おすすめ読書・書評・感想・ブックレビューブログ

年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『八月の六日間』北村薫

疲れるのでは――という予感がある。本も読めない気がする。しかし、書籍は常備薬と同じだ。手の届くところに活字がないと不安になる。

とか言って、荷物てんこ盛りのザックにわざわざ本を(しかも2,3冊!)詰めてしまうのが本書の主人公。

でもまぁ、同じように本も読み、山も登る人間としては大いに共感してしまったりもします。

僕にとって本は常備薬というより、水筒に詰めた飲み物みたいなイメージですけど。

水分や食料と一緒で定期的に活字を摂取する感じですね。

 

……のっけから余談に逸れましたが、今回読んだのは北村薫『八月の六日間』

40代独身の女性編集者が、五つの山に登る山行の連作短編形式の物語です。

 

日常の謎”の生みの親

今や大人気の米澤穂信をはじめ、推理小説の一ジャンルとして確立した感さえある“日常の謎

もう少し間口を広げて“ライトミステリ”なんて呼び方をしたりもしますが。

 

その生みの親こそが北村薫

 

先日長々と書いてしまった「新本格ムーブメント」のさなかにデビューした北村薫が、デビュー作『空飛ぶ馬』で投じたのが“日常の謎”でした。

 

人も死なず、刑事も警察も名探偵も登場せず、日常の中で起こる不可解な謎に主題を置いた北村薫は、新鮮さと驚きをもって推理小説の世界に迎えられていったのです。

 

僕の持論としては綾辻行人から始まる新本格推理小説の作家陣から、密室・名探偵といった従来の本格推理の枠を飛び出そうとデビューしてきたのが麻耶雄嵩二階堂黎人で、実際に殻を打ち破る役目を果たしたのが京極夏彦であり、森博嗣だと思っています。

 

それぞれ“妖怪”や“理系”といった本格推理+αの要素を加えて、市民権を得られるエンターテインメントに昇華させていった、と。

 

でも考えてみると、誰よりも先に本格推理小説の新境地を切り開いた人間としては、北村薫を挙げるべきでしたよね。

日常の謎”よりも何よりも、推理小説に従来とは異なる要素を加えた先駆者と呼べるかもしれません。

 

そうしていつの間にか、北村薫推理小説出身ながら第141回直木賞を受賞する程の市民権を得る作家となっていたのでした。

prizesworld.com

……ちなみに僕、そう書いておきながら直木賞受賞作である『鷺と雪』はまだ未読だったりします。

全三作の『ベッキーさんシリーズ』の三作目とあって、どうせ読むのであれば最初から読まないとなぁ、と思っているうちに時間が過ぎてしまった感じです。

いい加減、読まないとなぁ。

 

比較的ライトな登山

一応本書のタグとして「山岳小説」を入れたのですが……。

もしかしたら山岳小説ファンの方には怒られてしまうかもしれません。

実際に本書、硬派な登山者からは叩かれたりもしているようですので。

 

というのも、本書で書かれている山行はかなりライトな登山です。

 

率直に言えば素人っぽい、歯に衣着せずに言えばある意味では無謀な登山が書かれています。

上記のような硬派な登山者からは「こんなの真似する奴が出てきたらどうするんだ」といった厳しい意見もあるようです。

特に登山計画――日程や行動時間、自身の体力の捉え方等、といった部分が批判されているようですね。

 

擁護する訳じゃないですけど、別にしっかりと模範的な登山の物語を書こうとしたわけではないのでしょうから、個人的には別に問題ないと思うんですけど。

 

実際山に行けば、この人大丈夫かな?と心配になってしまうような人もたくさんいます。

地図も何も持たず、無邪気に「ここからどっちに行けばいいですか?」なんて聞いてくる人はザラですし、人気もなく、遅い時間に頼りない足取りで「今日は○○小屋まで行くんだよー」なんてニコニコ言うおじいさん、おばあさんも多いです。その足取りじゃ日が暮れちゃうんじゃないかな、なんてその都度心配になります。

 

批判する方は実際にそういった楽観的な、逆に言えば無計画な登山者に会って肝を冷やした経験があり、その上で怒っているのかもしれません。

 

とはいえしっかり計画して経験も積んだ上級者しか山登りを楽しんではいけません、なんていうのも本末転倒ですしね。

 

とにかく僕としては、もっともっとたくさんの人に、気軽に登山を楽しんでほしいと思うわけです。

その意味で本書はもっと評価してあげたいですよね。

硬派な山行を読みたければ、『孤高の人』や『神々の山嶺』をはじめいくらでもあるわけですし。

 

山と向き合う中で起こる感情の変化

その上で本書の読みどころとしては、上記のような事になろうかと思います。

一人の女性が、忙しい日々の中でスケジュールを調整しては、度々山へと出かけて行く。

準備や実際に登山の楽しみはもちろんですが、それまでの日常の中で様々な出来事を経験しているわけです。

仕事上、プライベート上、悩みや苦しみ、悲しみもあれば楽しかった事もある。

登山をしていると、たった一人で黙々と歩みを進める中で、そんないろいろな心の変化に向き合わざるを得なかったりします。

日常的に周囲を取り巻く情報や雑音から隔離されて、じっと自分と物言わぬ自然と向き合っているうちに、喉に引っかかった魚の骨のような記憶がいつの間にか溶けてしまったりする事もあるのです。

本書の主人公も、山に登りながら、様々な出来事に想いを馳せます。

そんな心模様こそが、本書の読みどころなのです。

 

よし、山へ行こう!

読む前からわかっていた事なんですけどね。

こういう本を読むと、無性に山登りに行きたくなってしまうんです。

奇しくも今週末は三連休。

どうやら台風も通り過ぎて、週末は天気も悪くなさそう。

なので久しぶりに山登りに行って来ようと思います。

 

どの山にしようか、と迷うところからが登山の楽しみとも言えると思うんですが……かねてより行きたいと思っていた尾瀬至仏山に行ってみようかと思っています。

 

しかも日帰りの弾丸強行スケジュール。

 

今から楽しみで仕方がありません。

早く行きたい~。

https://www.instagram.com/p/BnlV-L_lw1n/

#八月の六日間 #北村薫 読了女性が単独行で登山に行く5つの連作短編集。書いているのが北村薫だけあって文章が素直で柔らかく、温かい。パステルカラーのイメージ。登山そのものというよりは、山を登りながら様々な出来事に想いを馳せる様子を楽しむ物語。覚悟はしていたけど登山に行きたくて仕方なくなりました。なので今週末の連休には登山に行く予定に。以前から行きたかった #尾瀬 の #至仏山 に日帰り特攻して来ようかな。本書を真似して、文庫本をザックに忍ばせていこう。 "書籍は常備薬と同じだ"#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦

