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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『太陽のパスタ、豆のスープ』宮下奈都

自然にしていればいい。ちゃんと黄色を選べたんだから。そのうち頭がゆるんで、身体も心もゆるんでくるよ。それまでは、ひとつずつゆっくり作業するといいかもしれないね。慌てることないよ、あすわはあすわだから。

 第13回本屋大賞を受賞した羊と鋼の森でがっちり僕の心を掴んでしまった宮下奈都さんの『太陽のパスタ、豆のスープ』です。

ちなみに『羊と鋼の森』は公開されてすぐに劇場版も観てきました。

原作レイプ”と詰られる映像化作品も多い中、羊と鋼の森』は原作の空気感を忠実に再現した素晴らしい映画でした。

詳しくはこちらのブログをどうぞ。

linus.hatenablog.jp

 

この出会いから「宮下奈都ってすごい!」「他にはどんな作品書いてるの?」と僕の宮下奈都探訪が始まりました。

と言っても読んだのはまだ下記の『たったそれだけ』1冊だけですが。

linus.hatenablog.jp

『たったそれだけ』は一人の男性の失踪が、彼に関わる6人の人間たちにどのような影響を与えたかを描いた6話の連作短編集。

羊と鋼の森』の衝撃に比べてしまうと物足りなさは否めませんが、するすると頭に入ってくる文章は秀逸でした。

 

そうして遂に手にした3冊目が本書『太陽のパスタ、豆のスープ』

デビュー作であるスコーレNo.4』と並び、宮下奈都の初期の代表作の一つに挙げる声も多いようです。

それでは、内容をご紹介しましょう。

 

ドリフターズ・リスト

本書は主人公である明日羽が婚約者から破断を申し渡されるところから始まります。

結婚式の日取りも決まり、周囲への連絡もあらかた済んだ段階での婚約解消。

きっと彼にはどうしても引っ掛かってしまう何かがあったのでしょう。

憔悴する明日羽の元へやってくるのが叔母のロッカさん。

明日羽とは一回りぐらい年が離れるるものの独身生活を謳歌しているロッカさんは、明日羽に「やりたい事を書き出す」ように促す。

それこそが“ドリフターズ・リスト”。

本来の意味で言うとドリフターズ(=漂流者)なので、漂流者の指針となるようなリストの事らしいのですが。

ひょんな事から明日羽はドリフターズ・リストを書き出し、一つ一つ実現していこうと思うようになります。

まずは引っ越しから始まり、髪を切り、エステに行き……。

子どもの頃からの友人で性同一性障害を抱える京(男の女の子)やロッカさん、さらに会社の同僚である郁ちゃんといった人々に囲まれ、家族に支えられながら生活していくうちに、明日羽のドリフターズ・リストはどんどん修正され、書き足されていきます。

最終的には……

  • きれいになる
  • 毎日鍋を使う
  • やりたいことをやる
  • ぱーっと旅行をする
  • 新しく始める

見ただけじゃさっぱり意味がわからんけど(笑)

 

そうしてようやくリストが手放せないモノへとなりつつあった頃に、二度目に出かけたエステで、オーナー兼エステティシャンの桜井さんから水を差されてしまいます。

 

リストなんてやめたほうがいい。リストって反面教師なのよ。たとえば、克己って書く人は、自分を克服していない人。今日やれることを明日に延ばすなって書く人はいつも明日に延ばしちゃう人でしょう。自分の気になっていること、自分にはできないことを上げるのね。つまり、不可能リストなの。そのリストに書かれているのはすべてあなたの弱点だってこと。ほんとうに大事なこと。どうしても守りたいものは口に出したり紙に書いたりしないほうが賢明なんじゃないかしら。

 

 不可能リスト!!!

 

強烈な言葉です。

その時の明日羽の心境を表す様子がこちら。

不可能リスト。――静かな雨が、窓の外の景色をねずみ色に変えていた。

 

これこそ宮下奈都らしい表現ですよね。

心に影が差すような心境を上手に表現されています。

 

こういうのを探すのが、大好きなんだ。

 

そうして迷った末、リストから距離を置く事を決めた明日羽に、ロッカさんはあっさりと、

「あほらし」

「なんで」

「買い被りすぎ」

「何をよ」

「リストをよ。リストにしがみついてるのやめたほうがいいって」

「ええっ」

なんて言い放ったりします。

ロッカさん、良い性格です(笑)

でもこうしてリストから解放される頃には、明日羽の生活にも少しずつ変化が訪れていたりして。

その辺りの詳細については実際にご自身の目でご確認下さい。

 

魅力的なキャラクター

改めて思い起こしてみると、『羊と鋼の森』も魅力的なキャラクターが多かったですよね。

板鳥さんをはじめ、柳さんや秋野さんといった個性溢れる調律師の皆さん。

柳さんの彼女の濱野さん。

和音と由仁の双子。

文章の綺麗さに意識が向かってしまいがちですが、登場人物たちの魅力も『羊と鋼の森』の人気の一つなのでしょう。

 

本書にも負けず劣らず、魅力的なキャラクターが多数登場します。

叔母のロッカさんは最初から最後まで明日羽の一番の友人(?)としてとびきり強い個性を発揮していますし、幼馴染みで性同一性障害の美容師・京も明日羽の親友としてここぞという場面に登場してくれます。終盤にかけて明日羽の視野を広げてくれる会社の同僚・郁ちゃんも本当に女性らしく、実際に存在していたら男女問わず多くの人に親しまれそうなキャラクターです。明日羽の両親や、万年フリーターかと思いきやしっかりと夢を抱えている兄の存在も忘れてはなりません。明日羽を奈落の底へと突き落とした張本人である元婚約者の譲さんだって、なかなかどうして見どころのある青年です。

 

そういう意味じゃ、婚約破棄の痛手から立ち直る物語にしちゃあ、ちょっと周囲に恵まれ過ぎなんじゃないの? という気がしないでもありませんが。

 

本書を読む際には、宮下奈都のキャラクターメーカーとしての手腕もぜひ堪能していただきたいと思います。

 

『世界地図の下書き』朝井リョウ

いじめられたら逃げればいい。笑われたら、笑わない人を探しに行けばいい。うまくいかないって思ったら、その相手がほんとうの家族だったとしても、離れればいい。そのとき誰かに、逃げたって笑われてもいいの。

僕の中での鉄板、朝井リョウです。
本書『世界地図の下書き』は少し前から積ん読化していたのですが、読書も進まず、ブログも書けずというここしばらくの停滞感を抜け出した今、ようやく手にするに至りました。

