う気持ちなど、誰かが誰かを想う気持ちが相互に反発し合いながら全員の幸せを求めていく話……と言えるでしょうか。

 

良く出来た童話、あるいは幻想小説といった印象です。

昨今のラノベよりは上橋菜穂子作品のような大人向け幻想小説的な雰囲気を持つ作品でした。


ただまぁ、前評判にあったような「泣ける」要素があったかというと……個人的にはう~ん。。。

最初から最後まで、女性が好きそうなほんのりムードの作品だったかなぁ、と。

 

ぶっちゃけ端的に言えば「奴隷少女と魔王の恋」の話だと思うんですが、夜の王の魅力と人物像の掘り下げがちょっと足りなかったかな、と。

それは登場人物全員に言える事だと思うんですが。

 

最近で言うと人気の鬼滅の刃』がこれでもかというぐらい各キャラクターの過去や相関関係を掘り下げる事で物語に深みを与える手法を取っているせいで、余計に物足りなく感じてしまうのかもしれません。

ライトノベルの括りで真似してしまうとクド過ぎて途中で飽きられてしまう可能性もあるので、諸刃の剣ではありますが。

本書の空気感であればアリだったんじゃないかなぁ、と。

 

文章もそう硬くはありませんので、童話的にさらさらと読むのをおすすめします。

 

 

 
 
 
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『ココロコネクト ヒトランダム』 庵田定夏

 「人格としての『わたし』を失って……、【身体】としての『わたし』を失って……、【身体】としての『わたし』を失って……ずっとこんな状態が進めば……誰もわたしをわたしと気づいてくれなくなって……わたしじしにもわからなくなって……そんな……そんな風にして、わたしはこの世から消えてしまうじゃないかなっ」

さて、三作続けてのライトノベルです。

今回読んだのは『ココロコネクト ヒトランダム』。

こちらも前二作に続き、漫画化・アニメ化と大ヒットを記録した作品です。

 

くどいようですが僕はあまりラノベ界隈には詳しくなく……本作もまた、予備知識ゼロでの読書となりました。

 

 

5人の男女が次々と人格転移

男女の中身が入れ代わるというと古くは大林宣彦監督の『転校生』、最近では新海誠監督の『君の名は。』が有名ですね。というよりもこの二作は入れ代わりもののバイブルと言っても過言ではないと思います。

本作もまた、そんな入れ替わり……いわゆる人格転移ギミックを取り入れた作品です。

 

物珍しい点が、文化研究部に所属する五人がアトランダムに入れ替わってしまうという点。

男女も関係なく、ある日突然、それぞれがシャッフルされてしまうのです。

この時点で面白そうですよね。

 

とはいえ問題は人格転移ギミックを使い、どのような物語なのかという点。

複数人の人格転移というと西澤保彦『人格転移の殺人』が真っ先に思い浮かびますが、あちらは入れ代わり×殺人事件という非常に興味深い作品でした。

同様に『転校生』や『君の名は。』においても入れ代わりを一つのギミックとして取り入れつつも、その複雑怪奇な事件を通して思春期男女の恋愛模様であったり、地方と都市に居住する少年少女のコンプレックスや願望といったテーマを描いてきました。

 

果たして、本作『ココロコネクト ヒトランダム』が描く物語とは……?

 

それぞれが抱くコンプレックス

軽くネタバレになってしまいますが、人格転移は彼らがお互いをより深く知るきっかけになってしまいます。

男が女に入れ替わっておっぱいを揉みしだく……もちろんそんなありふれたシーンも存在しますが、もっと心情的な部分……例えば入れ替わった瞬間、相手がつい今の今まで泣いていた事に気づいたりする、といった出来事が重なっていきます。

本来であれば人知れず泣いていたはずなのに、他人に知られてしまった。また、知ってしまったという気まずさは説明するまでもないでしょう。

 

そこへきて本作の主人公は「自己犠牲野郎」というなかなか困った性質の持ち主。

自分を傷つけてでも、誰かを助けたいと強く思い、行動してしまう人間なのです。

泣いていたと知ってしまったからには放ってはおけない。

悩みがあると知れば相談に乗りたがる。

そんなお節介さん。

 