風が吹き渡ると、朝露にぬれた草がきらきら光った。キウキウキシキシと学校の床を鳴らすような音が聞こえてきた。広々とした空き地のまんなかにペンギンがたくさんいて、よちよちと歩きまわっているのだった。 

 『有頂天家族四畳半神話大系以来の森見登美彦作品ペンギン・ハイウェイ

第31回(2010年) 日本SF大賞の受賞作品でもあります。

劇場版アニメが絶賛公開中とあって、とりあえず読んでみなきゃとかねてから期待していた作品です。

penguin-highway.com

ただ、森見登美彦という作家に対しても、正直あんまり良い印象がないんですよねー。

万城目学は大好きなんですが、似たような(←共通点「京都」だけ?)作家と言われる森見登美彦は苦手なんです。

先に読んだ二作も、別に可もなく不可もなくといったところで……正直言ってしまえば、どんな作品だったかもほとんど覚えていないような状況。

 

ペンギン・ハイウェイ』はどうなることやら。

 

ペンギンと〈海〉とお姉さんと

物語の主人公はアオヤマ君。

ノートを片時も離さず携帯し、日夜様々な日常の謎についての研究を欠かさないちょっと大人びた小学四年生です。

「毎日の発見を記録しておくこと」と父は言った。

だから、ぼくは記録する。

お父さんやお母さんの言いつけを守る、とっても従順な子でもあります。

そんな彼の町に、突然ペンギンたちが現れる。

ペンギンたちを研究しようとするアオヤマ君と、友達のウチダ君。

意地悪なクラスメートのスズキ君たちはことあるごとにアオヤマ君たちに嫌がらせを仕掛ける。

また、アオヤマ君には歯医者に勤めるお姉さんという不思議な友達もいる。

お姉さんもまた、アオヤマ君にとっては研究対象。

やがてクラスメートのハマモトさんは〈海〉と名付ける謎の球体を発見。

その頃からアオヤマ君が〈ジャバウォック〉と名付けるシロナガスクジラに不格好な手足が生えたような不思議な生き物も散見されるようになる。

 

……って

 

まとまらない!

 

いや、実際そういう事なんです。

正直、わけがわからないんです。

 

ペンギンが現れた事も、お姉さんとアオヤマ君の不思議な関係も、色んな謎が置き去りのままとにかくストーリーだけが進んでいくので、頭の中の整理がつかないんです。

 

今になって冷静に分析してみれば、宮沢賢治の童話を読んでいるのに近い感覚かもしれません。

クラムボンはかぷかぷわらったよ。

いやいや、クラムボンで何?

かぷかぷってどういう感じ?

 

という読者の疑問を一切無視したまま、物語が進んでいくあの感じ。

なんとなく幻想的で、なんとなくほんわかしていて、よくわからないけれど面白いのかなぁ、と不思議になってしまうのです。

 

唯一読者の混乱を落ち着かせる役目を果たすもの。

それは……

 

お姉さんのおっぱい

アオヤマ君はおっぱいが大好きです。

おっぱいが好きで、おっぱいを研究していると自ら豪語します。

特にお姉さんのおっぱいには、理由もなく惹かれてしまう。

「こら少年。チェス盤を見ろチェス盤を」

「見てます」

「見てないだろう」

「見てます」

「私のおっぱいばかり見てるじゃないか」

「見てません」

「見てるのか、見てないのか」

「見てるし、見てません」

「将来が思いやられる子だよ、ホント」

「少年!」とお姉さんが大きな声で言った。「何を見ている」

「考え事をしていました」

「ウソをつけ」

「本当です」

「おっぱいばかり見ていてはいかんぞ」

「見ていません。おっぱいについて考えていましたが、お姉さんのおっぱいのことではありません」

普段の言動は大人びているアオヤマ君も、どうしようもなくおっぱいが気になる年頃なんですね。

ちなみに周囲の恋心には鈍感だったり、おっぱいには興味があるけれど、恋愛にはさっぱり興味がなかったりもします。

そういうところも含め、小学生のアンバランスな心理状態を楽しむ物語でもあるのでしょう。

Twitter等々で、「こんなお姉さんが近くにいたら良かった」という意見にはちょっと同意しかねますが。

 

妄想するには良いかもしれませんけどね。

 

さて、映画版をどうしようか

2018年8月17日(金)より全国ロードショーされた本作。

原作を読んだ結果、映画を見に行きたくなったかというと……

 ……とまぁ、直後はこんな感じだったんですが。。。

 

改めて公開されている予告やトレーラーを見てみると

www.youtube.com

www.youtube.com

www.youtube.com

 

……あれ?

 

めっちゃ面白そうじゃない?

 

もしかすると上に書いたような「具体的なイメージのし難さ」が映像化によって解消される事で、純粋にストーリーが楽しめるようになっているのかもしれません。

〈海〉も〈ジャバウォック〉も、想像しがたい数々の現象も、すんなりと頭に入ってきそうな気がします。

ペンギン・ハイウェイ』という作品は先に映像版を見た上で原作を読んだ方が楽しめるかもしれませんね。

映像版ではおそらく端折られてしまったシーンも数々あるでしょうし、後から原作を読んで、不明点を補完していくイメージでしょうか。

 

そう考えるとやっぱり、映画、見たくなって来ちゃったなぁ。

 

そういえば、お姉さんのおっぱいもだいぶ強調されているような……。

 

やはり、見に行くべきか。

https://www.instagram.com/p/BnduKAAng1P/

#ペンギンハイウェイ #森見登美彦 読了劇場版公開と聞いてずつと気になっていた作品。#第31回日本SF大賞 受賞作小学4年生のアオヤマ君と、不思議なお姉さんを軸にした物語で、ペンギンや宙に浮かぶ〈海〉、ジャバウォック等、次々と不思議な事件が起こる。さらには意地悪なクラスメートのスズキ君たち。ただ正直読んでいていまいちイメージが掴みにくかったかな。映画版の方が目で見たそのままに受け止められるのですんなりと楽しめるかもしれませんね。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『下町ロケット』池井戸潤

