おすすめ読書・書評・感想・ブックレビューブログ

年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『騙し絵の牙』塩田武士

 

「実は少し前から『トリニティ』が危ないと聞かされてたんだけど、いよいよ危険水域だ。まず『小説薫風』がなくなる」

ええと……今回読んだのは塩田武士『騙し絵の牙』
この本、色々と話題に事欠かなくてどこから触れて良いものか悩ましいのですが……以前ご紹介したかがみの孤城と同じ2018年本屋大賞のノミネート作品でもあります。
伊坂幸太郎『AX』、小川糸『キラキラ共和国』、原田マハ『たゆたえども沈まず』、村山早紀『百貨の魔法』と、最近よく目にする著名人が漏れなくラインナップされた2018年本屋大賞は、辻村深月さんのぼくの予想通りかがみの孤城が大賞に輝きました。

linus.hatenablog.jp

全10作のノミネート中、『騙し絵の牙』は第6位。
塩野武士さんは昨年の『罪の声』3位に続き、二年連続のノミネートです。

……とまぁ、賞レースの結果としては上記のような内容となりますが、本作については本屋大賞というよりは別の部分で話題を呼んだようです。
それが……


アテガキ大泉洋

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目を惹くのはそのカバー。

水曜どうでしょう』をはじめ、バラエティや俳優としてもお馴染みの大泉洋さんが表紙となっているのです。
それもそのはず、本作は芸能事務所とKADOKAWAの編集者のタイアップにより、主人公役に大泉洋を設定した上で「完全アテガキの社会派小説」として書かれているのです。

確かに主人公の速水輝也はもじゃもじゃのヘアスタイルといい、軽妙でユーモラスな言動で周囲の人間を煙に巻く様子といい、確かに大泉洋を彷彿とさせます。

詳細はKADOKAWA社の作品紹介ページに書かれていますが、物真似のレパートリーまで大泉洋本人の持ちネタにこだわるといった徹底ぶり。

大泉洋ファンの方にはたまらない作品と言えるのかもしれません。

www.kadokawa.co.jp

……そんな風に書くと「なぁんだ、企画モノか」と興ざめしてしまう天邪鬼な方も少なくないと思います。

ところが「単なる企画モノ」で済まないのが本書の優れた点です。

 

リアルに描かれる出版業界

主人公速水は大手出版社「薫風社」に勤め、雑誌『トリニティ』の編集長でもあります。
昨今の出版不況は「薫風社」においても例外はなく、漫画や文芸誌が次々と廃刊に追い込まれていきます。
「薫風社」の方針は明確に「電子化への転換」でありますが、電子化・廃刊は既存読者への裏切りでもあり、速水たち現場の編集者たちはなんとか紙での発行を継続しようと試行錯誤していくのです。
そこには連載による原稿料でなんとか生計を立てる小説家や、間違いなく利益を保証できる人気作家の奪い合い等、出版業界を取り巻く様々なリアルが垣間見えます。
速水たち『トリニティ』が取った策も、雑誌そのものの売り上げではなく、雑誌に連載されているエッセイや小説といった作品の二次利用による売り上げ確保である事からも、出版業界の厳しさが目に見えるようです。
速水も敏腕編集者として、接待にしくじりへそを曲げた作家をとりなしたり、意気消沈したり、時にいがみ合ったりする編集部員たちの仲を取り持ったりと、次々と巻き起こる大小様々な問題に立ち向かいます。
さらに仕事だけではなく、速水の家庭にも難しい問題が浮上し……

確かに本作は、「社会派小説」なのです。


塩田武士の本領発揮

著者の本は以前『罪の声』を読んだキリだったのですが。
正直なところ、『罪の声』はただただ捜査日記を読まされた感があって退屈且つ苦痛でした。
リアリティを目指したがために、エンターテインメント性を失ってしまったというか。
グリコ森永事件と言われても「なんとなく聞いたことがある」という世代的にはさっぱりピンと来ず……。

linus.hatenablog.jp

ところが本作はリアリティを追求しつつも、本質としてフィクションであるせいか、『罪の声』よりも数倍物語として楽しめました。
特に上に書いたような出版業界に巻き起こる様々な問題は、僕らのような本を読む側の人間にとっても興味深く楽しめるものだと思います。
僕は大泉洋ファンではないのでなんとなく彼のイメージを知っているぐらいですが、それでも十分楽しめましたし。
『罪の声』で脱落してしまったという方にも、本書は一度読んでいただきたいです。
少し違った物語作家としての塩田武士を実感できるかと思います。


エピローグは“蛇足”

残念なのはエピローグだけですね。
“蛇足”の一言です。
そんなのなくても十分楽しめたと思うんですが、塩田武士という作家はどうしても種明かしみたいなものを書かないと気が済まない性分なのかもしれませんね。 

理由とか動機みたいなものって、推理小説でもない限り必須ではないと思うんです。
ましてやそれが読者の前には一切ヒントとして提示される事もなかったような真相だとすると、取ってつけた感はどうしても否めませんよね。

先日読んだ検察側の罪人は序盤の段階で物語の鍵となる過去の事件について語られた上、その後の展開においても過去の事件との心理的関係性等が描かれていましたから、過去と現在とのつながりが非常にわかりやすくスムーズに呑み込めました。
しかし、すべてが終わった後で「実は過去にこういう事がありました」なんて言われても。。。
途中、本人すら一切そんな感慨見せなかったじゃん、と。

