おすすめ読書・書評・感想・ブックレビューブログ

年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『天使の卵』村山由佳

「嘘つき! 一生恨んでやるから!」 

 

村山由佳天使の卵 エンジェルス・エッグ 』を読みました。

第6回小説すばる新人賞を受賞し、作家村山由佳を世の中に知らしめるきっかけとなった作品でもあります。

 

ちなみに本書は初読ではありません。

中学生か高校生の頃に初めて読んで以来、何度読み返した事か。

ここ十年程はご無沙汰していましたが、二桁を数える程何度も何度も繰り返し読んだバイブル的作品でもあります。

 

小学生の頃に宗田理ぼくらの七日間戦争』シリーズに嵌まったのが僕の読書体験の始まりだとすれば、中学生になってから綾辻行人十角館の殺人』で本格ミステリに目覚め、『ロードス島戦記』『スレイヤーズ!』でライトノベルに夢中になりました。

 

そんな偏った読書遍歴を持つ僕に、いわゆる一般文芸・恋愛小説の入り口を開いてくれたのが本書です。

以降は『BAD KIDS』や『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズ等など、貪るように読んで来ました。

 

村山由佳も好きな作家で常に五指に入り続ける作家さんです。

 

最近ちょっと読書に飽きが来て、ライトノベルばかり流し読みしていましたので、この辺りでちょっと刺激を求めて『天使の卵 エンジェルスエッグ』に手を出してみました。

 

 

設定+設定+設定+設定……

主人公の歩太はたまたま乗り合わせた満員電車で、混雑した人波の中から一人の女性を助けます。

歩太は大学受験に失敗した予備校生。

浪人を決めたものの、芸大という潰しの利かない進路に未だ迷い続けています。

というのも歩太の父親は心の病を患い入院中。

母親が小さな飲み屋を営む事で、女手一人で家族を支えているのです。

 

そんな歩太が父のお見舞いに出かけた先で出会ったのが春妃。

新しく父の担当となったという彼女は、電車で出会ったあの女性でした。

運命の出会いと再会を経て、春妃に思いを寄せるようになる歩太。

しかし彼女は、歩太の交際相手である夏姫の姉だったのです。

 

しかも春妃には結婚歴があり、前の夫もまた歩太の父同様、心を病んで自殺してしまいました。

夫を助けてあげられなかった自分に後悔し続ける未亡人。

春姫は妹である夏姫から最近歩太とうまくいっていないと悩みを打ち明けられ、妹のためにと歩太を問いただします。しかし既に、歩太の心は春姫に向いていて……。

 

……とまぁ、序盤の主な流れを書いただけでこんな感じになってしまうのですが。

 

スゴくないですか?

 

出て来る登場人物はさほど多くないのですが、それぞれが様々な悩みや背景を抱えていて、さらに濃密に関わり合う。

それら一つ一つにしっかりと意味がある。

無駄な要素が一つもない。

改めて読んでも作り込みに感嘆します。

ちなみにこれは、物語の構成としても同様です。

 

無駄がない

一般的に小説って途中中だるみがあったりするものかと思うのですが、本書には見当たりません。

新たな事実が判明したり、新たな事件が起こったりしながら、最初から最後までずっと休むことなく物語が動いていきます。

これもスゴい。

この“新たな”というのがキモで、物語が落ち着こうとするちょうど良いタイミングでポーンと加速させてくれます。

実に軽妙かつ絶妙なタイミング。

元々200ページ強とボリュームが少ない作品である事を除いても、飽きさせる事なく最後まで一気に読まされてしまいます。

 

とにかく全てが『天使の卵』という作品に必要なものだけで構成されています。

無駄な登場人物はいませんし、無駄なエピソードもない。

改めて読んだ今、その事を再確認できて本当に目から鱗です。

 

初めて読んだ時には「とにかく面白かった!最後まで一気読みした!」というだけで満足でしたが、そこにはちゃんと理由がある事が再認識できました。

 

 

言葉の呪縛

いつも記事の冒頭にはその作品の中で印象的だったシーンや言葉を引用するようにしているのですが、今回はすぐに決まりました。

もう一度書いておきましょう。

 

「嘘つき! 一生恨んでやるから!」 

 

読んだ人であればわかると思いますが、この言葉の重みって途轍もないですよね。

言った側も、言われた側も、言葉通り一生引きずるだけの重みをもった言葉です。

もちろん、言った時は感情に任せてつい口をついて出てしまっただけなのかもしれませんけどね。

 

けれどその後の状況次第では、一生続く後悔を生み出す事もある。

そんな言葉の持つ力や重さを再認識される物語です。

 

主人公である歩太や、ヒロインである春妃に思いを寄せがちですが、大人になってみるとこの物語で一番苦しい想いをしているのはこの発言の主だという事に改めて気づかされたりします。

 

村山由佳さんはちゃんとそんな点も見逃さず、後日談・続編ともなる『天使の梯子 Angel's Ladder』や本作の視点を変えた『ヘヴンリー・ブルー』を書いてくださっています。

大きな楔を背負った彼女が、いつか救われる日がくるのか……本作を読んだという方には、ぜひそちらも手に取っていただきたいと思います。

 

 

 

 

今でいうライト文芸のはしり

昨今ではライト文芸が書店の棚の面積を広げつつあります。

いわゆる大人向けライトノベル、というやつですね。

 

『ビブリア古書堂の事件簿』や『君の膵臓をたべたい』が代表作として挙げられるようですが、おおよそ「ラノベのように個性的なキャラクターが、甘く切ない恋愛を繰り広げる」(その物語としてミステリやあやかしといった要素が取り入れられたりする)といった作風が多いようです。

 

そうして比べてみると、『天使の卵』は今で言うライト文芸のはしりと言えそうです。

 

小説すばる新人賞の講評では「よくここまで凡庸さに徹することができる」と五木寛之が述べていますが、それこそ現在のライト文芸の手法だったりもしますよね。

 

病や死といった悲劇的題材を扱い、どこか既視感のある登場人物たちが、既視感のある恋愛模様を繰り広げ、読者の胸をぎゅっと締め付けるような切なさをもたらす。

 

これはまさしく本書『天使の卵』であり、村山由佳初期の作品群に当てはまるものだと思います。

 

ライト文芸レーベルが好きでよく読むけれど、『天使の卵』は読んだ事がないという方は、ぜひ一度読んでみませんか?

おいしいコーヒーのいれ方』シリーズや『BAD KIDS』と合わせて、自信を持ってお勧めしたい作品です。

 

 

 
 
 
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『ハサミ男』殊能将之

「チョキ、チョキ、チョキとハサミ男が行く。三人目の犠牲者が出る。血が流れ、苦痛がみちあふれる。人々は恐怖し、激怒し、おびえ、あるいはおもしろがる……」

殊能将之ハサミ男』を読みました。

説明するまでもないですが、ミステリ界隈では超がいくつも並ぶほどの有名作です。歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』、乾くるみイニシエーション・ラブ』、我孫子武丸『殺戮にいたる病』あたりと並んで紹介される事が多いですね。

Amazonの商品ページだと「よく一緒に購入されている商品」、「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」あたりにセットでよく出て来ます。

……と書くとどういう傾向の作品かなんとなく、いやほぼ大筋わかってしまうのが苦しいところですが。

インターネット全盛の時代、仕方のない事と諦めるしかないかもしれません。

 

それでもずっと常に名前が挙がり続ける以上、きっと一筋縄ではいかない驚きに溢れた作品なのでしょう。

そう期待しての初読です。

 

連続殺人鬼『ハサミ男

物語は主人公となる“わたし”の一人称で始まります。

小規模出版社に非正規で勤め、駅から近いというだけでボロアパートに住む

“わたし”はどうも冴えない暮らしぶり。しかし道行く若い女の子に視線を向ける“わたし”の言動から、どうやらこの主人公こそがタイトルでもある『ハサミ男である事がわかります。