そうだ。――佃は思った。オレは自分の夢のことは考えたが、社員のことはそのとき考えなかった。

結局、社員が反抗するのは、その結果ではなくプロセスに問題があったからではないのか。

だとすれば、オレはどこかで、手順を間違えたらしい。

第145回(2011年上半期)直木三十五賞受賞作品下町ロケット

この回の直木賞島本理生『アンダスタンド・メイビー』、高野和明『ジェノサイド』、辻村深月『オーダーメイド殺人クラブ』、葉室麟恋しぐれ』を押しのけての受賞でした。

一部ではエンタメ色の強い本書に対しての批判も少なからずあったようですが、その後の売れ行きや人気ぶりを見れば納得せざるを得ませんね。

prizesworld.com

テレビドラマ化、ラジオドラマ化に加え、現在は続編となる下町ロケット2 ガウディ計画、『下町ロケット ゴースト』が刊行されています。

今秋2018年9月28日にはシリーズ4作目となる下町ロケット ヤタガラス』が発売されるとか。

今や半沢直樹シリーズ」を抜いて池井戸潤の新たな代表作となりつつあります。

prtimes.jp


下町の町工場がロケットのエンジン部品製造へ

主人公である佃はもともとはロケットの技術者でしたが、担当していたロケットの打ち上げ失敗と父の死をきっかけに、実家である佃製作所を継ぎます。

持前の才覚と技術者としての経験を生かし、業績を急上昇させた佃製作所でしたが、その前に一つの事件が起こります。

大口取引先の一つであった京浜マシナリーから、発注停止を申し渡されるのです。

年間売上の1割を失うという事態に佃をはじめ佃製作所の面々は色を失いますが、その上、ライバルの大手企業であるナカシマ工業から特許侵害で訴訟を起こされてしまううという危機に襲われます。

更にはロケットの開発を進める帝国重工から、佃製作所の虎の子であるバルブの特許を譲るよう求められ……資本金僅か三千万円の佃製作所が、はるかに巨大な大企業たちの起こす荒波に翻弄されていくのです。

 

勧善懲悪のご都合主義?

池井戸潤は人気作家で僕も大好きなのですが、彼の作品についてよく聞かれる批判があります。

それこそすなわち

 

勧善懲悪

 

ご都合主義

 

 といったものです。

 

本書について書かれたレビューの中にも、「完全懲悪」と書かれたものが目につきました。

でもちょっと待ってください。

 

本当にちゃんと読んだ?

 

確かに「半沢直樹シリーズ」をはじめ、勧善懲悪ものとして書かれた作品も少なくありません。

例えば僕の読んだ陸王も、怪我で窮地に陥ったランナーと経営の危機に瀕する中小企業に対する、横柄で傲慢な大企業という構図の物語で、まさしく勧善懲悪を言えるものです。

linus.hatenablog.jp

でも少なくとも本書は違います。

登場する大企業に属する人々は意地悪で傲慢な態度も目につきますが、本書においてはそればかりではありません。

登場時はテンプレ的な悪役キャラだった人間が、物語が進むに連れて考えを改めたり、思い悩んだりする展開が幾重にも絡まりあっているのです。

それは対する大企業側ばかりではなく、佃製作所の内側でも一緒です。

銀行からの出向組である経理部長の殿村をはじめ、佃の決定に異を唱える若手たちの言動など、十把ひとからげに“善”と“悪”には分けられないのです。

それぞれが状況と立場の中で悩み、考えてその時々の意見に基づいて行動しています。

物語の終盤では、佃の周囲の状況は序盤とは大きく変化しているはずです。

そんな点も含めて、勧善懲悪という言葉では済ませられない人間ドラマを楽しんでいただきたいと思います。

 

ええと……ご都合主義という批判に関しては、甘んじて受け入れるしかないのですけど。

 

じんわりと胸を突くラスト

エピローグには題名相応のシーンが描かれているのですが……なぜだか僕、ジーンとしてしまいました。

登場人物たちの興奮や盛り上がりが妙に胸に迫ってきたのです。

正直、あってもなくても良いエピローグだと思うんですけどね。

その手前までで物語としては十分完結していると思いますし。

こればかりは自分でも説明できませんが、その光景を頭に思い描いたら、胸が熱くなるのを避けられませんでした。

さすがに涙を流すことはありませんでしたけどね。

こみあげるものがあったのは確かです。

また、下町ロケット2 ガウディ計画』の伏線ととれる一幕も。

これって最初から連作ものの予定だったのかな?

池井戸潤はやはりハズレがないので、いずれ続編についても読みたいと思います。

そもそも空飛ぶタイヤが読みたかったんだけど……なんて最後の最後に書くのは余計かな。

https://www.instagram.com/p/BnV6yHgHCMu/

#下町ロケット #池井戸潤 読了#第145回直木賞 受賞作品まー有名だし評価も高いし外れはないですよね。池井戸潤、彼も僕の中では鉄板です。ご批判に漏れず、本書もご都合主義な点は否めませんが。とはいえ本書、池井戸潤の作品に見られる #勧善懲悪 とは少し違っていると感じました。主人公の社内にも、相対する大企業の中にも敵はいる。でも、それぞれが状況や立場、自分の信念を考えながら行動している。だから最初は敵対していたはずなのに、やがて心が通じ合うような事も起こる。誰が善、誰が悪とは言い切れないそれぞれの事情の中で、それぞれがベストを尽くそうともがいている感じがすごく感じられました。続編も出ている事だし、このシリーズ、今後も読んでいこうと思います。本当は #空飛ぶタイヤ が読みたかったんだけどね←#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『吉祥寺の朝日奈くん』中田永一

僕たちは不安でたまらない。今あるこの感情も、やがて稀薄になっていくのだろうか。はなればなれになって、おぼえている輪郭も、声も、あいまいになっていくのだろうか。でも、もしそうならなかったとしたら? 東京で暮らす自分の心にいつまでも彼女がいたとしたら? 四国で子どもをそだてている彼女の心が、何年たってもうつろうことなく澄みきっていたら? 

中田永一『吉祥寺の朝日奈くん』です。

中田永一乙一の別名義だったりもします。

 

前回のブログでは「僕は伊坂幸太郎と合わない」ことについて長々と書いてしまいましたが、実は僕、乙一に対しても苦手意識を持っていました。

 

最初に読んだ彼の作品は『GOTH』

面白いと評判で手にしてみた作品は、ミステリでいうとあるトリックを駆使した短編集でしたが、そのあまりにも「狙いすぎた感」に僕は辟易してしまったのです。

明らかにアンフェアなものも多かったし。

 

「おいおい、明らかにここ曖昧にしてあるじゃん。こりゃあずるいよ」

 

と読みながらついつい愚痴らずにはいられませんでした。

 

それからはしばらく乙一から離れていたのですが、再度読み始めるきっかけになったのは『百瀬、こっちを向いて』

そうとは知らず読んでエラい嵌まってしまい、読後に調べてみたら……乙一の別名義」!

