「人間、よくなるよりも悪くなるほうがらくだもんなあ」
「あんたもあいまいにおかしいんだよ」
森絵都という作家は、うまい。
それが僕の印象。
童話作家出身だけあって難解な言葉や言い回しを使わず、とっても読みやすく優しい文章。それなのに頭に浮かぶイメージはとても鮮烈。どうしてこんな文章が書けるんだろうと不思議になる。
本作では中学二年生のさくらが主人公。
思春期特有の気怠さを漂わせるさくらの周りには、アパートの一室で地球を救う宇宙船を開発する智さんやストーカーまがいの勝田君、売春疑惑の旧友等、個性あふれる人々がいっぱい。
でもみんな、どこかで傷ついてる。
いつの間にか歯車が狂い、波で砂がさらわれるように亀裂が広がり、少しずつ壊れ始める人々の中を、さくらはもがくように漂い続ける。
明確に生と死を掲げているわけではないのに、作品全体に横たわるテーマは「生きることと死ぬこと」だ。
何が正解で、何が間違いか。
どうすれば苦しくて、どうすれば楽なのか。
誰もが経験したはずの思春期の泡のような葛藤を優しいタッチで描き出す森絵都はやはりすごい。
決して衝撃的な話題作にはなりえないかもしれません。
しかし、じんと胸に染み入るような良作でした。