 

既に二人の少女を手に掛けたハサミ男は、次なる獲物として女子高生・樽宮由紀子に目をつけます。

何日もかけて彼女の周辺を探り回り、ついに機会が訪れたと思ったある夜――公園の茂みで、ハサミ男は既に殺された樽宮由紀子を発見。しかも彼女の首には、見覚えのあるハサミが突き刺さっていました。

 

ハサミ男が殺す前に、樽宮由紀子は殺害されてしまったのです。しかも、ハサミ男と同じ手口で。

そこへタイミングよくもう一人の通行人が通りがかり、咄嗟にハサミ男は第一発見者のフリをします。

 

ハサミ男模倣犯による被害者の第一発見者が真のハサミ男という歪な形の下、以後は捜査を進める警察と独自に被害者を追うハサミ男という二つの視点から、物語は進展していきます。

 

 

見え透いた下心は嫌らしい

細かくネタバレしている記事は他にいくらでもあるので当ブログでは改めて触れる事はしません。

争点は面白かったか、ひっくり返るような驚きが味わえたか、という点かと思います。

 

これがねぇ……正直微妙でした。

 

こういう作品って、それまで見ていた世界がひっくり返るガラガラと割れて中から違う世界が姿を現すといったピークにどれだけ高い山を作れるかという点が勝負だと思うのです。

そのためには読者が予想する裏のそのまた裏を掻いたり、予測不可能なラインでひっくり返してみせたりといった荒唐無稽さが要求されます。

 

翻って本作を見てみると……期待外れという他ありません。

読みなれた読者であれば、「おっ怪しいぞ!」と真っ先に疑ってかかるところがまさしく本ネタであるという。

そのまま普通に描くと粗が目立ってしまうから、物語の中途をわざと書かずに省いてみたり、登場人物たちが存在しないかのように不自然に目を背けるという、意図的にこねくり回す事で読者を煙に巻く事だけを目的とした嫌らしい作品

 

いやはや、こういう下心見え見えの作品は嫌らしいですね。本当に嫌らしい。

 

読者を混乱させるのを第一義としているので、当然読み心地もよくありません。文章を読んでいても、物語を読んでいるという感覚があまりないのです。手がかりがどこにあるかわからないので、仕方なく読まされているような感覚。

しかし残念ながら、そのほとんどは本筋とは関係のない文章だったりします。かといって物語に深みを与えたりするようなものでもありません。

具体的に挙げれば、ハサミ男に二重人格的な別人格が存在したり、殺害された女子高生が意外な本性を隠していたり、衒学的な知識があちこちに散りばめられたりといったスパイスはあるものの、どれも本ネタの臭みを消したり、深みのないストーリーに風味を加えたりといった文字通り香辛料としての役割でしかないのです。

 

本来ならばじっくりと味を染み込ませ、臭みを消すような下ごしらえが必要なのに、上からパッパッとスパイスを振りかけて誤魔化したような塩梅。ですので読んでいても非常に薄っぺらく感じます。

 

一例を挙げると、樽宮由紀子が年上の男をとっかえひっかえ、ふしだらな生活を送っていたという設定。物語的に彼女は「年上男性と交際関係にある」必要があったのでしょうが、だったらヤ〇マンにしちゃえってそりゃあずいぶんと強引な話です。

そうなった人物背景も非常におざなりです。なんとなく母親の話から親の影響があるのかもしれないと匂わされるのみで、具体的に何があったかは語られません。早くに父親と別れた事によるエディプス・コンプレックスの発露なのだとすれば、それこそ陳腐過ぎるでしょう。

 

上は一例ですが、他にも義姉への恋慕を匂わされた義弟の真意であったり、樽宮由紀子と関係した男性陣の心境だったり、警察側の主人公格である磯部の心情変化だったり、ことに恋愛感情についてはとかく浅い描写が目立ちます。

 

可愛い女子高生が思わせぶりに近寄ってきたから飛びついた。

好みの女性だったから一目ぼれした。

 

男性陣は皆一様に下半身に脳みそがあるかのような行動原理に終始します。

上記は一例ですが、他も似たようなもので、物語の流れやプロットが先にありきで、取って付けたような設定を登場人物たちに付加して誤魔化すばかり。

これが僕がスパイスであると断じる理由です。

 

 

例えば――仮にエディプス・コンプレックスに起因して年上男性をたぶらかさずにはいられない少女だったとして、犯人はそんな彼女に寄り添う側の人間だったりするとまた違ったと思うのですが。

彼女の生い立ちや心情を理解し、どうにかして立ち直らせたいと思い悩んだ末に、何かの手違いで被害者を殺す結果になってしまった、とかね。

 

でもまぁ現実には他の男たち同様にたぶらかされた男が、恨み骨髄で殺すというだけの単純な動機で終わってしまったわけです。ああ、もったいない。

 

そもそも周囲の人間に隠しもせず堂々とお付き合いしていた男が、警察の捜査網からも聞き取り調査による情報からも全く浮上して来ないという時点で無理過ぎる設定。そんな男が隠し通せると自信満々に犯行を犯すのも無理があり過ぎる話。

せめてもうちょっと現実的なラインで物語を進めていただかないと、、、

 

ぐちぐち書いてきましたが、とにかく本書、500ページという文庫本にしては厚みのあるボリュームに比して、細部の作り込みが非常に荒い。もっと掘り下げて欲しい、厚みを持たせて欲しいという物語の骨肉がぺらぺらなのに、やたらとどうでもいい知識や描写で膨らまされています。

 

よくできた推理小説なのだから人物描写が、物語としての深みが、なんて難癖付けるのは野暮だという向きもあるでしょうが、ロジックパズルなのであれば無駄に膨らまさずむしろシンプルさを追求すべきでしょう。

 

本書が刊行されたのが1999年。

本格ミステリといえばとにかく分厚いノベルス版、が流行していた名残りもあったんでしょうか。

いずれにしても冒頭に並べたような”似たような”とされる作品と本書を同列に並べるのは個人的に反対です。

 

ちょっと過大評価され過ぎてるんじゃないでしょうか。

 

 

 
 
 
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『六花の勇者』山形石雄

「よく確かめるのだ! ありえん、六花の勇者が七人いるなど」 

 

皆様明けましておめでとうございます。

あまり季節感のない当ブログですが、2021年最初の更新となります。

 

今回読んだのは山形石雄六花の勇者』。

例によってライトノベルですね。

こちらもテレビアニメ化もされたという人気作。


とはいえ『ソードアートオンライン』や『転生したらスライムだった件』などの大ヒット作に比べると一般的な認知度は低いように感じています。

アニメも一期のみで止まっていますし、小説の方も2011年から始まり、2015年に第六巻が出版されて以降は打ち止めとなってしまいました。

 

昨今では二ケタを数えるシリーズものも少なくないラノベ業界においては、比較的小粒と言われても仕方ないかもしれません。

ただし六巻の時点ではまだ全ての問題や伏線が解き明かされたとは言えないため、ファンの間では続編を望む声も少なくないようです。逆に言うと、打ち切りなの?といった不安の声も。

 

……と書いていくと打ち切りされた不人気作?と思われてしまいそうですが、本作の卓越した点についてご紹介したいと思います。

 

 

 

運命の神に選ばれた6人の勇者……でも集まったのは7人⁉

上記が全てと言っても過言ではありません。

魔神復活を前に、運命の神に選ばれた6人の勇者終結

ところが集まった勇者の数は7人

誰か一人が偽者……つまり敵であると判断した勇者たちは、互いに疑心暗鬼になりながら偽者探しに奔走する。

 

……という内容。

いやもう、この時点で面白そうって思いますよね?