ここしばらくなかったぐらい本が読みたい。

その想いに間違いなく答えてくれるであろう作者が、僕の中では朝井リョウなのです。

朝井リョウとの出会い

デビュー作桐島、部活やめるってよはタイトルにもなっている桐島自身は登場せず、登場人物たちの口から伝聞的に語られるのみという試みが秀逸でした。
それよりも鮮烈だったのは、思春期の高校時代におけるスクールカーストや陰と陽の描き方。こんなにもあの時代の空気感を表現できる朝井リョウってすごい、と素直に思いました。

反面、文章の初々しさは隠しようようもなく……面白い作家が出てきたなあ、ぐらいの感覚でした。

そんな朝井リョウの評価が一変したのは直木賞を受賞した『何者』
誰もが胸の奥に隠し持っているドロリとした感情を生々しく描き出してしまったその手腕に、頭を殴られたような衝撃を受けました。
まさかあの『桐島』の作者がこんなにも成長を遂げているだなんて。

そこからは『もう一度生まれる』『チア男子!』『武道館』と読んできましたがどれも期待を裏切らない面白さでした。
linus.hatenablog.jp

そうして僕の中で朝井リョウはすっかり鉄板として位置付けられるようになったのです。

朝井リョウ初の児童文学

本書『世界地図の下書き』直木賞を受賞した『何者』の後に出版された本です。
しかも第29回坪田譲治文学賞受賞作品
坪田譲治文学賞岡山県が制定した文学賞で、「大人も子どもも共有できる優れた作品」をテーマとしていますが実態としては児童文学に近い傾向があります。
重松清が『ナイフ』で受賞している他、角田光代や梛月美智子、瀬尾まいこ中脇初枝といったそうそうたるメンバーが受賞しています。
とはいえ、直木賞を獲ってから坪田譲治文学賞を狙ったのは朝井リョウが初めて。

上記のような経緯から、本書は児童文学を思わせるような雰囲気漂う作品となっています。

児童養護施設で暮らす五人の子供たち

物語は主人公の小学三年生の太輔が児童養護施設「青葉おひさまの家」で暮らし始めるところから始まります。
同い年の淳也とその妹で一年生の麻利、事ある度にママの話ばかりする二年生の美保子、一人だけ年上でみんなのまとめ役の中学三年生の佐緒里。
みんな元気な子どもかと思いきや、話が進むにつれてそれぞれに様々な事情や悩みを抱えている事が明らかになっていきます。
太輔もまた、ある日突然両親を事故で失った上、引き取ってくれた親戚の家に馴染めずに施設にやってきた子なのです。
表向きには健気に振る舞いつつ、裏に秘めた想いや出来事が少しずつ明るみになって行く様子は、朝井リョウの得意な手法ですね。
『チア男子!』で最後の最後に全員の素顔が暴かれていく様は圧巻でした。本書でも似たような手法が用いられていると言えますが……大きく違うのは本書は「逃げる」事をテーマに書かれている点。

小さな子どもたちが、自らの想像力で、今いる場所から逃げる、もとい、自分の生きる場所をもう一度探しに行く、という選択をする物語。そんな物語を書き、『逃げる場がある』という想像力を失いかけている誰かに届けたいと思いました

とは著者である朝井リョウ自身の言葉。
太輔たちは様々な出来事に見舞われていきますが、それはよくある児童向けの漫画のように乗り越えるべき壁、成長の糧としての存在ではなく、叶うことのない夢、避けるべき困難として彼らの前に立ち塞がるのです。

決して胸がすくような青春小説とはいえません。
むしろほろ苦く、現実と向き直させられる物語と言えるかもしれません。

願いとばし

本書の中における重要なイベントとして「願い飛ばし」が挙げられます。
火を灯した無数のランタンを空に飛ばすという一大イベント。
小学校三年生の大輔は佐緒里と一緒に見に行く約束をしたにも関わらず、残念ながら約束は反故されてしまいます。
その後は「願い飛ばし」自体が財政上の理由などにより休眠状態に。
どんなものかというと……
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これ!
見たことのある人も多いと思います!
塔の上のラプンツェル』に出てきたワンシーン!
とっても幻想的ですよね。
ちなみに日本でも同じようなお祭りを新潟県津南町で開催しています。
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その様子がこちら↓↓↓
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www.youtube.com
津南では冬に行っているのに対し、作中では夏休み中のイベントとして語られていますから季節感は異なりますが、津南の雪まつりにヒントを得ている事は疑う余地もありませんね。

やがて大輔たちはとある理由から「願い飛ばし」と復活させようと企てます。
先に「ほろ苦く、現実と向き直させられる物語」と書きましたが、色々な苦難や壁にぶつかりながらも、一生懸命に生きようとする大輔たちの姿に胸を打たれずにはいられません。

お気に入りの文章抜粋

僕は読書ノートをつけています。
その中で気に入ったり、心に残る場面があればそのまま書き取るようにしているのですが、朝井リョウは特に独特の比喩表現や、思わず「そうそう」と共感してしまうような些末な記憶の文章化に長けているので、残す文章が多くなってしまいます。
本書の中で気に入った部分をご紹介したいと思います。

七月の夕方、山の向こう側にある太陽が、むきだしの肌をちりちり痛めつける。地面に伸びるホウキの柄の影を見て、自分はいまこんなにも長いものをもているはずはない、と太輔は思った。

いきなり自分の名前が出て、太輔はひゅっと心臓が持ち上がった気がした。

一年生の麻利は、黄色い帽子の白いゴムを噛む癖があるらしい。汗が染み込んだゴムはとてもしょっぱい味がすることを、太輔は知っている。

約束ね、という佐緒里の声が、お母さんの声と混ざって、頭の中で溶けた。

九月一日、土曜日の午後四時過ぎ。レーザービームのかたまりのような太陽が、ちょうど目線の位置にある。

五人だけでここにいると、まるでここが、世界の中心のような気がしてくる。ここから、世界の何もかもがすべて、始まっていくような気がする。

小さな宇宙の中にいるみたいだ。グラウンドをぐるりと取り囲むようにして、カメラのレンズが並んでいる。そこらじゅうで、太陽をまるごと反射したレンズがぎらっと光る。まるで宇宙の中でふわふわと踊っているようだ。