 

完全にしてやられたケースですね。

 

『百瀬、こっちを向いて』をきっかけに乙一に対する苦手意識に疑問符がついてしまい、「もしかしたら良い作家さんなんじゃないだろうか?」と思って読んだのが『夏と花火と私の死体』

linus.hatenablog.jp

そしてインスタグラムのフォロワーさんに勧められた『暗いところで待ち合わせ』

linus.hatenablog.jp

感想は上記リンク先を確認していただければわかりますが、まーすっかり乙一という作家への評価が逆転してしまったわけです。

 

めちゃくちゃ面白い作家さんじゃん

 

伊坂幸太郎もそんな逆転を期待してるんですけどねー。

残念な事に、どうしても合わない状態が続いてしまっています。

 

それぞれの恋愛模様を描いた5作の短編集

さて、本作『吉祥寺の朝日奈くん』の話題に入りましょう。

こちらには恋愛をテーマにした短編が5つ収められています。

『百瀬、こっちを向いて』もそうでしたが、どうやら中田永一名義の場合には恋愛小説家としての作風が強くなる傾向があるようですね。

とはいえ、中身はあの乙一

恋と愛の間にちょっぴりミステリ風味を加えてしまっていたりするのが、特徴であったりもします。

 

1話目『交換日記はじめました!』

中学生の遥が始めた交換日記がテーマ。セリフや本文はなく、日記そのものを読んでいるかのように、文章と日付、書いた人の名前が記されていきます。最初は遥と圭太から始まった日記は、途中から同級生の鈴原さんが混ざったり、遥の妹の有紀やお母さんが混ざったり。やがて、日記帳はいつしか全く見ず知らずの他人の手に渡ります。沢山の人と時間を介した日記はどんな物語を紡ぎだすのか。

――きちんとした小説の形式は取っていないにも関わらず、思わず夢中になってしまいます。

 

2話目『ラクガキを巡る冒険』

中学校の頃、学校に忍び込んでクラスメイト全員の机にラクガキをした千春。実家へ帰省した際、当時のマッキーで出てきたのをきっかけに、千春は遠山君の身元を探り始める。遠山君こそ、ラクガキの共犯者だった。

――本作の中では一番小粒かな?ミステリ風味がマイナスに作用してしまった悪例かも。

 

3話目『三角形は壊さないでおく』

高校に入学してすぐ、廉太郎はクラスメートのツトムと意気投合する。親友となった二人の前に現れたのは、クラスメイトの小山内さん。常に消極的で他人に譲ってしまう廉太郎は、ツトムと小山内さんの恋を応援しようとするが……。

――これはミステリ風味はほとんどなし。淡い青春時代の恋愛物語として純粋に楽しんで貰えれば。

 

4話目『うるさいおなか』

頻繁におなかが鳴ってしまうという悩みを抱えたハラナリストの高山さん。一生懸命他人には知られないよう隠そうとするものの、春日井君だけが敏感に高山さんの腹の音を聞きつけ、しかも興味を持ってしまう。

――これもミステリ風味なし。ただし、物語としてはやはり小粒。

 

5話目『吉祥寺の朝日奈くん』

ラストを飾るのは表題作。吉祥寺の喫茶店に努める山田真野と、その店に通い詰める朝日奈くんとの物語。喫茶店で起こるある事件を経て、その後ばったり献血先で出くわす二人。連絡先を聞き出そうとする朝日奈くんに、山田さんが差し出した左手の薬指には指輪が光り……。

――既婚者との禁断の恋模様を描く本作ですが、切なさや焦れったさについつい感情移入してしまいました。乙一、こんな大人な恋も描けるのね。それに加えて乙一らしい遊び心も物語を壊さない範囲で発揮していて、中田永一作品の醍醐味を味わえる作品かと思います。

 

乙一らしさはちょっと控えめ?

 『百瀬、こっちを向いて』はミステリ風味、遊び心とでも形容すべき仕掛けが必ず仕掛けられていましたが、本作では少し控えめに感じられました。

とはいえ特に仕掛けらしきものも見当たらなかった『三角形は壊さないでおく』も、作品としての完成度は決して低くなく、純粋な青春恋愛小説として楽しめました。『GOTH』の例ではありませんが、あまり遊び心を尽くし過ぎてしまうと読者も身構えてしまうので、あったり無かったりするぐらいでちょうど良いのかもしれません。

それにしても、表題作『吉祥寺の朝日奈くん』は中田永一らしさがよく出た作品だったと思います。

非常に僕好みの作品でした。

いやぁ、読んでよかったです。

ちなみに本作、2011年には劇場版も公開されているようですね。 

www.youtube.com

結構短めの短編なだけに、映画化するほど尺がもったのか心配。

変に肉付けして膨らませてなければいいんですけど。

予告編を見る分には、役者さんも演技も作品の雰囲気もちょっと原作とは違うかなぁ、なんて。

その内気が向いたら見てみましょうか。

 

 

https://www.instagram.com/p/BnQyHrPHDcO/

#吉祥寺の朝日奈くん #中田永一 読了言わずと知れた #乙一 の別名義。乙一も僕にとっては苦手な作家さんの一人でしたが、乙一と知らずに読んだ #百瀬こっちを向いて 以来、すっかり認識を改められてしまいました。本作も甘酸っぱく、それでいて乙一らしい遊び心を凝らした短編が5作。特に表題作である吉祥寺の朝日奈くんは個人的にとてもお気に入りでした。乙一、こんな大人の恋愛も描けるなんて。読めば読むほどファンになってしまいそうです。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ#読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『陽気なギャングが地球を回す』伊坂幸太郎

「『ぼくは誰よりも速くなりたい。寒さよりも、一人よりも、地球、アンドロメダよりも』」響野が芝居がかった声を出した。

「誰かの詩?」久遠は訊ねる。

「亡くなったアルト奏者だよ。ジャズ演奏家の言葉だ。私たちだって、誰よりも速く走らならなくてはいけないわけだ(略)」 

 

……困りました。

 

伊坂幸太郎陽気なギャングが地球を回すです。

 

最初に断っておくと、僕は伊坂幸太郎との相性が良くありません。

 

最初に読んだのは確かラッシュライフで、その時には読後、茫然としてしまいました。

物語のそこかしこに散りばめられていた伏線が余す事なく回収され、全ての断片的な話が繋がるという美しいフィニッシュ!

しかし……

 

……で、なんなの?

 

というのが僕の感想でしかなく。

 

物語ってそもそもは一本につながっているべきものじゃないですか。

それをわざわざ分断して、それぞれごちゃ混ぜにして、最後に再び収束させる。

確かにテクニックが必要なのはわかるけど、「で、なんなの?」でしかなかったわけです。

 

思い起こせばそこでやめておけば良かったんでしょうね。

 

でも、伊坂幸太郎って滅茶苦茶有名なわけですよ。

「面白い本」って検索すると、必ず彼の名が出てくるといっても過言ではないぐらい。

 

本の虫としては、たまたま『ラッシュライフ』という作品が合わなかっただけで、他の作品はきっと面白いんだろうな、と可能性に賭けてみたくなるわけです。

 

次に手にとったのが『重力ピエロ』

 

……ダメでしたね。

 

今となっては「春が2階から落ちてきた」というあの有名な書き出しの一文しか思い出せないぐらい、印象に残っていません。

特に「つまんねーな」とか思ったわけではなく、むしろ面白いともつまらないとも何の感慨も持てずにただただ文章を読み続け、ラストまで読み切ってしまったという記憶です。

 