この辺は人称や視点の問題もあるのかもしれませんが、いずれにせよ本作の構成としてエピローグは蛇足でしかありません。

ラストさえちょっと変えていれば、もうちょっと高い評価だったと思うんだけどなぁ。

残念です。

linus.hatenablog.jp

まぁ、早速主演に大泉洋を迎えての映像化も動き出したようですから、そちらも期待しましょう。

www.kadokawa.co.jp

https://www.instagram.com/p/BkuyKDrHJNC/

#騙し絵の牙 #塩田武士 読了#大泉洋 をアテガキしたという話題作確かにこれは大泉洋ですよ頭ももじゃもじゃだしそれよりも書いておきたいのは本作が「今の出版業界を描いたリアルな社会派小説」であるという点出版不況が叫ばれる昨今、実際に出版社の中では何が起こり、業界としてどこへ向かおうとしているのか。そんな点が非常にリアルに描かれていて思わず読み込んでしまいます。残念なのはエピソードの取ってつけた感だけこんなのいらなかったのにねそこまでが良かっただけに、エピソードがとにかく残念#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログも更新しました。プロフィール欄のリンクよりご確認下さい。

『検察側の罪人』雫井脩介

 君たちはその手に一本の剣を持っている。法律という剣だ。こいつは抜群に切れる真剣だ。法治国家においては最強の武器と言ってもいい。 

今回読んだのは検察側の罪人

 

クローズド・ノート以来の雫井脩介作品となります。

linus.hatenablog.jp

クローズド・ノート』もストーリーとしてはよくある平凡なものでしたが、文章が上手でサクサク進む上、次々登場する万年筆のおかげですっかりのめり込んでしまえるなかなか良いお話でした。

それ以来ご無沙汰していましたが、雫井脩介さんは以降も「このミステリーがすごい!」や「週刊文春ミステリーベスト10」に次々と作品がノミネートされる活躍をされていたのですね。

安定した良作を送り出す間違いのない作家さんの一人なのでしょう。

 

二人の検事

物語は東京地検の検事である最上毅と、彼の元にやってくる新米検事沖野啓一郎の視点で進みます。

最上に憧れ検事の道に進んだ沖野は、念願叶って最上と一緒に働く機会を手にします。

はじめの内は期待に違わぬ最上のベテランぶりに心酔する沖野でしたが、二人の元に一つの事件が迷い込みます。

家賃収入から個人的に金貸しをしていた老夫婦が自宅で斬殺される事件。

事件の重要参考人として並べられた名前の中に、最上は一人の男を見つけます。

23年前、最上が下宿していた先の娘が何者かに殺害される事件がありました。

松倉はその女子中学生殺人事件でも犯人ではないかと疑われていた男だったのです。

しかし罪を暴く事はできないまま、あえなく時効を迎えていたのでした。

老夫婦の殺害容疑で取り調べを受ける中、松倉は執拗な追及に耐え兼ね、女子中学生殺人事件の犯人は自分であったと遂に自白してしまいます。しかし今回の老夫婦を殺したのは自分ではないと主張。

ところがそれを聞いた女子中学生殺人事件の関係者である最上の中で、どこか理性のタガが外れていってしまいます。

何が何でも松倉を立件しおうと画策する最上と、違和感を感じながら尊敬する最上に従い、振り回される沖野。

やがて二人の間に決定的な転機が訪れ……

 

……

 

……

 

……

 

もう、このぐらいでいいですよね?

あとはもう、読んで下さい。

目茶苦茶面白いですから。

いったんハマれば一気読み間違いなしです!!!

 

 

2018年8月24日、映画化!

なんと本作、木村拓哉二宮和也のW主演で映画化されます!

kensatsugawa-movie.jp

僕も『羊と鋼の森』を観に行った際に劇場の予告で知りました。

www.youtube.com

そこですっかり魅了されてしまいまして、「これは読むしかない」とさっそく手に取ったわけです。

木村拓哉二宮和也の共演ってインパクトありますよね!

予告編の緊迫した雰囲気がまたなんとも言えず期待感を醸成してくれます。

原作も面白かったし、読んだ感想としては二人の配役もばっちりだと思います。

 

それにしても驚きは木村拓哉さんの根強い人気ぶり。

実は僕、Instagramの他にTwitterのアカウントも持っています。

大体本を読んだ後の流れとしては

 読書ノート

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   ↓

  Twitter

という順序でアップしているんですけど、時々Twitter単体でもツイートしたりしてます。

特に「これからこの本を読むぞ」とか、読んだ後のざっくりとした感想なんかを書き込んだりすることもあるのですが、今回の『検察側の罪人』もあまりにも没頭して読んでしまった為に興奮冷めやらず、その勢いのままツイートしたんですね。

すると……

フォロワーが1,000人を超えて増加中のInstagramと異なり、Twitterは普段だいぶ低調なんですけど、このツイートだけやたらと「いいね!」や「リツイート」が多いんです。

そのほとんどのアカウントがまさかの木村拓哉ファンの皆様。

SMAP解散報道では一人だけ悪者扱いされたり、凋落ぶりが弄ばれる事も多いですが、やっぱり根強いファンの方々は多いんですね。

僕も結構好きです。

多分他にも少なくないんじゃないかと思うんですが、木村拓哉が役者として殻を破って新たな姿を見せてくれるのを期待してしまうんです。

よく木村拓哉に対して「何を演じてもキムタクにしかならない」という辛辣な意見も目にしますが、もしかしたら本作では今まで見たことのない木村拓哉を見せてくれるんじゃないかと個人的に期待しています。

劇場公開の際には、絶対に観に行きたい作品です。

まだしばらく期間があるので、忘れないよう気をつけます!

 

※追記※

劇場版観てきました!

遅ればせながら劇場版も見てきました。

とにかくすごい人気ですよね。

興行成績も公開三週目現在で依然として二位をキープ!