 

しかも冒頭は主人公であるアルフレッドが、仲間であるナッシュタニアに追われる場面から始まります。

つまり――主人公アルフレッドこそが偽者だと仲間たちに命を狙われているのです。

 

ルフレッドはどうやって事態を潜り抜けるのか?

本当の偽者は誰なのか?

 

数々の謎をフックに、物語はぐいぐいと進んでいきます。

既視感あると思ったら、ハイ・ファンタジーのような皮をかぶってはいますがこれってWhat done it (ホワットダニット)――何が起こっているのか?という立派なミステリーじゃないですか!!!

 

 

密室!!!

しかもしかもですが、本作には本格ミステリーの華である密室も登場します。

勇者たちが集まる直前、凶魔を追って神殿へとたどりついたアルフレッドが封印された扉を開くと、敵を閉じ込めるはずの夢幻結界は作動させられた後でした。

 

しかし扉は一度開けられれば再度封印する事は不可能。

最初に開けたのは間違いなくアルフレッド。

 

密室内で殺害された被害者の第一発見者が容疑者の最右翼として疑われるのと同様に、勇者たちはアルフレッド以外に夢幻結界を作動できる人間はいないという結論に至るのです。

 

ルフレッドは仲間たちに追われながら、誤解を解く術を考えます。

偽者はどうやって密室内の夢幻結界を作動させたのか。

そのトリックさえ見破る事ができれば、自分の無実を証明できる。

 

つまるところルフレッドは自らが犯人であるという無実の罪を着せられた探偵役という事になります。

 

ルフレッドが戦う相手は他の6人の勇者であり、本来戦うはずの凶魔や魔神もほとんど登場しません。

物語の軸となるのはあくまで「誰が偽者か」という点

その意味でもやはり本作はハイファンタジーの皮をかぶったミステリと言えるかもしれません。

 

いまいち爆発しなかった理由

大筋を聞いただけで絶対に面白いと確信できる本作なのですが、冒頭に書いた通り不人気アニメの汚名を着せられていたりと、いまいちパッとしないのが実情だったりもします。

確かに原作も、読んでいて謎に惹き付けられる部分は大きいのですが、それ以外の物語としての面白さみたいなものには欠けているように感じてしまうんですよね。

 

その要因の一つが、キャラクターが味気ない事にあるように思いました。

 

主人公アルフレッドは努力によって力を身に着けた一般人であり、小細工と策を弄して相手の裏をかくような戦い方が中心となります。

逆に言うと、他の六人に比べると物足りないように感じてしまいます。

 

かといって他の六人がどうかというと……ヒロイン格とされるフレミーも陰鬱な感じで外見的な愛らしさはあまり感じられません。対してウサ耳の姫ナッシュタニアも、周囲に感化されやすい単純一辺倒のお嬢様といった印象。モルゾフはそんな彼女に従うだけの悩筋お供。自分の考えらしきものは何一つ見られません。

チャモなんかはなかなか良いキャラクターかと思ったんですけどね。子どものような外見には似つかわしくない情け容赦ない残酷さとか。ただし、だとすればどこか人間味のようなものも見せて欲しかったというのが残念なところで、一作目だけではチャモには感情移入しようがありません。

一番のリーダー格であるモーラも同様ですね。偉そうにみんなにああだこうだと指図するものの、頭からアルフレッドが偽者だと決めつけている様子であったり、やや強引なやり方には首をひねらざるを得ません。彼女なりの理屈や正当性が上手く描けていれば良かったのですが。

 

なので基本的に登場人物全員が感情移入しがたいキャラクター造形であり、その言動についても理解しかねる点が多いのです。

仮に推理小説であるとするならば、もっとそれぞれが独自の推理を働かせ、警戒したり、手を結んだりが繰り返される中でさらなる事件やどんでん返しが起こったりするんですけどねー。

最終的に解き明かされる密室の謎も、カタルシスをもたらすかと言えばそれほどでもなく……まだまだ続くシリーズだからと言えばそれで終わりですが、一作目を読んだだけでは理解できない謎も多いですし。

 

つらつら書いてきましたが、何よりも最大の理由として暗い

これに尽きます。

なんだか出て来るキャラクター全員が暗くて、最初から最後まで暗いムードが支配しています

 

これ、ちなみに表紙や挿絵が暗い感じなのも助長しているように思えなくもないのですが。

 

ルフレッドとフレミーの間に恋愛関係も見られたりはしますが、やっぱりこれも暗くて、気持ちよくわくわくする事ができない。作品を読んでいく中で、どうも二人がこの先一般的なハッピーエンドを迎えるとは思えないんですよね。

魔神を倒した後、二人は結婚して幸せに暮らしました……という想像ができない

 

これって意外と重要な要素な気がします。

 

物語の読者って、感情移入した登場人物たちが最終的に幸せになるところを見届けたいと思っているんですよね。

だからこそ鬼滅の刃のように仲間が次々と死んでいくと、衝撃も大きいわけで。

無惨を倒して欲しいと読者が見守るのは、世界に平和を戻すためというよりは、炭次郎達自身に幸せになって欲しいというという想いがあればこそ。

無惨を倒せば世界は救われる。でも炭次郎達も幸せにはなれそうにない。そんな作品だったら、鬼滅の刃も今のような人気を博してはいなかったでしょう。

 

六人の勇者のはずが七人いた。偽者は誰だ。

 

取っ掛かりの謎としては卓越していますが、残念ながらそれが作品の全てであり、出オチだったというのが正直な感想です。

 

 

『11人いる!』萩原望都

さて、長々書いてきましたが最後に本作に似た作品をご紹介。

萩原望都『11人いる!』

 

 

大体「〇人のはずが一人多いぞ!」系の作品の元ネタを追うと、本作にたどり着きます。

 

名門大学の最終テストとして外部からのコンタクトが遮断された宇宙船に10人の受験生が乗り込んだはずが、船内にいたのは11人。

さらにアクシデントが重なり、11人はそれぞれ疑心暗鬼になりながらも事態の収拾に奔走し……と「選ばれた〇人」「一人多い」「それによってもたらされる疑心暗鬼の人間ドラマ」な点でほぼ『六花の勇者』と共通したような内容です。

 

ただしこちらは少女漫画ですし、物語の雰囲気や仕掛けも異なってきます。

クスリと笑える、ほほえましいようなオチも名作とされる所以でしょう。

 

六花の勇者』を気に入ったという方は、『11人いる!』についても手に取ってみる事をお勧めします。

ただし1975年の作品と言う事で、相応の時代感があるのは大目に見ていただきたいと思います。

 

 

 
 
 
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『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅳ』むらさきゆきや

 ルチアが、この魔界で、魔物たちに囲まれ、いたぶられながら殺されるのは――女神の指示なのか。

 帝国に見捨てられ。

 女神に死を望まれ。

 ――だとすれば、私は何のために戦う? 何のために生きる?

