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年間100冊前後の読書を楽しんでいます。推理小説・恋愛小説・歴史小説・ビジネス書・ラノベなんでもあり。

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』七月隆文

「ぼくたちはすれ違ってない。端と端を結んだ輪になって、ひとつにつながっているんだ」 

 年明け早々にアップした『みかづき』は2018年内から読み始めた本だったので、厳密に言うと本作が今年初めて読んだ本、という事になります。

ぼくは明日、昨日のきみとデートする

2016年12月に福士蒼汰小松菜奈主演で映画化もされた人気作品です。

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SFチックな恋愛もの

簡単に言うと上記のようなお話。

 

大学生の高寿はある朝通学途中の電車の中で、一目惚れをしてしまう。

驚く程順調に二人は再会を果たし、デートを重ね、恋人になるも……彼女には重大な秘密があって。。。

 

……とまぁすごく典型的なボーイ・ミーツ・ガール(Boy Meets Girl)の物語なんですが、『君の名は。』を彷彿とさせるSFチックな要素も含まれていて、なかなか面白い。

やっぱり恋の障害は本人たち以外の部分に設けないとダメですよね。

以前の記事に書いたそんな指摘が再確認できた作品でもありました。

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また、本書については「文章が稚拙」をはじめとする批判も多く見受けられますが、秀逸なのは「徹底した凡庸さ」なのでしょうね。

村山由佳の初期作品にも見られた定番に定番を重ねたような凡庸さ

けど凡庸さも徹底すれば大きな武器になる、という事でしょう。

 

極めてシンプルに、ベタな恋愛ものとしての王道を踏襲してくれています。

 

作品や文章に深みや味わいを求める人にも物足りないかもしれませんが、消費すべきエンタメの一つとして楽しむ分には非常に優れていると感じました。

 

HY

年末年始、一週間ほどの休暇があったのですが、その間にデスクに向かっている時間が多くありました。

訳あって自宅でも学習する日が増えてきています。

 

勉強しながらPCにぶち込んでいた音楽を適当にシャッフルして聴いていたのですが、その時にふと流れてきたのがHYの曲だったんですね。

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こんな曲を聴いていたところ、先に紹介したような村山由佳の『天使の卵』や昔読んだ甘酸っぱい恋愛小説なんかを思い出してしまい、なんとなく手に取ったのが本書でした。

 

音楽にも合っていて、いい感じに楽しめました。

 

音楽×小説

僕は時々、小説を読みながら「この本にはどんな音楽が合うだろうか」なんて考えたりします。

以前米澤穂信の『インシテミル』を読んていた時にはCTSの『○△□』をひたすらヘビーリピートして聴いていました。

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最近アクセスが増えている『密室殺人ゲーム王手飛車取り』のシリーズに合わせているのはbanvoxですね。特に『Let's go』のドロップがこういう謎解きゲームの混沌さにはよく合います。

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逆に静かにじっくり読みたい作品なんかだと、カーペンターズのアルバムあたりをBGM代わりに低めの音量で流したりするんですが。

 

あんまり歌詞の多い曲やポップな曲は小説に合わせるのは難しいですね。

恋愛小説にHYスキマスイッチは定番化していますが。

 

今回のように先に音楽ありきで、それに合わせる作品を考えるなんていう事もあったりするわけです。

なんのこっちゃ、という感じかもしれませんが。

https://www.instagram.com/p/BsXOuIMF1IT/

#ぼくは明日昨日のきみとデートする #ぼく明日 #七月隆文読了勉強しながらPCの音楽シャッフルして聴いていたところ流れてきたのが #HY の #ijustdoitforyouで、それに合う本を探していたら本書に当たりました。大学生の主人公が通学途中に一目惚れ。順調に恋に発展するものの彼女には秘密があって……という典型的な #ボーイミーツガール の物語加えて #君の名は を彷彿とさせるSFチックな設定も。ベタで定番な物語ではあるものの、徹底した凡庸さがかえって心地良かったかな。文章や物語に厚みや深みを求める人には向かないかもしれません。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。

『みかづき』森絵都

「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです」 

2018年最後の締め括りとして選んだのは、森絵都さんの『みかづき』でした。

 

2017年本屋大賞では『蜜蜂と遠雷』に次ぐ二位にランクイン。

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更に来春からはNHKでドラマ化も決定!

 

www.cinra.net

加えて元々僕の森絵都さんに対する評価って、こんな感じ。

森絵都という作家は、うまい。

それが僕の印象。

童話作家出身だけあって難解な言葉や言い回しを使わず、とっても読みやすく優しい文章。それなのに頭に浮かぶイメージはとても鮮烈。どうしてこんな文章が書けるんだろうと不思議になる。

上記は以前書いた『つきのふね』の記事からの抜粋ですが、御覧の通り、とにかく信頼が厚い作家さんなんです。

 

 ひとつ前に読んだ本がちょっといまいちで……だからこそ余計に、最後には間違いない本を選びたいと思っているさ中、『みかづき』を選んだのはある意味必然でした。

 

 親子3代続く教育一家の大河ドラマ

時は昭和35年

小学校で用務員として働く大島吾郎はひょんなことから勉強について行けない子たちに補修を行うようになります。

吾郎の才能を見出した千明は彼に開校する塾の経営者となるよう半ば強引に誘います。

それはつまり、シングルマザーで娘を抱える千明と家庭を築く事でもあります。

 

自身の起こした不祥事により学校にいられなくなった吾郎は千明とともに塾の経営へと乗り出します。温和で教えるのが上手な一方で経営にはからきし弱い吾郎と、授業は吾郎に及ばないが経営に強い千明とのタッグは上手く作用し、塾の経営は少しずつ軌道に乗り始めます。

 

ところが出だしこそ好調なものの、すぐさま同業者との争いが活発化し、千明が吾郎には一切の相談もせずに別の塾との共同経営を持ち出した辺りから二人のすれ違いが始まり、やがて吾郎は妻である千明の手により塾長の座から追われる結果に。

 

そこから吾郎が中心であったはずの物語は千明が中心に回りはじめ、塾は拡大路線へ。さらに次女の蘭が経営に参画。蘭は千明譲りの強引で勝気な性格で千明とはまた異なる塾運営へと踏み出そうと躍動します。

 

最終的に千明の孫である一郎が登場。一郎は塾に通えるだけの経済力を持たない家庭の子供を対象に、ボランティアによる無償の教育サービスを立ち上げようとします。

 

上記のような親子三代、50年にも及ぶ教育とのかかわり合いが時代ごとの教育本心や世相を絡めながら、濃厚な密度で描かれているのが本書なのです。

 

面白いか、面白くないか 

 ……とはいえ、結構読むのに時間がかかってしまったんですよねぇ。

読み始めたのが12月28日で、あんまり本気になってしまうと翌年までもたないと思ってスロースタートで読み始めた事もあったのですが。

予想外に年末年始が慌ただしく、読書の時間が取れなかったり。。。

 

でもやっぱり一番の理由は、いまいち物語に入り込めなかったんですよねぇ。

 

塾や教育とテーマにいまいち興味が持てなかったのか?