上記2作で懲りて、しばらく遠ざかっていたのですが……最近になってやっぱり「伊坂幸太郎って面白いはずだよな?」という疑問が湧いてきてしまい、再び試してみることに。

それが本作『陽気なギャングが地球を回す』でした。

 

特殊能力を持つ陽気な4人組

嘘を見抜く名人成瀬、天才スリ久遠、演説の達人響野、精緻な体内時計を持つ女雪子。

4人の男女が完璧な計画で銀行強盗に挑む。

計画は順調に進み、無事金を手に銀行から逃げ出したまでは良かったものの、逃走中にたまたま衝突しそうになった相手が現金輸送車の強盗犯。

車ごと盗んできた現金まで奪われてしまう4人。

銀行強盗には成功したのに、全ては水の泡になってしまいました。

 

しかし転んでもただでは起きないのが4人。

ドタバタの中で天才スリこと久遠は強盗犯から財布をスッていた。

身元を辿り、成瀬と雪子が訊ねた先には強盗犯の一味とみられる男の死体が。

男の部屋の電話からリダイヤルをかけてみると、出た相手は仲間の響野。

 

一方で、精緻な体内時計を持つ女こと雪子の息子慎一がイジメに巻き込まれる事態も勃発。

響野と久遠は慎一とともに、イジメられっ子の薫君が監禁されたパチンコ屋の廃墟へと向かう。

イジメっ子たちを蹴散らす響野と久遠だったが、その前に銃を手にした見知らぬ男が現れ……。

 

まぁとにかく、ストーリーはテンポよく進みます。

え、どうなってんの? と思わせる謎と一見どうでも良さそうなエピソードがしっかりと絡まりあって、最終的には一つに繋がり、収束していきます。

 

でも、結局のところ……

 

……で、なんなの?

 

で終わってしまうわけです。

 

不要なセリフ、多くない?

 

もう一つ気になるのは、全編に渡って繰り広げられる会話です。

伊坂ファン的には、“会話の妙”こそが伊坂作品の醍醐味でもあり、「オシャレ」と形容されたりもするようですが。

「いや、雪子さんの様子が変だから、宇宙人に乗っ取られたのかと思って」おどけて説明する。「この間のテレビでやっていたんだけど、宇宙人が人を操作する時、つむじに小さな装置を埋め込むらしいんだ。

 「どう、あった?」雪子が後頭部を向けてきた。

「いや、たぶん大丈夫」

「きっとうまく隠したんだと思う」 

「現金輸送車ジャックだ!」久遠はすぐに反応した。 

「マスコミがそういう煽った呼び方をするから、いい気になるんだ」響野が言う。「そもそもだ、強盗犯を、『ジャック』というのは、昔の馬車を襲った強盗たちが、『ハーイ、ジャック』と挨拶をして、襲撃してきたのから始まっただけでだ、意味なんてないんだよ」

「同一犯なの?」祥子は、響野の話を無視したまま、成瀬に訊ねる。 

「いいや、おまえが何と言おうと、世の中は偶然で溢れているんだ。芥川龍之介の言葉を知っているか? 『本当らしい小説とは恐らく人生におけるよりも偶然性の少ない小説である』とな、そう書いているだろうが」

「それがどうかしたか?」

「ようするに、現実世界には、小説以上に偶然が多いということだ」

「弘法は筆を選ばないものだがな」と後部座席の響野が言った。

「弘法は選べなかっただけよ。お金がなくて」雪子はそう言いながら、ハンドルを切る。港洋銀行を襲った時とほぼ同じルートを走っていた。

「弘法さんもさ、恰好つけずに、雪子さんみたいに盗めば良かったんだ」久遠がすかさず言う。「そうすれば、弘法筆を選び放題、だ」

……キリがないので抜粋はこの辺にしておきますが、こういうのが魅力的な会話っていうんですかね?

 

とにかく彼らの会話の半分以上は小説に関係のないものばかりで、ただひたすら会話の「テンポ」や「響き」だけを重視して書かれているように感じられます。

余計な会話文を省いたら、本書は半分ぐらいのボリュームに減ってしまうんじゃないでしょうか?

残念ながら僕の胸には刺さる文章が一つもない為、ただただ読み流すだけでしかありませんでしたが。

 

作者は何をしたかったのか?

しつこいようですが、「何を書きたいか」って重要だと思ってるんです。

伏線ちりばめて回収とか、それはあくまで技法であって、主題にはなり得ないはずですからね。

手段が目的化した作品は空虚でしかありません。

 

その辺が伊坂幸太郎が毎回直木賞で酷評される理由に繋がっているように思えるのですが。

lite-ra.com

 

ちなみに本作で書きたかった事は、新書刊行時のあとがきで作者自身が下記のように語っています。

九十分くらいの映画が好きです。もちろんその倍以上のものでも、半分くらいのものでも良いのですが、時計が一回りしてきて、さらに半周進んだあたりで終わる、そんな長さがちょうど体質にも合っているようです。

あまり頭を使わないで済む内容であれば、そちらのほうが好ましいです。アイパッチをつけた男が刑務所に忍び込んで、要人を救出して逃げ出してくる。そういうのはとても良いですね。現実味や、社会性というのはあってもいいですが、なかったからと言ってあまり気になりません。

今回ふと、そういうものが読みたくなり、銀行強盗のことを書いてみました。

サックリとしたアクション的な物語を書きたかったらしいですね。

そういう意味では、半分は成功していると言えるかもしれません。

サックリとした読みやすい物語という意味では、成功です。

 

でも本作が彼の言うような90分の映画と比肩し得る作品かというと、疑問に感じてしまいますね。

 

伊坂幸太郎

 

やっぱり僕には合いませんでした。

 

でもまたいつか、再び彼の作品を試してみる気がします。

特に『ゴールデンスランバー』は本屋大賞を受賞していますからね。

避けては通れない作品かと。

 

またいつか、の話ですが。

https://www.instagram.com/p/BnN9nMNnLk1/

#伊坂幸太郎 #陽気なギャングが地球を回す 読了やっぱり伊坂幸太郎は僕には合わないですねー絶望的に合わないそれともたまたま合わないものを引き当ててしまっているだけなのか別に面白くないわけではないんですけどねただ、読んだという感想と事実しか残らないそんな感じ#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しましたが、伊坂幸太郎ファンの方には読まないでいただきたいと思います。そうでない方はプロフィールのリンクよりご確認下さい。

『生き屏風』田辺青蛙

皐月はいつも馬の首の中で眠っている。

そして朝になると、首から這い出て目をこすりながら、あたかも人が布団を直すかのように、血まみれで地面に落ちている馬の首を再び繋ぐ。

いきなりグロ描写から始めてしまいましたが、こちらは実際に本作『生き屏風』の冒頭文です。

第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。

今やすっかり「オカルト風味ラノベレーベル」と化してしまった角川ホラー文庫から2008年に発刊された小説です。

 