誰かが踏み固めた雪は、まるで硝子のように硬い。

「てことは、お姉ちゃん、どこにもいかへんってこと?」
「ちゃう」
 ちゃうよ、と淳也がもう一度言った。
「どこにもいかへんのやなくて、どこにもいけへんてことや」

泉ちゃんは負けない。その声を聞いていると、心臓に、ゆっくりと、針を差し込まれていくような気持ちになる。

雲のないオレンジ色の宇宙が、どかんとそこにある。とてもとても、広い。

いかがでしょう?
朝井リョウの他の作品に比べると、少し児童文学を思わせる言い回しや表現が多いようにも感じます。
否応なく現実を突きつけられ、読んでいる最中はいたたまれなく、切なくなるような物語ですが、読後感としては決して絶望や失望というわけではないんです。
不思議と頑張って生きなくちゃと思わせられる作品ですので、ぜひ読んでみて下さい。

しつこいようですが朝井リョウ、鉄板ですよ。

https://www.instagram.com/p/Bl4_tX9nvSL/
#朝井リョウ #世界地図の下書き 読了ここしばらく本も読めずブログも書けない日々が続いていましたがようやく一区切り。反動のようにやたらと本を読みたい衝動に駆られ、選んだのはやっぱり朝井リョウでした。本書は #何者 で #直木賞 を受賞した後の作品であり #坪田譲治文学賞 の受賞作品でもあります。朝井リョウにしては児童文学っぽい雰囲気でいっぱいの作品。今いる場所から逃げる、もとい、自分の生きる場所をもう一度探しに行く、という選択をする物語という本書は児童養護施設を舞台にしており、何らかの事情で親のいない生活を送る主人公たちには沢山の困難に襲われます。選択肢は立ち向かう、戦うというものばかりではなく、背を向ける、逃げるというものもある。でもそれは、本書の中には明確な言葉としては示されないけれど諦めとも同意だったりもする。なんとも切なくていたたまれない、でも読み終わってみると一生懸命生きようと思わせられる不思議な本。深いです。手に汗握る楽しさとは無縁かもしれませんが、ぜひ一度読んでみて下さい。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『ヒトリシズカ』誉田哲也

なんとも静かな、深夜の住宅街。
その闇間に消えた、一人の少女――。
俺はそのとき、まだ本当の闇の深さというものを、知らずにいたのかもしれない。

誉田哲也です。
警察ものです。
僕のブログやInstagramを見てくれている方の中にはひょっとしたらお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、特に好き嫌いなく何でも本を読むと言っておきながら、実は僕が避けがちなジャンルというのが一つだけあります。
それが警察もの。
僕の読書好きを加速度的に決定づけたのは綾辻行人をはじめとする新本格推理ブーム”というやつで、本格推理小説といえば「密室」「名探偵」という固定概念に縛られていた当時、「本格推理小説のバイブル」的な紹介文が目に入り、たまたま手に取った本が松本清張の『点と線』でした。
読んでみてびっくり。
「密室」「名探偵」も存在しなければ、最初から犯人らしき人物は特定されていて、刑事が足を使って手掛かりを集めて回り、最終的に容疑者のアリバイを看破するという火曜サスペンス劇場そのもののような展開
『点と線』がどれだけ名作で、その後の文壇にどれだけ大きな影響を与えたかなんて知りもせず、考えもしなかった当時、それ以降はいわゆる“社会派推理小説”や“警察もの”は徹底して避け続けたのでした。
現在もなお、その時の名残りが残っていて、なんとなく警察ものの小説は避けてしまう体質になってしまっているのです。

しかしながら本作ヒトリシズカはのっけから交番勤務の巡査部長が主人公を務める“警察もの”だったりします。
にも関わらず本書を選んだのはひとえに誉田哲也だったから」と言えるでしょう。
数々の映像化作品も生み出す人気作家である誉田哲也ですが、作風としては警察を舞台にしたものが多いようです。
ただし、その中で異色とも呼べる作品があるんですね。
それこそが僕の大好きな『武士道シリーズ』!!!

武士道シックスティーン』『武士道セブンティーン』『武士道エイティーン』『武士道ジェネレーション』と続く剣道女子二人を主人公とした青春小説です。
これが僕は大好きで、『武士道シックスティーン』を読み始めたのをきっかけに、翌日にはさっさと『武士道セブンティーン』『武士道エイティーン』を追加で購入して一気読みしてしまったぐらい嵌まった作品でした。
『武士道ジェネレーション』に関してはどうも評判がよろしくないようなので、未読のままだったりするのですが。

 

ともかく『武士道シリーズ』で自分好みの作品を書く作家さんだとは認識していましたので、なんとなく違う本も読んでみようとチャレンジしてみた次第です。
さて、その『ヒトリシズカ』の感想はというと……

 

一人の少女を軸とした6話の連作短編

第一話の『闇一重』は巡査部長の木崎の視点で始まります。
近所で起こった殺人事件の現場に駆け付けると、そこにはすでに先輩の大村の姿が。
事件を追う中で、13歳の伊藤静加という少女の存在が判明します。

続けて第二話『蛍蜘蛛』に移ると、主人公は同じ警察の中でも生活安全課の山岸に代わります。
突如起こった殺人事件の捜査に応援として駆り出される山岸。
捜査を進める中で、被疑者の知人として山岸の行きつけのコンビニエンスストアでアルバイトをする少女が上がってくる。
少女は少し前に、ストーカー被害を訴えに山岸の元を訪ねていたのだ。
彼女の名前は「澤田梢」。
しかし、やがて「澤田梢」は実在しない人物である事が判明する。

……といった具合に物語は進んでいきます。

問題なのは構造があまりにも複雑な事。

一話目と二話目では登場人物はほとんど重なりませんし、発生する事件も別であれば、事件同士のつながりも不明。
そもそも時系列が同時なのか、前後しているのかすらわからないままなのです。

続く第三話『腐屍蝶』では、第一話に登場した静加の父から娘の捜索を依頼された探偵の青木が主人公となります。
青木は静加の遺体にたどり着くものの、どうやらそれは静加とは別人のようだと悟る。
一方、同時に請け負っていた浮気調査で南原という男を追っていたところ、相手に勘づかれて捕まってしまう。
命の危機に晒され、薄れ行く意識の中で青木が最後に見たのは、南原と行動を共にする静加であった。

さらに第四話『罪時雨』では静加の父である伊東が主人公。
いきつけの床屋の店主から、姪が同姓している男から暴力を受けていると相談される。
その姪の子どもこそが、静加だった。

……冷静に見直してみると、第四話は時系列として一番最初のエピソードである事がわかります。
『蛍蜘蛛』の前の話なんですね。

つまり本来は第4話→第1話→第2話→第3話→第5話→第6話という時系列なわけです。
ここでの逆転が、全体を通しての作品通しのつながりや物事の時系列をよりわかりにくくしているように感じます。

第5話では南原宅で銃撃戦が発生。南原を含む5人が死傷したが、その場にいたはずのアキという女性と南原の娘のミオが行方をくらましてしまう。
アキはきっと、伊藤静加であり澤田梢であり……彼女にはいったいどれだけの数の名前があるのでしょう?