 戦意が消える。

 ルチアは顔面をデーモンに殴られた。 

 

むらさきゆきや『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅳ』。

長々続いていた『千年戦争アイギス』ノベライズも遂に最終巻を迎えました。

前巻までで色々と張り巡らせられていた伏線がこの一冊で回収されると思うといささか短すぎる気がしないでもありませんが、一気に最後まで読み切っていきましょう。 

ちなみに過去三巻の記事はこちらとなっています↓↓↓




 

 

強すぎる王子軍

これまでのあらすじを経て、いきなり始まる本編では王子軍の様子からスタート。

山の町に布陣する白の帝国軍に対し、海辺の街へとやってきた王子軍でしたが、すでに街は壊滅状態。

生き残った人々を発見したかと思いきや、彼らは魔神の化身であり、不意を突かれた王子は魔神の眷属に胸を刺し貫かれてしまいます。

ところが風水師リンネの能力により、王子は無事怪我一つ負わずに済んでしまいました。

その後もデーモンや怪物たちを蹴散らし、海辺の街は白の帝国の領土であるにも関わらず、生き残った住民が見当たらない事に胸を王子たちは痛めます。

そんな彼らの様子に、行動をともにする白の帝国の軍師レオナは自分達との差を突きつけられているようです。

どうやら魔神達は海辺の街を滅ぼし、山の街へと向かったと知った王子達は、白の帝国軍が控える山の町へ加勢へと向かう事を決意。

山の町もまた、白の帝国の領土であるにも関わらず、です。

短いエピソードではありますが、王子軍の強さや、損得勘定抜きで行動する偉大さがまざまざと描かれていきます。

 

 

ダンタリオンとの戦い

一方帝国軍は、3巻では省略されてしまった魔神ダンタリオンとの戦いへ。

ソラーレを想う気持ちで覚醒したフォルテが迎え撃ちますが、ダンタリオンはあまりのも強大な力を持っています。原作プレイヤーにはお馴染みのリーゼロッテや、2巻の主要キャラクター風霊使いハルカなどが駆け付けますが、フォルテは瀕死の重傷を負ってしまいます。

そこへ駆けつけた白の皇帝と、瀕死のフォルテの助力によりダンタリオンの首を落とす事に成功しますが、首だけになったダンタリオンは魔界へと逃げ去るのでした。

 

 

魔界突入

当然ながら、白の皇帝はダンタリオンを追って魔界へと突入しようとします。

しかし、レオラたちに諫められ、兵を再編しなおした上で改めて魔界へと討ち入る事とします。

 

その頃魔界では、大悪魔召喚士ラピスの前に魔神化した白の皇帝の妹リィーリを連れたケラノウスが現れます。

そこへやってきたのは魔界へ逃げ帰ったダンタリオン

魔神は自己再生能力を持つ代わりに他者からの回復魔法を受け付けられないという特異体質を持つのですが、魔神化したリィーリはその魔神を癒す力を持っているのです。

兄である白の皇帝たちが必死に追い詰めたダンタリオンでしたが、無常にもリィーリの力により元の身体を取り戻してしまいます。

 

謎展開

ダンタリオンが全快してしまうという途轍もなく危機的状況なのですが、何故か話はここから謎の展開へと進んでいってしまいます。

魔界へと突入しようとする白の帝国軍ですが、軍師レオナは第一陣を神官戦士ルチアに命じます。

まずは魔界の偵察と橋頭保の確保を目指そうというのです。

ところがルチア達は次々と襲い掛かるデーモンたちに呆気なく蹂躙されてしまいます。

ゲームのプレイヤーにはお馴染みの設定ですが、魔界ではデーモン達は力を増し、人間は逆に瘴気によって弱体化されてしまうのです。

結果、第一陣は奮闘も敢え無く壊滅。

重傷を負ったルチアはラピスによって保護されます。

 

そこへやってくるのがデーモンたちの親玉グレーターデーモン。

彼はルチアを引き渡すよう迫りますが、ラピスは応じません。

こっそりとルチアを逃がすラピスでしたが、それはグレーターデーモンたちに悟られていました。

 

森の中、デーモンたちに追われるルチア。

ルチアを救おうと後を追うラピス。

そしてグレーターデーモンの前には、白の帝国と縁があるという魔神団長メフィストが唐突に現れ、立ちふさがります。

 

メフィストの活躍もあり、無事ルチアを救い出すラピス。

いつしかラピスには、ルチアに対する特別な想いが生まれているのでした。

 

……ってこのくだりなんぞ???

 

全く不必要なエピソードの気がするんですが、気のせいですかねぇ???

 

ちなみにこの間に白の帝国はレオナ自らが率いて第二陣がやってきましたが、デーモン達の熾烈な攻撃と強烈の瘴気を前に退却するシーンがほんの少し描かれています。

 

本来楽しみにしてたのって、そっちの話だったはずなんですけどねえ……。一体どうしてラピスとルチアの話に乗っ取られてしまったんでしょうか。

 

第三陣・白の皇帝出撃

そしてついに白の皇帝が第三陣として魔界へと出撃。

全317ページのところ、231ページにしてついに。

 

ついに!!!

 

いや、遅ぇよ!!!

 

もう残り4分の1しか残ってないじゃん。

 

しかも……しかもですよ。

”使え”と要求された気がした。

握りしめ、薙ぎ払う。

宝剣から光が広がった。

喪やのような瘴気が払われる。

兵たちをむしばんでいた魔界の瘴気が、はっきり薄れるのがわかった。

おお! と兵たちから歓声があがる。

エリアスが目を丸くした。

「陛下、身体が軽くなりました! 呼吸も楽になっています!」

第一陣のルチアや第二陣のレオナたちを苦しめてきた魔界の瘴気は、白の皇帝の持つアダマスの神器によっていとも簡単に効果を打ち消されてしまうのです。

 

いやまぁ、これもゲームのプレイヤーなら理解できるギミックなんですけどね。

 

とはいえあまりにも酷い目に遭ったルチアが不憫すぎるじゃありませんか。部隊は壊滅、自身も死を覚悟するような場面に何度も追い詰められたというのに。

 

しかも、本筋とはほぼ関係のない不要な謎展開の中で。

 

もうルチアが可哀想で可哀想で仕方がないのですが、いざ最終決戦へと突入です。

 

 

最終決戦

まぁ後はお決まりの展開ですね。

再びダンタリオンは白の皇帝と対峙します。

そこへやってきたのが妹リィーリ。

リィーリが魔神化し、さらに相手方へと加担している事に白の皇帝たちは衝撃を隠せません。

 

しかもダンタリオンをどれだけ傷つけようとも、リィーリが回復させてしまう。

ただでさえ強靭な魔神だというのに、都度回復されたのでは勝ち目がありません。

かといってリィーリは皇帝の妹だけに、リィーリから先に始末するというわけにもいきません。

 

狙撃兵ラルフたちがリィーリを取り押さえようとしますが、見た目に反した強大な力に返り討ちにあってしまいます。

自分の部下たちが殺されたのを見てリィーリに向かい攻撃しようとする白の皇帝でしたが、どうしてもリィーリを斬る事はできません。

その隙を突かれ、魔神の一撃を食らってしまいます。

しかし、皇帝が瀕死の重傷を負った事でリィーリが自我を取り戻しました。

 

リィーリによる治癒の力を受けられなくなったダンタリオンに対し、白の皇帝はアダマスの神器の真の力を開放します。

追い詰められたダンタリオンは自ら自分の首を千切り、再び首だけの姿で逃亡しようと企てますが……そこへすかさずリィーリが回復魔法。ダンタリオンの残した身体に新たな首が生え、ダンタリオンは元の身体へと戻ってしまうのでした。

すかさず皇帝はダンタリオンの首ごと一刀両断。

今度こそ魔神ダンタリオンの息の根を止める事に成功します。

 

なお、ダンタリオンが逃亡と援軍用に開けた光からは王子軍の軍師マツリが登場。

援軍のデーモンたちは既に王子軍の手によってほぼ全滅させられたところでした。

 

リィーリは王国へ

リィーリを白の帝国へ連れ帰ろうとする皇帝ですが、リィーリは応じません。

魔神の姿となり、自らの手で兵を殺してしまった以上、もう帝国へは戻れないというのがリィーリの主張です。

 

そんな彼女に、マツリは「王国へ来たら?」と声をかけます。

王子の下には多種多様な種族がいるので、魔神であっても問題ない。

 

リィーリはマツリの提案を受け入れ、王国へと身を寄せる事となります。

 

エピローグ

執務室にいるレオナのところへ、治癒士エリアスがやってきます。

百合エロっぽい風味を醸しつつ二人でリィーリやルチアについて話す二人。

 

