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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『炎の経営者』高杉良

しばしば「私は損をしてでもこの仕事はやります」というふうな表現をする人の話を聞くが、損を続けて事業が成り立つわけのものでなく、現在損をしていても、将来その欠損を補って大きく利潤をもたらす目標があってこそ事業が成り立つことは、いまさら私が言わなくとも当然のことである。

経済小説の大家、高杉良の『炎の経営者』を読みました。

 

過去にもたびたびブログ記事にしていますが、僕は同じく経済小説の旗手である城山三郎作品が好きです。


それから海老沢泰久さんも好きですね。

記事として書いたのは上記の『F1地上の夢』だけですが、辻調理師専門学校の創業者である辻静雄について描かれた『美味礼賛』はこれまでの人生の中で何度も繰り返し読み返したバイブルでもあります。

 

高杉良に関しては、以前に取り上げたのはワタミグループの創業者渡邉美樹について書かれた『青年社長』。

今でこそブ○ック○業のイメージの強いワタミですが、野心と情熱を持って飲食経営に打ち込む渡邉美樹が重ねてきた苦労や失敗も包み欠かさず書かれているとあって、非常に興味深く、さらにワタミに対するイメージも少なからず変えられる良書でした。

残念ながら城山三郎海老沢泰久も既にこの世の人ではなくなってしまっていますので、今も尚新たに執筆活動を続けれられている高杉良は他に代えがたい存在でもあります。

 

日本石油化学のパイオニア

本書の主人公は八谷泰造。

大阪の小さな町工場から始まり、世界的な石油化学工業『日本触媒』を築き上げた伝説の経営者です。

 

戦前戦中から始まる本書の日本はまだまだ世界から技術的に遅れをとっており、産業技術といえば欧米各国から技術を教わるような時代。

そんな中で八谷は石油化学という分野に希望を見出し、国産の独自技術にこだわって事業を展開していきます。

 

知り合いの知り合い、といったレベルの大企業の経営者を電車の中で待ち伏せて資金提供を直談判してみたり、旧満州鉄道の技術者を大量採用したりと、金に糸目をつけず、なりふり構わずといった風情で技術開発と事業の拡大に勤め、三井・住友・三菱といった旧財閥系の企業と比較されたり、小さな会社が国産技術にこだわるのは無謀だと揶揄されたりしながらも、着実に実績と成果を重ねて成功していきます。

 

世界の中でもトップクラスに位置する現在の石油化学工業の黎明期がこうして築かれていったと知るのにも適しているかもしれません。

 

途中工場で死亡事故が起きたりといった失敗もありますが、基本的には全てがあまりにも純情にうまく行きすぎて、読んでいる側としては社歴年表を文章化して読まされているような味気無さすら感じてしまうところが玉にキズ、でしょうか。

 

昔剛腕・今老害

八谷泰造という人物は昭和の日本男児をそのまま絵に描いたような人物。

一心不乱に仕事に打ち込み、部下や取引先とも豪快に渡り合いながら、麻雀やゴルフに誘い出したり、ある時は従業員の宿舎に押しかけてみたりと快活な日本男児です。

 

一方で娘たちには一階の自分たちの寝室をふすま一枚隔てた部屋しか許さず、何かと言えば小言で縛り付ける頑固親父の姿もまま見られます。長男が第一志望に再チャレンジするための浪人を申し出ても、許さん、こっちの大学に行けの一点張り。

糖尿病を発病しても食事制限は在宅時のみ。

会食やイベントとなれば病気の事などいざ知らず、好き勝手に食い、制限されているはずのアルコールも飲みます。

 

身を案じた妻が自宅からウイスキーを隠そうものなら探し出し、返せ返さぬの押し問答。

 

病はやがて入院を勧められるほどに悪化しますが、社長の身ではそれもままならないとして断り続けます。

糖尿病の悪化が影響してか、時折繰り返される心臓発作。身辺に看護師をつけ、薬剤や注射を処方して乗り越えていきますが、ほんの少しの距離の歩行すら困難になるほどに体は病に蝕まれていってしまいます。

 

それでも入院しようとはしません。

家族が止めようが部下が止めようが、社内外の行事に出席し続けようとします。

 

予想通り、最後は自身の机に座ったまま心不全に襲われ、呆気なくこの世を去ってしまいます。

 

炎の経営者と言えば聞こえは良いですが、八谷泰造を現在に蘇らせたとしたら“老害”と呼ばれるのは間違いありません。

一方で、命を惜しむことなく、ただただ石油化学の発展に尽力し続けた姿は幕末の維新志士たちの姿と重なるものがあります。

 

今の日本があるのは、彼らのような日本男児の無謀とも言える生き様のお陰かもしれませんね。

 

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#炎の経営者 #高杉良 読了#城山三郎 にも似た #経済小説 #ノンフィクション 作品。主人公は日本触媒の創業者である八谷泰造。名だたる大企業が欧米諸国の技術に頼り切る中で、小さな町工場から国産にこだわり石油化学工業を発展させてきた伝説の経営者です。戦前〜戦後の伝説的人物だけあって人生を仕事に捧げ、病に侵されようとも身体を労ろうともせず、禁止されているアルコールを摂取し続けて最終的には社長室のデスクで亡くなるという破天荒ぶり。妻や子ども達にも従順さを押しつけ、最後まで妥協しない暴君ぶりを見せつけます。現代日本では老害扱いは間違いありませんが、命を惜しむことなく情熱に尽力し続けるその姿は幕末の維新志士に通じるものがあるようにも感じられます。今の日本は彼のような古き良き(悪き?)日本男児によって作られてきたのだと改めて思わされました。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。