そして最終の第6話へと及び、物語は完結に至るわけですが……。


実験的、としか言いようのない作品

……という他ないわけです。
そもそも一体何が書きたいのかが伝わってきません。
伊東静加という少女が幼少から家庭環境に問題を抱えた結果、歪んだ人格が形成されてしまい、人を殺めたり貶めたりする事に一切の躊躇すら覚えない人間が出来上がってしまう。
中学時代に犯した殺人をきっかけに、名を変え、居を変えて点々としながらも他者を傷つけ続ける。
最終話では人道に外れたはずの伊藤静加に、唯一人間の情のようなものが垣間見られたりするわけですが……作者が書きたかったのは悪鬼のような伊藤静加の生きざまなのか、それとも最後に描かれた人としての情なのか。
はたまた時系列や登場人物を入り乱れさせる事で、読者のミスリードを誘うパズル的な手法だったのか。
僕の理解力が乏しいせいかもわかりませんが、本書に関しては誉田哲也の遊び心や探求心が詰まった極めて実験的な作品を言えるのかと思います。

ここしばらく仕事で立て込み、以前書いていた転職活動でも立て込んでしまいまして、すっかり読書どころではなくなってしまっていたのも作品に入り込めなかった一因だったりもします。
本を読むのは昼休みのほんの20~30分程度、という断片的な読書が続いていましたから。
一気通貫で読んでしまえばもう少し頭の中で整理しながら読めたのかもしれませんけど。

それにしても『武士道シリーズ』とはだいぶ趣の違う作品でした。
できれば『武士道シリーズ』的な青春ものも書いて欲しいところなんですけどねー。
次に誉田作品を読むとすれば、『疾風ガール』にでもチャレンジしてみたいと思います。

https://www.instagram.com/p/Blx1CLDnUkx/

#ヒトリシズカ #誉田哲也 読了一人の少女を中心とした全6話の #連作短篇集 とはいえ一話ごとに主人公も違えば事件の相関性もほとんどなく、時系列もバラバラとあって頭の中を整理するのが大変でした。特にここのところずっと一日せいぜい20〜30分しかとれないような断片的な読書が続いていましたので、余計に作中に入り込めず。刑事もの、警察もので有名な誉田哲也ですが、やはり僕的には #武士道シリーズ のような青春ものの方が合うようです。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ#読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログも更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『ドミノ』恩田陸

その姿を見送っていると、また小さく空に先行が走った。ゴロゴロという地鳴りのような遠雷のいる場所を見つけようとするかのように、和美は腕組みにして外に鋭い視線を投げた。

恩田陸の作中に「遠雷」なんて言葉を見つけるとそれだけでドキッとしてしまいます。
蜜蜂と遠雷、本当に良かったですもんね。
1992年に六番目の小夜子でデビューした著者はもう20年以上作家活動をされている計算になりますが、本書の刊行は2001年。デビューして約10年弱の頃の作品です。
ちなみに六番目の小夜子』については僕の大好きな綾辻行人『another』との関係もあり、下記ブログに記していますのでぜひご一読を。

linus.hatenablog.jp

まぁ、読んでいただけばわかるんですけどかなり酷評してるんですけどね(笑)

28人の登場人物

ページをめくって最初に目にするのが「登場人物より一言」と題のついた人物紹介。
なんと全部で28人(?)もいます。
それぞれに

「膝の痛みは何でも教えてくれる。あたしの膝は天気予報と占い師より正確。 

電車の中ではお年寄りに席を譲りましょう。そこ、寝たふりするな!

チャゲ&アス聞いて自分を励まし、日曜は『世界遺産』見て寝ます

といった一言メッセージ付。
今でいうラノベに通じる試みではありますが、約20年近く経った今読むと昭和の匂いがぷんぷんします。
並んだ人物も俗に言う生保レディから子供タレント、大学のミステリ研究室に俳句サークルの老人、ホラー映画監督、農家、果てには猫まで、とバラエティーに富んだラインナップ。
本書『ドミノ!』はこの様々な人々が東京駅を中心に繋がり絡まりあってまさしくドミノのように一つの物語を作り出す、という群像劇なのです。
よく似た構造の物語としては伊坂幸太郎の『ラッシュライフ』が有名ですね。


構造を楽しむエンターテインメント

また冒頭の話に戻ってしまいますが、『蜜蜂と遠雷』、本当に良かったですよね。
風間塵と栄伝亜夜、マサル・カルロス・レヴィ・アナトールというそれぞれタイプの違った若き天才に加えて、努力家の高島明石という登場人物それぞれの人物造形をかなり深く細かく描いていて、まるで現実に知っている人々のように全員に感情移入せずにはいられませんでした。
そういう意味では『夜のピクニック』も似たような作品と言えるかもしれません。
西脇融と甲田貴子という異母兄弟に対してすっかり感情移入してしまい、物語そのものは24時間かけて長い距離を歩き通す遠足という単純なものであるにも関わらず、すっかり熱中してしまいました。

ただし、本書は異なります。

28人もの登場人物を登場させ、僅か400ページ弱の中で物語を成立させています。
ですので、正直なところ一人ひとりの人物描写は簡素にならざるを得ません。
ある意味では最初に出てくる登場人物紹介の記述を利用して、極めて記号的にキャラクター像を作り上げていると言っても過言ではありません。
ラノベ的、アニメ的な手法です。
記号化されたキャラクター達がどんな風に一つの物語の中で絡まりあうか、という点を楽しむおそらく恩田陸にとっても実験的な小説であって、一人ひとりの人物描写や深みを楽しむものではないのです。
ですので、『蜜蜂と遠雷』や『夜のピクニック』的なものを期待されている方は要注意かもしれません。
物語中には極めて現実離れしたアニメ的なエピソードが多数出てくる、という点も付け加えておきます。


一応フォローを入れておくと、28人もの登場人物を400ページ弱の中でパズルのようにつなぎ合わせるというだけでもすごい事なんですけどね。
だからそこを楽しむ物語、と思っていただければ良いかと思います。

また、軽快で読みやすい文章も特筆すべき点で、ほんの数時間で一気読みできてしまえます。
恩田陸の違う一面を知りたいという方は、さっくりと読んでみてはいかがでしょうか?