銀魂!』や『SUNNY』、『累(かさね)』を抑えての二位だけに人気の高さがわかります。

木村拓哉はテレビで見ない日はないというぐらいに宣伝しまくってますので、その他理も一因かとは思いますが。

予告編のクオリティの高さも見逃せないでしょう。

www.youtube.com

実際映画を観て感じたのは、木村拓哉二宮和也という主演二人をはじめとする俳優陣の演技力の高さ。

木村拓哉の言動全てには見入ってしまいますし、二宮和也の演技には完全に吸い込まれてしまいます。

特に予告編でも印象的なあのシーンでは、観ているこっちまで震え上がってしまいました。

エンドロールが流れた後、周囲からも「ニノすごいね」「ニノやばかったね」といった会話が聞こえてくるほど。

 

尚、ストーリーに関してはよくも悪くも原作通りではありませんでした。

原作では最上・沖野という二人の検事の心理描写が細かく丁寧に描かれ、それに読者も惹き込まれていったのですが、映画という二時間の枠で再現するのは難しい。

なのでよりエンターテインメント性の高い方に改良した、と言えそうです。

 

その最たるものが芦名星の存在。

映画オリジナルと言える彼女のキャラクターは、映画版『検察側の罪人』で非常に重要な位置が占めていたと感じました。

芦名星は『鴨川ホルモー』がとっても印象的だったのですが、やはりミステリアスな雰囲気の役柄がよく似合いますね。

eiga.com

オリエンタルで個性的な美貌はもっともっと評価されてもよいんじゃないかと思っています。

映画版では芦名星にも注目してみてくださいね。

 

https://www.instagram.com/p/BkZZHrSnxXd/

#検察側の罪人 #雫井脩介 読了当たりです。目茶苦茶ハマりました。ベテラン検事最上と彼に憧れて検事となった若手検事沖田。二人の元に迷い込む殺人事件の参考人の中に、既に時効を迎えた23年前の事件で犯人に一番近いと目されながらも逮捕を見送られた男、松倉。その事件で殺害されたのは最上も親しくしていた下宿先の一人娘だった。最上は今度こそなんとかして松倉を追い詰めようと試みるも、沖田には他の可能性を全て否定するかのように頭から決めつける最上の方針に戸惑いを隠せない。やがて二人のすれ違いは大きく広がり……。 いや、もうね、ヤバいですよ。一気読みです。ちなみに8/24には劇場版も公開されるそうで、しかも #キムタクと #ニノ のW主演!頭の中はすっかりその二人のイメージで読み込んでました。映画も絶対見に行かないと!強くオススメしますのでぜひ読んでみてくださいね。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※今回も読書ブログ更新しました。気になる方はプロフィールのリンクよりご確認下さい。

『連続殺人鬼カエル男』中山七里

きょう、かえるをつかまえたよ。

はこのなかにいれていろいろあそ

んだけど、だんだんあきてきた。

おもいついた。みのむしのかっこ

うにしてみよう。くちからはりを

つけてたかいたかいところにつる

してみよう。

ここのところ、中山七里という作家の名前を目にする事が多く感じています。

一番はやはりnstagramでしょうか。

また、書店や図書館でも良い場所に置かれているような気もします。

ただ、僕にとっては完全に未経験の作家さんだったんですよね。

名前は知ってるけど、読んだ事はないという。

ただ、その中でも本書『連続殺人鬼カエル男』だけは特に印象的に覚えていました。

何しろ「カエル男」ですし。

その名の通り、表紙にはカエル男の絵が描かれていますし。

気にはなっていたんですよね。

 

ミノムシのように吊るされる全裸の死体

最初の被害者は新聞配達に発見されます。

階段の踊り場にぶら下がるビニールシートの塊。

つい気になって触れてみたら、中から現れたのは全裸の女性の死体。

しかもフックを口から入れられ、鼻から抜ける形で吊るされるという凄惨な状態。

そこから第二、第三の殺人が次々と起こりますが、いずれもグロテスクな描写のものばかり。

カエル男はあまりにも常軌を逸した殺人犯なのです。

序盤は中山七里の描く猟奇殺人の不気味さを楽しむ時間が続きます。

嫌いな人は、結構最初の方でつまづいてしまうかも。。。

 

事件を追う一人の刑事

男の名は古手川和也。

若き刑事はカエル男の犯人を暴こうと奔走します。

昔から正義感が強く、同級生や友人たちの為に腕を振るってきたという熱血漢。

第二、第三の殺人事件ぐらいまではいわゆる刑事モノの展開が続きます。

被害者が出ては捜査を進めて、手掛かりを探すという感じ。

 

……実はこの辺はかなり冗長です。どうでもよい表現も多く、ちょっと読んでいてキツです。

 

しかし終盤に入るにつれて突然物語は様相を一変します。

民衆が暴徒と化して警察署を襲うシーンに至っては、グロ描写が警官たちであり小手川和也自身に向けられます。

ゾンビのように襲いかかる民衆を相手に、和也たちが肉弾戦を余儀なくされるのです。

そもそも暴徒化する点についてもちょっと説得力薄目なんですけどね。

カエル男に恐怖するあまり警察そのものを襲うというには……カエル男には二桁ぐらい多い人数を殺めてもらわないと無理があったんじゃないかなぁ。

あとは小さな子供だけを大量に手にかける、とかね。

ニ三人殺されたぐらいで「次は自分の番かも」と暴徒化するっていうのは結構無理やり感が強すぎ。

 

さらに暴徒化した民衆と警察とのバトルが本格化すると死体ではなく生身の人間が傷つき始め、グロ描写に拍車がかかります。

身体の一部分ずつ、こっちの骨が砕け、こちらから血が噴き出し……という描写が続くに至っては、その昔プラモデル同士で戦いごっこをしていた頃を思い出してしまいました。

「どうやらアバラの一本もイカれたみたいだぜ」

という一昔前の少年漫画のような描写が展開されていきます。

そうして骨が折れ、体中から血を流しながらも最終的に逆転するというやつです。

初代ガンダムで頭も腕もないまま銃を撃つ感じ。

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言い過ぎかもしれませんが、そうして終盤は肉弾戦が中心となります。

 

どんでん返しの帝王?

