風が吹き渡ると、朝露にぬれた草がきらきら光った。キウキウキシキシと学校の床を鳴らすような音が聞こえてきた。広々とした空き地のまんなかにペンギンがたくさんいて、よちよちと歩きまわっているのだった。
『有頂天家族』、『四畳半神話大系』以来の森見登美彦作品『ペンギン・ハイウェイ』。
第31回(2010年) 日本SF大賞の受賞作品でもあります。
劇場版アニメが絶賛公開中とあって、とりあえず読んでみなきゃとかねてから期待していた作品です。
ただ、森見登美彦という作家に対しても、正直あんまり良い印象がないんですよねー。
万城目学は大好きなんですが、似たような(←共通点「京都」だけ?)作家と言われる森見登美彦は苦手なんです。
先に読んだ二作も、別に可もなく不可もなくといったところで……正直言ってしまえば、どんな作品だったかもほとんど覚えていないような状況。
『ペンギン・ハイウェイ』はどうなることやら。
ペンギンと〈海〉とお姉さんと
物語の主人公はアオヤマ君。
ノートを片時も離さず携帯し、日夜様々な日常の謎についての研究を欠かさないちょっと大人びた小学四年生です。
「毎日の発見を記録しておくこと」と父は言った。
だから、ぼくは記録する。
お父さんやお母さんの言いつけを守る、とっても従順な子でもあります。
そんな彼の町に、突然ペンギンたちが現れる。
ペンギンたちを研究しようとするアオヤマ君と、友達のウチダ君。
意地悪なクラスメートのスズキ君たちはことあるごとにアオヤマ君たちに嫌がらせを仕掛ける。
また、アオヤマ君には歯医者に勤めるお姉さんという不思議な友達もいる。
お姉さんもまた、アオヤマ君にとっては研究対象。
やがてクラスメートのハマモトさんは〈海〉と名付ける謎の球体を発見。
その頃からアオヤマ君が〈ジャバウォック〉と名付けるシロナガスクジラに不格好な手足が生えたような不思議な生き物も散見されるようになる。
……って
まとまらない!
いや、実際そういう事なんです。
正直、わけがわからないんです。
ペンギンが現れた事も、お姉さんとアオヤマ君の不思議な関係も、色んな謎が置き去りのままとにかくストーリーだけが進んでいくので、頭の中の整理がつかないんです。
今になって冷静に分析してみれば、宮沢賢治の童話を読んでいるのに近い感覚かもしれません。
クラムボンはかぷかぷわらったよ。
いやいや、クラムボンで何?
かぷかぷってどういう感じ?
という読者の疑問を一切無視したまま、物語が進んでいくあの感じ。
なんとなく幻想的で、なんとなくほんわかしていて、よくわからないけれど面白いのかなぁ、と不思議になってしまうのです。
唯一読者の混乱を落ち着かせる役目を果たすもの。
それは……
お姉さんのおっぱい
アオヤマ君はおっぱいが大好きです。
おっぱいが好きで、おっぱいを研究していると自ら豪語します。
特にお姉さんのおっぱいには、理由もなく惹かれてしまう。
「こら少年。チェス盤を見ろチェス盤を」
「見てます」
「見てないだろう」
「見てます」
「私のおっぱいばかり見てるじゃないか」
「見てません」
「見てるのか、見てないのか」
「見てるし、見てません」
「将来が思いやられる子だよ、ホント」
「少年!」とお姉さんが大きな声で言った。「何を見ている」
「考え事をしていました」
「ウソをつけ」
「本当です」
「おっぱいばかり見ていてはいかんぞ」
「見ていません。おっぱいについて考えていましたが、お姉さんのおっぱいのことではありません」
普段の言動は大人びているアオヤマ君も、どうしようもなくおっぱいが気になる年頃なんですね。
ちなみに周囲の恋心には鈍感だったり、おっぱいには興味があるけれど、恋愛にはさっぱり興味がなかったりもします。
そういうところも含め、小学生のアンバランスな心理状態を楽しむ物語でもあるのでしょう。
Twitter等々で、「こんなお姉さんが近くにいたら良かった」という意見にはちょっと同意しかねますが。
妄想するには良いかもしれませんけどね。
さて、映画版をどうしようか
2018年8月17日(金)より全国ロードショーされた本作。
原作を読んだ結果、映画を見に行きたくなったかというと……
森見登美彦『ペンギンハイウェイ』読了。
— ライナスの毛布@読書垢 (@s_b_linus) September 7, 2018
正直よくわからないまま読み終えてしまった。
映画……は別にいいかな笑
……とまぁ、直後はこんな感じだったんですが。。。
改めて公開されている予告やトレーラーを見てみると
……あれ?
めっちゃ面白そうじゃない?
もしかすると上に書いたような「具体的なイメージのし難さ」が映像化によって解消される事で、純粋にストーリーが楽しめるようになっているのかもしれません。
〈海〉も〈ジャバウォック〉も、想像しがたい数々の現象も、すんなりと頭に入ってきそうな気がします。
『ペンギン・ハイウェイ』という作品は先に映像版を見た上で原作を読んだ方が楽しめるかもしれませんね。
映像版ではおそらく端折られてしまったシーンも数々あるでしょうし、後から原作を読んで、不明点を補完していくイメージでしょうか。
そう考えるとやっぱり、映画、見たくなって来ちゃったなぁ。
そういえば、お姉さんのおっぱいもだいぶ強調されているような……。
やはり、見に行くべきか。