明日へ突っ走れ 未来へ突っ走れ 魂で走れ
明日はもっといいぜ 未来はずっといいぜ 魂でいこうぜ
久しぶりの村山由佳は『風は西から』。
作中に度々登場する奥田民生の同名曲『風は西から』はマツダのCMでもお馴染みの曲でした。
村山由佳といえばデビュー作『天使の卵』をはじめ青春恋愛小説や昨今では大胆な作風転換でも話題となった官能小説に代表される“生と性”の物語でもお馴染みです。
ところが本作は“過労自殺”という非常に重いテーマを扱っています。
村山由佳の新境地とも言える作品です。
心して読みましょう。
爽やかな男女を襲う世間の荒波
物語は大学を卒業し、それぞれ夢を持って社会に踏み出した二人の男女から始まります。
初期の村山作品や『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズを彷彿とさせる爽やかな男女の姿が続きます。
いずれ実家の飲食店を継ぐという健介は、全国に広がる有名な居酒屋チェーンへ。一方で千秋は食品メーカーへと就職します。
勤め始めてしばらくの間はこれまで通り順調な愛をはぐくんできた二人でしたが、健介が本部を離れ、店舗に配属されてから大きく歯車が狂い始めます。
健介の勤める居酒屋チェーンでは厳しい人件費コントロールのノルマが課せられ、達成するためには社員である健介達自身がサービス残業や休日出勤をしなければならないのです。
誰よりも早く出勤し、一人で開店前の仕込みをし、バイトを上がらせタイムカードを切った後も閉店後の片づけまで働き続けるという苦しい生活。
迷いと戸惑いを抱きつつも、健介は会社を離れる事も異を唱える事もかなわず、ただただ消耗していきます。
千秋も仕事上のトラブルや難問にぶち当たりますが、健介の追い込まれ方に比べればマシに思います。
日勤の千秋と夜型の健介ではそもそも生活のリズムが異なり、会う事すらままならなかったのですが、いよいよ電話すら叶わなくなります。健介の置かれた状況に警鐘を鳴らす千秋に対してまで、健介はささくれだった心をむき出しにして荒ぶります。
そしてある日……健介から届いたメッセージに違和感を感じ取った千秋は健介の部屋へと向かいます。キレイ好きでしっかり者のはずの健介の部屋は荒れ果て放題。
主のいない部屋で千秋は部屋の片づけをして健介を待ちますが……そこに聞こえてくる救急車のサイレン。
マンションの屋上から誰かが身を投げたらしい。
そしてそれこそが……健介だったのです。
ブラック企業との長い戦い
千秋と健介の両親は協力して健介の無念を晴らすべく戦います。
相手は健介の勤めていた居酒屋チェーンです。
いろいろなところに書かれているので特に隠す必要もないかと思いますが、モデルは居酒屋チェーン『和民』で起きた過労自殺の裁判そのもの。
健介の勤務の実態や厳しいノルマ、勤務時間外に課せられる課題等、様々な不正を暴くべく情報開示を求める千秋に対し、居酒屋チェーンはのらりくらりと回答をはぐらかし、挙句の果てに「自分たちに非はない」と遠回しに主張し続けま
その度に協力者や情報を求めて奔走する千秋たちですが、新たな証拠を突き付けても相手の態度は一向に変わらず……時間も心もすり減らすような日々が続いた後、ある日唐突に戦いは終わりを告げるのです。
実は僕もブラック企業に勤めています
僕が今働いている勤務先も、ブラック企業です。
朝は8時出勤。正確には15~20分前にはみんな出勤して、就業前の清掃活動から始まります。
終業は僕の場合で19時ぐらいでしょうか?
20時や21時になる場合も少なくありません。
他のメンバーは21時や22時になるのもザラです。
最近ようやく「遅くとも20時には帰れるようにしないと」と言い出しました。
それでも17時が定時とすれば毎日3時間残業ですか。異常ですよね。
月にすれば60時間は超える計算になります。
まぁ、隔週の土曜日と毎週日曜日はちゃんと休めてますのでマシかもしれませんが。
でもやっぱり、残業が常態化しているのはおかしいと思うのです。
突発的にやむを得ず遅くなるのは仕方ないですし、就業前後に自主的に身の回りを片付けしたりするのは仕方ないですけどね。
何よりも不思議なのは経営陣や幹部連に一切改善の様子が見られないところですけど。
そういう会社に限って、同業の似たような会社の状況を聞きつけては「やっぱりそうだよね。働き方改革なんて言っても結局タイムカード押してから働き続けるようになるんだよね」なんて。
そりゃあ似たような会社ばかり見てたらそうなる。
大手は別。毎日定時で終わるなんてどこかの恵まれた世界の話。そう頭から決めつけてしまっているんだから改善なんてされるはずもない。
まぁ、実は今の会社に勤め始めてまだ数か月しか経ってませんので大きな口も利けないのですが。
近々退職しようと計画中の僕にとっては、本書はとても胸に染みる話でした。
まーいずれにせよ少子化が進んで若者が急速に減少しつつある現在、「人手不足倒産」もこれからどんどん増えると思いますけどね。
完全な売り手市場である現在、わざわざ条件の悪い企業で働こうとする人なんていませんから。
ましてやここ10年20年の少子化って、本当に目に見えて進んでます。
たまたま自分の母校に足を運んだりすると、並ぶ下駄箱の数が激減しているのに愕然としたりします。
でもブラック企業で毎日家と会社の往復だけして生活しているおじさん達は世の中の状況なんて目に入らないので、20年前の考え方そのままに仕事してたりするんですよね。
最近では求人の出し方も「カップルOK」とか「茶髪・ネイルOK」なんてあえて書く事で、とにかく応募してもらおうという姿勢に変わってきています。
「変な奴はいらない。できる人だけ欲しい」
なんて自分たちが出す条件の悪さに目もむけずに高望みだけするブラック企業には、応募なんてなくて当たり前なんです。
そもそも人を大事にできないからこそ、ブラック企業なんですけどね。
だいぶ脱線しましたが、キリがないのでこんなところで。