どうやら中山七里という作家はどんでん返しで有名だそうで「どんでん返しの帝王」などと呼ばれているそうえす。。

確かに本作でもそれらしき展開が繰り広げられます。

犯人を追い詰め、真相が判明したと思いきやそこから二転三転と。

ただねー……正直、読んでいて想像がついちゃうんですよね。

どんでん返しも周到に伏線が張り巡らせられた挙句、ドカンとひっくり返すというよりは、後出しジャンケンでクルクルぶん回すタイプです。

 

はっきり言ってしまえば、こういうのってあんまり好きじゃないんだよなー。

 

グロ描写も綾辻行人の『殺人鬼』や 平山夢明の『ダイナー』に比べるとちょっといまいち。

『殺人鬼』の〇〇の最中に背後から杭で貫かれるシーンなんて、文字情報にも関わらず未だに思い出してしまいますから。

最近話題の作家さんという事でちょっと期待してたんですが、正直ちょっと期待外れだったかな。

デビュー作であることを考えれば仕方もないのかも。

いずれ最近刊行された話題作にでも手を出してみたいと思います。

それもちょっと時間をおいてからかな。

https://www.instagram.com/p/BkU8zxknLlK/

#連続殺人鬼カエル男 #中山七里 読了 ……と言っても実は #誰かが足りない よりも先に読んだ作品なのですが訳あって順序が逆になってしました。最近よくinstagramやtwitterで目にする中山七里さんですが、読むのはこれが初めてついでに言うと男性というのも初めて知りました。てっきり女性だとばかりで、感想はというとはっきり言ってちょい微妙。序盤の刑事モノ展開は死体がグロいだけで冗長だし、後半の肉弾戦は昭和のヒーロー漫画のようでなんとも。。。 読んだ作品が微妙だっただけかな?中山七里さんならこれを読むべき、というオススメがあればどなたかご紹介くださいな。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい#本好きな人と繋がりたい ..※今回もブログ更新しました。興味のある方はプロフィールのリンクからどうぞ。

 

 

 

『誰かが足りない』宮下奈都

誰かが足りない。いつからか私もそう思っていた気がする。それが誰なのかはわからない。知っているはずの誰か、まだ会ったことのない誰か。誰なんだろう。いつ会えるんだろう。わからない。ずっと誰かを待っていることだけはわかっているのに

先日『羊と鋼の森』の映画を見てきました。

https://www.instagram.com/p/BkFkH4tnukQ/

原作があまりにも良かっただけに映像化には一抹の不安を感じないでもなかったのですが、事前に公開されたyoutubeの予告動画がとても良い出来だっただけに、見に行かずにはいられませんでした。

www.youtube.com

結果的には本当に見に行って良かったと言えます。

一番最初、学生時代の外村君と板鳥さんの出会いのシーンで響き渡るポーンというピアノの音、そこから感じられる森のイメージの表現……どれも原作の空気感をほぼ忠実に表現していて、すぐに作品の世界に没頭する事ができました。

柳さんが若干体育会系だったり、緻密に書き込まれた原作の細部は流石に省略されてしまったりと全く不満がないわけではありませんが、それでも満足のいく出来だったと思います。

羊と鋼の森』の話は尽きる事がありませんのでこの辺りにしておいて……作品のブログの方にも感想を書き加えていますので、そちらもご覧になって下さいね。

linus.hatenablog.jp

さて、本題である本作『誰かが足りない』のお話です。

本作が刊行されたのは2011年10月。

2007年に『スコーレNo,4』でデビューした著者のキャリアのほぼ中間あたりに位置する作品といえるでしょうか。

僕と同じように『羊と鋼の森』で感銘を受けて、他の作品も読もうと探し回った人は少なくないと思います。

あの作品の衝撃って本当に途轍もなかったですから。

どうして今までこんな素晴らしい作品を書く作家を見逃していたんだろうって、後悔するぐらい。

ところが、何を読んでよいものかわからない。

羊と鋼の森』で一気にブレイクした宮下奈津さんですが、調べてみるとそれまで代表作と呼べるようなものはあまりなさそうなんですよね。

小粒な作品しか書いてこなかったのか、それとも世の中から見落とされていただけなのか。

確かめる為には、とにかく一冊ずつ読んでいくしかないんです。

そんなわけで、僕は以前に『たった、それだけ』を読みました。

linus.hatenablog.jp

悪くはなかったですが、ちょっと物足りなかったのも事実です。

そうして三作目して選んだのが『誰かが足りない』です。

本作は2012年の本屋大賞ノミネート作品でもあります。

結果は7位ということもあり、あまり印象には残らなかったようですが……。

 

雑誌に掲載された連作短編

全6話の連作短編集です。

といっても物語や登場人物にこれといってつながりはなく、それぞれ「ハライ」というレストランが登場する点だけが共通しています。

様々な境遇の登場人物たちが、美味しくて人気の「ハライ」に予約をして、行こうと決めるまでの話。

それぞれが「誰かが足りない」喪失感を抱いている人たち。

……こう書くとなんとも味気ない話に聞こえてしまうかもしれませんね。

でも『羊と鋼の森』を思い出して貰えばおわかりいただけるかと思うのですが、宮下奈津さんって突拍子もないストーリーや展開、荒唐無稽な設定で読ませるタイプじゃないんですよね。

