「嬉しいな、わたし知らなかったよ。冬嶺くんも登山が好きなんだよね? わたしもなの! ここ受験する前から登山やってみたくて!」
細音啓『ほま高登山部ダイアリー』を読みました。
レーベルはガガガ文庫。久しぶりのライトノベルという事になります。
とはいえ一時期やたらと読み漁っていたのもスターツ文庫などのライト文芸レーベルが多かったので、純粋なライトノベルとなるとおそらく今年3月に読んだ『はめふら』以来となりますので、懐かしさすら覚えます。
ちなみに本書を読むに至った経緯を説明しておくと、以前の記事で書いた通り、今月からAmazon Kindle Unlimitedなるサブスクに登録しました。
月額990円という定額で好きな本が読み放題という事で、気の向くままヤマケイ文庫の作品や趣味の登山雑誌なんかを読み漁っていたのですが、何故かオススメに登場したのが本作。
どうやら登山を題材としたライトノベルのようなのですが、2017年発行以来、明らかにシリーズ作品を匂わせているにも関わらずいっこうに続編が刊行される気配がないのが非常に気になるところ……。
とはいえせっかく毎月定額のサブスクに登録しているのだから、こういうものにも手を出してみようと思った次第です。
今や漫画業界では『ヤマノススメ』や『山と食欲と私』といったライトハイキング系の山登り作品に加え、『ゆるキャン!』などのキャンプやアウトドアを扱った作品がヒットして久しいのですが、考えてみると小説界隈では『氷壁』や『孤高の人』といったガチクライマーを扱った名作が多い反面、ライトな作品って少ないんですよね。
というか、皆無に等しい状況。
そんな中、登山を題材としたライトノベルとして唯一存在するのが本作だったりします。
それでは早速内容に触れてみたいと思います。
告白→勘違い→登山部に入部する事に
本作は主人公である冬峰冬馬が、中学時代から思い続けてきたヒロイン乃々星縁に告白するシーンから始まります。
しかし縁は「登山が好き」だと勘違い。
高校に進学したら登山部に入りたいとかねてより思い続けてきた縁は、冬馬もまた登山を志す同士だと早とちりし、一緒に見学しようともちかけます。
そこへ登場したのが変人部長こと御傘マリ。
ひと目見て冬馬の想いを見抜いたマリは、もっともらしい理由を並べて冬馬を登山部へと誘います。
冬馬はなし崩し的に、登山部への仮入部をすることに――。
……とまぁ、どこか既視感のあるはじまりとなっています。
ライトノベルの分類については不勉強ですが、いわゆる「学園モノ」というやつでしょうか。
登山部には三年生のマリの他に二年生のハーフ美女・水守ガブリエッラが在籍しており、彼女はまるで天使のような外見の持ち主。おまけに巨乳。食いしん坊でおっちょこちょいで運動は大の苦手。
演劇部にも所属し、どこかずる賢いマリとはまるで正反対の性格をしています。
一方、ヒロインこと乃々星縁は実戦空手の道場に生まれ、幼い頃から想像を絶するような空手の修行を積んできた和風美人。
この三人とああだこうだとやり取りしながら、物語は進んで行きます。
「学園モノ」かつ「ハーレム系」……かな?
覚悟はしていたけど……
まぁほぼほぼ登山とは無関係な話です。
みんなでトレーニングする→女の子達のジャージ姿がうんたらかんたら
みんなで登山用具の買い物に行く→女の子達の私服がうんたらかんたら
実際に登山に行く→女の子達の登山ウェア姿がうんたらかんたら
……とまぁ、やたらと女の子達の外見についての描写が多い。
しかもどうしてかヒロイン役である縁よりも、ガブリエッラに対するものが多いんですよね。
登山でもなく、冬馬と縁のラブコメでもなく、可愛いポンコツであるガブリエッラを愛でる事に大半を費やす本。
彼女に惹かれない読者にとってどんな感想になるかは、書くまでもありませんね。
女の子達の外見やおっちょこちょいやドジに関するエピソードを省いてしまえば、ストーリーとしてはかなり貧弱です。
しかもそのストーリーも、ほぼガブリエッラのドジや微エロエピソード塗れで、肝心要のトレーニングの内容や、登山用品の選択に関する真剣さはまるで伝わって来ません。
最後の登山では「登山には不向きである」という事を実際に体験するために、山頂でカレーを作ります。
カレーは粘度が高く、食後の始末が大変だというのが不向きな理由。
しかしながら、キャンプや山小屋で提供される食事のイメージからビギナーはカレーを選択しがちなのだとか。
……は?
未だかつて、山頂でカレー煮るやつなんて見た事ないんですが。
例えばこれが「ほま高登山部伝統の山頂飯だ~!」とか謎の風習をでっち上げ、しかも目茶苦茶美味しくて感動するようなエピソードでもあれば違ったのかもしれませんが、あくまで「カレーついたままの鍋を背負って下りるの大変だよね。ペーパータオルで拭いてもゴミになるよね」という教訓を得るためだけの地味な調理実習なのです。
味に感動するような描写は一切なく、代わりにあるのは多すぎる量をひいひぃ言いながら平らげるシーンだけ。
最終的に冬馬は登山部への入部を決めますが、その理由も「中学校時代に少しだけ所属した運動部は理不尽な上下関係に苦しんで辞めたけど、登山部のアットホームな雰囲気も悪くないと思った」という地味な理由。
特に山登りで感動したとか、魅力に目覚めたというわけではないのです。
あまりにも山の魅力について描かれる場面が少なすぎて、ちょっとよく理解できないんですが……著者はどうして登山を題材にした作品を描こうとしたのでしょう?
上に挙げた『ゆるキャン△』にせよ『ヤマノススメ』にせよ、『山と食欲と私』にせよ、根底には題材するキャンプや登山に対する愛情があったと思うのですが、本書にはそれがさっぱり感じられません。
『けいおん!』的な学園モノに便乗するにあたり、昨今流行りと言われている登山を使ってみようかでも思ったのでしょう。
結局のところ、本書の魅力というのはヒロインでもない脇役のハーフ美女・水守ガブリエッラを好きになれるかどうかという点にのみかかっていると言っても過言ではありません。
まぁキャラクター性については登場人物それぞれが、アニメをそのままノベライズしたような強い個性を放っているのは間違いありませんが。
それだけ、で最初から最後まで楽しく読める作品というのもなかなか難しいのでしょうね。
一話打ち切りも納得の仕上がりでした。
登山を題材にしたライトノベル、需要ありそうだけどなぁ。
誰か面白い作品を書いてくれないものかしら?