「――そこは、あなたの故郷じゃないのにって、言われたよ」
本を読んだにも関わらず、ブログを書けない日々が続いています。
今回ご紹介するのは辻村深月『島はぼくらと』。
三月に読んだ『ぼくのメジャースプーン』以来の辻村作品ですが、これまでに当ブログでも『かがみの孤城』、『青空と逃げる』、『スロウハイツの神様』などを紹介してきましたので、更新頻度からすると比較的取り上げる事の多い作家さんです。
とはいえ本屋大賞にも輝いた『かがみの孤城』、『ツナグ』に比べるとどうにも小粒な印象も多い辻村作品。
さて、今回はデビュー作以来久しぶりの高校生を描いた作品だそうですが、一体どうなるものか。
島で暮らす四人の高校生
本作は瀬戸内海に浮かぶ冴島に住む四人の高校生を主人公としています。
高校に通うのもいちいち本土までフェリーに乗らなければならないという不便な生活をする四人の前に、突然「幻の脚本」を探しにきたという現れ――というのが本書の冒頭のストーリー。
文庫のあらすじにも、ほぼ同様の内容が描かれています。
瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花、源樹、新の四人は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。
これだけ読むと少年隊の甘酸っぱい冒険譚のようなものを想像してしまうんですけどねー。実際にはこのあらすじ、432ページある本書のうちの4分の1、90ページほどの内容だったりします。
実際にはもっともっと話には膨らみがあり、島に定着するIターン移住者や移住者同士の恋愛、地域活性化を行政から委託されたコミュニティーデザイナー等々、話は島の中で起きる様々な事象に及びます。
島の住人たちはお互いに知らない人間はいないというぐらいに見知った間柄ですから、そこで起こる事件はどんなに些細であっても住民たち全員の関わるものになってしまうのでしょう。
高校生四人が主人公……と言いつつ、島の様々な住人が入れ代わり立ち代わり中心となる群像劇と言えるのかもしれません。
多い
多い、本書についてはこのひと言に尽きます。
登場人物が多い、エピソードが多い、テーマが多い。何もかもが多すぎる。
主人公を高校生四人に定めたのも間違いだったように思えます。各エピソードに対し、四人が関わる要素が薄すぎる。まぁ当然でしょう。彼らは世間的にはまだ子供ですし、次々と起こる出来事の中では大人たちの出番の方が多くなってしまいがちです。
ただし実際に彼らは知らず、大人たちの当人同士だけが理解しているようなエピソードが登場すると、鼻白んでしまいます。だったらそもそもこいつらいらなくない? と。
多分彼らを脇役に徹させ、潔くヨシノや蕗子を主人公にした方が全体がすっきりしたのでは? と思えてしまいました。
結局のところ高校生だけで四人いて、主要登場人物としては他にヨシノや蕗子、蕗子の娘・未菜、朱里の母や本木といった人々が登場します。それぞれがそれなりのエピソードや背景を抱えている事を考えると、とてもじゃないですけどよっぽど上手く構成しないと描き切れません。
一例を挙げれば、本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』は7人の登場人物を描くのに500ページ超の枚数を要しています。『かがみの孤城』はストーリーがシンプルだった事もプラスに働き、終盤に積み上げてきた伏線がドミノのように回収されていく様子は圧巻でした。
ところが本作は『かがみの孤城』よりもはるかに多い登場人物を登場させ、まるで連作短編集のような小エピソードを重ね、無数のテーマを語るという詰め込み過ぎ状態。これではカタルシスが訪れるはずもありません。断片的に語られるエピソードの中に取ってつけたようなテーマ性が埋め込まれるという、残念な構成となっています。
なんでこんな事になったのかなぁ、と思っていたところ、下記のようなインタビュー記事を見つけました。
実は構想段階では、故郷を捨てて移住してきた蕗子や、島の定住者ではないヨシノを中心人物にするつもりだった
やはりこれですね。
構想段階と言いつつ、作品にはしっかりその屋台骨が残っています。
読んでいると明らかに蕗子やヨシノが中心に物語は展開しているのに、主人公は四人の高校生という違和感はここにあったのです。
元々の構想通りで良かった気がしますが……和風住宅を無理やり洋風住宅にリフォームしたような違和感が終始離れなかったのは、そのせいだったのですね。
赤羽環
本作の一番の失敗は、彼女の登場だと思っています。
『スロウハイツの神様』の主人公である彼女の登場を辻村ファンは手を叩いて喜んだようですが、僕は正直白けてしまいました。
だって必然性がないじゃないですか。
取っ散らかって上手く構成できてないな、もっと登場人物やテーマを絞ればいいのにな、とフラストレーションを溜めながら読み続けてきた末に、取ってつけたように他の作品のキャラクターを登場させられてもさっぱり意味がわかりません。
そこは既存のキャラクターに頑張ってもらうなり、その分の尺を他のエピソードの深堀りに費やす方に使って欲しかったのですが。
ぶっちゃけ、半分過ぎるぐらいまでですでに読むのが苦痛でした。終盤のファンサービスで、すっかり読むのが嫌になりました。
なのでラストに高校生四人の進路の話が出てくるのですが、さらっと読んで終わりました。そこにはなんの感慨もありません。だって彼ら、結局のところ主役風の脇役でしかなかったですし。実際進路に迷ったり、葛藤する様子も最後の方になって初めて取ってつけたように描かれたように感じましたし。
どうしてこんなに詰め込んじゃったのかなぁ。
とにかく残念な作品でした。