美しい文章と、細かい心理描写が優れた作者さんなのだと思います。

本作では各話の登場人物たちにそのエッセンスが現れています。

 ≪予約1≫故郷を離れ、進学後に意図せずコンビニに就職してしまった青年

 ≪予約2≫亡き夫の想い出を辿る認知症の女性

 ≪予約3≫仕事に追われる日々の中、幼馴染みに想いを寄せる女性

 ≪予約4≫母を失いビデオカメラを通してしか世の中と向き合えなくなった少年

 ≪予約5≫時々訪れる女性客に想いを寄せるコック

 ≪予約6≫失敗を匂いで察知していまう特異な性質を持った女性

それぞれ個性溢れて、宮下奈津さんらしさが出たエピソードかと思います。

個人的には特に後半三作が好きですね。


「ハライ」とは

作中ではそれぞれの口から「ハライ」の人気ぶりが語られています。

その一つ、予約1で主人公の青年と別れた美果子の例を挙げると――

――おいしいのよ。
――感じがいいの。
――やさしくて。
――懐かしい。

とにかくみんなが口々に絶賛するんですよね。

ところが、作中には肝心の「ハライ」は登場しません

冒頭と最後に、6つの短編をまとめる前書きとあとがきのように店内のシーンが若干描かれるばかりです。

なかなか面白い試みですよね。

存在は他者の口から語られるのに本人そのものは姿を現さないという意味では、朝井リョウさんの桐島、部活やめるってよを想起させられます。

そういう意味では宮下奈津さんの中での実験作の一つだったりするのかなぁ、なんて勘ぐってしまったり。

最終的に「ハライ」で6つの話と登場人物が結びついて、1つの大きな話としてまとまるような構成ならばもっと良かったのかもしれませんが……繰り返しになりますけど、宮下奈津さんってそういうギミックを書く作家さんには思えませんもんね。


そして宮下奈津探訪は続く

本作が良かったか悪かったかと言うと、個人的には悪くなかったと思います。

本作で三作目となり、宮下奈津さんという作家の特徴や個性がだんだんと僕の中で形になってきたように感じます。

でもまぁもっと入り組んだパズルのような面白さを求める人にとっては、つまらなく感じてしまう事でしょう。

何度も繰り返していますが、そういうものは宮下奈津さんには求めてはいけないのかもしれません。

それこそが宮下奈津さんという作家の楽しみ方なのかも。

もちろん、これからまだまだ作風が変わっていく可能性も大いにありますけど。

特に『羊と鋼の森』がこれだけの大ヒットになった以上、作者も出版社も次の作品にはかなり力を入れつつ、頭を悩ませているのは間違いありませんし。

僕もたった三作で全てを悟ったなんて言えるはずがありませんので、今後も宮下奈津探訪を続けていきます。

早く「滅茶苦茶良かった!」と大絶賛できるような作品に会いたいですね。

https://www.instagram.com/p/BkOdWvUnYWv/

#誰かが足りない #宮下奈都 読了#羊と鋼の森 でブレイクした宮下奈都さん。ところが他に代表作と呼べる作品がない。本当にないのか、それとも見落とされているだけなのか。確かめ為にはとにかく読むしかない。というわけで #たったそれだけ に続き三作目に挑戦です。人気のレストラン「ハライ」を軸とした六作の短編集。とはいえそれぞれのエピソードに関連はなく、ハライも語られるだけで実際に登場はしない。宮下奈都らしいキレイな文章で一つ一つの作品は悪くないのだけど、全体としてまとまっているかというと今ひとつ。実験作的な匂いがします。でもそもそも突拍子もないストーリーや荒唐無稽な設定で読ませるタイプじゃありませんからね。一つ一つの作品や登場人物はそれぞれ個性溢れて好きです。まだまだ宮下奈都探訪は続きそうですね。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい#本好きな人と繋がりたい ..※今回もブログ更新しています。プロフィールのリンクよりご確認下さい。


 

『青空と逃げる』辻村深月

 

力と母、そして、父。
親子三人の、東京の日常が失われたのは、夏のはじめ、七月に入ったばかりのことだった。
父が交通事故に遭った、という電話がきたのが、すべての始まりだった。

先日かがみの孤城』が2018年本屋大賞に輝いたばかりの辻村深月さんの新刊『青空と逃げる』を読みました。
かがみの孤城』は本屋大賞が発表になる10日ばかり前に読み、「個人的には本屋大賞を獲ってもおかしくない作品」だなんて大仰な事を書き残していたばかりに、受賞が決まった時はなんだか自分の事のように嬉しかったですね。

linus.hatenablog.jp


一家の再生の物語――

深夜の交通事故から幕を開けた、家族の危機。母と息子は東京から逃げることを決めた。――辻村深月が贈る、一家の再生の物語。

上記は版元である中央公論社の特設ページから引用したものです。
ある日交通事故に巻き込まれた父。
父が乗っていた車はとある著名な女優のものでした。
ほどなくして自ら命を絶つ女優と、行方をくらました父。
周囲の目と父の行方を追う関係者の前から、母と息子は逃げ出します。
行く先々で心優しい人々と出会い、ほっとしたのも束の間、追手の影に脅かされ、その度に逃亡を繰り返す親子。
四国へ、小さな島へ、温泉へ。
まるで角田光代『八日目の蝉』を彷彿とさせるような逃亡の物語です。
満足に感謝も述べられず、再会も約束できずに引き裂かれるようにして繰り返される別れの都度、なんとも切ない想いがこみあげてしまいます。
しかし、姿をくらませた父のその後の消息はなかなか語られず……この親子にいつか本当の意味で心安らげる日々が戻ってくるのかと、読んでいてハラハラせずにはいられません。


描かれる旅情の豊かさ

切なさと悲しさに彩られたような旅路ですが、行く先々で待ち受ける旅情の豊かさにも注目です。
物語が始まるのは四万十川の側の小さな田舎町。
広い四万十川テナガエビ漁に興じる少年の姿から始まります。
続く小さな島では、年上の少女優芽と出会い、美しい瀬戸内海の浜辺や自然豊かな島の様子が描かれます。
温泉街では母自身が砂湯の砂かけさんとして働く事で、古くから伝わる温泉の歴史文化の今の姿が活き活きと語られます。
寂しい逃亡劇であるはずなのですが、どこか美しく、楽しげにも感じられるのはそのせいでしょう。
対人だけではない無数の出会いと別れを経て、親子それぞれが成長をしていく物語でもあるのです。


かがみの孤城』より劣る?