決してそういうわけではなかったと思うんですが。

 

最大の原因は、とにかく作品全体が“暗い”という事。

 

森絵都さん、一体どうしちゃったの?と思えるぐらい雰囲気が暗い。

 

最初の主人公である吾郎や長女の蕗子と、物語の中ではどちらかというと善人的立ち位置の人々が早々とフェードアウトしてしまって、千明や蘭といった野心的な人間が中心になってしまったのが要因かと思いますが。

 

まぁ決して善悪と簡単に色分けはできないんですけどね。吾郎に任せていたら塾は続かなかったかもしれないし、リアルな世の中的にも経営に弱い善人なんてカモにしかなりませんからね。

現実的に考えれば、千明や蘭が主導権を握るのは妥当なのかもしれませんが。

 

それでも戦後50年を描いた500ページ近い大作を読むのであれば、やっぱりハートフルで温かい愛のある物語を読みたいかなぁ、なんて思ってしまいます。

 

決して本作が冷たいわけではないんですけどね。

 

あと、もしかしたらですけど、森絵都さんって少年少女を主人公にした作品の方が上手いんじゃないかなぁなんて疑念も生まれてしまいました。

これはあくまで僕の中の疑問なので、これから他の作品も読んで確かめなければなんとも言えませんけど。

 

みかづき』タイトルの意味

最後に、『みかづき』のタイトルの意味について書いておきます。

作品序盤で千明の口から、作品そのものを表すかのような言葉が発せられています。

「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです」

学校教育に対して不信感を抱く千明は、それに対する存在として塾を立ち上げようと志しています。

 

そして終盤に登場するのがこちらの文章。

「常に何かが欠けている三日月。教育も自分と同様、そのようなものであるのかもしれない。欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むのかもしれない」

序盤では塾を月になぞらえましたが、その月は決して満月ではなく、満ちようと努力を続ける三日月である、と言うのです。

 

森絵都さんらしさが発揮された非常に豊かな表現に感じられますね。

 

ただ月とはいえ、やっぱり全体的に暗い感じなのはどうなのか。

千明をはじめ、吾郎にしても娘たちにしてもあんまり幸せそうじゃないんだよなぁ。

人生を楽しんでいる感じでもないし。

 

その辺が朝ドラじゃなくて土曜ドラマ枠になってしまった理由だったりするのかなぁ。

 

ちょっと森絵都さんらしくないように感じました。

  

https://www.instagram.com/p/BsKdGjSluN8/

あけましておめでとうございます。遅くなりましたが今年最初の投稿です。#みかづき #森絵都 読了2018年最後に読み始めた本。2017年の本屋大賞で #蜜蜂と遠雷 に次ぐ二位に収まった作品。昭和36年から始まり、親子三代に渡って教育に関わる家族の物語。朝ドラ化も夢じゃないぐらい壮大な大河ドラマ。 ……にも関わらず、いまいち本に入り込めず結局年明けの今までかかってようやく読み終える事に。最初の主人公の五郎だったり、長女の蕗子だったり、魅力的な人物に限って虐げられてしまう印象が。憎まれっ子世にはばかる的な。感情移入しきれなかったのはその辺が原因かな?#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。

『崩れる脳を抱きしめて』知念実希人

ダイヤの鳥籠に入った小鳥と、大空を自由に飛べる小鳥、どっちの方が幸せだと思う?

『崩れる脳を抱きしめて』を読みました。

こちらも先日読んだ『星の子』と同じ第15回2018年本屋大賞ノミネート作品で、その時大賞を受賞したのは辻村深月さんの『かがみの孤城』でした。

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上の二作はどちらも良い作品でしたね。

かがみの孤城』については「個人的には本屋大賞を獲ってもおかしくない作品」なんて書いた予想が的中してしまったし。

 

……で、まぁ本作。

 

はっきり言って合いませんでした。

しかも残念な事に僕にとっては憤りを覚えるタイプの作品だったんですよねぇ。

 

本来だと細かくああだこうだ書かずに次に進みたいところなのですが、今年の残り僅か、今年最後のハズレ作品として、ちょっと細かく「何がダメなのか」分析を試みてみたいと思います。

 

本作及び知念実希人ファンの方はスルーして下さいね。

 

喪失系感動物語

最近またブームなんでしょうか?

安易に量産され過ぎてませんか?

不治の病に侵され、残り僅かな余命を懸命に生きるヒロイン。

 

当ブログでも何度も描いてきていますが、これって堀辰雄風立ちぬを筆頭に擦られまくっているネタなんですよね。

しかも『風立ちぬ』をはじめ、過去に名作と呼ばれる作品が多いのも玉にキズ。

セカチューの略語でも知られる片山恭一『世界の中心で愛を叫ぶ』であったり、中村航『100回泣くこと』であったり。

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でもって最近で一番のヒット作と言えば、コレになるでしょう。

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こういった物語についての考察は、上の『君の膵臓をたべたい』の記事でさんざん書かせていただきました。

こういった物語は基本的にストーリーも似通ってきます。

  • 出会いから始まり、二人が親密さを増し、お互いに相手の重要さを認識。
  • 盛り上がる感情と反比例するようにやがて訪れる彼女の死という逃れられない運命に苦悩。
  • 愛を語る上でこれ以上ないカンフル剤として「病」を利用し、あとは死後の喪失感を描く。

ざっくりこんな感じです。

死を描くことで愛がより際立ち、喪失感で涙を誘うというお決まりのパターン。

本書もまた、研修医である主人公が実習先としてやってきた病院で、ユカリと名乗る一人の女性患者と出会うところから始まります。

ユカリの病名はグリオブラストーマ(悪性脳腫瘍)。

余命は僅か数ヶ月。悪化すれば今すぐ死んでもおかしくない時限爆弾。

 

二人は出会い、お互いを知り、わかりあう事で次第に惹かれていって……ってもうお決まりのパターンだから説明も想像も面倒ですね。

 

本書はミステリの体裁を取り入れつつも、下敷きとしては上記のようにさんざん擦られまくった物語の構造を題材としているのです。

 

天真爛漫系ヒロイン

……で、これもまた最近の流行りなんでしょうか?