『生き屏風』のあらすじ

主人公である皐月は町はずれに住む妖鬼。

妖(あやかし)という、いわゆる妖怪の一種であり、鬼でもあります。

夜な夜な馬の首に入って眠るという皐月は普段は町はずれで静かに暮らしていますが、そんな彼女の元に、近所の酒屋の旦那からお呼びがかかります。

 

死んだ妻の霊が店の屏風に憑き、毎年夏になると勝手に喋りだして我が儘放題を要求し、ほとほと困り果てているのだという。

高名な道士に見てもらったものの、無理に祓えば悪鬼になる可能性があるため、誰か適当な人に相手をさせた方が良い。

その条件というのが、独り身で女性、県境に住んでいて、しかも妖鬼ならばなお良い、という。

そうして渋々招かれた皐月を相手に、屏風に憑りついた奥方様は「鴉の汁が飲みたい」

「もっと面白いやつが来るのかと思った」と無理難題を突き付けます。

妖鬼である証拠にと見せた小さな角に対しても、

なんだいそれが角なのかい? あんたにゃ悪いけど、ただのちょっと変わった色したこぶか、オデキにしか見えないねぇ。

とさんざんな言われ様。

気分を害する皐月でしたが、奥方様の求めるがまま、毎日のように「面白い話」をして聞かせ、そうしている内にやがて二人の間に少しずつ親近感というようなものが芽生え始めます。

 

奥方様へ向けた話の中から、読者も皐月の父の生い立ちや前任者の里守りについて、皐月が里守りに就いた経緯などを知る事ができます。

一方では、我が儘で自分勝手な奥方様の置かれたさみしい立場なども描かれていきます。

妻に先立たれた後、旦那もただのうのうと過ごしているわけではありません。

小間使いの中には既に旦那とただならぬ関係となった娘もいて……。

 

そんな風に、妖鬼である皐月と生き屏風である奥方様とのやり取りを描いたのが、本書です。

癖のある表紙と書き出しのグロさとはあまりにもかけ離れており、実際にはほのぼのと人間と妖怪の日々の生活を描いたお伽草紙のような、昔話のような雰囲気の物語でした。

 

皐月を軸とした短篇集

本書には表題作『生き屏風』以外に、『猫雪』『狐妖の宴』という二つの短編が収められています。

なんの予備知識もなく読み始めたのでてっきりそれぞれ独立した話かな、と思っていたら、いずれも妖鬼・皐月が登場する物語でした。

『生き屏風』を読み終える頃には「皐月ちゃんめっちゃ良い子じゃん」といった具合に皐月への好感度や愛着が膨れ上がっていましたので、続く『猫雪』の序盤に皐月が登場した時点で、つい嬉しくなってしまいました。

 

……って、あれ?

書き始めにレーベルを盛大にディスってしまいましたが、本書ってもしかして「オカルト風味ラノベレーベル」のはしり的な作品だったりして。

 

ま、いいんです。

面白ければそれで。

インシテミル』の関水美夜や『another』の見崎鳴に夢中になってしまった時期もありましたから。

キャラ萌えも読書の醍醐味っちゃ醍醐味ですからね。

 

嬉しいことに続編もあった

さらに調べてみたところ、『魂追い』『皐月鬼』と続編も皐月鬼シリーズとして刊行されている事がわかりました。

後の2冊は皐月が表紙を飾っており、完全に今風の「オカルト風味ライトノベルレーベル」の雰囲気でいっぱいです(笑)

こりゃあつい、読みたくなってしまうかも……。

 

ただし、2010年の『皐月鬼』以来シリーズが途絶えているのが気になるところですが……。

現在も他の作品を発表したり、ホラー小説というジャンルにおいてはしっかりと立ち位置を築かれているようですから、また話題作を書き上げられるのを期待して、とりあえずは皐月シリーズを楽しむ事にしたいと思います。

 

皆さんも読んでみてください。

皐月ちゃん、良い子ですから。

 

ちなみに……

田辺青蛙という名前の読み方がわからず、作者について調べてみました。

ところが……

 

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ん?

四行目にご注目。

 

コスプレ?

 

なんと作者、コスプレ趣味があったらしく、日本ホラー小説大賞の授賞式でもエヴァンゲリオン綾波レイを披露したのだとか。

検索してみると……あー、ありますわ。確かに。

エヴァンゲリオンとかゲゲゲの鬼太郎とか、2010年に作家の円城塔氏と結婚した際には、お祝いのパーティーで今度は碇シンジのコスプレしただとか。

 

それから10年近く経ってますので、今もまだコスプレを楽しまれているのかは定かではありませんが。

興味のある方は、ネットで検索してみてくださいね。

 

……あ、肝心な事を書き忘れていました。

 

作者名の読み方。

 

青蛙と書いて、「せいあ」と読むらしいです。

田辺青蛙(せいあ)。

 

以上。

 

 続編はこちら

https://www.instagram.com/p/BnFSNzNnEOI/

#生き屏風 #田辺青蛙 読了長い間 #積読 化されて本棚に眠っていた作品です。読んでみて初めて、今まで読まなかった事を後悔。非常に耽美で幻想的な良い物語でした。主人公は村外れに住む妖鬼の皐月。ある日皐月の元に酒屋の旦那からお呼びがかかります。数年前に死んだ奥方様が屏風に取り憑き、毎年夏になると無理難題の我が儘放題で困り果てているので、皐月に面倒を見て欲しいというもの。そうして始まる意地悪な奥方様と皐月との日々のお話。序盤こそ #芥川龍之介 や #坂口安吾 を思わせる #幻想小説 の雰囲気なのですが、読むに連れてもう一つ重要な要素に気づきます。皐月ちゃん、めっちゃ良い子。読み終わる頃にはすっかり「皐月萌え〜」な感じに ……かと思ったら同時収録された短編2作にも皐月が登場するじゃないか。しかも調べてみるとシリーズ作品として以下2刊が刊行されている模様。これは……読まねば#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ#読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールよりご確認下さい。

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』歌野晶午

〈しかし、このゲームは僕ら五人が謎解きを楽しむためのものであり、世間に対して何かをしようとしているのではない〉

 今回読んだのは歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』

歌野晶午と言えばなんといっても『葉桜の季節に君を想うということ』が代表作に挙げられますよね。

『葉桜の季節に君を想うということ』はフェアか、アンフェアかと推理小説ファンの間で大論争を呼び、未だに名作・問題作として「読むべき推理小説」に挙げる声も少なくありません。

とりわけ「よく似た作品」として挙げられる『イニシエーション・ラブが映画化された2015年には人気が再燃したと感じたものです。

 