本屋大賞を受賞した作家の新刊とあって最近ではSNS等で見かける事も多い本書ですが、「『かがみの孤城』と比べると劣る」という評価を下されているケースも少なくないように見受けられます。
全554ページの『かがみの孤城』に対し、本書は400ページ弱ですから、そういった点から「スケール感でちょっと」と言われてしまったりもするようです。
でもたぶん、個人的な読みとしては本書の方がかなり手間がかかっているのだと推察します。
逃亡先それぞれについても著者自身が足を運んでいるのは間違いないでしょうし、テナガエビ漁や砂かけといった一つ一つについても、ちょっと見ただけで描いたようには思えません。
終盤では東日本大震災の被災地や被災者の様子にも触れられています。
いかにも「震災を描きました」というような仰々しさではなく、辻村さんらしい何気ない書き方なのですが。
きっと実際に体験をしたり、直接当事者に話を聞いたりしながら、取材を重ねて書かれたのだと思います。
成人式を迎えた娘さんとお母さん、妹のエピソードには思わずほろりとさせられてしまいますね。
ましてや本書は新聞連載作品ですからね。
取材を重ねつつ、途切れ途切れになってしまいがちな新聞連載作品をこうしてしっかりとまとめ上げた技量はさすがだな、と感じ入ってしまいます。
登場人物も多く、それぞれの内面にまで踏み込んだ『かがみの孤城』に比べると、母と子の二人にスポットが向けられた本書が物足りないと感じられてしまうのは無理もないようにも思えますけど、日本全国の様々な土地の様子を詳らかに描いたという面では決してスケール感で劣るものではないと思っています。

 

辻村深月といえば女の子

かがみの孤城』では女の子が主役でしたが、個人的には辻村深月といえば女の子のイメージがあります。
『凍りのくじら』もそうでしたし。
名作『ツナグ』でも主人公の少年よりもむしろ「親友の心得」に出てきた二人の少女の方に強い印象が残っていますし。
ほんと、年頃の女の子を描かせたら天下一品だと思っています。

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でもって、どちらかというと男の子は毎回似たような人物造形が多いかなーと感じています。
品行方正で素直で、強くて、しっかり者で。
本作は母親と息子の交互の視点で物語が進められていきますが、やはり似たような位置づけですね。
母親の方が女性らしい人間らしさが際立っているのに対し、まだ小学生の少年は妙にしっかりしていて、むしろ母親を支える王子様のような役回りにも感じられます。
そこがまた辻村作品らしさだと思うので良いのですが、女性の方が読むと逞しく成長していく少年の姿にキュンキュンしてしまうのかもしれませんね。


安心して勧められる本です

かがみの孤城』が話題になりすぎてちょっとハードルが上がり過ぎている感はありますが、結論から言うと本書『青空と逃げる』も安心して勧められる本です。
決して読んで「つまらなかった」と言われるような心配はないでしょう。
最大の謎である「父の行方」という点においても、作中にいくつもの手掛かりや謎が残されていますし、終盤にそれらが解き明かされていく展開にはまんまと没頭させられてしまいます。
なんとなくこのまま『かがみの孤城』の影に隠れたままで凡作として忘れ去られてしまいそうなので、しつこく推しておきましょう。
良い本ですよ。
読みましょう。

https://www.instagram.com/p/BkGiI3mHpsu/

#青空と逃げる #辻村深月 読了#かがみの孤城 で #2018年本屋大賞 を受賞した辻村深月さんの最新作です。ある事件をきっかけに父親が失踪し、大阪・四国・大分・仙台と逃亡を繰り返す母子の物語。かがみの孤城に見られたようなメルヘンさはありませんが、訪れる土地土地の美しい風景や固有の文化とともに、優しい人々との出会いと別れを繰り返す心温まる物語でした。逃亡の物語としては温か目の #八日目の蝉 のような雰囲気も。安心しておすすめできる本です。ぜひ読んでみて下さい。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログも更新しました。プロフィールのリンクよりご確認下さい。

 

『わたし、型屋の社長になります』上野歩

「世界の三〇パーセントの金型は日本企業でつくられているんだからね」

以前読んだ『削り屋』に続いて二作目の上野歩作品になります。
『削り屋』は元々歯科医師になるために大学に通っていた主人公が友人を助ける為に大学を中退し、歯ではなく金属を削る工場に勤めるというもの。
初っ端から河川敷で大人数対主人公一人の大立ち回りという昭和漫画そのもののシーンから始まる『削り屋』は、現在僕の2018年ワースト本にダントツ首位でノミネートされています。

linus.hatenablog.jp

一方、同時に購入したこちらは同じ金属を扱う工場でも金型を作る会社になります。
五軸のマシニング等、使う機械は似たようなものなんですけどね。
こちらではプラスチックや金属の材料を流し込んで固める為の型を作っているのです。

「ええっと、鯛の形をした型に、溶いた小麦粉を流して、餡子を入れて焼いてますよね」
「あの鯛の形の型――あれが金型ね」

とまぁ、本書の表現を借りれば上記の通りとなります。

ひょんなことから実家の金型屋を継ぐことになった広告代理店勤務の女性……彼女が繰り広げる会社再建の物語こそが本書『わたし、型屋の社長になります』のお話になります。


簡単にあらすじ

主人公の花丘明希子はダイ通という広告代理店に勤務しています。
言うまでもなく、モデルは電通でしょうね。
二十九歳にして第三営業部副部長という素晴らしい肩書。
とある洋酒メーカーから全国の得意先五千軒の飲食店を紹介するガイドブックの制作を受けたと意気込んでいます。
そんな矢先、父が脳出血で倒れたという一報が。
慌てて駆け付けた明希子でしたが、父は一命をとりとめたものの後遺症が残り、企業経営を続けられる状態ではありません。
ふと寄ってみた実家の会社は暇で暇で仕方がない様子であり、不審な様子を感じ取った明希子は幼い頃から懇意にしていた新潟の同じ金型会社の社長を訪ねます。
そこで、実家の経営状態がかなり悪いという噂を耳にします。
改めて乗り込んだ実家では、やはり傾きかけた会社の実情が明らかに。
新潟の社長の後押しもあり、ついに明希子は、自分が父の代わりに社長の座につく事を決意します。