余命宣告を受けたヒロインが妙に溌剌・天真爛漫にふるまっていたりします。

 

その最たるものが『君の膵臓をたべたい』なのかもしれませんが。

ただ僕、『キミスイ』に関しては決して悪い評価はしていなくて、むしろ肯定的な立場をとっています。

詳しくは『君の膵臓をたべたい』の記事を読んでいただきたいのですが、キミスイ』はああ見えて実は、テンプレから踏み出そうとしたオリジナリティーに溢れる作品だったりするからです。

 

ヒロインが末期患者とは思えない振る舞いを許されるのも、医学の進歩という理由づけが成されています。

現実社会において、末期癌の患者の多くは緩和ケア病棟でモルヒネをはじめとする薬剤を投与されながらベッドの上で最期を迎えて行きます。

キミスイ』で描かれていたのは従来の緩和ケアから進化し、それまで同様の日常生活を送りながら最期を迎える事が出来るパラレルワールドを前提としていたのです。

 

……さて、本書ではどうでしょう?

 

腫瘍が脳幹部にまで浸潤しているため手術不可能と判断、放射線療法を受けるが効果は少なく、中止となる。七月、緩和医療を目的として当院に店員。現在、鎮痛剤により頭痛はコントロールできているものの、抑鬱症状が強い。

 

ある程度の年齢になって、周囲で似たような病状の方を目にした経験があったりすると、上のような状況の患者さんが一体どのような状態にあるか、想像できるかと思います。

そもそも「緩和治療を目的」とする患者さんがどんな状態にあるかって、想像するだけで胸の痛い話だったりするんですが。

 

著者である知念実希人さんもまた現役医師であるそうですから、知らないはずはないんですよね。僕たちよりもよっぽど詳しいはず。

 

でも、知っている上であえて無視しているのかな?

 

とにかくそんな患者さんが若い医師と楽しく会話したり、時に喧嘩をしたり、ましてや「長い黒髪」「すっと通った鼻筋と長いまつ毛」「柔らかそうな髪がふわりと揺れる」といった形容が似合うような状態であるはずがないんです。

もっと言えば、一目惚れに等しいようなトキメキを抱かせるような状態ではあり得ない。

 

読み始めの前提条件からあまりにもリアリティーが欠落してしまっている事で、一気に読み手のモチベーションを急落させられてしまいます。

 

フィクションとはいえリアリティーが必要条件なのは言うまでもありません。

村田沙耶香さんの『消滅世界』のような突拍子もない設定の作品が受け入れられるのも、あくまで「こういう世界だったら人間ってこういう風になるかも」という共感できるリアリティーがあってこそです。

 

「脳に悪性腫瘍があるけどそれ以外には特に問題ないからピンピンしてる。その代わり、破裂したら即死ね。尚、痛みがないのは痛み止めのおかげ。時代設定は現代」

 

という状況は、現実感をもって想像できる設定でしょうか? そういう状況だとしたら、本人の肉体や精神はどんな状況でしょうか? 本書のような状態になり得ますか?

 

僕には信じられません。

例えそれがフィクションだとしても、成立しえる条件にあるとは思えません。

 

 

記号的登場人物

これも最近のラノベ界隈ではよく見られる傾向ですね。

登場人物たちが記号的で、リアリティーが欠落するとともに感情移入ができない。

 

この記号的、という表現をもう少し詳しく説明すると、レッテル貼りと言い換える事もできます。

 

例えば主人公。

医者だと言いますが、物語の中で医者らしい振る舞いや考え方、もっというと医者らしい生活感のようなものが一切感じられない。

医者を目指す理由も金のため、金にがめつい性格と説明されますが、やはりこれも彼の言動からはほとんど感じる事ができない。

“医者”“金にがめつい”といったレッテルが貼られ、そういう配役として動くから成立しているだけで、らしさがないんです。

 

舞台で例えれば、若く美しい女優が“おばあさん”という名札を付けただけでおばあさん役を演じるようなもの。役作りは一切なく、メイクもセリフ回しも全てが若い女性そのものでしかないのに、“おばあさん”という名札がついていて“おばあさん”の役を演じているから、一応物語は成立する。でも、観客側はどうにも不思議なものを見るかのような複雑な気分で舞台上を眺めている。

そんなちぐはぐさ。

 

主人公に限らず、終末期にあるはずのヒロインも同様です。

病院の他の登場人物も全てが同じ。

記号的にそれぞれがそれぞれの役に就いているだけで、さっぱりリアリティーが感じられない。

 

もっと簡潔に書くと「人間が描けていない」という結論になるんですかねぇ。

 

なので本来であれば死を目前に控え、非常にナーバスであるはずのヒロインが主人公に惹かれた理由にもさっぱり共感が持てないんですよね。

そんな魅力、どこにあったっけ?

本人は「本当の恋をしたことがない(←これもレッテルの一つ)」と言いつつ、過去には相手が勝手に寄ってきたそうですから、ルックスはそれなりなのでしょう。

 

とはいえ、ヒロインと主人公の交わした会話の中で、それほどまでにお互いを惹き付けるものがあったとは思えません。

その後も象徴的なやりとりがあったようにも感じられません。

なし崩し的に、“運命”という名の予定調和的に、お互いが惹かれあっていくだけです。

 

そういう物語だから、配役だから二人は恋に落ちた。

 

ここにも記号的な役割を演じる主人公たちの様子が現れているように感じます。

 

 

ミステリ要素

ちなみに本書は恋愛小説でもありますが、ミステリ小説でもあるようです。

そもそも知念実希人さんはミステリ作家みたいですね。

謎は大きく二つ、前半と後半に用意されています。

 

ただ……その内容に関してはどうしようもない程に、辻褄合わせ感の強いものです。

先に結論ありきで組み立てているのが丸わかりの中途半端さ

 

どうしてそんな面倒な事をしたの? もっと他に方法あるよね? それって一歩間違えたら気づかれないままで終わったかもしれないよね? 追い詰められた人間がそんな一か八かの賭けみたいな手段とる? その理由ってかなり適当じゃない?

