本の宣伝です。本が売れない期間を長く経験しましたから、とにかく顔を売ってから本を売る、というチャンスを逃したくないと思ってしまうんでしょうね。
『スクラップ・アンド・ビルド』に続き二冊目の羽田圭介作品『成功者K』です。
2017年3月発行という事で既に発売から一年が経っていますが、細々と目にする気がしています。
ちなみに『スクラップ・アンド・ビルド』の際に書いた、“なんだかぎくしゃくした旅番組”に出ていた際にも、この『成功者K』が印刷されたTシャツを着ていました。
すっごく微妙ですけどね……。
成功者K=羽田圭介?
本作品はある意味ではかなり衝撃的です。
成功者Kは売れない小説家だったものの、芥川賞の受賞を機にテレビに出演するようになり、帽子とマスクなしでは街を歩けないほどの知名度と金を手に入れます。
それだけに飽き足らず、自らに好意を寄せるファンに手を出し、さらには10年来の友人や仕事上で出会った相手にまで、次から次へと欲望のままに手を掛けます。『スクラップ・アンド・ビルド』を思い起こさせられますが、とにかく“性”の描写が多い。
いや、そのまま“性交”と書かれている文字が多い。
自分を取り上げてくれるメディアにも出演費を吊り上げ、仕事をえり好みし、旧来の仕事相手には軽んじるような言動を見せたりもします。若い女優の彼女を作り、業界人のパーティに参加したり。
成功者Kは、とても的確に一般的に想像されうる「テレビ成金」が出来上がる様を描いているように感じられます。
ただ問題となるのは、果たして成功者K=羽田圭介なのかどうか、という点です。
あまりの赤裸々な語りぶりに、読んでいる側としては「女弟子の布団に顔を埋めてもだえ苦しむ田山花袋」や「姪に手を出し孕ませた挙句に海外に逃亡する島崎藤村」を想像するのと同じぐらいの複雑な気持ちを抱かざるを得ません。
成功≒性交
あまりにも性描写が多すぎるので、「これって成功と性交をかけてるよな」と思ったりしたのですが、よくよく調べてみたら作者が「そうだ」って明言してますね。残念。
表には隠された意図に気づいたりするのも読書の醍醐味だと思うのですが、こう謎解きされてみるとなんだかちょっと興ざめしてしまいます。
成功者K=作者なのかという問題についても、“成功者の虚像”とはっきり言い切っています。
でも全てが全て虚像ではなく、実際に作者の経験をそのまま投影している点も多いようなので、虚実混交が正解なのでしょうね。
本当の顔
個人的に一番気になったのは上のフレーズです。
テレビ局から密着取材を受ける成功者Kに対し、取材者が繰り返し述べる言葉。
どんなにカメラを回し、どんなに密着を続けても、「Kさんの本当の顔が見えない」と困り続けるのです。
それに対し、成功者Kもまた「本当の顔ってなんのことだろう?」と疑問を抱きます。Kにとってはカメラが向けられたからといって別に構えているつもりはないし、演じているつもりもない。女性関係を疑われているのかと疑心暗鬼になるKでしたが、どうやらそうでもないとわかると、K自身がわからなくなる。
自分から見た、他人から見た「本当の顔」。
これについて、本書の中では明確に答えは書かれていません。
多分、答えは出せないものでしょう。羽田圭介ばかりではなく、他のどんな人間にとっても。
そんな「本当の顔」を巡る葛藤も本書のひとつの見所と思っていただけたら楽しめるかと思います。
賛否両論のオチ
賛否両論とは書きましたが。
実際には“否”の方が多いでしょうね。
突然謎掛けを出され、宙ぶらりんのまま放り投げられる感覚。
答えのヒントについては上のインタビューに書かれていますので、読んでみて下さい。
まぁ、後から説明しないとわからないような物語も今時どうなのかと思ってしまいますが……しっかりと明確な答えを出すばかりが小説ではないですからね。これも一つの物語の形なのでしょう。
それにしても羽田圭介……やっぱりちょっと評価しがたいですね。
もうちょっと他の作品も読んでゆっくり考えてみることにします。