明希子の取り組み

ここからが結構ヤバめ。
明希子が最初にやるのは会社と従業員の実情を知る事。
ところが、さっそく地元のメインバンクから融資が引き上げられるという困難に遭遇します。
あちこち他の銀行を当たるも、けんもほろろ
メインバンクが引き上げるような状態の会社に、そうやすやすとお金を貸す銀行があるはずがありません。
ところがふとしたきっかけで勧められた信用金庫に当たったところ、最初こそ他行同様にすげなく断られますが、たまたま居合わせた専務理事が明希子の父親と懇意の仲だという理由だけで、突然融資を受けられる事になります。
池井戸潤が読んだらびっくりしてひっくり返りそうなご都合展開です。
そうして五千万の融資を得た明希子ですが、真っ先に行ったのは事務所のリフォーム
事務所や社長室やらを分断していた壁を取り払って、見通しも風通しも良い会社へと改造するのです。
……気持ちはわからなくもありませんが、ついさっきまで倒産しそうだと喘いでいたとはとても思えませんね。
続いては自ら会社を畳んだという元経営者の藤見を会社に連れてきて、生産管理を改革する幹部として採用してしまいます。

仕事の減少と社長の退任という危機に瀕する中で必死についてきた従業員を思えば、もっともっと大きな反発があってもおかしくないと思うのですが、反発はごく僅か。
しかし藤見はさらりと会社に馴染んでしまいます。
やがて以前の一番の取引先である自動車メーカーから仕事の依頼をもちかけられますが、会社を辞めて他の会社に移った元従業員に横取りされそうになってしまいます。
それも相手側の出来が悪くて自滅というタナボタでもう一度チャンスが巡り、しっかりと応える形で花丘製作所はハッピーエンドを迎えます。
明希子が頑張ったから、といった雰囲気ですが、読んでいてしらっとしたものを感じてしまいます。
だって大して何もやってませんからね。
最終的に困難な金型の制作に成功したのも、単に元々いた従業員が優秀だったという点が否めませんし。
なんとなく企業によくある浮き沈みの谷間に、たまたま世代交代があって訳も分からない素人の娘が社長に就いていたという風に感じてしまいます。

小学館の小説はハズレが多い

批判ばかりでなんとも微妙なブログになってしまいましたが、実際読んで面白いものでもなければ他人に勧めたくなるようなものでもないのははっきり書いておきます。
以前小学館の小説を続けて読んでみた機会があったのですが、全体的に小学館から刊行されている小説って小粒な印象です。
勿論、例外はあるのでしょうけど。
文章力にせよ、構成力にせよ、すべての面において他社から刊行される本の平均を下回っていると感じています。
本作も題材は悪くないのだから、ちょっとした違いで池井戸潤のようなエンタメ企業小説になる可能性もあったと思うのですが。
いかんせん、一つ一つのエピソードに説得力がなく、物語をつなぎ合わせる為だけに取ってつけたような章も目立ち、とにかく洗練されていないといった印象。
だったら読むな、と言われそうですが、いい加減小学館の小説はしばらく控えようかな、と思います。
削り屋にせよ型屋にせよ、小説の題材にするのは珍しいので面白い試みではあったんですけどね。
残念ながら、『削り屋』よりマシかな、ぐらいの感想で終わってしまいました。

どうせ紹介するなら面白い本の話を書きたいものです。

https://www.instagram.com/p/Bj7DYQZH8Sx/

#わたし型屋の社長になります #上野歩 読了#削り屋 に続き今度は金型屋さんの社長になる女性の話金属加工にせよ金型にせよ、小説の題材にするのは珍しいですよねただ、残念ながら本作も削り屋同様、あまりオススメできる出来ではありませんでした。全体的に #小学館 が発行する小説はいまいちが多い印象今後は出来るだけ避けたいと思います。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ.. ※今回もブログ更新しています。気になる方はプロフィールのリンクよりどうぞ。

 

 

『風は西から』村山由佳

明日へ突っ走れ 未来へ突っ走れ 魂で走れ

明日はもっといいぜ 未来はずっといいぜ 魂でいこうぜ

久しぶりの村山由佳『風は西から』

作中に度々登場する奥田民生の同名曲『風は西から』はマツダのCMでもお馴染みの曲でした。

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村山由佳といえばデビュー作『天使の卵』をはじめ青春恋愛小説や昨今では大胆な作風転換でも話題となった官能小説に代表される“生と性”の物語でもお馴染みです。

ところが本作は“過労自殺”という非常に重いテーマを扱っています。

村山由佳の新境地とも言える作品です。

心して読みましょう。

 

爽やかな男女を襲う世間の荒波

物語は大学を卒業し、それぞれ夢を持って社会に踏み出した二人の男女から始まります。

初期の村山作品やおいしいコーヒーのいれ方シリーズを彷彿とさせる爽やかな男女の姿が続きます。

いずれ実家の飲食店を継ぐという健介は、全国に広がる有名な居酒屋チェーンへ。一方で千秋は食品メーカーへと就職します。

勤め始めてしばらくの間はこれまで通り順調な愛をはぐくんできた二人でしたが、健介が本部を離れ、店舗に配属されてから大きく歯車が狂い始めます。

健介の勤める居酒屋チェーンでは厳しい人件費コントロールのノルマが課せられ、達成するためには社員である健介達自身がサービス残業や休日出勤をしなければならないのです。