https://www.instagram.com/p/Blxst1Un6jO/

#ドミノ #恩田陸 読了東京駅を舞台に全28名(?)の登場人物たちが織り成す群像劇。一つ一つの小さな出来事が重なり、絡まり合って文字通りドミノのようにフィナーレへと向かう展開は圧巻でした。読みやすい文章も相まって軽く一気読みは間違いなしです。ただし #蜜蜂と遠雷 や #夜のピクニック に見られたような精緻な人物描写を期待している方は要注意。約400ページ弱に28名も登場させるので一人ひとりの造形はかなり簡素です。加えて極めて現実離れしたラノベ的・アニメ的な作品でもあります。#伊坂幸太郎 の #ラッシュライフ がお好きな方にはオススメできるかもしれません。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ#読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログも更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『楽天流』三木谷浩史

 

インターネット・ショッピングモール(ネット上の仮想商店街)「楽天市場」を立ち上げてまもなく、僕らは出店者にそれぞれの店舗サイトを自由にカスタマイズできる機能を提供した。そうすることで、出店者は各々の目的に合わせて、自分なりの方法でサイトを編集し、商品や価格を紹介するなど、自分の店舗サイトを思い通りに運営することが可能になった。
これは当時前代未聞で、画期的なことだった。インターネット・ショッピングモールは規格化され、厳重に管理されなければならない、というのが、業界における共通の見解だったからだ。

『成功のコンセプト』『成功の法則』に続き、三冊目の三木谷本です。
ただし先の二冊がそれぞれ2007年、2009年の発行であるのに対し、楽天流』は2014年の発行。
より現在に近い思想に触れる事ができます。
とはいえ、先に言ってしまえば大きく考え方が変わっているということもありません。
『成功のコンセプト』に見られた5つのコンセプトはそのままに、さらに骨太かつ肉厚に広がりつつある、といった様子でしょうか。
その源泉となっているのは……明確に“世界”を意識しはじめた事でしょう。

社内公用語の英語化

「今後、業務に関わるすべての言語を英語に統一する」

2010年のある日、三木谷社長は楽天の全社員に向けて宣言しました。

僕はこの指示そのものを英語で伝えた。その日の役員会議も英語で行った。それからほどなくして、社内すべての掲示板――エレベーターからカフェテリアまで――を日本語から英語に切り替えた。

時に「ワンマン社長」と揶揄されることも少なくない三木谷社長ですが、上記のようなエピソードはその現れとも言えますね。
ある日突然、事前通告もなしに大きな改革が文字通り断行される。
これが楽天の成長の秘訣でもあり、時に内外から批判を浴びる理由でもあるのでしょう。

ちなみに英語公用化の理由は、単純に「グローバルな経営形態を実現するには英語によるコミュニケーション能力が絶対に必要であることに気づいた」からです。

以後、後を追うように社内公用語の英語化を打ち出すものの、なかなか思うように転換できない大手企業も目立ちました。
普通であれば準備段階・移行期間とかなり長い時間を必要としますので、楽天のように思い切った方向転換を真似するまでには至らないようですね。

楽天が目指すのはネイティブのような流暢な英語を使う企業ではなく、非英語圏も含むグローバルで伝わるシンプルな英語を使いこなす企業だ。

英語教育の必要性が叫ばれながらも、まだまだ日本においては英語はどこか遠く離れた言語というイメージが染みついてしまっています。
正直、地方で一般的な仕事をしている分にはあまり英語に触れる機会もないですしね。
スマホの翻訳アプリの精度もだいぶ進化しつつありますので、いずれアプリを介せば多言語の人間とも普通に会話できちゃうんじゃないか、なんて思ったりもして。

しかしながら楽天のとった大胆な方策は正解であったと思います。
英語公用化を打ち出した時から、海外からの取材オファーの数等が一気に増えたと言いますし。
目下、FCバルセロナNBA等、様々な世界的スポーツ選手・チームへのスポンサー契約で世界的な認知を広げようと進めていますが、残念ながら事業自体の世界的な広がりはなかなか上手く行かずに苦しんでいるようですけど。


エンパワーメント

本書においても“エンパワーメント”がより詳細に説明されています。

僕がビジネスにおいて最も大事にしている理念――エンパワーメント(自立自走できるように支援すること)

顧客をエンパワーし、社員をエンパワーし、さらに自分をエンパワー、そして世界をエンパワーする、といった具合。
詳しい内容は割愛しますが……でもエンパワーメントって、ある意味では厳しい考え方ですよね。
自立自走するって事は、自分でやれって事ですから。
会社で言えば「自分で考えて自分で行動しろ。そこに責任を持て」とでも言い換えれば良いのでしょうか。
当たり前の言葉のようでもありますが、どこの会社でもなかなか末端まで浸透できずに苦労している点でもあろうかと思います。
サービスを利用する店舗・企業側にとっても同じですよね。
楽天市場にしても楽天トラベルにしても「楽天が全てうまくやります」というサービスではありませんから。
あくまで店舗・企業側も「自分でやる」事が求められるわけです。
非常にやりがいはありますが、逆に言うと厳しい世界とも言えます。
出店したは良いものの、ほんの数年持たずに撤退する店舗や企業が後を絶たないのも上記のような理由からでしょう。


楽天主義=5つのコンセプト

『成功のコンセプト』に出てきた5つのコンセプトについても改めて記されています。

 1.常に改善、常に前進

 2.Professionalismの徹底

 3.仮説→実行→検証→仕組化

 4.顧客満足の最大化

 5.スピード‼スピード‼スピード‼

本当に一切変わっていないんですよねー。
この辺りの芯の強さは三木谷浩史のすごいところです。
本書はある意味では『成功のコンセプト』のバージョンアップ版とも言えるかと思います。

 

抜粋

以下、気になった文章を抜粋します。

取引先の事業を配慮しない企業と楽天はうまくやっていけないだろう。短期的な利益しか見ていない企業は、楽天の全体的な戦略には合致しないのだ。

僕らは楽天のエコシステム(経済圏)に関わる全員がエンパワーされることを望んでいる。しかし、多くのeコマース企業の方針は、楽天のものとは異なる。たとえば、アマゾンやザッポスをはじめとする有力なeコマース企業は、買い物客に対してはたしかに十分なサービスを提供しているが、出店者に対してはそれほど関心を払っていないように見える。しかし、楽天にとって、出店者のエンパワーメントと満足度は、顧客満足度と同じように重要だ。

「幸運とは、機械に恵まれることに加え、十分な準備があってはじめてつかみとれるものだ」と。運は必ずしもコントロールできないが、準備なら自分の中で進めることができる。

僕にとってプロフェッショナルとは、収入のためではなく、プライドと達成感のために全精力を傾けて仕事に取り組む人を意味する。

……とまぁそんなところで、『成功のコンセプト』『成功の法則』『楽天流』と続いてきた楽天三部作も終了です。
ブログには書き残してきましたが、正直あんまり需要ないんだろうなーなんて思ったりもします。
実はもうすでに読み終わっている小説もあるので、次回からは小説のブログに戻るつもりです。
長々お付き合いいただいてどうもありがとうございました。