文化研究部に所属する五人のうち三人は女の子なのですが、主人公のお節介は三人それぞれに向けられます。

彼女達はそれぞれにコンプレックスや悩みを抱えており、主人公は解消しようと彼女達に向き合います。

 

勘の鋭い方であれば察しがつくと思うのですが、思春期の男女で、自分の為に必死に尽くしてくれる異性がいれば惹かれてしまうのは自然な流れ。

しかも「俺に任せろ!」「俺がなんとかしてやる!」「俺だけは裏切らない!」的に寄り添われたらどうでしょう? ついついキュンとしてしまいませんか。

これを明確に「好き」という感情があるわけでもなく、複数の相手に対して同時多発的にやってしまうのですから主人公は天性の女たらしに違いありません。

 

そんなわけで女の子達はコロコロとあっという間に主人公に恋するようになってしまいます。

 

残る一人の男は、三人のうちの一人の女の子に好意があり、しかも常日頃から言動に表してたりするのですが。そんな牽制行為なんて誰も気にも留めやしません。少なくとも一巻を読む限りは完全な当て馬、引き立て役です。

 

読んでいくうちにだんだんと僕もわかってきました。

つまるところがこれがラノベ界で言うところのハーレムものって事なのでしょう。

 

 

思春期の繊細な心持ちを楽しんで

上記のハーレム云々はさておき、本作の人気の理由はそれぞれが抱えるコンプレックスや悩みがリアリティーをもって迎え入れられている、という点にあるようです。

実を言うとここへ来て急に読み始めたライトノベルたちは、どれも「泣けるラノベ」で検索したら候補に挙がってきた作品だったりします。

 

『俺ガイル』しかり『さくら荘』しかり『ココロコネクト』しかり、どれも泣けるラノベとして評価する人の少なくない作品のようです。

僕個人がどう感じたかは別として、本書も読む人によっては心に突き刺さる部分があるようです。

主人公のお節介な部分も、読む人によっては憧れるべき正義感の塊とも思えるのでしょう。

 

さらに……本書につい特筆すべき点として構成の妙が挙げられます。

ハーレムもの、なんて書きましたがそれだけには収まらない展開がしっかり用意されています。

 

三人の女の子とイチャコラした挙句、その内の一人を選んでおしまい的なラブコメだったら本当にがっかりしてしまいますもんね。

なんだかんだ思う所があったとしても、クライマックスには思わず手に汗握り、ページをめくる手が止まらないような興奮に襲われる事は間違いなしです。

この辺りの盛り上がりについては『俺ガイル』や『さくら荘』よりも断トツで本作が良かったです。

 

やっぱりこういうこのまま終わるのかと思いきやラスト付近で一発食らわしてくれる作品というのは胸に響くものがありますね。

思わず唸ってしまいました。

 

 

ココロコネクト ヒトランダム』、ラノベと侮るなかれです。

 

 

#ココロコネクト_ヒトランダム #庵田定夏 読了定番の人格入れ代わりものですが特筆すべき点は5人の男女の中でアトランダムに次々と入れ代わりが起こる点。その中でそれぞれが抱える悩みやコンプレックスがあぶり出され、主人公は持ち前の自己犠牲精神を発揮して解決に立ち上がります。よくある学園ハーレムものかと思いきやクライマックスの畳み掛けは圧巻。ここ数日ラノベが続いていますが随一の盛り上がりを見せてくれました。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。

『さくら荘のペットな彼女』鴨志田一

「それって、他人に理由を求めてるってことだよな。何か決めるのに、他人が絡んでれば、失敗したときに言い訳できるもんな。仕方ない。しょうがないって。じゃないと辛いよな。負けたときに全部自分のせいってのは。逃げ道がないってのはさ」

鴨志田一さくら荘のペットな彼女』を読みました。

前回に引き続きまして、当ブログでは珍しくライトノベルのご紹介となります。

 

こちらも2010刊行後、2012年にはアニメ化。

wikipediaによるとシリーズ累計発行部数は、2014年1月時点で180万部を突破という事で、大ヒット作品と言えるでしょう。

正直僕は名前すら知らなかったわけなんですが、あしからず。

 

ですので前回の『俺ガイル』に続き、予備知識全くのゼロの状態からの読書となりました。

 

 