 

もうなんか読んでて疑問点でいっぱいになってしまって。。。

かといって『イニシエーション・ラブ』や『葉桜の季節に君を想うということ』のように読み返して確認するようなものでもなく、ただただ説得力に欠くというか、辻褄合わせ感が強いというか。

 

文章もすごく稚拙で全部に目を通すのが面倒になってきますしね。

ええ、正直だいぶ読み飛ばしてしまいました。

どうでもよい文章が多すぎるので。

 

会話文で

「Aです」

「A?」

「AはBですから」

「Bだって?」

みたいな繰り返しって小説の作法としてあまりよろしくないとされていますよね。

あとは「ああ、はい」「はい?」「え」といった反応だけのセリフも多様すべきではない。

地の文で意図の伝わらない情景描写が多いのも問題。同じ住宅を描く場合でも、住人の経済状況を描きたいのか、住宅のデザイン性を描きたいのか、何を描きたいのかによって描写は変わるべき。「築45年」という形容が何を意図したものなのか伝わらなければ、それは不必要な文章でしかない。そういう謎の意図のわからない文章が多すぎる。

 

別に文学作品を求めているつもりではないのですが、そういった表現が文章をつまらなくし、読むモチベーションを奪うという事はよく理解できました。

 

流行の先にあるもの

不況と言われる出版業界ですが、ライトノベルは売れているようです。

行きつけの本屋さんでも、ライトノベルの棚はどんどん拡張されています。

各出版社とも、大人の向けのライトノベルレーベルをどんどん立ち上げているようです。

 

とはいえ、そもそも若年層の本離れが叫ばれ、漫画を含めた本を読んでいるのはアラフォー世代以降なんていう記事もどこかで目にした事があります。

本書のような作品は、一体どういう層に売れているんでしょうね?

本屋大賞にノミネートされるぐらいですから、一定の支持層を獲得しているのは間違いないのだと思いますが。

 

会話を中心とし、読みやすいライトノベルは確かに手に取りやすいのかもしれませんが、そういう本が売れているという状況に関しては首をひねらざるを得ません。

ライトノベルと言っても、文章や世界観がしっかりと作り込まれている本も少なくないですからね。

一方で、期待水準を大きく下回るような作品が多いのも確かです。

 

もちろん、昔からヒドイ作品はありましたけどね。ラノベでいえばあ〇ほりさとるとかあかほ〇さとるとかあかほり〇とるとかね。

まぁ、彼は彼で「ちゅどーーーーーーーーーーーん!」みたいな擬音を小説内で堂々と使うという、大きな礎を残していたりもしますし。

 

脱線しましたが、やはり僕が感じてしまうのは「プロモーションに振り回されている」ケースがあまりにも多すぎるんじゃないか、という点。

 

書店でも目に付く棚で仰々しく扱ってもらえればやはり実売数に影響しますよね。

内容以前の部分で勝負がついてしまっているケースって、圧倒的に多い。

 

まぁ今の小中学生は幼い内からネットに触れて育っている分、選択眼というのは非常に優れたものをもっていると感じますので、これから世の中はまだまだ変わっていくのでしょうけど。

彼ら、本当にどこから仕入れたかわからないような音楽や動画を楽しみまくってますからね。テレビやマスコミといった従来の媒体とはかけ離れたところでトレンドが生まれ、消費されている時代に入ってきています。

レコード大賞なんて言ったって、誰もありがたがらない時代ですもんね。

 

やがて各出版社の賞レースや本屋大賞もまた、形骸化してしまうのかもしれませんね。

https://www.instagram.com/p/Br6URLnFG7S/

#崩れる脳を抱きしめて #知念実希人 読了これが本屋大賞にノミネートされている理由がわからない。今年最後の合わない本。合う合わないの次元にも至ってないというか。あー残念。次に読む本こそ今年最後になるだろうから、そっちに期待。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。

『星の子』今村夏子

その日、帰宅してから、父は早速落合さんのまねをしはじめた。寝る直前まで頭の上に水に浸したタオルをのせて、夕飯を食べたりテレビを観たりした。翌朝は「落合さんのおっしゃったとおりだ。羽根が生えたみたいに体が軽いぞお」といい、母にも実践するようにすすめていた。

自宅では「金星のめぐみ」というありがたい水を染み込ませたタオルを常に頭に載せて生活する家族。

これが『星の子』の舞台でもあります。

 

なんとなく書名に覚えがあって調べてみたところ、第157回芥川賞の候補作であり2018年本屋大賞7位の作品である事がわかり、手に取ってみました。

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一体どんな物語なのか、予備情報を一切持たずに読み始めてしまった為、内容が明らかになってくるにつれて驚きを隠せませんでした。

 

戦慄、と言った方が良いかもしれません。

 

新興宗教にのめり込む両親

主人公のちひろは、赤ん坊の頃から病弱な体質。

生まれてすぐ三か月近くを保育器の中で過ごしたそうですから、両親の心痛は察するに余りあるところでしょう。

 

退院後も体調不良は続き、病院を駆けずり回る両親が出会ったのが、会社の同僚から勧められた水「金星のめぐみ」。

何をどうしても治らなかったちひろの湿疹が嘘のように消えてしまった事がきっかけで、両親は「金星のめぐみ」にのめり込んでいきます。

 

最初はちひろの体を洗うだけだった「金星のめぐみ」は飲食用にも使用され、やがて同僚の勧めから「金星のめぐみ」を染み込ませたタオルを頭にのせて暮らす生活へ。

ちひろの眼がおかしいと言えば、「金星のめぐみ」の購入先から、紫色の見るからに怪しげなメガネを買い与えたりと、一家はどんどん不穏な方向へと突き進んでいきます。

さらに幼いちひろの視点から語られる状況から、集会と呼ばれる集まりに参加したりする様子も。

 

「これは怪しい新興宗教じゃないか」と読んでいる内にわかってくるのですが、本書のおぞましいところは主人公であるちひろに自覚がないという点。

小学生の女の子が日常を語る中で、怪しげな水や集会、両親の奇行があたかも一般的な情景としてに挿入されてくるのです。つまり、ちひろにはそれらが生まれ育った環境の一部であって「おかしい事」として認識できていない。

 

誰しも大人になってから「あれ?これってうちだけのルールだったの?」と思い知らされる我が家だけの常識というものがあると思うのですが、まさしくちひろの家にとっては宗教こそがそれに当たります。

 

叔父が両親の変化に気づき、諭したり、怒ったりと何度もやってくるエピソードもあり、その中では常識的なはずの叔父に対し、家族全員で抵抗する場面も見られます。

幼いちひろ達にとっては、両親こそが何よりも正しいものであり、家庭こそが常識の全てなのでしょう。

必死に我が家のルールを守ろうと抵抗するちひろの家族と、それに対して戸惑いを隠せない叔父……両者に感情移入できてしまい、読んでいる側の心を揺さぶらずにはいられません。