そこでまた、唐突に原作ゲームを想起させる会話が。

 

「むしろ、心配は、あの王子だが……」

「むしろ?」

「いや……リィーリ殿下は、白の帝国の皇女だ。さすがの王子も自重するだろう」

「なになに?」

「何も心配は要らない、ということだ」

 

R18版アイギスでは仲間になった女性キャラクターの好感度を上げるとエッチなイベントが楽しめるという設定がありますので、おそらくそれをさして「王子がリィーリにいけないことをするんじゃないか」と懸念しているのでしょう。

 

原作ゲームでは王子は次から次へと部下に手を出す鬼畜王子ですから。

 

ただまぁ……ここまで小説内では「損得勘定抜きに平和のために戦う英雄王」としての側面ばかりが描かれるばかりで、王子のそういった一面は一切ありませんでしたので、今さら感が……。

 

あくまでゲームはゲーム、小説は小説なんですから、王子は小説内の清廉なキャラクターを貫いて良かったと思うんですが。

 

そしてそこへシャルムとハルカ、フォルテという前三巻のキャラクター達が乱入してきて、ドタバタ、わちゃわちゃとラノベらしく騒いで物語は終わりとなります。

 

コレジャナイ感

というわけで『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅳ』、シリーズ四巻を読み終えました。

それにしてもこの四巻目に関してはつくづくコレジャナイ感でいっぱいでした。

 

魔神になったリィーリの話はもちろん、前巻で切ないままとなってしまったソラーレのその後や、再序盤に重要人物っぽく登場して以後はいつのまにか王子軍へ離反し、尻切れトンボのようにいなくなってしまったイザベル等など、もうちょっと掘り下げるべきエピソードは沢山あったはずだったんですが。

 

せめて白の帝国のキーマンであるレオナとレオラの姉妹の過去に踏み込んでみる、とかねぇ。

 

まさか唐突にルチアを苦境に陥れた挙句、これまで無関係かつ白の帝国とはなんの関わりもないラピスとの話が大半を占めるとは。

二巻、三巻と上り調子で盛り上がっていただけに、正直、いただけませんね。

 

ルチアは白の帝国軍とは離れたまま、その消息についても不明のままになってしまいましたし。

おそらくラピスとともにいるのでしょうけど。

 

そういった読者にとって気がかりな面には触れないまま終わってしまった点が沢山あるのはただただ残念です。

 

まぁあとは付録のリィーリちゃんを手に入れて、ゲーム内で白の皇帝と一緒に戦わせてあげましょうか。

なおこちらがゲーム内でのリィーリ。

 

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覚醒させてあげるとこんな感じに変わります。

f:id:s-narry:20201216131830p:plain

さらにR要素を省いたandroidiphone版がこちら

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……個人的意見ですが、やっぱり服は着ていた方が良い気がしますねー。

エロか否かは別として、無駄に裸っぽいのはなんだかなぁ、と。

 

推しはディアナさんです

ここからは完全に蛇足です。

『千年戦争アイギス』というゲームは結構前からプレイしていたのですが、小説版を読もうと思ったのはこちらのキャラクターを遂に手に入れたから。

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白の帝国騎士団長ディアナさん。

このキャラクターが僕の推しでして。

イラストも良ければ性能も良い。とりあえず攻略には必ず連れて行く一番のキャラクターとなっています。

 

このディアナ、力こそ全ての白の帝国において現在の白の皇帝のやり方に不満があり、実際に白の皇帝に一騎打ちを挑んだという経歴の持ち主。

実力的には白の皇帝に次ぐナンバー2と言っても過言ではないのでしょうか。……あ、レアリティブラックのガチャ限定キャラクターなので、ゲーム内の性能としては白の皇帝よりも断然上ですけどね。

そんなエピソードに惹かれて、「そういえば白の帝国の小説あったな! 読んでみよう!」となったわけです。

 

ところがどっこい、ディアナは比較的新しめのキャラクターなので小説にはほとんど登場しないんですよね。

一部名前が出るだけで挿絵もなし。

うーん、残念。

唯一四巻の最後、イラストレーターの七原冬雪さんのあとがきにディアナが描かれていたのが救いでした。

 

『千年戦争アイギス』、エロ要素のないスマホ版も非常に面白いゲームですので、興味のある方はやってみて下さいね。

ゲームシステムに慣れるまで、とある程度ユニットが揃い、育成が進むまではひたすら忍耐力勝負になってしまいますのでいまいち勧めがたいゲームではあるのですが。

数か月かけてじっくり進めていけば、加速度的に攻略スピードは上がっていくはずですよ。

 

以上長くなりましたが 『千年戦争アイギス 白の帝国編』でした。

 

 

 
 
 
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『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅲ』むらさきゆきや

「……と、と、友達に……なって……ください」

むらさきゆきや 『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅲ』。

『千年戦争アイギス』のノベライズもついに三作目に入りました。

実はこの『白の帝国編』以外にも本来の主人公である王子を主人公として書かれた『月下の花嫁』というシリーズも全7巻で刊行されていたりするのですが、そっちはとりあえず放置しています。

 

アイギスといえばやっぱり『白の帝国』ですよ。

 

……なんてユーザーは僕以外にも少なくないとは思うんです。

ちなみに前巻・前々巻の記事はこちらとなっています↓↓↓

 

 

起承転結の転

前四作中の三作目、となれば当然ながら、起承転結でいうと転という位置づけとなります。

そのせいか本作の冒頭は、レオラという初登場のキャラクターから始まります。

研究所へ訪れ、対デーモン用のフォルテ・プロジェクトの実験体を見学するレオラ。

ところが試し斬り用にと用意していたデーモンが、意図せず暴走。

実験体六号は呆気なく粉々にされ、あわや大事故かと思いきや、実験体九号が難なく処理してしまいます。

舌を巻くレオラでしたが、実験体九号には大きな欠陥がある失敗作だと告げられます。

その欠陥とは、感情が欠落しているというもの。

しかしレオラは、引き取りを申し出ます。策士である彼女には、ある考えが浮かんでいたのです。

 

……というのが冒頭の滑り出しなんですが、ここまででおぉっとなりますよね。

皇帝もそれまで出てきたレギュラーメンバーも差し置いて、突然のレオラ初登場。

謎の実験体。

転にふさわしい始まりじゃないですか。

 

さらにこれだけにはとどまらず、本作は前二作とは大きく雰囲気が変わっていきます。

 

封印剣士フォルテと神樹使いソラーレ

もうおわかりかとは思いますが、実験体9号こと封印剣士フォルテこそ、本作 『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅲ』のシリアルナンバーによって提供されるキャラクターとなっています。

 

↓↓↓こちらがゲーム画面上の画像

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なかなか強そうですが頭のリボンが女の子らしく可愛くもあり……ですがちょっと無表情なようにも見えませんか?