新本格推理小説ブームの次男坊

さて、そんな歌野晶午氏に対して、僕の中では綾辻行人法月綸太郎我孫子武丸と並ぶ講談社新本格推理小説四兄弟の次男坊としての印象が強く残っています。

この「新本格推理」ブーム、綾辻行人の二作目である水車館の殺人の帯に使用されたのを皮切りに、当時の編集者宇山日出臣が仕掛けたというのが始まりとされています。

講談社からは未だ名作と呼び声の高い十角館の殺人で一大センセーショナルを巻き起こした綾辻行人を筆頭に、続いてデビューしたのが歌野晶午。そして法月綸太郎我孫子武丸と続きます。さらに麻耶雄嵩二階堂黎人、次いで森博嗣京極夏彦が登場する訳ですが、どうも1990年以降のデビュー組からはちょっと毛色が違ってしまいました。

麻耶雄嵩のデビュー作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』では処女作にして名探偵メルカトル鮎が死ぬ、というとんでもない事態が起こってしまいますし、1990年デビューの太田忠司は後に“ジュブナイルミステリ”と呼ばれる少年探偵が特徴でした。二階堂黎人は鼻につくお嬢様探偵だったり。

森博嗣京極夏彦はいうに及ばず、後発組に関しては時代の要請もあってか「純然たる本格推理小説」の枠を飛び出し、キャラクター等の突拍子もない設定や荒唐無稽な奇をてらったストーリーを取り入れたよりエンターテインメント性の高い、一般向けの娯楽小説として昇華されていったと感じています。

逆に言うと、「エラリイ」だ、「カー」だ、「読者への挑戦状」だ、「ノックスの十戒」だ、「ヴァン・ダインの20則」だと小うるさくこだわったのは島田荘司を筆頭に綾辻行人歌野晶午法月綸太郎我孫子武丸創元社から同時期にデビューした有栖川有栖を加えたあたりまでかな、と。

僕は彼らの作品を貪るように次々と読み漁っていたのですが、後にデビューしてくる作家たちの作風の変化に違和感を感じてしまい、やがて推理小説熱は冷めてしまいました。

そうしてしばらく離れている間に、いつの間にか彼らも本格推理小説の枠から飛び出して、様々な方向性を模索していたのでした。

 

ゲームの脚本やクイズ番組の監修などでいち早く才能を開花させた我孫子武丸

ただの麻雀マニアに零落れているかと思いきや『another』で再ブレイクを果たした綾辻行人

唯一本格推理小説にこだわり書き続けた法月綸太郎

法月綸太郎同様、本格推理小説を書き続ける傍ら、映像化や漫画家、舞台にドラマにとメディアミックスに勤しんだ有栖川有栖

 

そして――

 

僕の中で唯一、「ぱっとしない」と思われていたのが歌野晶午だったのです。

 

早々とシリーズを捨てた歌野晶午

歌野晶午は1988年に『長い家の殺人』でデビューしました。

以降は名探偵・信濃譲二を中心とした『白い家の殺人』『動く家の殺人』の家シリーズを展開してきましたが、三作目の『動く家の殺人』でシリーズは一旦途絶え、『ガラス張りの誘拐』、『死体を買う男』、『さらわれたい女』と年一冊のペースで刊行し、そこから『ROMMY』まで3年近い休眠状態に入ってしまいます。

名探偵・信濃譲二、僕は好きだったんですけどね。

何せ堂々と大麻を所持し、使用するような男でしたから。

 

大麻は煙草よりも有益で健康被害も少ない。外国では認められている国も多い。

 

王道を地で行くような法月綸太郎有栖川有栖よりも、そんな持論を展開する名探偵の個性溢れる姿が気に入っていました。

結局三作目『動く家の殺人』において大麻所持の疑いで逮捕、呆気なく名探偵は退場、となってしまうのですが。

 

実は、ここが意外と問題だったと感じています。

 

新本格推理小説ブームとは、名探偵ブームの再来だったと言い換える事もできます。

館シリーズ御手洗潔であり、法月綸太郎であり、有栖川有栖であり、鞠小路鞠夫といった現代に現れた名探偵を愛でるブームでもあったのです。

 

ところが、歌野晶午は早々と名探偵を捨ててしまった。

 

 『動く家の殺人』の新装版では、わざわざ前書きとして作者が

 

信濃譲二を退場させるために書いた作品である。

 

と書いているほどですから、自ら望んで名探偵を捨ててしまったのです。

ところが読者側としては困ってしまいます。

ガラス張りの誘拐』、『死体を買う男』と新作が刊行されても、慣れ親しんだ名探偵・信濃譲二は出てこないんですから。

 

「あれ?」

「一話完結もの? シリーズじゃないの?」

 

と思われちゃいますよね。

当時は新本格推理に湧き、そこかしこで「本格推理小説とは?」「名探偵とは?」といった議論が活発化していたような時期ですから。

 

少年漫画誌に例えれば、一話完結の作品なんて読み切り作品みたいなものなんです。

次週に続くわけでもない、読み飛ばしてもなんら問題のない作品。

 

ええ、はっきり言いましょう。

僕は買いませんでした。

僕は名探偵・信濃譲二であり、「家シリーズ」の再開を待っていたんです。

当時、そうではない作品に金を払って買う価値があるだなんて微塵も思いませんでした。

ましてや文壇には次々と新しい作家がデビューし、新たなシリーズが生まれていましたからね。

気持ち的にはそちらに手が伸びてしまいます。

 

……結果的に言うと、その後手にした太田忠司麻耶雄嵩二階堂黎人も、僕の欲求を満たすには至らなかったんですけどね。

そうして森博嗣京極夏彦に進んだ結果、当時の僕には難しすぎてさっぱり理解ができず、読んでも全く面白さを感じられず、推理小説自体から離れてしまう結果となったのですが。

 

大進化を遂げていた歌野晶午

僕が再び歌野晶午作品を手にしたのは2015年。

それは『葉桜の季節に君を想うということ』

 

いや、びっくりしましたね。

 

話題になる理由もよくわかったし、論争が起こるのも理解できた。

でも、久しぶりに推理小説を読んで全身が震えるほどの衝撃を受けました。

十角館の殺人』、『迷路館の殺人』を読んで以来の衝撃です。

 

あの歌野晶午が、まさかこんなにもとんでもない作品を生み出していたとは。

いち早く名探偵シリーズものから脱却し、方向性を模索してきた苦労が実を結んでいたようです。

 

慌てて調べてみると、その後も「このミステリーがすごい!」や「本格ミステリ・ベスト10」に入賞するような作品を次々と発表しているんですね。

都度、アリ?ナシ?といった論争が起きたりもしているようですが(笑)

 

そんな中で一際目を惹いたのが、本格ミステリ・ベスト10で2008年6位、2010年1位、2012年8位と好評化が続く、本作『密室殺人ゲーム王手飛車取り』をはじめとする「密室殺人ゲーム」シリーズでした。

 