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#楽天流 #三木谷浩史 読了#成功のコンセプト #成功の法則 に続く三木谷本3冊目2007年、2009年発行の前2作に対し本作は2014年の発行。より現在に近い楽天の姿を知ることができます。5つのコンセプト等はブレずにそのまま継続されているけれど前著との大きな違いは明らかに世界を意識している事。有名な英語公用化をはじめ、楽天の世界戦略に対する考え方についても詳しく書かれています。これにて続いた三木谷本は終了。次回からは小説に戻ります。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ#読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『成功の法則』三木谷浩史

夢と現実は違うなどという皮肉に、惑わされてはいけない。それは、夢を現実に変える努力を怠った人間の、悔し紛れの言い訳に過ぎない。

『成功のコンセプト』に続き、2冊の楽天本・三木谷本です。

linus.hatenablog.jp

 

『成功のコンセプト』と本書『成功の法則』はある意味対のような存在になっています。

三木谷さん自身が書いていますが、

 

   『成功のコンセプト』――成功哲学の総論
   『成功の法則』――総論に対する各論

 

といった仕立てになっているのです。

『成功のコンセプト』では

  1. 常に改善、常に前進
  2. Professionalismの徹底
  3. 仮説→実行→検証→仕組化
  4. 顧客満足の最大化
  5. スピード‼スピード‼スピード‼

という5つのコンセプトを章立てして説明していましたが、本書ではそれらをよりわかりやすく、具体的に92ケに細分化して紹介しています。

今回はざっくりと、気に入った文章等を記していくことにします。

 

楽天は、インターネットで個人をエンパワーメントするという国旗を掲げている。個人の才能や努力を後押しするために使ってこそ、インターネットという道具は本来の力を発揮すると信じるからだ。個人の存在が希薄化している現代においては、個人を力づけることこそが、豊かで幸福な社会を実現することにつながると確信しているからだ。

早速飛び出しました。

“エンパワーメント”

やはり知れば知るほど、楽天にとって、三木谷浩史にとってこの言葉へのこだわりや重要性がわかってくる気がします。

他の何よりも自分の仕事を楽しめる人がプロフェッショナル

これもまた、前著『成功のコンセプト』にも登場した考え方ですね。

プロフェッショナルは素人の対比として専本的な知識や技術を持った人間、という従来の考え方に対し、新たな定義を掲げています。

でもこれは三木谷浩史だけではなく、世の中の著名な実業家やビジネスマンはみんな同じことを言っているような気がしますよね。

けれど、ひとつだけ確かなことがある。

それは、人間は万能ではないということだ。

つまり、自分には必ず弱点もあるし、欠点もあるのだ。

そして、弱点や欠点を補えば、仕事は今までよりも上手くいくようになる。

だから大切なのは、自分に何が足りないかを、自分自身できちんと把握すること。

「自分を知る」というのもよく聞かれる話です。

どんな意見にも耳を貸すというリーダーの態度が組織の風通しを良くし、メンバーひとりひとりが、自分の頭で物事をしっかり考えるという環境を作り出してくれる。それこそが、組織にとっては重要なことなのだ。 

 楽天が現在の世田谷クリムゾンハウスに移転した際に、社長室を作らなかった事は有名な話です。

toyokeizai.net

社長室を“牢屋”と呼ぶなんて、それだけでも三木谷浩史人間性が現れているように感じられます。

もっとも星野リゾートの星野佳路社長は社長室を持たず、空いている机やテーブルで仕事するというスタンスで知られていますから、それに比べたらまだ固定されたスペースがあるだけマシなのかもしれません。

ちなみにこの人はこんな風に言っていたりします。

news.livedoor.com

堀江さんは何かと三木谷浩史楽天を貶しまくっていますよね(笑)

とはいえ、二人の仲が悪いというわけではなく、時には暴言を吐くホリエモンに対して三木谷さんがTwitterで「たまには褒めてよ」みたいなリプライを送ったとかなんとか。

親しい間柄だからこそ、好き勝手言い合える仲なのかもしれません。

いつでもオープンな環境に身を置く三木谷浩史ですが、その仕事上のスタンスが現れる考え方としてこんなものもありました。

現代には、この不安を簡単に解消する道具がある。メール1本で、こうなりましたと報告すれば済む話なのだ。それだけで、上司との信頼関係も築けるのだから、これを使わない手はない。

報連相についての考えですね。

僕らの世代ではとにかく「証拠を残す」ためにもメールを送りまくるのは当たり前なのですが、前時代を生きてきた方々にとってはメールなんてけしからん!と真面目に言う人もまだまだ少なくありません。

でも、SNSとかメールという文明の利器はどんどん使うべきですよねー。

前出のようなアナログ型上司に限って、そこかしこで言った言わないで揉めているケースも少なくありませんから。

また、楽天での働き方と言えば重要とされるのが“KPI”

重要業績評価指標 - Wikipedia

簡単に言うと「大きな目標を達成するための、中間的な数値目標」というもので、個人やチーム毎に具体的なKPIを定める事で、目標に向けて頑張りましょうというのです。

目標のない組織がダメなのは、そこには達成する喜びがないからだ。目標意識を共有してはじめて、バラバラの人間の集合が、ひとつの有機的な組織にまとまる。全員が大きなものに立ち向かっているという実感が、人と人ととつなぎ、人の心を鼓舞してくれるのだ。

楽天の社員さんにとっては、かなり厳しい目標だったりするらしいですが……でも三木谷浩史に言わせれば、それは絶対的に必要なものなのです。

速いといっても、速さには2通りある。

Velocityは速度。Agilityは俊敏さ。

目標を達成するために必要なのは“速さ”その速さには2通りあるというのが三木谷浩史の考え方。

速度は日々の仕事の効率化によって上げる事ができる。

大して俊敏さに関しては、決断したらすぐやるというフットワークの軽さこそが重要。

……とまぁ、この辺も最近のビジネス書では定番と言っても良い考え方かもしれません。

そして三木谷浩史にとって、仕事の中身の大半は下記の2つに分けられると言います。

  1. エグゼキューション――実施。実行。執行
  2. オペレーション――仕組み。手順。

やや強引な訳ですが、ざっくり言うと上のような内容でしょうか。

 

 ストラテジー(戦略)

   ↓

 エグゼキューション(管理・実行)

   ↓

 オペレーション(作業・実務)

 