 

このフォルテ、一作目のシャルム、二作目のハルカと異なり、「感情が欠落している」という物語の主人公としては非常に扱いにくい性質をしているのです。

 

「えっと、あなたの、お名前は?」

「……フォルテは、今はフォルテと名乗るらしい。軽装歩兵ということになっている」

 

という感じの性格で、簡単に言うと新世紀エヴァンゲリオン綾波レイをオマージュしたような機械的キャラクター。

これまでの例であれば白の皇帝が相手役となって新キャラクターの能力や人間性を紐解いていく流れなのですが、今回は一風変わってフォルテの相手役となるのは神樹使いソラーレという少女。

彼女はまだまだ兵士としては実力も教養も足りないのですが、先日の戦いで大きな損害を被ったことから、補充要因として第十三軍に合流します。

基本的にはソラーレの視点で白の帝国軍の様子やフォルテの人間性の変化、魔神との戦いなどを描いていくというのが本作の大雑把な流れ

なのでこれまでの皇帝中心であった物語とは大きく雰囲気を変えた作品となっています。

 

王子軍登場

ソラーレとフォルテの物語と併行する形で、本作では『千年戦争アイギス』の本来の主人公たる王子たちがついに登場します。

魔神たちの次の襲撃は山側の町、海側の町いずれかになると予想を踏んだ白の帝国では、対策案が講じられます。

本来であれば戦力を二分してそれぞれの警護の当たるのですが、強大な力を持つ魔神相手に戦力を割るのは得策ではない。

その結果として、敵対関係にある隣国の王子に救援を求める事を決断するのです。

応じてもらえれば幸運だし、もし拒否されれば王子を批判して英雄王の威光を削ぐ。

魔神との戦いにより王子軍が消耗すれば、それもまた白の帝国の利となる。

様々な打算を抱きながら、レオラの妹であり、従来の軍師であるレオナは王子の国へと出向き交渉してみますが……王子たちはあっさりと要請を受け入れてしまいました。しかも王子自ら、主力を率いて出陣するというのです。

王子たちのモットーは「困っている人を助けたい」という善意のみが100パーセント。その純粋さに、レオナたちは魅了されずにはいられません。

王子の下で戦う戦士たちの心酔ぶりや実力も確かなもの。

本作の半分はソラーレとフォルテの物語ですが、あとの半分は上記のような、白の帝国との駆け引きを通して王子たちの性質や実力を浮かび上がらせていきます。

 

魔神との戦いへ

そして物語は魔神との戦いへ突入。

多数の死傷者を出し、歴戦の勇者たちが奮戦する中を、未熟なソラーレも懸命に駆けずり回ります。

ついに、彼女も凶悪なアークデーモンと対峙し、手足を切断するという重傷を負ってしまいます。

しかしそれにより遂にフォルテは覚醒。

フォルテが真の力を発揮するために足りなかったのは、この人のために死のうと思えるような存在――つまり愛だったのです。

ソラーレと日々を過ごす中で、ソラーレこそがフォルテにとっての大切な存在となったのでした。

 

未熟なソラーレを軍に引き入れたのは、それを見越したレオラの策略だったのです。

そうと気づいてショックを受けるソラーレでしたが、レオラたちの手により記憶を消されてしまいます。

 

総力を上げて魔神ダンタリオンに立ち向かった結果、あと一歩というところで首だけになったダンタリオンを取り逃がしてしまいますが、魔神たちの襲来を撃退する事に成功した白の帝国軍は、ダンタリオンを追って魔界への侵攻を計画。

ソラーレの病室へとやってきたフォルテは、彼女が記憶を失っている事に気づきます。そして――という物悲しい場面で二人の物語はおしまい。

 

ひたむきで純朴なソラーレの愛らしさや、無垢なフォルテの想いの切なさに胸を打たれてしまいます。

……っていうか、こんな作品だったっけ? と唖然としてしまう程のシリアスな展開に思いがけず涙を誘われてしまいます。

 

女神ケラノウス登場

そして本作最後では白の皇帝の妹リィーリにも魔の手が。

彼女が暮らす隠家に、何者かの指示を受けた山賊たちが襲撃してくるのです。

イザベルに代わりリィーリに仕えていた天馬騎士クラーラは山賊に立ち向かい、瀕死の重傷を負ってしまいます。

それを見たリィーリの隠された力が覚醒。

建物もろとも、山賊たちを木っ端みじんに吹き飛ばしてしまいます。

 

そこへやってきたのが女神ケラノウス。

ケラノウスはゲーム上でもラスボス的な立ち位置のキャラクター。人間達の破滅を願う悪の女神です。

彼女は魔神に覚醒したリィーリを魔界へと連れ去ろうと打診します。

リィーリはクラーラを蘇らせる事を条件に、ケラノウスに従う事に。

そうしてリィーリは、ケラノウスとともに魔界へと旅立ってしまいました。

 

魔界へ乗り込み、魔神ダンタリオンとの最後の決戦へ臨もうとする白の帝国軍。

人知れず魔界へと連れ去られたリィーリ。

そして王子軍はどこまで彼らと行動を共にするのか。

 

四作目の最終巻へ向けて、盛り上がってきたところで本書は終了。to be continued……

 

盛り上がってまいりました

最初に起承転結の転、とは言いましたが、一気に盛り上がった感があります。

だいぶシリアスに次ぐシリアスですし、フォルテとソラーレの関係に至っては若干の百合要素はあったとしてもラノベらしからぬ切ない展開です。

巻を追うごとにエロは激減しますし、魔神との戦いが佳境に入ってきた事で女性キャラクター達も皇帝とのイチャイチャに興じている場合ではなくなってきたようです。

一巻こそ「エロゲのノベライズ」的なノリで始まりましたが、段々と骨太のライトノベルへと変貌を遂げています。

 

驚くべきはむらさきゆきやという作家さんの技量ですね。

ユーザーをうならせるようなゲームと小説とのリンクについてはちょくちょく触れて来ましたが、小説を読む事でゲームの世界観にもより広がりが感じられるようになるのはさすがです。

ちょい役の名前だけ登場するようなキャラクターも多いですが、活き活きと活躍する場面も多いのでほとんど使用したことのないようなキャラにも愛着が持てますし。

特にソラーレなんて原作ゲーム上のレアリティを考えれば破格とも言える主人公扱いですからね。アイギスは鉄・銅・銀・金・青・白銀・黒という順番にレアリティが上がっていくのですが、ソラーレのレアリティは銀。ガチャから出る一番下のレアリティ。

平たく言うとハズレ。ほとんどのユーザーが実戦投入する事のないユニットと言えるでしょう。

 

にも関わらず、本書を読めばフォルテと一緒に使ってあげたい気持ちになるのは間違いありません。

どちらも白銀や黒の今日ユニットと比べると戦力としてはかなり劣るので、高難易度では足手まといにしかならないかもしれませんが。

 

それでも仲良く戦わせてあげたいですよね。

 

ただし……。

 

絶版です

本書 『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅲ』はシリーズ四作の中でも唯一絶版となっています。

アマゾンどころかKADOKAWAの公式でも品切れ。

それもこれも、付録である封印剣士フォルテを目当てとしたゲームユーザーによるものでしょう。

 

作者であるむらさきゆきや氏が「魔神15でも使えるキャラに」と要望したのを受け、フォルテには「出撃メンバーにいるだけで妖怪、デーモンのHPを5%、防御力を10%減少させる」という非常に優秀なアビリティが搭載されているのです。

「出撃メンバーにいるだけで」というのがミソで、こういった付録ユニットというのはガチャ産ユニットに比べると大きく性能で見劣りし、高難易度のクエストでは使い物にならないというのが正直なところです。

しかしながらフォルテの場合には出撃メンバーとして編成に入れておくだけで、敵のHPや防御を大きく減少させてくれるわけですから非常に優秀。

小説読めば、彼女に対する愛着も出るでしょうしね。

実際、なかなか可愛らしいキャラクターですし。

 

なので三巻だけが妙に売れてしまったのか、もう手に入らないのです。

僕も仕方なく古本で購入して読んだ次第です。

残念だなぁ。

 

 

時々Amazonなどで入荷する事もあるようなので、万が一見つけた際には迷わず購入するしかないですね。

 

 

 
 
 
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『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅱ』むらさきゆきや

予測ではありますが……と前置きし、バルツァーが重い声で言う。

「魔神降臨」

俺は思わず玉座から立ち上がっていた。

さて、前回に引き続き、むらさきゆきや『千年戦争アイギス 白の帝国編Ⅱ』のご紹介です。

前回は『白の帝国編』一作目とあってそもそもの「白の帝国はなんぞや?」「白の皇帝とは誰ぞ?」的な言わば基本情報が多かったのですが、二作目となる本作からは一気に物語が加速していく感があります。

 

というのも冒頭の通り、「魔神」という最大の敵が登場してくるからです。

 

 

魔神とは?