 

しかしながらちひろも歳を重ね、小学校から中学校へと進むに連れて、自身の家と世の中の違いについて少しずつ理解せざるを得ない状況へと追いやられていきます。

 

父は会社を辞め、新興宗教絡みの会社へ転職。

姉は家出の後失踪し、自宅は引っ越しを重ねる度に小さくなっていく。

修学旅行の費用すら賄えず、従兄を通じて叔父に出してもらう事も。

 

戸惑いや葛藤を重ね、それでも尚、何が正しいとは言い切れない少女の成長の様子が、ありありと描かれているのです。

 

芥川賞候補作ということは……

本書は分類として純文学作品に該当するものなようですので、エンタメ作品とは異なります。

 

ということはつまり、派手などんでん返しや起伏に溢れる躍動的なストーリーは期待できない、という事です。

……というような文学作品に関する考察は、以前からちょこちょこ書いているんですけどね。

linus.hatenablog.jp

なので話題になってるから読んでみよーっと本屋大賞の受賞作を読むようなノリで手に取ってしまうと、「オチがない」とか「山場がない」とかいう感想で終わってしまいます。

本書に関するアマゾンのレビューにも同様のものが散見されます。

 

そもそもそういう作品ではない、という認識が必要です。

 

ところが、芥川賞受賞作でも例外的に「面白すぎる」作品もありました。

最近文庫本が発売されて再び注目されている『コンビニ人間』がその最たる例。

linus.hatenablog.jp

妙に心を惹き付けられる『コンビニ人間』はついつい一気読みしてしまう程に面白い作品でした。

でも本作も面白いです。

芥川賞候補作の中では勝手にコンビニ人間型、と呼んでも差し支えない面白さだと思います。

 

冒頭から幼い少女の視点で語られる和やかな家庭と、そこに挿入される怪しげな新興宗教エピソードとのなんともいえないちぐはぐさに魅入られてしまうと、一体この家族がどうなっていくのか、ちひろがどう成長していくのか、目が離せなくなってしまいます。

事実、昨晩から読み始め、あっという間の一気読みでした。

ページ数が200ページ強とそう多くない事もありますが、とにかく面白い。

すっかり嵌まってしまいました。

 

派手などんでん返しや起伏に溢れる躍動的なストーリーは期待できないと先に書きましたが、『コンビニ人間』と並んで、文学作品の入り口にはとても良い作品なのではないでしょうか。

読んで決して後悔はしない作品の一つだと思います。

https://www.instagram.com/p/Br31YNxF97g/

#星の子 #今村夏子 読了第157回芥川賞の候補作にして2018年本屋大賞ノミネート作品。めっちゃ面白かった。昨晩から一気読み。新興宗教に傾倒していく両親を持つ少女が主人公。微笑ましい家族の日常生活の中に、ちょくちょく挿入される奇行や謎の慣習がおぞましい。主人公であるちひろはそれらを普通の事として受け止めつつも、成長に従って世の中とのズレに気づき、しかし全てをそのまま受け入れるわけにもいかず、悩み、葛藤しながら成長していく物語。芥川賞候補作だけあって派手な展開や起伏はないものの、ぐいぐい惹きつけられるとても良い作品でした。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。

『チーム・バチスタの栄光』海堂尊

バチスタ手術は、学術的な正式名称を「左心室縮小形成術」という。一般的には正式名称よりも、創始者R・バチスタ博士の名を冠した俗称の方が通りがよい。拡張型心筋症に対する手術術式の一つである。

チーム・バチスタの栄光を読みました。

第4回『このミステリーがすごい!』大賞の受賞作であり、海堂尊のデビュー作。

映画化やテレビドラマ化といった映像化も相次ぎ、シリーズ化も大ヒット……と、改めて説明するまでもない程有名な作品ですね。

 

花形チームに対する内部調査

チーム・バチスタは主人公・田口の所属する大学病院一の花形チーム。

アメリカ帰りの桐生医師を筆頭に、難解な心臓手術にあたる医療チームですが、立て続けに失敗を重ねている。

そこで、病院内の昼行燈たる田口が病院長から直々に調査に当たるよう依頼を受ける……というもの。

 

田口が所属するのは「不定愁訴外来」……別名“愚痴外来”と呼ばれる部署であり、要するに検査や治療の施しようもないような些細な病状を担当するというもの。

いちいち対応していても仕方がないような患者を一手に引き受ける便利屋・処理窓口のような役割だそうです。

 

ほとんどの患者は胸に溜まったものをさんざん吐き出すと、満足したように帰っていく。

田口は“愚痴外来”で培った聞き取り能力を駆使して、チーム・バチスタの関係者一人一人から失敗した手術についての聞き取りを行っていきます。

 

しかしそんな田口の目の前で、四度目となる死亡者が出てしまいます。

 

 

奇人変人探偵・白鳥

そこへ現れるのが白鳥。

厚生労働省の役人でありながら、突拍子もない言動で周囲の度肝を抜く奇人変人。

 

文庫本でいう下巻に入り、白鳥が登場したところで、読者はようやく気づきます。

主人公である田口は推理小説でいうワトソン役であり、白鳥こそが名探偵役なのです。

 

田口を引き連れて、再び関係者への聞き取りにあたる白鳥。

相手の心に寄り添うようにして事情を聞き出そうとした田口とは打って変わって、白鳥は相手の心の弱みに付け込むかのようなデリカシーのない言動で関係者に迫ります。

 

田口が太陽ならば、白鳥は北風のような温度差。

 

当然の報いとして、白鳥は嫌悪感を抱かれ、時には殴られたり……といった事態も招きます。

それですら白鳥本人にとっては「予定通り」という変人ぶり。

 

しかしながら調査を重ねる内に、一度目の田口の調査では見えてこなかったそれぞれの関係性や秘密も明らかにされ、チーム・バチスタを根幹から揺るがすとんでもない秘密も明らかになるのですが――

 

事態はさらに一歩進み、緊迫した事態を招きます。

 

犯人が追い詰められていく一方で、新たな被害者が危機に晒されるその様子は、紛うことなく本書が王道の推理小説の構造を踏襲している事を表しています。

 

現役医師が描く医療現場

著者である海堂尊は現役医師。

そうでなければ書けない、現役医師ならではのリアルな描写にあります。

一見しただけでは難解そうな医学用語も飛び交い、読者としては戸惑いを隠せない部分もあるでしょう。

 

