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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『容疑者Xの献身』東野圭吾

「最後に石神と会ったとき、彼から数学の問題を出された。N≠NP問題というものだ。自分で考えて答えを出すのと、他人から聞いた答えが正しいかどうか確かめるのとは、どちらが簡単か――有名な難問だ」 

今更感もあるかもしれませんが、今回読んだのは東野圭吾の代表的シリーズでもあるガリレオシリーズ』

その中でも代表作と呼べるのが本書容疑者Xの献身ではないでしょうか。 

ガリレオシリーズの三作目にして初の長編作品。

第134回直木三十五賞をはじめ、第6回本格ミステリ大賞本格ミステリ・ベスト10 2006年版、このミステリーがすごい!2006、2005年「週刊文春」ミステリベスト10と数々の賞を総舐めにした東野圭吾自身の代表作でもあります。

テレビドラマにもなった『ガリレオシリーズ』の劇場版として、2008年映画化。

www.youtube.com

さらに日本を飛び出して、韓国版や中国版、舞台版と今もなお広がり続ける超大作です。

 

量産型佳作作家・東野圭吾

ふと気づいてみたら、ブログで東野圭吾作品について書くのは初めてだったんですね。

ちなみにこれまで読んだのは『天空の蜂』『夜明けの街で』『放課後』『秘密』『探偵ガリレオ』『ある閉ざされた雪の山荘で』『パラレルワールド・ラブストーリー』といったところです。

 

あんまり多くはないですよね。

 

それもそのはずで、僕的にはどちらかというと東野圭吾作品は「避けたくなる」作品でした。

単刀直入に言って、東野圭吾に対する僕のイメージは『量産型佳作作家』というものです。

とにかく次々と作品を発表し、どれもそれなりの話題作となるものの、実際読んでみるとそこまで感動も感慨もなく……。

しかしながら大きな“ハズレ”も少ないため、突出した読みやすさとメディアの販売促進でもって次々と消費されていく量産型の作家さん。

少し前だと赤川次郎と重なる部分も多いように感じられます。

 

そういう作家さんって、なんとなく「物の真贋をわかった気になっている」ような人たちには避けられがちですよね。

……という自虐なんですけど。

 

これまでの東野作品ではベスト

前置きが長くなってしまいましたが、『容疑者Xの献身』。

これについてはめちゃくちゃ良かったです。

 

母娘の前に現れた別れた夫を、衝動的に殺害してしまう。

混乱する母娘に手を差し伸べたのは、隣人である数学教師・石神。

密かに想いを寄せていた隣人を救うため、石神は事件の偽装に乗り出す。

 

簡単に述べると上記のようなあらすじです。

 

東野作品ならではの軽快さ・読みやすさも健在ですが、それに加えてやはりなんといってもトリックが素晴らしい。

 

読み進める中でこびりつくように残っていた違和感が、最後にはすっきり一掃されるという鮮烈なものでした。

本格ミステリ大賞受賞は伊達ではないですね。

受賞に関しては一部の本格推理小説作家から疑問を呈する声も挙がり、「本格か否か」という論争に発展したと言われていますが、正直すげーどうでもいいです。

 

だって面白いもん。

 

っていうか二〇堂〇人の負け惜しみなんじゃねえの、と思ってしまいます。

(↑伏字は万が一エゴサーチされたら面倒くさいから)

その他、容疑者の行動が道義的にどうかとか云々かんぬん。

 

本格推理小説なんて殺人だけにとどまらず切ったりくっつけたり運んだりやりたい放題だと思うんですけどね。

動機にしたって金や怨恨はチープ過ぎるからと半ばタブー化され、精神異常者や芸術、科学への傾倒等々、わけのわからないものが増え続けちゃってるんですけど。

 

あとは「登場人物の描き方が薄っぺらい」みたいな批判もあったかな。

 

でもあんまりグダグダと細かく書かれてもなんだかなぁ、とせっかくのテンポが崩れてしまうのでこれはこれでありだと思いますけどね。

 

ちなみに直木賞の場合は選評がネットで見られますが、本書が受賞した134回は圧巻ですね。

ほぼ全会一致で独り勝ち状態です。

本格ミステリ大賞と評価基準は違うとはいえ、こうなるとそもそもフェアかアンフェアかという論争自体がナンセンスに思えてきます。

prizesworld.com

ここまで明暗が明らかなのも珍しく思えますので、興味のある方はご覧になってみて下さい。

 

