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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『青空と逃げる』辻村深月

 

力と母、そして、父。
親子三人の、東京の日常が失われたのは、夏のはじめ、七月に入ったばかりのことだった。
父が交通事故に遭った、という電話がきたのが、すべての始まりだった。

先日かがみの孤城』が2018年本屋大賞に輝いたばかりの辻村深月さんの新刊『青空と逃げる』を読みました。
かがみの孤城』は本屋大賞が発表になる10日ばかり前に読み、「個人的には本屋大賞を獲ってもおかしくない作品」だなんて大仰な事を書き残していたばかりに、受賞が決まった時はなんだか自分の事のように嬉しかったですね。

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一家の再生の物語――

深夜の交通事故から幕を開けた、家族の危機。母と息子は東京から逃げることを決めた。――辻村深月が贈る、一家の再生の物語。

上記は版元である中央公論社の特設ページから引用したものです。
ある日交通事故に巻き込まれた父。
父が乗っていた車はとある著名な女優のものでした。
ほどなくして自ら命を絶つ女優と、行方をくらました父。
周囲の目と父の行方を追う関係者の前から、母と息子は逃げ出します。
行く先々で心優しい人々と出会い、ほっとしたのも束の間、追手の影に脅かされ、その度に逃亡を繰り返す親子。
四国へ、小さな島へ、温泉へ。
まるで角田光代『八日目の蝉』を彷彿とさせるような逃亡の物語です。
満足に感謝も述べられず、再会も約束できずに引き裂かれるようにして繰り返される別れの都度、なんとも切ない想いがこみあげてしまいます。
しかし、姿をくらませた父のその後の消息はなかなか語られず……この親子にいつか本当の意味で心安らげる日々が戻ってくるのかと、読んでいてハラハラせずにはいられません。


描かれる旅情の豊かさ

切なさと悲しさに彩られたような旅路ですが、行く先々で待ち受ける旅情の豊かさにも注目です。
物語が始まるのは四万十川の側の小さな田舎町。
広い四万十川テナガエビ漁に興じる少年の姿から始まります。
続く小さな島では、年上の少女優芽と出会い、美しい瀬戸内海の浜辺や自然豊かな島の様子が描かれます。
温泉街では母自身が砂湯の砂かけさんとして働く事で、古くから伝わる温泉の歴史文化の今の姿が活き活きと語られます。
寂しい逃亡劇であるはずなのですが、どこか美しく、楽しげにも感じられるのはそのせいでしょう。
対人だけではない無数の出会いと別れを経て、親子それぞれが成長をしていく物語でもあるのです。


かがみの孤城』より劣る?

本屋大賞を受賞した作家の新刊とあって最近ではSNS等で見かける事も多い本書ですが、「『かがみの孤城』と比べると劣る」という評価を下されているケースも少なくないように見受けられます。
全554ページの『かがみの孤城』に対し、本書は400ページ弱ですから、そういった点から「スケール感でちょっと」と言われてしまったりもするようです。
でもたぶん、個人的な読みとしては本書の方がかなり手間がかかっているのだと推察します。
逃亡先それぞれについても著者自身が足を運んでいるのは間違いないでしょうし、テナガエビ漁や砂かけといった一つ一つについても、ちょっと見ただけで描いたようには思えません。
終盤では東日本大震災の被災地や被災者の様子にも触れられています。
いかにも「震災を描きました」というような仰々しさではなく、辻村さんらしい何気ない書き方なのですが。
きっと実際に体験をしたり、直接当事者に話を聞いたりしながら、取材を重ねて書かれたのだと思います。
成人式を迎えた娘さんとお母さん、妹のエピソードには思わずほろりとさせられてしまいますね。
ましてや本書は新聞連載作品ですからね。
取材を重ねつつ、途切れ途切れになってしまいがちな新聞連載作品をこうしてしっかりとまとめ上げた技量はさすがだな、と感じ入ってしまいます。
登場人物も多く、それぞれの内面にまで踏み込んだ『かがみの孤城』に比べると、母と子の二人にスポットが向けられた本書が物足りないと感じられてしまうのは無理もないようにも思えますけど、日本全国の様々な土地の様子を詳らかに描いたという面では決してスケール感で劣るものではないと思っています。

 

辻村深月といえば女の子

かがみの孤城』では女の子が主役でしたが、個人的には辻村深月といえば女の子のイメージがあります。
『凍りのくじら』もそうでしたし。
名作『ツナグ』でも主人公の少年よりもむしろ「親友の心得」に出てきた二人の少女の方に強い印象が残っていますし。
ほんと、年頃の女の子を描かせたら天下一品だと思っています。

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でもって、どちらかというと男の子は毎回似たような人物造形が多いかなーと感じています。
品行方正で素直で、強くて、しっかり者で。
本作は母親と息子の交互の視点で物語が進められていきますが、やはり似たような位置づけですね。
母親の方が女性らしい人間らしさが際立っているのに対し、まだ小学生の少年は妙にしっかりしていて、むしろ母親を支える王子様のような役回りにも感じられます。
そこがまた辻村作品らしさだと思うので良いのですが、女性の方が読むと逞しく成長していく少年の姿にキュンキュンしてしまうのかもしれませんね。


安心して勧められる本です

かがみの孤城』が話題になりすぎてちょっとハードルが上がり過ぎている感はありますが、結論から言うと本書『青空と逃げる』も安心して勧められる本です。
決して読んで「つまらなかった」と言われるような心配はないでしょう。
最大の謎である「父の行方」という点においても、作中にいくつもの手掛かりや謎が残されていますし、終盤にそれらが解き明かされていく展開にはまんまと没頭させられてしまいます。
なんとなくこのまま『かがみの孤城』の影に隠れたままで凡作として忘れ去られてしまいそうなので、しつこく推しておきましょう。
良い本ですよ。
読みましょう。

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#青空と逃げる #辻村深月 読了#かがみの孤城 で #2018年本屋大賞 を受賞した辻村深月さんの最新作です。ある事件をきっかけに父親が失踪し、大阪・四国・大分・仙台と逃亡を繰り返す母子の物語。かがみの孤城に見られたようなメルヘンさはありませんが、訪れる土地土地の美しい風景や固有の文化とともに、優しい人々との出会いと別れを繰り返す心温まる物語でした。逃亡の物語としては温か目の #八日目の蝉 のような雰囲気も。安心しておすすめできる本です。ぜひ読んでみて下さい。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログも更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。