私も君も、もしかしたら明日死ぬかもしれないのにさ。そういう意味では私も君も変わんないよ、きっと。一日の価値は全部一緒なんだから、何をしたかの差なんかで私の今日の価値は変わらない。
住野よるさん、人気ですね
TwitterやInstagramのTLを見ていても、住野よるさんの著作を見ない日はないように感じています。
その中でも本書『君の膵臓をたべたい』は著者のデビュー作であり、映画化に続き間もなくアニメ化も控え、その勢いは衰えを知らないという様子です。
元々電撃大賞に応募して落選した作品を「小説家になろう」のサイトにアップしたところ、出版に至ったのだとか。
近年新たな作家排出先として話題の「なろう作家」筆頭といったところでしょうか。
なんとあの『鋼と羊の森』と2016年の本屋大賞を争った末、二位に終わっているんですね。
両者とも読んだ僕の感想としては「『鋼と羊の森』は相手が悪かった」としか言いようがありません。
あれは近年稀に見る傑作ですし。
あれ、これってどこかで……
「僕」は病院でたまたま「共病文庫」というタイトルの文庫本を拾います。
膵臓の病に冒され、余命が長くない事を記した日記。
それを取りに戻ってきた相手は、クラスメイトの山内桜良だった。
共病文庫と彼女の病を知るのはクラスの中で「僕」たった一人。
それまでは友人もおらず一人で小説の世界に入り浸っていた僕は、桜良の「死ぬ前にやりたいこと」に付き合う羽目になり、焼肉やスイーツバイキングを食べに行き、二人で旅行に出かけ……今までは経験して来なかった様々な体験を通し、次第に心を通わせ、成長していく。
なんとなく読み始め、話のアウトラインが見えてきた段階で既視感が生まれます。
あれ、これってどこかで……
そうです。これは僕がさんざん貶してきた片山恭一『セカチュー(世界の中心で愛を叫ぶ)』であり、中村航『100回泣くこと』であり、古くは『風立ちぬ』から見られる物語の構造と一緒じゃないですか。
拭えないテンプレ感
こういった物語は基本的にストーリーも似通ってきます。
- 出会いから始まり、二人が親密さを増し、お互いに相手の重要さを認識。
- 盛り上がる感情と反比例するようにやがて訪れる彼女の死という逃れられない運命に苦悩。
- 愛を語る上でこれ以上ないカンフル剤として「病」を利用し、あとは死後の喪失感を描く。
ざっくりこんな感じです。
死を描くことで愛がより際立ち、喪失感で涙を誘うというお決まりのパターン。
『君の膵臓をたべたい』もまた、予想される展開が続きます。
読むのが苦痛になるぐらい、当たり障りのない日常描写がこれでもかというぐらいに続けられるのです。
意味はわからずともとにかく謝る。怒っている人に唯一にして最大の効力を発揮する行動をとることを僕は厭わない。
俗に言う「中二病」の塊のような主人公に自己投影が出来るか、底抜けのように明るく天真爛漫とした桜良に感情移入できるかでこの作品の評価は大きく変わるでしょう。
アマゾンをはじめとする口コミでも低評価の多くはこの辺りに集中しているように思えます。
ラノベだった、と評価する向きも少なくありません。
正直なところ、読む側の年代を選ぶ作品であるのは間違いありません。
上記のようなキャラクター像に加え、高校生にも関わらずあまりにも無垢で純真な二人のやり取りにどこか非現実感を感じてしまう人も少なくないでしょうから。
実はオリジナリティーの塊
否定的な意見ばかり書いてきたように思われるかもしれませんが、実は僕個人としては本作は良い方に評価しています。
テンプレ、と上に書きましたが、明らかにテンプレを“外し”て来ているところも多いんですね。しっかりとオリジナリティーが盛り込まれた作品なのです。
わかりやすいところで「膵臓の病にも関わらず医学の進歩でヒロインは日常生活を送る事ができる」という点でしょう。
そのため他の似た作品に見られたような、ヒロインが心身ともに病に冒され行く悲壮感は非常に少なめです。
桜良の明るさを通し、その裏に隠された死への思いを読者に自分で想像させるという新しい描き方をしています。
また、桜良の死についても詳しくは書きませんが、他の作品とは異なる意外性が用いられています。
予定調和的に死に至る運命、というものを考えさせられてしまいます。
生きるということ、死ぬということ。
これまでのテンプレ小説よりは新たな切り口で、深く掘り下げていると思うのですがいかがでしょう?
セカチューなんかよりはよっぽど面白いと思えたのですが。
映画版が見たい
2017年夏、本作は映画化されました。
ダブル主演?
ちょっと待て下さい。
大人になった主人公のシーンなんて、原作には無かったぞ。
桜良の死から12年経過し、“僕”が母校の教師となった現在と、桜良と一緒に過ごした学生時代の2つの時間軸を交差させながらストーリーが紡がれていく
なんじゃそりゃ???
???です
でもまぁ、確かに原作はひたすら二人であーだのこーだのという展開が続いてあまり動きはありませんから、未来の姿を入れて展開に動きを出すのはありかもしれません。
小栗旬なら演技力にも心配はないですしね。
今度見てみます。
また、2018年にはアニメ化も決定。
こちらも公開が楽しみですね。