この「魔神」、ゲームである『千年戦争アイギス』の中においても高難易度クエストとして実装されているコンテンツとなります。

さまざまな特徴や能力を持った非常に強敵である魔神のマップが1から16までの難易度で用意され、レベル16になるとガチャ限定の強キャラクターを揃えて育成して並べて、それでも編成や戦略を駆使しなければなかなかクリアできないというエンドコンテンツ。

 

僕はまだまだビギナーなのでせいぜいレベル10ぐらいまでクリアできればいいかなー、という状況だったりします。

 

つまるところがゲーム内においても最強の敵キャラとして君臨するのが魔神達なのです。

その魔神が白の帝国に襲い掛かる……これは既存プレイヤーであれば興奮を隠せない展開なのではないでしょうか。 

 

 

脳筋帝国部隊

魔神への備えとして、白の皇帝は討伐部隊の編制を指示します。

ところがここで問題となるのが、

 

「ふむ……悪くないが、魔法が足りない」

 

という点。

 

これ、意外と原作ゲームプレイ者にとってはツボなんですよね

 

『千年戦争アイギス』の攻撃や防御には「物理」と「魔法」の二種類があるのですが、実際に白の帝国に属するキャラクター達は極端に物理に偏っているんです。なので物理に強い耐性を持つ悪魔系の敵とはあまり相性がよろしくない。

 

……なーんていう誰しもが抱いていたプレイ上のもやもやを小説の設定に落とし込むって、驚くのを通り越して感嘆させられてしまうのです。

 

そこで皇帝たちは優秀な人材を探すために士官学校へ出向くわけですが、そこで重装砲兵エルミラからなされる説明がこれまたよく出来ていて、

 

「魔法の研究もしているのか」

「はい。でも魔法の場合、血の滲むような研鑽を積んで、やっと”才能がない”と判明することも珍しくないのです。あれは努力よりも素質です。血筋と天賦の才です」

「なるほど」

「白の帝国は安定的な兵士の育成のため、鉄砲を中心に教えています。訓練すればだれでも使えるようになりますから」

 

……もう完璧です。これ以上ないぐらいの満点回答。

 

「帝国ってなんでこんなに魔法キャラ少ないんだよっ!」という常日頃から不満を抱くユーザーも納得の説明です。とっても合理的。

 

ゲーム未プレイの人にとってはピンと来ないかもしれませんが、こういうゲーム上の設定やプレイ上の疑問などを小説で回収してくれるのって、ユーザーにとっては本当に嬉しい事だと思います。

 

そうして皇帝たちは士官学校内を散策して歩くのですが、そこで出会うのが一人の訓練士ハルカなのです。

 

 

帝国風霊使い

ハルカは「私に関わった人は、みんな大怪我してしまうんです」という変わった女の子。

しかし経緯を聞いた皇帝は、ハルカに秘められた能力を察知します。

そして実際に事件が起きた時と同じように、ハルカの身に危険が迫るような状況に追い詰めてみると……彼女の頭上に風霊が現れたのでした。

風霊は離れた距離からでも相手を傷つける強力な魔力を宿した精霊です。

自らの身を傷つけながらもハルカの能力を目覚めさせた皇帝たちは、いよいよ現れた魔神達との戦いに入ります。

 

……とまぁ、前回の記事を読んだ方ならばおわかりでしょうが、本作のシリアルコードによって入手できるキャラクターこそ、この『帝国風霊使いハルカ』なのです。

前作では『炎の竜皇女シャルム』がヒロイン役として活躍したのと同様、本書は白の皇帝とともにハルカを中心に物語が展開していきます。

その代わりに、本作以降は極端にシャルムの出番が減っていて、前作でシャルムファンになった読者からは不評を買うという側面もあるようですが。

 

なお、余談ですがゲーム中においてハルカはエレメンタラーという精霊トークンを配置できるキャラクターで、『千年戦争アイギス』の中ではエレメンタラーという職種自体が壊れとして認識されています。

他の職種・キャラクターに比べて段違いに優れた性能を持っている、という意味ですね。

 

その最上位クラスである光霊使いルフレに至っては十指に入るぶっ壊れキャラ。たった一人で高難易度クエストを攻略できてしまったりと、とんでもない性能を誇っています。基本的に精霊使い・エレメンタラーにハズレ無しというのがゲームユーザーの共通認識。

なので付録キャラクターの中でも『帝国風霊使いハルカ』はおススメに挙がるケースも少なくないようですね。

 

皇帝と魔神ダンタリオン、妹リィーリとの因縁

本作では謎の妹リィーリの出生に隠された謎や、魔神との因縁が明らかになります。

一たび魔神が降臨すれば滅亡は免れないと言われる恐ろしい存在ですが、白の皇帝は過去に一度、魔神と戦った経験があるのです。

その相手というのが魔神ダンタリオン

ダンタリオンは白の皇帝の父親を殺し、さらに母親を強姦して妊娠させました。

その結果、生まれてきたのが妹リィーリ。

リィーリは白の皇帝との父親違いの妹であり、その父親こそが魔神ダンタリオンだったのです。

 

魔界とつながる空の光へと向かう白の帝国の飛空艇に、悪魔たちが襲い掛かります。

果たしてそれを率いるのは因縁の相手である魔神ダンタリオンでした。

まだ風霊を上手く操る事のできないハルカは仲間たちが傷つく様を目の当たりにし、覚醒。

風霊により強力なデーモンたちを倒したかに思いましたが……ダンタリオンには及びません。

魔神とは想像を遥かに超える恐ろしい敵でした。

しかし女神アダマスの神器を手にした白の皇帝は、目の前のダンタリオンが偽物である事を見破り、見事討ち果たします。

 

一旦は魔物たちを撃退する白の帝国の一団でしたが、空にはまだ魔界へと通じる光の空いた穴が空いたままです。

苦しい戦いでしたが、まだ序盤にしか過ぎないと思い知らされたところで次巻への持越しとなります。

 

前作からの変化

先の記事にも書いた通り、『白の帝国編』の一作目はハーレム、エロ要素満載で、いかにも「エロゲをノベライズしました」といった雰囲気だったんですが、二作目に入り大きく作風が転換したように感じられます。

 

魔神ダンタリオンという本来の敵が見えてきた事で物語に芯が生まれましたし、皇帝やリィーリの過去の繋がりも非常によく考え込まれたものです。

 

エロも若干はありますが、一作目に比べると大きく減ったように感じられます。

やたらと出てくる人物が総じて「皇帝大好き」なハーレム状態も控え目に。

その代わり、周囲のキャラクター同士の繋がりや絆についての描写が増え、一気に人間味が出てきました。

 

いや本当に、ゲームのノベライズとしては文句なしのクオリティなのではないでしょうか。

普通にこの先のダンタリオンとの戦いや妹リィーリの行く末なども気になるところです。

最終巻となる四作目にはリィーリ本人が仲間になるシリアルコード付ですし、ちゃっちゃと読み進めてみるしかないですね。

 

マニアック過ぎる記事ですが、もうしばしお付き合いを。

 

 

 
 
 
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『千年戦争アイギス 白の帝国編』むらさきゆきや

 「我は、幸福だ」

 

 今回もライトノベルです。

 しかも今回からはDMMから提供されているブラウザ・アプリ用タワーディフェンスゲーム『千年戦争アイギス』のノベライズ版。

 非常に読む人が限られそうな記事になりそうですが、読書ブログって一発のバズりよりも細く長くアクセスが積み上っていくロングテールの方が独自性があって面白いのかなぁと思いますので、とりあえず書く事にします。