こんな感じで仕事は流れていくわけです。

失敗の原因の大半は、戦略ではなく、エグゼキューションやオペレーションにある。戦略は間違っていない。それをやり切る手法と、その遂行に問題があることの方が圧倒的に多いのだ。

これは個人的にだいぶ響きましたねー。

確かに、どんなにデータを集めて検証を重ねて戦略を練っても、実際に実行する現場レベルで徹底されなければ途端に絵にかいた餅になってしまいますから。

皆さんの周りにも、気を付けてみればよく見られる事例かと思います。

素晴らしい広告に惹かれて足を運んで見たのに、店舗の接客や実際の商品に呆れてしまった、とかね。

リーンなオペレーションとは、徹底的に無駄を省いて、オペレーションをできる限りシンプルなものにするということだ。ちょっと無駄を省くというのではない。無駄な部分はバッサリ切り捨てる。並行してできることは同時にやる。ひとつのオペレーションには無数の意味を持たせる。そういう作業を徹底的にやることだ。

楽天は大きくなりすぎて三木谷さんは細部まで見えていないんじゃないか、というような意見も巷には溢れていますが、三木谷社長自身が現場の細部に重きを置いている事がよくわかりますね。

インターネットは、人と人とをつなぐ道具だ。テクノロジーがどんなに進歩しても、人間そのものは変わらない。人と人とはつながりたい生き物なのだ。インターネットが可能にすることは無数にあるとしても、それが人と人とをつなぐコミュニケーションツールであるという根本は絶対に動かない。

この辺りは“エンパワーメント”と並んでよく出てくる考え方ですね。

インターネット=コミュニケーションツール。

商品を売るAmazonと違い、楽天市場が重要としている点でもあります。

さて、とりとめもなく書きなぐってきた今回のブログも次が最後です。

世の中の生の情報に触れるために、会社の仕事をさっさと終わらせて、もっと世間に出ようという話なのだ。同僚との話は会社でもできる、それよりも異業種の人々の話を聞く機会を増やすべきだ。

まぁ、やっぱり成功した人たちのいう事は一緒です。

仕事は仕事として、きっちり遊ばないとね。

遊びから得た見地が、翻って仕事にも良い影響をもたらすのです。

朝から晩まで会社に入り浸り、家に帰るのは寝るだけ……なんて長時間労働ブラック企業では消耗するばかりで、個人としても企業としても発展が望めるはずもありません。

僕的にはやっぱり、こういう考え方の方がしっくり落ち着きます。

なんだかんだ言われても、楽天は今時のIT企業なんですよねー、なんて。

https://www.instagram.com/p/BlVRxEpn1pV/

#成功の法則 #三木谷浩史 読了#成功のコンセプト に続き楽天本・三木谷本成功のコンセプトが総論だとすれば本書は各論なのだそうエンパワーメントやスピードの考え方といい、三木谷浩史、ブレませんね他の著名な経営者の方々と言っている内容はそうは変わらないように感じます現実で迷った時こそ、答えは本に求めるべき周囲が信じられないと思えるような時も、本の中には答えがあります辛坊もあとちょっと歯を食いしばって頑張ろう#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい#本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

『成功のコンセプト』三木谷浩史

僕はこの年、1997年に、楽天市場を開設した。

本書『成功のコンセプト』は今や東証一部上場企業となった巨大IT企業の創業者であり現役社長、三木谷浩史の作品。

書かれたのは2007年。

楽天市場を開設してちょうど十年後。

今から遡る事十年以上前の作品です。

 

5つのコンセプト

本書には三木谷浩史「ビジネスにおいてもっとも重要だと思う5つの項目」がまとめられています。

  1. 常に改善、常に前進
  2. Professionalismの徹底
  3. 仮説→実行→検証→仕組化
  4. 顧客満足の最大化
  5. スピード‼スピード‼スピード‼

それでは、個人的に気になったところをかいつまんでまとめていきます。

 

常に改善、常に前進

第一のコンセプトは『常に改善、常に前進』。

過去十年間のインターネット環境の激変を鑑みて、三木谷浩史

未来へのビジョンを立てるのが難しいのは、未来が不確定だからだ。未来を予測することができても、未来を見ることはできないのだ。

と言います。

その上で、不確定な未来に対する戦略は大きな2つのタイプに分けられるとする。

   とにかく種をばらまいて、目を出したものだけ育てる

    (=ダーヴィニアン・アプローチ)

   バージョンアップと細かく重ねながら、少しでも先行者に追いつき、

   最終的には大きな成功を手に入れる。

三木谷浩史からすると、楽天は後者に近い性質らしい。

Window OSのように、まずはリリースした上で細かく改善を重ねながら、少しでも先行者に追いつき、最終的に大きな成功を手に入れる。

たとえ毎日1%の改善でも、1年続ければ37倍になる。

1.01の365乗は37.78.

毎日1パーセントの積み重ねが、一年で大きな飛躍につながるのです。

 

Professionalismの徹底

ビジネスで成功するかどうかの鍵は、結局のところ、仕事を人生最大の遊びにできるかどうかだ。

本章に関しては上の一文に尽きます。

一般的に「素人のかなわない特殊な技術を持つ人」という意味を指すプロフェッショナルという言葉に、三木谷浩史は別の定義を与えます。

そして楽天という会社は、そんなプロフェッショナルの集団を目指すと言う。

面白い仕事があるわけではない。

仕事を面白くする人間がいるだけなのだ。

 

仮説→実行→検証→仕組化

問題解決には以下の2つの方法がある。

  • 仮説・実行・検証

   未知の問題に直面した時の人間の基本的な行動パターン

  • 模倣・学修

   他の誰かが見出した解決法を模倣する

ビジネスの現場において、特に新入社員時代には後者に偏りがちである。ところが、

一所懸命に仕事の勉強をしているうちに、自分の頭で考えて問題を解決するという方法があることを忘れてしまう。

……思わずハッとしてしまいますね。

現代においては「勉強」=「試験で良い点数を採る事」という教育が長い間続いていたために、余計にそんな側面が強いのではないでしょうか。

もっとも最近では、答えを学ぶ勉強から考える力をつける勉強へと、教育の現場も変わりつつあるようですが。

確かに今から10年前とはいえ、その頃には既に「指示待ち人間」という言葉が生まれていたようにも思えます。

ではどうすれば良いかというと……

どんな仕事の時でも、“そもそもこの仕事は何のためにするのか”を考える。

最近よく聞かれる「物事の本質を捉える」という言葉と一緒ですね。

本質がわかれば、改善の仮説も自然に湧いてくるのです。

では、楽天はというと、一例として楽天市場オープン時の仮説が挙げられています。

当時先行していたECサイトはモール側に主導権があり、ユーザーとコミュニケーションをとるのはモール側だった。

しかしそこに、三木谷浩史は疑問を感じます。

本当に売りたい商品を消費者にPRするのは出店者自身の方が説得力があるはず。また、消費者の生の声も出店者自身に届けたい。

楽天市場はそうして、出店者自身にユーザーとコミュニケーションをとってもらうことになります。

これこそが楽天市場の大きな差別化ポイントになり、オープン初月には18万円しかなかった楽天市場が毎月400億円を超える急激な成長を遂げました。

これが楽天市場のいちばん革新的なポイントであり、今も尚Amazon等の他のECサイトとの差別化にもつながっているのです。

 