誰よりも早く出勤し、一人で開店前の仕込みをし、バイトを上がらせタイムカードを切った後も閉店後の片づけまで働き続けるという苦しい生活。

迷いと戸惑いを抱きつつも、健介は会社を離れる事も異を唱える事もかなわず、ただただ消耗していきます。

千秋も仕事上のトラブルや難問にぶち当たりますが、健介の追い込まれ方に比べればマシに思います。

日勤の千秋と夜型の健介ではそもそも生活のリズムが異なり、会う事すらままならなかったのですが、いよいよ電話すら叶わなくなります。健介の置かれた状況に警鐘を鳴らす千秋に対してまで、健介はささくれだった心をむき出しにして荒ぶります。

そしてある日……健介から届いたメッセージに違和感を感じ取った千秋は健介の部屋へと向かいます。キレイ好きでしっかり者のはずの健介の部屋は荒れ果て放題。

主のいない部屋で千秋は部屋の片づけをして健介を待ちますが……そこに聞こえてくる救急車のサイレン。

マンションの屋上から誰かが身を投げたらしい。

そしてそれこそが……健介だったのです。

 

ブラック企業との長い戦い

千秋と健介の両親は協力して健介の無念を晴らすべく戦います。

相手は健介の勤めていた居酒屋チェーンです。

いろいろなところに書かれているので特に隠す必要もないかと思いますが、モデルは居酒屋チェーン『和民』で起きた過労自殺の裁判そのもの

健介の勤務の実態や厳しいノルマ、勤務時間外に課せられる課題等、様々な不正を暴くべく情報開示を求める千秋に対し、居酒屋チェーンはのらりくらりと回答をはぐらかし、挙句の果てに「自分たちに非はない」と遠回しに主張し続けま

その度に協力者や情報を求めて奔走する千秋たちですが、新たな証拠を突き付けても相手の態度は一向に変わらず……時間も心もすり減らすような日々が続いた後、ある日唐突に戦いは終わりを告げるのです。

 

実は僕もブラック企業に勤めています

僕が今働いている勤務先も、ブラック企業です。

朝は8時出勤。正確には15~20分前にはみんな出勤して、就業前の清掃活動から始まります。

終業は僕の場合で19時ぐらいでしょうか?

20時や21時になる場合も少なくありません。

他のメンバーは21時や22時になるのもザラです。

最近ようやく「遅くとも20時には帰れるようにしないと」と言い出しました。

それでも17時が定時とすれば毎日3時間残業ですか。異常ですよね。

月にすれば60時間は超える計算になります。

まぁ、隔週の土曜日と毎週日曜日はちゃんと休めてますのでマシかもしれませんが。

でもやっぱり、残業が常態化しているのはおかしいと思うのです。

突発的にやむを得ず遅くなるのは仕方ないですし、就業前後に自主的に身の回りを片付けしたりするのは仕方ないですけどね。

何よりも不思議なのは経営陣や幹部連に一切改善の様子が見られないところですけど。

そういう会社に限って、同業の似たような会社の状況を聞きつけては「やっぱりそうだよね。働き方改革なんて言っても結局タイムカード押してから働き続けるようになるんだよね」なんて。

そりゃあ似たような会社ばかり見てたらそうなる。

大手は別。毎日定時で終わるなんてどこかの恵まれた世界の話。そう頭から決めつけてしまっているんだから改善なんてされるはずもない。

まぁ、実は今の会社に勤め始めてまだ数か月しか経ってませんので大きな口も利けないのですが。

近々退職しようと計画中の僕にとっては、本書はとても胸に染みる話でした。

まーいずれにせよ少子化が進んで若者が急速に減少しつつある現在、「人手不足倒産」もこれからどんどん増えると思いますけどね。

完全な売り手市場である現在、わざわざ条件の悪い企業で働こうとする人なんていませんから。

ましてやここ10年20年の少子化って、本当に目に見えて進んでます。

たまたま自分の母校に足を運んだりすると、並ぶ下駄箱の数が激減しているのに愕然としたりします。

でもブラック企業で毎日家と会社の往復だけして生活しているおじさん達は世の中の状況なんて目に入らないので、20年前の考え方そのままに仕事してたりするんですよね。

最近では求人の出し方も「カップルOK」とか「茶髪・ネイルOK」なんてあえて書く事で、とにかく応募してもらおうという姿勢に変わってきています。

「変な奴はいらない。できる人だけ欲しい」

なんて自分たちが出す条件の悪さに目もむけずに高望みだけするブラック企業には、応募なんてなくて当たり前なんです。

そもそも人を大事にできないからこそ、ブラック企業なんですけどね。

だいぶ脱線しましたが、キリがないのでこんなところで。

https://www.instagram.com/p/BjyvauSHdiE/

#村山由佳 #風は西から 読了恋愛や性についての物語が多い村山由佳にしては珍しく #過労自殺 #ブラック企業 をテーマにした作品新聞連載されていただけあって著者お得意の性描写は控えめというかほぼ封印。初期の作品を彷彿とさせるような清々しい恋愛を育む二人が辛い状況に陥られていくのは読んでいて胸に迫るものがあります。残された彼女と両親はお互いに気遣い合い、励まし合いながら死に追い込んだ企業との長く苦しい戦いへと入っていきます。僕の青春時代を形作ったと言っても過言ではない村山由佳さんの本だけに最初から最後まで一気読みでした。あまり話題にはなっていないようですが、官能小説ではない村山由佳をぜひ一度お試し下さい。#本 #本好き #本が好き #活字中毒 #読書 #読書好き #本がある暮らし #本のある生活 #読了#どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい ..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクからご確認下さい。