悪名高い(?)さくら荘

主人公の空太は高校二年生。捨て猫を拾ったのをきっかけに寮を追い出され、悪名高いさくら荘へと住み始めました。

さくら荘は、平気で部屋に入り込み空太を性的にからかう美咲や、部屋に引きこもりっきりの龍之介、女たらしの仁といった一癖も二癖もある問題児たちの巣窟。

校内ではさくら荘に住んでいるというだけでまるで病原菌のような扱いを受けてしまいます。

 

そこへやってくるのが本作のヒロインことましろ

ましろは画家として海外で高い評価を受ける一方、一人ではまともに着替えすらできない不思議な女の子。

空太は成り行き上、ましろのありとあらゆる身の回りの世話をすることになり……というのが本作のおおよそのストーリー。

 

一人では日常生活すら満足に送る事の出来ないましろペットな彼女という事なのでしょう。

 

 

さくら荘≒トキワ荘

問題児に巣窟とされるさくら荘ですが、蓋を開けてみるとそれぞれが突出した才能を持った天才ばかり。

 

美咲は自作アニメの制作を手掛け、DVDなどにより多額の収入を得るアニメーター。

仁はそんな美咲の脚本を手掛ける脚本家。

龍之介は企業案件も多数抱える日本有数のプログラマー

そしてましろもまた既に世界的に名声を轟かせる画家でありながら、プロの漫画家を目指しています。

 

下宿・寮・アパートといった一つ屋根の下に様々な天才が同居する様子は、トキワ荘にも似たものを感じさせますね。

 

一方で主人公の空太だけは、何も持っていません。

それぞれが世の中で活躍し、または夢に向けて突き進むのを横で見ながら、胸の内ではコンプレックスを抱えています。

漫画家になりたいというましろを応援しつつ、一方では失敗して欲しいと願ってしまう凡人の役割こそが、空太の役割なのです。

 

ましろに対して惹かれながらも、だからこそ背を向けたくなる空太の葛藤。

それこそが本書の見どころでしょう。

 

アニメの原作小説

率直な感想としては「アニメ化を目指す作品ってこういうものなんだなぁ」、と。

リアリティーはことごとく欠如してますし、ご都合主義も否めません。展開もかなり強引なので、読んでいて違和感を覚える事も少なくありません。

伏線も予兆も何もなく唐突に新たな人間関係や感情が明らかになったりするので、急過ぎない? もっと丁寧に伏線張ったりしないの? と思ってしまったりもするのですが、これがラノベでいう「テンポの良さ」なのかなとも思えたり。

 

くわえて「そういうアニメなんだよ」と言われてしまえばそうなのかなぁ、と思えてしまいます。

実際にアニメ化もされ、原作小説は全13冊にも及ぶ大ヒット作品になっているわけですし。

 

とはいえやはり『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』と比べてもかなり漫画・アニメに近い小説に思えてしまいます。

昔流行った神坂一あかほりさとるラノベともまた違ったアニメテイストに、少なからずカルチャーショックを受けました。

これが今(少し前?)売れているラノベって事ですもんね。

 

急に思い立って読んでみたのですが、良い意味で勉強になりました。

 

 

#さくら荘のぺットな彼女 #鴨志田一 読了引き続きラノベです。今回読んださくら荘もアニメ化された大ヒット作……らしいです。というのも僕、あまりラノベには詳しくないので。予備知識ゼロからの読書になりました。問題児の巣窟とされるさくら荘も蓋を開けてみれば才能に溢れた天才たちばかり。そんな天才たちに囲まれて劣等感に苛まれる主人公もやがて夢を見つけ、自信を取り戻していく青春ラブコメでした。それにしても……漫画・アニメ感が半端ない。これがアニメの小説版ではなく原作小説だというのが驚き。カルチャーショックです。良い意味で勉強になりました。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』 渡航

誰かの顔色を窺って、ご機嫌をとって、連絡を欠かさず、話を合わせて、それでようやく繋ぎとめられる友情など、そんなものは友情じゃない。 

 

