「あたしを食べてよ。夜の、王様……」
第13回電撃小説大賞受賞作。
またまたライトノベルですが、こちらは泣けるラノベとして必ず名前の挙がる異色作となっています。
2007年初版という事で、異世界転生でもなく、チート能力もなく、ラブコメやTS、エロ、百合、悪役令嬢といった昨今のラノベで定番と呼ばれるような要素は全くありません。
ミミズクという主人公の少女の他は、夜の王ことフクロウ、王国レッドアークの国王と王子、彼らに仕える聖騎士アン・デュークといった比較的少ない登場人物に限られ、ド派手な魔法やスキルが飛び交う戦闘シーンもありません。
いわば古き良き王道のハイファンタジーが楽しめる作品です。
悲惨な過去を持つ少女ミミズク
ミミズクの額には数字の焼き印が刻印され、両手両足は枷と鎖が繋がれています。
自分は人間ではないと言い切るミミズクは奴隷として村で酷い扱いを受けてきました。
村で争いが起こったのをきっかけに、ミミズクは村を脱出。たまたまたどり着いた森で、夜の王に向かい「あたしを食べて」と願うのです。
しかし、夜の王はミミズクを食べようとはしません。
ある日、夜の王が描く絵を見たミミズクは感動し、夜の王のために煉獄の花を採りに出かけます。煉獄の花の根は赤の色料となるのですが、魔物にとっては有害な花粉を出すため、魔物には近づくことができないのです。
ミミズクは無事煉獄の花を手に入れ、夜の王に喜んで貰う事に成功するのですが、その道中、人間の狩人に目撃されてしまいます。
夜の森に小さな女の子がいると耳にした聖騎士アン・デュークは、彼女の救出へと乗り出します。
夜の王はアン・デュークによって捕えられ、城で監禁。
救い出されたミミズクもまた、アン・デューク夫妻の下で養女のような素敵な生活を送るようになります。
夜の森の危機を察知した夜の王により、ミミズクは全ての記憶を消されてしまったのでした。
良く出来た童話または幻想小説
ざっと前半部を紹介しましたが、ここからまだまだ後半へと続きます。
基本的に淡泊な物語なのであらすじを書いてしまうとほぼネタバレになってしまいますので深くは掘り下げませんが、国王が身体の不自由な王子を想う気持ち、アン・デューク夫妻が不憫なミミズクを想う気持ち、ミミズクが夜の想う気持ちなど、誰かが誰かを想う気持ちが相互に反発し合いながら全員の幸せを求めていく話……と言えるでしょうか。
良く出来た童話、あるいは幻想小説といった印象です。
昨今のラノベよりは上橋菜穂子作品のような大人向け幻想小説的な雰囲気を持つ作品でした。
ただまぁ、前評判にあったような「泣ける」要素があったかというと……個人的にはう~ん。。。
最初から最後まで、女性が好きそうなほんのりムードの作品だったかなぁ、と。
ぶっちゃけ端的に言えば「奴隷少女と魔王の恋」の話だと思うんですが、夜の王の魅力と人物像の掘り下げがちょっと足りなかったかな、と。
それは登場人物全員に言える事だと思うんですが。
最近で言うと人気の『鬼滅の刃』がこれでもかというぐらい各キャラクターの過去や相関関係を掘り下げる事で物語に深みを与える手法を取っているせいで、余計に物足りなく感じてしまうのかもしれません。
ライトノベルの括りで真似してしまうとクド過ぎて途中で飽きられてしまう可能性もあるので、諸刃の剣ではありますが。
本書の空気感であればアリだったんじゃないかなぁ、と。
文章もそう硬くはありませんので、童話的にさらさらと読むのをおすすめします。