しかしながら、本書は本質的には王道の推理小説の構造を踏襲しています。

 

冒頭から謎が提示され、調査に当たるワトソン役が壁にぶち当たり、颯爽と登場した名探偵が一見理解不能に見える言動で周囲を振り回しながらも、その実しっかりと真実に近づいている。

 

シャーロック・ホームズから続く王道の推理小説ですよね。

 

王道ともいえる構造を医療現場に落とし込んだところが、本書が世の中に幅広く受け入れれられた所以でしょう。

 

しかしながら、2006年の発行から十年以上が経った現在となっては、当初見られたような目新しさは色あせてしまっている、と言っても過言ではありません。

推理小説+@という構造は、あまりにも広く開拓されてしまっていますからね。

 

その中においても本書が優れている点は、現役医師が描くリアルな医療現場にある、と言えるでしょう。

病院内の権力闘争やキャラ立ちした登場人物たちを考えると、だいぶデフォルメされているのも間違いないのですが。

その辺りのリアルと虚構のバランス感覚が、秀逸なのだと思います。

 

正直なところ、推理小説の王道路線を踏襲しているだけあって、謎解きや展開に特に目新しさや特徴的なものがあるわけではありませんので、そうのめり込んで読んだわけでもなく……ごくごく普通に読める悪くない本、といった印象でした。

続編も多々発行されていますので、気が向いたら読んでみようかなぁ、と。

 

シュガー・ラッシュ:オンライン』観てきました

蛇足です。

先日『シュガー・ラッシュ:オンライン』を見てきました。

www.youtube.com

とにかくヴァネロペが可愛い映画でしたねー。

 

本作ではオンラインをテーマとしているだけあって、前作『シュガー・ラッシュ』の舞台となったゲームセンターを飛び出し、ラルフとヴァネロペはインターネットの世界へと飛び出します。

 

道行く人々にポップアップが声を掛けて回ったり、動画サイトでバズってお金儲けしたりと、ネット社会を風刺したネタが盛りだくさんで非常に興味深く楽しめました。ただ、大人には良いだろうけど子どもにはいまいちピンと来ないネタが多かったかもしれないなぁ。

 

上の動画の通り、ディズニーのプリンセスたちも登場したりしますし、子どもよりはディズニー世代である30~40代の大人の方が楽しめるかもしれません。

 

個人的なツボは「ウサギとパンケーキ」でした(笑)

https://www.instagram.com/p/Br2Gt_TlsDU/

#チームバチスタの栄光 #海堂尊 読了説明する必要のないぐらい有名な作品ですね。しかしながら #このミス を受賞して華々しくデビューしてからはや10年以上が経った今となっては、目新しさは薄れて凡庸な医療ミステリに感じてしまいます。登場人物が多い割に読みやすく展開も早くて上下巻といってもサクサク読めちゃうんですけどね。ワトソン的助手と変人探偵という推理小説の王道とも言える構造を医療現場に当てはめたのが斬新だったんだろうなぁ。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。

『屍人荘の殺人』今村昌弘

「国名シリーズはクイーン。館シリーズ綾辻行人。では火葬シリーズは?」

最初にこういう薀蓄を小説内に入れ始めたのは誰だったんでしょうね?

もちろん昔の文豪たちの小説にはそれこそ西洋の王道と呼ばれるような文学作品の名前が度々登場したりしていましたが。

こと推理小説となると、発祥が難しいところです。

 

それこそ綾辻行人の『十角館の殺人』ではエラリイだのカーだのと本格推理小説の大家の名前でお互いを呼び合った上で、王道トリックについて語り合ったりしていますので、案外その辺りが発祥だったりするのでしょうか。

 

現在においてはその『十角館の殺人』がむしろ推理小説の金字塔としての立場を確立し、たびたび様々な作品内で触れられるあたり、なかなか感慨深いものがありますね。

 

 

 

……冒頭から脱線しました。

 

今回読んだのは『屍人荘の殺人』

第二十七回鮎川哲也賞の受賞作品であり、著者今村昌弘のデビュー作。

 

先に書きましょう。

 

スゴい本でした!

 

結論的には、読むべき本です。

とんでもないです。

 

推理小説の中には数え上げればキリが無いほど、とんでもない本は過去に沢山ありましたが、本作もまた間違いなくとんでもない本の一つ。

しかもこれまでにないとんでもなさが味わえる本となっています。

 

うーん、と腕組みして唸るようなとんでもなさでもなく、ふざけんなっと本ごと投げ出したくなるようなとんでもなさでもなく、事態が飲み込めずに読了後に慌てて最初からページをめくり直すようなとんでもなさでもなく……。

 

例えるならば、ヘラヘラ笑いながら万歳してしまうような、そんなとんでもなさ。

脱帽。

斜め上すぎ。

 

調べてみたらさらにこのミステリーがすごい!2018年版』第1位 『週刊文春』ミステリーベスト第1位 『2018本格ミステリ・ベスト10』第1位と各タイトルを総なめにしたとんでもない作品だという事がわかりました。

 

以下、アマゾンの内容紹介を抜粋しますが

 

たった一時間半で世界は一変した。
全員が死ぬか生きるかの極限状況下で起きる密室殺人。
史上稀に見る激戦の選考を圧倒的評価で制した、第27回鮎川哲也賞受賞作。


神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!! 究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?! 奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!

 

……ねー、、、なんかスゴそうじゃないですか?

“大学生の合宿”“ペンション”“立て籠もり”を余儀なくされ、“連続殺人の幕開け”とくれば、もう定番中の定番路線ですよね。

最近見なくなった本格ミステリのど真ん中を突く作品を想像させます。

 

さらに、その装丁もこんな感じ。

どことなく『another』のような暗い雰囲気を感じさせるものです。

 

こりゃあきっと、本格中の本格作品を味わえるに違いありません。 

 

 もしかして、ライトミステリ?