 

マニアがジャンルをつぶす

上記はブシロード社長である木谷高明氏の言葉です。

買収からV字回復を果たした新日本プロレスについて語った中での一言なんですが、現在ではプロレス界を飛び出して様々なシーンで使われているようです。

コアなユーザーがライトなユーザーを拒絶していたがために、プロレスが衰退していった面もありました。僕は“すべてのジャンルはマニアが潰す”と思っていますから。

www.news-postseven.com

かなり説得力に満ち溢れた言葉ですよね。

耳が痛い言葉でもありますが。

 

でも真理を突いていると思います。

 

推理小説も『新本格推理ブーム』で盛り上がって以降、妙に小うるさくなった印象があります。

ノックスの十戒ヴァン・ダインの二十則、読者への挑戦状といった古典的な要素を持出し、いかにも「こうでなければならない」的に自分たちを締め付けた挙句、どれも似たような、既視感のある作品だらけになってブームが終息していってしまったという印象です。

 

全ての手がかりが読者に向けて提示されるべき

 

みたいな主張って「でも作品によるよね」という注釈つきとすべきであって。

やらない方が作品としての完成度や面白さが増すのであれば、やらない方が良いに決まってます。

 

とはいえ、特に意味もなく“それっぽさ”を出したいが為に謎を匂わせたり、作品自体がしょうもないのに荒唐無稽な“ハズシ”を入れたり、伏線張りまくって放り投げたりするのはもちろん不愉快ですけどね。

そういうものに対しては容赦なく異を唱えます。

 

前にもあったなぁ。

推理小説風でありながら、ただの純愛小説だったとか。

 

あれは未だに思い出すだけで腹立たしいです。

linus.hatenablog.jp

 

ガリレオシリーズ』は当たり?

僕的に東野圭吾の評価はあまり高くないのは先に述べましたが、本書を読み終わった後で思い返してみると、先に読んだ『探偵ガリレオ』もなかなか悪くなかったんですよね。

もしかしたら『ガリレオシリーズ』は当たりなのかもしれませんね。

 

とりあえずは『容疑者Xの献身』のDVDを借りてきてみたいと思います。

 

堤真一松雪泰子も演技派で好きな役者さんですから、非常に楽しみです。

今まで幾度となくテレビ放送もされてきたのに、どうして観なかったんだと笑われてしまうかもしれませんが。

 

原作ありきの映画は原作先読み主義なので、ご容赦ください。

 

追記

劇場版見ました

今更何言ってんだと言われそうですが、ようやく年末の忙しさも落ち着いたので劇場版『容疑者Xの献身』のDVDを借りてきて見ました。

 

僕はテレビドラマのガリレオシリーズを全く観ていなかったので、同ドラマシリーズに対しては「福山雅治主演の人気ドラマ」ぐらいの予備知識しかありませんでした。

 

ですので冒頭の爆破シーンなんかは、いかにもテレビ的であんまり好きじゃないなぁと思ったりもしたんですが。

 

改めて観てびっくり。

 

評判通り、堤真一の演技が素晴らしいですね。

原作を読んでいるにも関わらず、ラストはついつい涙してしまいました。

 

石神が彼女たちとの出会いとその後の日々を回想するシーン。

実に切なかった。

 

そして原作には登場しない内海刑事も、柴咲コウの勝気そうなイメージと違い、実に女の子らしい可愛らしさを発揮していましたね。

 

名作と言われるのもうなずけます。

 

実に面白い。

 

https://www.instagram.com/p/Bqn-trQlnqg/

#容疑者xの献身 #東野圭吾 読了#第134回直木賞 受賞作品東野圭吾ってあんまり得意じゃないんですけどね。多作で話題作も多い一方、大味でガツンと来る作品に巡り会える確率は低い印象なんです。でもこれは良かった。ちょっとずつ重なってい違和感が最後にぐるりと解消されるカタルシスと、石神に漂う切なさの組み立てが素晴らしい。食わず嫌いは良くないですね。ガリレオシリーズは今後も読んでみます。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。