実際の殺人を元に繰り広げられる推理ゲーム

ネット上で出会った“頭狂人”、“044APD”、“aXe(アクス)”、“ザンギャ君”、“伴道全教授”という5人が、殺人事件の推理ゲームを行うというのがおおよそのあらすじです。

奇妙なニックネームに加え、ダースベイダーやジェイソン等、身バレしないようコスプレをしてチャットに臨む5人の姿も異様ですが、何よりも恐ろしいのはゲームは実際の事件を元にしているというもの。

つまり、5人の中で出題者に選ばれた者は実際に殺人を犯した上で、その事件の手口や意図等を出題するのです。

最初に出題者となったaXeは次々と連続殺人を犯します。被害者に共通点は見当たらず、唯一の手がかりは意図的に操作された時計のみ。

一見無関係に見える被害者たちのミッシングリンク(=隠された共通点)を探る事こそが、他の4人に与えられた課題。

なかなか謎を解けない4人の為に、aXeは一人、また一人と罪を犯し、彼らにヒントを提示します。逆に言うと、ヒントを提示するために被害者を増やしていく、という展開。

 

かなり異常ですよね。

ですが彼らは和気あいあいとゲームとして楽しんでいるのです。

「おお、探偵たちよ。三人目も死なせてしまうとはなさけない」

ドラクエかよ」

 ついつい笑ってしまいました。

 

続いて出題者に選ばれたのは伴道全教授。

こちらは流れ的に急遽出番が回ってきたという様子で、昔ながらの時刻表トリックが提示されますが、簡単に見破られてしまいます。

 

三人目の出題者はザンギャ君。

密室化した自宅アパートの中で起きた殺人事件。被害者は男性で、切り取られた首は部屋の花瓶の上に生けられていた。胴体は離れた公園に置かれた衣装ケースから発見。部屋の外では道路工事が行われており、目立つ動きをすればすぐさま作業員に見つかってしまう。

どうやって重い胴体を公園まで運んだか、というのがザンギャ君の問題です。

 

四人目は再び伴道全教授でしたが、今度は飛行機を使ったアリバイの問題。海外にいた伴道全教授には殺人は不可能なはずでしたが……今回もあっさりと看破されてしまいます。伴道全教授の回は口直し的な位置づけだと思えてきます。

 

そして五人目こそが044APD。

刑事コロンボの愛車のナンバーから取ったというニックネームから“コロンボ”と呼ばれる彼は、これまでの問題においても明晰な頭脳と切れ味鋭い推理を見せ、どうやら他のメンバーからも一目を置かれている様子。

そんな彼が用意した問題は、とある住宅の中での殺人事件。殺されたのはその家の主人だけで、妻と子は無事。朝、起こそうとした妻が死んでいる主人を発見したという。

問題なのはその住宅。警備員が常駐するという高級住宅地の中にあり、さらにホームセキュリティも完備。二重の密室を乗り越え、他の住人に気づかれる事もなく、コロンボはどうやって主人を殺害したのか。

 

この難題にいよいよ物語は盛り上がりを見せ、続く六人目は本作の主人公である頭狂人の出番。

ここまでは連作短篇集的に物語が続いて来ましたが、ここから一気に大きく展開する事になります。

さらにクライマックスに至る一連の流れは、まさに「読む手が止まらない」状態となってしまいました。

 

とんでもない作品でした。

読み終わってすぐ、続編である『密室殺人ゲーム2.0』と『密室殺人ゲームマニアックス』をポチってしまうぐらいの興奮。

個人的には『葉桜の季節に君を想うということ』と同じぐらい、いや、フェアさで言えば本作の方が素直に受け入れられるという点で上回る面白さに感じました。

 

エンディングに賛否両論はあるようですけどね。

でもその手前で十分楽しませてもらえたので、僕としては非常に満足です。

むしろ「次作を読まなきゃ」と期待感を誘発してくれたという点では、感謝したいぐらい。

だって上に書いた通り、名探偵・信濃譲二の「家シリーズ」は期待に反してあっさりと完結されてしまったというトラウマがありますからね。

 

推理小説って感想書きにくいですよね

何を書いてもネタバレになっちゃいますし。

十角館の殺人』、『迷路館の殺人』で一生消すことのできないであろう衝撃を受けた自身の経験から、素晴らしい作品であればある程、ネタバレはしたくないんです。

ネットでも、下手すりゃリアル書店の棚でも時々ありますよね。

 

「○○トリック特集!」

「驚愕のどんでん返し○選!」

 

 とかね。

 

いやいや、トリックがわかって読む推理小説とかつまんねーでしょ。

どんでん返しがあるとわかって読んだら身構えちゃいでしょ。

 

っていう。

もうアホか、と。

そこで紹介されているのを目にした時点で、もう半分面白さ損なわれちゃってますよ。

 

そういう意味では、全く何の予備知識もない状態で『十角館の殺人』や『迷路館の殺人』を楽しめた僕は、かなり幸運だったなと感じます。

 

そんなわけで、本作に関してもざっくりと一連のあらすじ的な部分だけをご紹介するに留めました。

 

僕の推理小説熱に再び火を点けてしまった本作 『密室殺人ゲーム王手飛車取り』、詳しくはぜひご自身の目で確かめていただきたいと思います。

 

最後に……

歌野晶午って格闘技好きなんですかね?

「〈ヒョードルvsミルコ CMのあとすぐ!〉とテロップが出て、CM明けに試合が始まるかね。CM明けはヒョードルの過去の試合のダイジェストだ。次のCM明けはミルコの生い立ちをまとめたVTRだ。その次のCM明けこそはと思ったら、ズールなんていうブラジル人が出てくる。結局一時間待たされて、ヒョードルvミルコのゴングが鳴るわけだ。テレビ番組の煽りなんて、みんなこんなものではないか。へたしたら〈このあとすぐ!〉でさんざん引っ張ったあげく、番組の最後に試合のさわりだけやって、〈次週、ノーカット放送!〉なんてテロップを臆面もなく出す」

僕も格闘技やプロレスが好きなので、この辺のくだりには爆笑してしいました。

上にご紹介したドラクエのくだりもそうですが、ちょいちょい挟まれている小ネタにも笑わされてしまいます。

歌野晶午って、こんなユーモラスな一面もあったのね。

続編はこちら

https://www.instagram.com/p/BnCrEpZHkez/

#密室殺人ゲーム王手飛車取り #歌野晶午 読了いやいや、評判は耳にしていましたが。最高でした。フェアかアンフェアかで意見が分かれる #葉桜の季節に君を想うということ よりも個人的には上です。歌野晶午、すごい。もう改めて初期の家シリーズから読み直さなきゃならないんじゃないかっていうぐらい脱帽です。ネタバレは避けたいので詳細は避けますが、ブログには #新本格推理ブーム や過去の歌野晶午に対する思いなどもまとめましたので、興味があればご一読下さい。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。