さて、一つだけ抜けているのが「仕組化」という言葉ですが、これについては簡単に書きに記します。

  • 改善を続けられる仕組み
  • 仮説・実行・検証によって到達した効率的な仕事のやり方や、新しいビジネスモデルを、組織全体で共有するための仕組化。

仮説・実行・検証したものを仕組化してはじめて意味がある、という考え方です。

 

顧客満足の最大化

個人をエンパワーメントすることが、僕の仕事のモチベーションだ。

ついに飛び出しました。エンパワーメント。

聞きなれない言葉ですが、実は現在も楽天という会社のあちらこちらでよく見られる言葉です。

僕がショッピングモールというビジネスでいちばんやりたいのは、インターネットを通じたエンパワーメントだ。格好良く言えば、インターネットが潜在的に持っている革命的な力を、個人商店や中小の企業に開放し、個人商店や中小の企業を元気づけることが僕たちの使命だと思っている。

それまでは良い商品・技術を持ちながらも地方の片隅で人口減少とともに疲弊していた小さな企業が、インターネットを通して世界中の人々とつながる事で、元気を取り戻すというのです。

この言葉通り、創業当時の楽天市場とともに飛躍的な発展を遂げた企業もたくさんあるのでしょう。

現在ではメルカリが、それまでは消費者でしかなかった市民一人ひとりが販売側に立てるという新たなビジネスモデルを確立しました。

民泊やカーシェアリングといった俗にいうシェアリング・エコノミーもそうかもしれません。

インターネットのなかった時代に、インターネットとともにやってきた楽天市場というサービスは、それらと同じような、もしかしたらもっともっと大きな変革を世の中にもたらしたのかもしれません。

 

スピード‼スピード‼スピード‼

当事者意識を持って仕事をすればスピードは自然に上がる。

5つ目のコンセプトは、ある意味ではわざわざ取り上げるほどのものでもないのかもしれませんね。

スピードは今活気のある企業には必須の能力と言えるかもしれません。

三木谷浩史はさらに、スピードを上げる方法としてこう言います。

まず最初に行うことは、目標を設定することだ。

目標を決めると、そこに至るまでの道のりが見えてくる。俯瞰して大雑把に全体を見渡したら、全体の行程をいくつかの小さな目標に因数分解する。

それらの小さな目標を一つ一つ常識的な速度で達成するのではなく、最終目標をいつまでに達成するかを決めてから逆算し、個々の小さな目標をクリアするのにかける時間を割り出す。

当然のことながら、割った時間は常識で考えればあまりに短いはずだ。

けどそれが、自分の登るべき断崖なのだ。

うひゃーという感じです。

これぞ楽天、ですね。

三木谷浩史は2000年の春ごろに、流通総額1兆円という目標を立てます。

流通総額1兆円を達成したら、イッチョウ上がりで俺はリタイアする

その目標は2006年に早々と達成してしまったものの、1兆円を目指す途中でもっと高い山の頂が見えてしまったので、引退は撤回したのだそうな。

朝令暮改も、有名な経営者にはよく見られる傾向かもしれませんね。

 

特筆すべきは三木谷浩史のブレなさ!

先に書いた通り、本書は2007年に書かれた本です。

それから10年以上経っているというのに、驚くのは今も昔も三木谷浩史の理念は変わっていないというところ。

今もずっと、同じ考えを貫き続けているのです。

「ワンマン」「ブレまくり」と揶揄されることも多い楽天ですが、これを読めばしっかりと芯が通っていることもわかります。

Amazonに比べて見にくい、UIが悪いと言われがちの楽天市場も、「個々の商品を売るAmazon」と「店を構えて商品を売る楽天市場」で違うのは当たり前なのです。

Amazonは見やすく、シンプルなUIである一方、出店者にとっては差別化が図りがたく、結果として値引き競争に陥りがちと言えます。同じ商品であれば、安い方を選びますよね?

ところが楽天はあのごちゃごちゃしたサイトであるからこそ、個々の店舗の個性を打ち出し、他店との差別化を図る事が可能なのです。

ある意味では「ユーザーに寄り添うAmazon」と「出店者に寄り添う楽天市場」と言えるかもしれません。

まぁ、時と場合によって使い分けるだけですが。

 

日本を代表するIT企業だけあってかなり極端なところも多いですが、読んでみた感想として他の有名企業とそう大きくは違わないかなぁ、という印象です。

改善もスピードも仕組化も、いろんな経営者さんやビジネスマンが唱えていますもんね。

現職ですっかり疲弊してしまい、胃が痛い毎日を過ごす中で、良い気分転換になりました。それとともに、やっぱり自分のいるべき環境について考えなおしてしまいましたね。

やっぱり僕にとっては、楽天のような今風の会社の方が性に合っているようです。

全部が全部礼賛できるわけではありませんが、こういった今時の勢いのある企業の取り組みや考え方を、地方の中小企業の経営者さん達も真似して欲しいものです。

あ、楽天の本、まだしばらく続きます。

小説に比べてまとめるのに時間がかかる分、アウトプットが遅れていてすみません。

頑張って更新したいと思います。

https://www.instagram.com/p/BlNpKP3HGl7/

#成功のコンセプト #三木谷浩史 読了しばらく更新が途絶えてすみません。仕事が忙しいのに加えて、こういう本はまとめるのに時間がかかって大変です。三木谷浩史は言わずとしれた #楽天 の創業者であり社長です。彼がビジネスにおいて重要と考える5つのコンセプトをまとめたのが本書。2007年に書かれた本でありながら、現在とほとんど言っている内容が変わりません。楽天というと何かと叩かれたり、悪いイメージもありますが、実際にはしっかりと芯の通ったブレない会社である事がわかります。ブラック企業で疲弊しつつある僕にとっては自分の立ち位置を見直す良い機会にもなりました。古い本とはいえ、今読んでも得られるものは少なくないと思います。興味のある方はご一読を。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい#本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。