人生は一本道じゃない。曲がり角ばかりの迷路だ。タクシードライバーらしい比喩を使えば、そういうことなのだ。
『海の見える理髪店』で第155回直木賞(平成28年/2016年上半期)を受賞した荻原浩。
その時にも書きましたが、僕は荻原浩が苦手です。
ところが、『海の見える理髪店』がなかなか良かったんですよね。
なので本書『あの日にドライブ』に再度チャレンジしてみました。
銀行員からタクシードライバーへの転進
主人公は元銀行員。
理不尽な銀行員としての生活に耐え続けてきたのですが、ある時ついに我慢の限界を迎えてしまいます。
退職後は条件に拘りすぎて再就職もままならず、とりあえずのつなぎとしてタクシードライバーをやってみる事に。
タクシードライバーをあくまで仮の姿を自認している主人公だけに、当然のことながら仕事はうまくいきません。ドライバー仲間も一癖も二癖もあるいかにも人生の負け犬といったおじさんばかり。
家で帰っても妻は冷たく、娘や息子からは蔑まれるばかり。
現実から目を背けるように、主人公は「もし銀行員を続けていたら」「学生時代の彼女と今でも続いていたら」と白昼夢を夢想し続けます。
ただそれが……クドい。
半分近くが妄想
主人公はことあるたびに妄想の世界へと飛んでいってしまいます。
タクシーに乗せた紳士がどこかの大企業の社長で自分の能力を見出してくれたら……妻が昔付き合った彼女だったら……といった具合です。
その度に物語は足踏みを余儀なくされますので、読んでいてどうにもストレスになってしまいました。
基本的に主人公は「過去の自分にしがみつき」「現在の自分から目を背け」「周囲を見下し」といった感じなので、ユーモラスな文章にごまかされてしまいますが物語そのものが負の塊です。
中年男がウダウダ言ってる、と言えばわかりやすいでしょうか。
もちろん途中から現実を見据え、前向きに進み始める辺りが見所になってくるんですけどね。
それにしてもいちいちしょうもない妄想するな、と突っ込みたくなってしまいます。
今を大切に生きよう
でもちゃんと文学はしてるーなんて思ったり。
途中から主人公は現実を直視し始めます。
どうしたら客が掴まえられるか工夫したり、もし他の相手と結婚していたらとハズレくじを引いた気分なのは妻も同じなんじゃないかと思いなおしたり。大学時代の彼女に見せていた執着もあっさり振り切ってしまったりします。
立ち直りの物語、なんですよね。
その代わり、劇的な展開はありません。
シニカルに、コミカルに中年男の苦悩と哀愁を描いた作品と言えると思います。色々と非現実的過ぎるところもあるけれど、ある部分では妙にリアルだったり。
なのでこれが好きだという人の気持ちもわからないでもないんです。
ただやっぱり個人的には……う~ん、苦手かな。