カレーうどんは、本格推理ではありません」

 第一章の冒頭は、主人公である葉村のセリフから始まります。

ミステリ愛好会の会長であり「神紅のホームズ」と呼ばれる明智会長とともに、推理ゲームに興じる場面からスタートするのです。

 

探偵役でちょっと変わり者の明智会長は、映画研究会が合宿を行うと聞きつけて参加したいとお願いするものの、断られてばかり。

そこにヒロイン役である比留子が現れ、彼女の仲介によって葉村たちは念願叶って映画研究会の合宿に参加するのですが……。

 

驚いたのは、そのユルさ。

アマゾンの説明文や表紙から連想される硬派なイメージとは異なり、物語は葉村のコミカルな一人称で進められます。

 

さらに、合宿で向かう車中、登場する人物はなぜかしら美女ばかり。

ヒロイン役であるミステリアスな美女・剣持比留子からはじまり、アイドルのような美女に神経質そうな美女、ボーイッシュな美女に黒髪の美女と、もはや美少女ゲームの様相を呈してしまう。

 

もしやこの作者、女といえば美人・美女と形容すれば良いと思っているなろう作家じゃあるまいな、と勘繰ってしまうような展開です。

……ちなみに、一応補足しておくと美女揃いであるのにはしっかりとした理由があるんですけどね。

 

着いた先にはペンションのオーナーの息子であり、彼らの先輩である七宮と二人の先輩が登場。三人はすごく嫌な印象で、いかにも女の子たちを狙ってますといった雰囲気。

 

 

 

正直なところ、この辺までは「あー、やっちまったかなー」と思っていたんですよ。

数々の賞やら表紙の雰囲気に騙されただけで、今時のライトミステリなんだと思っていたんです。 

 

ちょっと変わったトリックが仕掛けられているだけで評価された、しょうもない作品なのかなって。

 

……ところが。

 

ところが

 

ところが、ですよ

 

 93ページから、とんでもない事になるんです!!!

 

 

野球のはずが闘牛に

もう、斜め上ですよ。

予想外過ぎてびっくり。

 

巻末に第27回鮎川哲也賞の選考経過が載っているんですが、そこにある北村薫さんの例えが全て。

野球の試合を観に行ったら、いきなり闘牛になるようなものです。

これがもう言い得て妙、というもので。

 

 

でもとにかくわけもわからずに読み続けるしかない。

作中もパニックですけど、読んでる側もパニックに陥ってしまう。

 

……で

 

どひゃーと天を仰いで脱帽してしまうのは、気づいてみたらちゃんとクローズドサークルが出来上がっている事。

あらすじ通り紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされるわけです。

 

 

とにかく読んで(※)

もうあとはそれが全てですね。

 

とにかく読んで!!!

 

ネタバレになっちゃうので詳しくは書けないわけですよ。

でもどうにか面白さを伝えたい。

わかって欲しいという一心でもって書いてるんですが、どうしたって限界。

 

もうとにかく読んで、としか言えない。

 

ただし!

 

上の見出しに(※)を入れたのにはちゃんと理由があります。

これから書くのは大事な事です。

 

ただし、ある程度推理小説を読んだ経験のある人に限るという事です。

 

本書はもしかしたらメタミステリと呼べる性質のものなのかもしれません。

冒頭に書いたような本格ミステリに関する薀蓄はじめ、ある程度推理小説に対する素養や耐性がないと、きっと期待外れに終わってしまうと思います。

 

探偵役の立ち回りとか、クローズドサークルとか、つまるところのお約束をお約束として理解できてはじめて面白みがわかるのだと。

 

野球を見に行ったつもりが途中からいきなり闘牛になったとしても、そもそも野球がなんなのかを知らない人にとっては意外さがピンと来ないですよね? こういうもんなのかな、と思ってしまうだけで。

 

なので、間違っても初めて読む本格推理小説として本書を選んではいけません

普段は小川糸や原田マハ村山早紀のような作品を読んでいる人が、「話題になっているから」という理由で手に取るのも危険です。

なんじゃこりゃ、でぶん投げるハメになりかねません。

 

そういう意味では、立ち位置としては米沢穂信のインシテミルが近いかもしれません。

僕はとても大好きで、何年も離れていた推理小説を再び読むきっかけとなった作品でもあるのですが、おいそれと他人に勧めようとは思えませんから。

 

でもある程度推理小説を読んでいる人にとっては間違いなく楽しめるし、喜んでもらえる作品だと思います。

 

映画化、って正気?

……って言ってる側から、映画化のニュースを目にして「正気かい?」と目が点になっています。

eiga.com

 

いやいやいや

 

無理でしょ(笑)

 

だって上に書いた通り、万人向けする作品じゃないもの。

それを映画化したところで、B級〇〇〇映画になってしまうのは目に見えてるし。

 

もうまさしく『インシテミル』で行われた原作レイプ再来の予感しかしない。

www.youtube.com

ホリプロ50周年記念作品として華々しく公開された『インシテミル』は、日本全国の原作ファンを一人残さず敵に回した上、予備知識ゼロで訪れた一般客すら絶望させましたから。

 

インシテミル』の二の舞にならない事を祈ります。

有名な俳優集めればいいってもんじゃないんですよ。

僕の好きだった関水美夜を原作通りやり直して(泣)

 

2019年2月20日 続編爆誕

ブログを書くのにアマゾンで検索したら、たまたま見つけてしまいました。

 

 マジかぁ、続編出すかぁ。

デビュー作があまりにも衝撃的だっただけに、二作目のハードルは滅茶苦茶高くなってると思うんですが。

加えてシリーズもの続編となれば、嫌が応にも期待値は高くなってしまいますし。

 

しかしシリーズ名。仮かもしれませんけど〈屍人荘の殺人〉シリーズとはなんとも安直な。。。

もうちょっと良いネーミング、なかったんですかね?

 

まぁこれは読まないわけにはいかないですよね。

館シリーズだって、あまりにも有名な一作目と三作目が比べると二作目は凡庸といったものですから、少なくとも三作目まで追いかけるべきか。

 

また一つ、楽しみが増えました。

 

未読の方はぜひ読んで、楽しみを共有しましょう。

では。

https://www.instagram.com/p/BrrfYkJlVgW/

#屍人荘の殺人 #今村昌弘 読了#第29回鮎川哲也賞 受賞作品。#このミステリーがすごい#本格ミステリベスト10#第18回本格ミステリ大賞とんでもなかった。今までにもとんでもない推理小説はたくさんあったけれど、過去に例を見ないとんでもない本。ペンションで夏合宿中の大学生たちという定番の設定から突然物語が変容する様が凄まじい。気づけば携帯も車もある現代社会の中で完璧な #クローズドサークル の出来上がり。斜め上というか異次元の展開。ネタバレになってしまうから詳しく言えないのがもどかしい。だれか既読者と分かち合いたい。わちゃわちゃはしゃぎたい。推理小説好きなら読んで。ホント。ただ推理小説に慣れてない人が最初に読むべき本ではないので、ご注意を。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。