渡航やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』を読みました。

通称俺ガイル

改めて本作がどんな作品かなんて書く必要もないぐらい、アニメに漫画にゲームにと大ヒットとなった作品。

むしろ今当ブログを読んで下さっているかたの方が僕なんかよりもよっぽど詳しいかもしれません。

逆に言うと、僕は全く知らないのです。

原作どころか上に書いたような派生作品にすら触れた経験もありません。

予備知識全くのゼロ。

昨今のラノベ界代表作と言われる『俺ガイル』とはどのようなものかと興味本位で読んでみた次第です。

 

 

学園ラブコメ

ぼっちを貫く高校生・八幡が平塚先生のお節介で、学校一の美少女で変わり者の雪乃が所属する奉仕部へと入部させられます。

奉仕部とは簡単に言うとお悩み相談所のようなもの。

様々な悩みを雪乃とともに八幡が解決に乗り出す……というのが主なストーリー。

 

一人目は八幡を同じクラスの由比ヶ浜。彼女は苦手な料理を克服したいとやってきます。

二人目は同じく八幡の同級生である材木屋。ラノベ作家を目指す彼は、自分の作品を読んで感想が欲しいと行って来ます。

三人目はかわいい男の子戸塚。テニスが上手くなりたいとやってきます。

 

物語の大筋としては連作短編的な構成とし、それぞれの悩みを解決すべく活動しながら、八幡や雪乃自身が抱えるコンプレックスをも暴き出し、成長していく青春ラブコメものと言えるでしょう。

 

中二病・高二秒を発症していた大人になった少年たちへ

さて、ここからは個人的に見た本作の人気の理由ですが……正直、物語としては上記の通り非常にベタな内容です。似たような話は枚挙に暇がないぐらいありふれているかもしれません。

本作が他の作品と大きく違う点を挙げるとすれば、まず一つ目として主人公八幡の性格が挙げられるでしょう。

中二病というネットスラングを自覚し、自分は“元”中二病であると言い切る様はまさに中二病の権化と言えます。平塚教師はそんな彼を高二病だと揶揄します。

 

高二病高二病だ。高校生にありがちな思想形態だな。捻くれてることがかっこいいと思っていたり、売れている作家やマンガ家を『売れる前の作品のほうが好き』とか言い出す。みんながありがたがるものを馬鹿にし、マイナーなものを褒め称える。そのうえ、同類のオタクをバカにする。変に悟った雰囲気を出しながら捻くれた論理を持ち出す。一言で言って嫌な奴だ」

 

この台詞に、本作の全てが詰まっていると言えるのではないでしょうか?

主人公・八幡のキャラクターは今現に中二病を発症中だったり、その昔高二病を発症していた大人たちの心をわしづかみにしたのでしょう。

アニメっぽいとも思える八幡に読者は自己投影し、そんな彼がこじらせた正義や正論を歯に衣着せぬ物言いで振りかざし、周囲を圧倒していく様子にカタルシスを感じるのかもしれません。

 

もう一つ付け加えるとすれば、ラノベにしては非常に文章能力が高いです。

おちゃらけた言い回しやパロディーネタにばかり目が行ってしまいますが、文章一つ一つはとても簡素ながら、しっかりと言葉や構成が練り込まれた上質なものとなっています。

この点、昨今の投稿サイトに見られる似非ライトノベルとは比べ物になりませんね。

よくライトノベルは「台詞だらけで本の下半分が空白」なんて揶揄されたりしますが、本作に関して言えば決して文字密度は小さくありません。それでもサクサクと読めてしまうのはやはり作者の上手さと言えます。

元々文章能力の高い人がこういった砕けたライトノベルを手掛けるからこそ、人気を集めるような作品に仕上がるのでしょう。

なかなか目から鱗な作品でした。

 

 

#やはり俺の青春ラブコメはまちがっている #渡航 読了近年のライトノベルの代表作と名高い #俺ガイル を読んでみました。主人公が強制的に奉仕部に入れられ、持ち込まれる様々なお悩みを解決するというどこかで聞いたような王道の学園ラブコメ。なのにこれだけ人気なのは、読者が自己投影できる中二病ならぬ高ニ病という主人公のキャラクター造形の賜物でしょう。またラノベらしからぬ文章能力の高さも素晴らしい。簡素な言葉や描写で決して空虚になる事なく物語をぐいぐい進めてくれます。なるほど確かに人気なだけはある、と唸らせられる作品でした。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。