……の瞬間、松永トシオの命は消えた。おそらく即死だった。そして、最後に見たのはアキヒロの顔だった。
三年前、交通事故で視力を失いたった一人で暮らすミチルの家に、殺人の容疑で追われるアキヒロが忍び込む。
じっと息を潜めるアキヒロと、徐々に異変に気付き始めるミチル。
なんて設定でしょう。
本書『暗いところで待ち合わせ』はInstagramのフォロワーさんからおススメいただいた本でした。
以前何度か書いた通り、『GOTH』を読んで以来、僕の中であまり乙一という作家が好きになれず……ところが別名義とは知らずに中田栄一の『百瀬、こっちを向いて』を読んで評価が一変。
『夏と花火と私の死体』で乙一肯定派になってしまいました。
その時にフォロワーの @ayapon.-.ry さんと @sakachan00123to5138ran さんにご紹介いただいたのです。
すぐさま購入に走ったのですが、後回しにし過ぎて実際読むのは今になってしまいました。
でもまぁ、読んでみたらわかります。
勧めるに値する本でした。
共同生活と殺人事件の行く末
奇妙な同居生活が始まる二人でしたが、やがてミチルは自分以外の何者から自分の家に住み着いていると確信を抱きます。
さらにミチルもまた、近所の駅で起きた殺人事件について知ります。
犯人が逃走中と知り、もしかすると自分の家にいるのはその犯人ではないかと結びつけるミチルは非常に聡明です。
アキヒロはじっと気配を殺して潜みつつ、目の見えないミチルに対して言葉にし難い親近感を持ち始めます。
視力がゼロに近い中、自分で料理をし、生活のすべてを一人で行うミチル。
しかしもちろん、危険はゼロではありません。
ある日ミチルは、手を滑らせて食器を割ってしまいます。
足元に散乱する破片を片付けるミチル。
いつか大変な事態が起こってもおかしくないと、アキヒロだけではなく読者にも思わせます。
この辺りが乙一の上手なところですね。
ネタばれすれすれで書きますが、やがてアキヒロの存在を確信するミチル。
しかし彼女がとった行動は通報でも拒絶でもなく……
そして殺人事件の方も、物語が進むにつれて大きく姿を変容させていきます。
ホラーサスペンスから心温まる物語へ
最初は間違いなくホラーでありサスペンスです。
だって失明して一人で暮らす女の子の家に殺人事件の容疑者が潜んでるんですから。
実際気味の悪い表紙や前半の物語の雰囲気はサスペンスそのものです。
しかし読み終える頃には、最初とは全く違う印象を抱いているのは間違いないでしょう。
乙一というとトリック重視で狙いすぎの意地悪な作者というイメージがありますが、一気にぐるりと世界観をひっくり返すどんでん返しというよりは、少しずつ世界の色合いが変わっていく、そんな一風変わった作品となっています。
言い訳と蛇足
最近、忙しいです。
毎日仕事の帰りが遅くなっています。
なんとか本を読む時間は捻出しているのですが、こうしてアウトプットする時間がとれません。
実はあと二冊読み終えた本があるのですけれど、書く時間がとれないのが歯がゆいところです。
どうにもこうにも先が見えないので、ちょっと転職なんぞも考えているところです。
良い方に進めばいいんですが。