 

 そのための前提条件として、まずは『千年戦争アイギス』のご紹介。

 


 上記が大元のゲームでして、押し寄せる敵に対し様々な能力を持ったユニットを配置し、撃退するというタワーディフェンス型のゲームとなっています。

 以前書いた『御城プロジェクト:Re』とよく似た……というか、運営元も同じDMMから提供される姉妹のようなゲームです。

 

 

 ただし、アイギスの歴史は『城プロ』に比べるとさらに古く、つい先日七周年イベントが開催されるという長寿ゲームとなっています。

 ブラウザゲームで七年って、かなり長い方ですよね。

 さらに『城プロ』とは違う点がもう一つ。

 『千年戦争アイギス』に関してはR18版が存在するアダルトゲームだったりもします。

 好感度を上げると女の子とイヤらしい事ができたりするんですね。

 もちろんDMMのアプリ版やブラウザ版に限っての話であり、applegoogleといったスマホ版に関してはエロはなしなんですけど。

 

 この点が『千年戦争アイギス』の良い点でもあり、悪い点でもあります。

 国産タワーディフェンスゲームの代名詞と呼べる存在でありながら、エロゲーとして忌避されてしまう悲しみ。

 意外と面白いゲームなんだけどなぁ。

 ちなみに僕もプレイはもっぱらスマホ版ばかり。

 なのでエロシーンは全てカット。その分キャラのエピソードが掘り下げられていたりして、エロ抜きの方が世界観がわかりやすかったりしますし。

 

 話を小説の方に戻すと、『白の帝国』というのは、実はゲームの主人公とはライバルにあたる立場だったりします。主人公は「亡国の王子」「英雄王の子孫」と呼ばれる人物であり、そこに集まる仲間たちなんですが、白の帝国は基本的には敵国。当初は互いに争う間柄でした。

 ゲーム上ではやがて悪魔や天使といった共通の敵を倒すための共闘関係に入り、帝国のキャラクターも仲間として入手できたり、帝国キャラクターのみでのパーティを編成したりする事もできたりします。

 むしろ「帝国編成」「帝国縛り」と呼ばれる言葉が出る程、ユーザーの中では人気を集める集団なのです。

 

 そんな『白の帝国』のボスである白の皇帝を主人公として描かれたのが、本作『千年戦争アイギス 白の帝国編』シリーズなのです。

 

 

白の皇帝のバックストーリー

 物語はとある滅びた国の天馬騎士団団長イザベルから始まります。

 危機に陥ったところ、白い鎧の一団をそれを指揮する大剣の騎士に救われ、帝国へと誘われる。

 彼らこそが『白の帝国』の一団であり、騎士こそが白の皇帝です。

 

 現在の皇帝は第十三代目。

 国是として”力こそ全て”をかかげる『白の帝国』の帝位は、強い者に受け継がれます。

 皇帝も元々はただの流浪の傭兵でしたが、前皇帝に拾われ、戦いの中で頭角を現していきました。

そんなある日、前皇帝は事もあろうか配下であるゾーグの謀叛により暗殺されてしまい ます。

 ゾーグは自ら皇帝を名乗り、一時は周囲もそれを認めるようにも見えましたが、現在の『白の皇帝』がゾーグを討った事により、なし崩し的に『白の皇帝』は皇帝の座へと着いてしまいました。

 

 ……こういうゲームにはなかった話が語られるあたり、ファンとしてはなかなか楽しいです。

 

 イザベルは『白の帝国』に合流し、皇帝から一人の女性のお側役を命じられる事に。

 彼女は皇帝の妹リィーリ。

皇帝とは父親違いの兄妹であり、周囲にもひた隠しにする存在なのです。

 

リィーリをイザベルに任せ、白の皇帝は領内の村を襲うという古代炎竜の征伐へと旅立ちます。

そこへ現れたのが、竜とは思えない可愛らしい少女シャルムでした。

 

炎の竜皇シャルム

「ふっふっふっ……我こそは古代炎竜のシャルム! おそれおおくも、この空と大地の支配者であるぞ!」

 つっよいんだぞう! とシャルムと名乗った女の子が薄い胸を張った。

 俺は肩をすくめる。

  ……とまぁこういう感じで、どう見たってそんな風には見えない女の子が古代炎竜とかいう強大な生き物で、尊大ぶる割に子どもっぽい愛らしさが隠せないというラノベらしいキャラクター造形だったりします。

 襲ってきた赤竜を一太刀で仕留めた皇帝の実力を称賛し、返す言葉で

「あたし、決めた! あんたを旦那にするね!」

 と言い出すというまさにラノベ展開(

 

 このシャルムが一応、本書におけるヒロイン役という事になるのでしょう。

 というのも本書にはゲームで使えるシリアルナンバーというものが付録でついておりまして、それにより手に入るキャラクターというのがこのシャルムなのです。

 小説版でたっぷりシャルムのキャラクターとお話を楽しんだ後は、実際のゲームでもシャルムを使えるよ、という趣向。

 そんなわけで本書では皇帝とシャルムを軸に話が展開していきます。

 

 

異世界ハーレム

 ところが実は、白の皇帝に言い寄る女性はシャルムだけではありません。

 冒頭に登場したイザベルは皇帝の一挙手一投足に過剰に反応してドキドキしまくり、軍師であるレオナも皇帝への恋慕を隠せません。天真爛漫に皇帝にじゃれ付くシャルムの行動に、周囲の女性陣の方がやきもきしたりします。

 これぞラノベ用語でいうハーレムもの、という展開ですね。

 

 一方で皇帝はというと、それぞれの気持ちを知ってか知らずか、あまり興味を示そうとはしません。

 

 その他、女性同士ではありますがちょっとした微エロシーンもあったり。

 この『白の帝国編』、全四巻と続くのですがこの最初の一巻だけやたらとハーレム・エロ展開が強いんですよね。

 

 ラノベだから、なのか元がR18要素もあるゲームだから、なのか知りませんが、二巻・三巻と続くに連れて少しずつそういった要素が減っていくのは、やはりちょっとやり過ぎ観があったのかもしれません。

 

意外とまともなストーリー

 ここまで書いたところだと「ゲームを元にしたしょうもないノベライズ」感が否めないと思うのですが、意外にもストーリー自体はなかなかにまともだったりします。

 本書の最大の敵である古代炎竜はシャルムの父親なのですが、シャルムの父と母の出会いや出生の秘密、後に起こった悲劇などなど、小説としてはしっかり読み応えのある内容に仕上がっています。

 娘でありながら、シャルムが皇帝に父親を討つよう求める理由などは、なかなか考えられていると言えるのではないでしょうか。

 また、白の帝国内の文官と武官のぎくしゃくした間柄など、組織的ないざこざも上手く描かれています。どうも一枚岩ではないな、内部からいつ造反者が生まれてもおかしくはないな、という緊張感が物語に厚みを持たせてくれます。

 

 エロやハーレムなど読んでいて鼻白む部分も少なくないのですが、意外や意外、全体としては本当によくまとまっている印象です。むしろよくこれらの要素を一つにまとめあげたな、と感嘆してしまいます。お陰で最後まで楽しく読んでしまいました。

 

 もちろん普段から文学や歴史小説のような硬めの作品を読んでいる方にはオススメしませんけどね。ゲームのファンの方が世界観を楽しむために手にしたり、シリアルコードのキャラクター目当てに購入する分には十分すぎる仕上がりなのではないでしょうか?

 正直ゲームのノベライズってちょっと残念な作品が多いですからね。

 その昔読んだ『小説ドラゴンクエスト』は未だに胸に残るバイブルだったりしますけど。

 

 本作もあと三作、続きます。

 『千年戦争アイギス』ファンの方は、もう少しだけお付き合いください。

 

 

 
 
 
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