『ファーストラヴ』島本理生

「正直に言えば、私、嘘つきなんです。自分に都合が悪いことがあると、頭がぼうっとなって、意識が飛んだり、嘘ついたりしてしまうことがあって。だから、そのときもとっさに自分が殺したことを隠そうとしたんだと……」

第159回直木賞受賞『ファーストラブ』を読みました。

島本理生作品に触れるのもこれが初。

 

2018年ももう残り僅かとなっているタイミングで、ハズレる可能性の少ない作品として未読の直木賞受賞作品を選んだのは必然であった、と思います。

 

ハズレが多い、と揶揄されがちな芥川賞に比べると、直木賞はハズレくじの割合は低めに感じますからね。

とはいえ、時々ハズレが混じってしまうのも事実ですが……。

 

 

動機はそちらで見つけてくだい

父を殺害した女子大生聖山環菜にまつわるお話。

女子大生が逮捕後に残した「動機はそちらで見つけてください」というセリフにより、世間でも話題になった事件。

 

主人公である臨床心理士の真壁由紀は、彼女についての本の出版を打診され、拘留中の環菜と面会を重ねる。

一方で環菜の国選弁護人についたのが、由紀の義理の弟である迦葉。

大学時代の同期生だったという迦葉と由紀の間にも、何やらわだかまりのようなものがある事を匂わせられます。

 

環菜の動機というホワイダニット(なぜやったのか?)

由紀と迦葉の間に何があったのかというホワットダニット(何があったのか?)

 

二つの謎を軸に、環菜との面会や関係者への接触がめまぐるしく繰り返され、物語はぐんぐんと進められて行きます。

 

虚言癖

登場人物たちの口から度々飛び出すのが虚言癖という言葉。

環菜の元カレや母親は、「環菜には虚言癖があった」と口を揃えます。

環菜自身も「私は嘘つきだ」と言います。

 

実際に、面会を重ねるたびに環菜の証言は二転三転を繰り返し、一貫性に欠いているようにしか思えません。

 

ですが物語が進むに連れて、嘘をついているのは環菜だけではないように思えてきます。

 

真実を言っているのは誰なのか。

嘘をついているのは誰なのか。

 

読んでいるうちに、湊かなえの『告白』や『白ゆき姫殺人事件』を読んでいるかのような混乱に襲われてしまいます。

 

 

焦らし、焦らされ……

環菜自身の口から、多数の証言者の口から、環菜の幼少期からの暮らしぶりや家庭環境が明らかになっていきます。

 

そんな中で、もう一方の謎である由紀と迦葉の間にあった謎に関しても、意外とあっけなく由紀のモノローグという形で明かされます。

 

やがて裁判当日を迎え、環菜と証人それぞれの口から、再度事件や環菜について語られ、裁判の結果を受ける形で物語は終了。

直後、僕の頭に浮かんだ感想はというと……

 

 

 

……で?

 

 

 

だけでした。

 

 

あくまで個人的な主観ですが、序盤から提示され、物語の根幹を成していたはずの二つの謎(ホワイ・ホワット)がものすごく貧弱なんですよねー。

 

特に由紀と迦葉の謎(ホワット)に関してはしょうもない小粒。

現実的には後々まで引きずる記憶の一つにはなるのかもしれないけれど、物語の根幹に添えるにしてはあまりにも貧弱かと。

っていうか似たような思い出って、結構世の中に溢れてませんかね?

僕もまぁ心当たりがないでもないんですけど。でもそれって思い出の一つとしてそっと胸に秘められて終わりなんじゃないかなぁ、なんて思ったり。

もちろん彼らの場合には、由紀の夫と迦葉が兄弟、という少し特殊な事情もあるのですが、それにしてもいい大人になってからわざわざ蒸し返すような話でもないかと。

 

 

……それはさておき

 

 

もう一方の謎の方ですね。

環菜の動機。

なぜ父親を殺したか。

 

これはね、なかなか深い話ではあります。

推理小説でばっさりと断言されるような金・怨恨といった簡単な話ではありません。

 

薄皮を剥ぐように、環菜の心を覆った殻を一枚ずつ取り除いて、ようやく真理にたどり着くわけですが……はっきり言ってしまえば説得力に欠ける

 

これも人によりけりなのかもしれませんけど。

 

 

他にも色々と引っかかる点は多いのですが、キリがないのでやめましょう。

とにかく全体的に焦らし、焦らされた分、着地点がどうにも尻すぼみだったという印象です。

メンヘラ気質だったり、完璧人間だったりする登場人物たちに全く感情移入できなかったのもいまいちな要因の一つ。

 

一応ハッピーエンドというか、清々しいエンディングと言われているようですが、個人的には読み終わってもすっきりしない、微妙な読後感でしたね。

物語としては成立も完結もしてるんだけど、結局何が描きたかったのかが今一つ見えない。

 

ミステリとしてはいまいちだし、心理学的な物語としてもいまいちに感じてしまいます。

 

……まぁ、これ以上とやかく言うのはやめましょう。

今年も残り少ないですから、さっさと別の本に取り掛かりたいと思います。

 

第160回直木賞の候補作が決定

平成30年下半期の直木賞候補作が発表されましたね。

www.bunshun.co.jp

 

ノミネート作品はこちら

 

……うーん。

 

見事なまでに印象にないですね(笑)

炎上コメンテーターがノミネートされている芥川賞よりはマシかもしれませんが。

なんとなくそろそろ森見登美彦さんに直木賞を獲らせるんじゃないかな、なんて予感がしますが。

 

ちなみに一応ながら、今回取り上げた『ファーストラヴ』が受賞した第159回の選評のリンクも貼っておきます。

prizesworld.com

改めて見返してみると、この時も小粒だったなぁ。。。

https://www.instagram.com/p/BroVYxDFzN1/

#ファーストラヴ #島本理生 読了#第159回直木賞 受賞作品今年も残り少ない中で、間違いない作品を読もうとしたらとりあえず直木賞だよね。なんて手に取ったものの、、、直木賞もハズレはあるよねぇ。さんざん焦らされた結果のオチが小粒。特に由紀と迦葉の下り。登場人物たちがそうなった理由や経緯にさっぱり共感できない。メンヘラと完璧超人しかいないから感情移入もできない。その他諸々。いまいち。さ、次を読もう。#本が好き #活字中毒 #本がある暮らし #本のある生活 #読了 #どくしょ #読書好きな人と繋がりたい #本好きな人と繋がりたい..※ブログ更新しました。プロフィールのリンクよりご確認ください。