私の代で、こんな、こんな……もしあの宿がこのまま潰れてしまうようなことがあれば……
先日読んだ『2代目はどこで失敗するか』の時にも書きましたが、最近はちょっと“事業承継”や中小零細企業に向けた“事業再生”的なものに興味を持って色々と勉強したりしています。
本書『会社再生ガール』についても、そんな中覗いた古本屋でたまたま見つけて、購入してしまった本です。
「再生の伝道師」と呼ばれる若き経営者が立ち上げたコンサルタント会社に勤務する若い女性が、老舗旅館を倒産の危機から救おうという小説仕立てのビジネス書です。
小説仕立て?ビジネス書?
簡単に言うと失敗作ですね。
先に小説仕立てのビジネス書と書きましたが、巷に溢れる同種の失敗作と同じです。
小説としては薄く、ビジネス書としては浅い。
そもそも小説だからとはいえ、全体的な設定が現実離れし過ぎているのです。
主人公が社長命令によって銀座の高級クラブで働いていたり、次から次へと漫画でもありえないような設定が出てきます。
そんな中で現実世界に沿った再生スキームを持ち出されても、しっくり来ませんよね。
会社再生について触れられている一例を下記に挙げますが――
DESとは、債務を株式に交換することです。収益と比較して債務が過剰となっている会社に対して実施される再生手法の一つなんです。DESを実施した場合の債務者(会社)のメリットは、有利子負債を削減することで金利負担がなくなり、同時に弁済義務がなくなることから財務内容の改善が図れるんです。一方で、債権者にとっては、貸倒引当金を設定してある債権であれば、株式を保有することで資金回収の可能性も残されている。単に債権放棄を行うよりも将来の点で収益期待が持てるってことなんです。
いかがでしょう?
すんなり頭に入ってきますか?
まるで教科書を抜き出したような文章ですよね
でも残念ながら会社再生に関わる内容については一事が万事こんな感じです。
読者に理解してもらおう、学んでもらおうというビジネス書としての役割を放棄してしまっている、と言っても過言ではないと言えます。
小説なので一応絵に描いたような敵対勢力が登場し、事ある度に窮地に陥るですが、突破の方法も「とある業界の有力者が登場人物の知り合いの知り合いで」という典型的なご都合主義。
主人公にせよ旅館経営者にせよ、実力と努力で窮地を乗り切ったという達成感は全く感じられません。
その割に主人公が「私は絶対に負けない」と決意を新たにするようなシーンが何度も繰り返されたり。
なんだかもう書くのも面倒なのでこの辺で切り上げてしまいますが←
とにかく小説としてもビジネス書としても薄味の本でした。
著者自身が「再生の伝道師」
著者である田中伸治氏はT&Tファイナンシャルグループ株式会社の代表取締役社長です。
大手自動車関連メーカー、新興上場会社を経て、環境系ベンチャー企業にCFOとして入社。しかし1年後、会社は新規事業に失敗。多額の責務を抱え、資金繰りに行き詰まり法的再建を決断。わずか1ヶ月でスポンサー企業を探し、民事再生法を申請。上場企業への事業譲渡を成功させ、この時期では珍しいプレパッケージ型民事再生を実現する。
しかし、この時に再生できたのは「事業」のみ。オーナー経営者は膨大な債務を抱えて病に倒れる。真の意味で経営者の力になれなかったことを悔やみ、債務に苦しむ経営者を救いたいと、コンサルタントに転身することを決意(以下略)
上記は著者紹介からの引用ですが……ええと
こっちの方が面白そう(笑)
じゃないですか?
変に小説仕立てなんて気取らずに、真正面から当時の失敗や苦しみを書いて欲しいものですね。
実はあとがきに著者自身から「続編をご希望される方は、お気軽にご連絡下さい。」とメールアドレスまで書かれているにも関わらず、特に続編の話は出ていないようですし。
まぁ、売れなかったんでしょうね。